犀川のクジラ

みん

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4章 冬

48話

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 心美は話し終わると、どっと疲れたように、シートにもたれかかった。
 この真実を、彼女は今まで一人で抱えていたのだ。
「店長が言ってた。心美のお母さんは、最後に七枚の絵を描いたって」
 僕は秋の終わりに、十文字が話してくれた内容を思い出す。だが、十文字にもそれが真実なのかどうかは分かっていない様子だった。

「その“最後の七枚”をもっているのが、おばさんたちだよ」

 心美ははっきりと言うと、僕に話を続ける。
 その日、心美が海に身を投げ出そうとした日、彼女は聞いたのだ。
 「最後の七枚」が彼女の叔母の家にあること。
 それは大きく、無機質な部屋の中に置かれているということ。
 コレクターの間で花川静香の評価が高まり、花川静香の絵の価値が高騰していること。
 そして時が来たら、心美の叔母は花川静香の絵を売り出そうとしていることを。
「おばさんは、お母さんの精神状態がおかしくなってから余計に顔を見せるようになった。あの時は心配してくれているのかと思った。妹だから、さすがに力になってくれているのかと思ってた」
 心美はフロントガラスの向こうを見つめ、唇を噛みしめた。
「わたしは分かっていなかった。あの状態のお母さんが、おばさんたちに何を契約させられているのかも。おばさんたちに、何を渡そうとしているのかも。おばさんは、あの人は、お母さんの全てを奪うことが目的だった。お母さんの才能も、人生も、全部」
 彼女の目に宿る感情は、果てしない怒りだった。
「ねえ恭二郎、SNSにありもしないデタラメを最初に書きこんだのは、誰だと思う?週刊誌に話したのは?わたしたちの家に、生卵を投げつけたのは?」
 まさか、と思った。
 だけど心美の目に宿る感情は、答えを僕に教えていた。
 どうしてそこまで。
実の姉妹だというのに。

「おばさん、なの・・・?」

 僕の言葉に、心美はコクリと頷いた。
 高速道路での事故の後、嘘の情報を流して世間を刺激したのは、心美の叔母であった。
 週刊誌がかぎつけたのも、心美の叔母の仕業。
 夜中に金沢までやってきて、心美の叔母は花川家に対する嫌がらせをし続けた。
 なぜそこまで、できるのだろうか。
 それほどまでに、心美の叔母が受けた傷は深かったのだろうか。

「だからわたしは、今からお母さんを盗みに行くの」
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