紅の惑星

みん

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5話 トルク

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 しばらくしてロンの前に立ち黙々と歩いていたセイムが急に立ち止まる。
「しっ。」
 砂ばかり見ていて彼にぶつかりそうになったロンを、セイムは片手で抑える。
「なにかいる。」小声でロンに知らせる。

 うん、とロンが返事をして、慌ててグラビティハンマーをリュックから取り出す。トルクじゃありませんように、とセイムは心の中で祈っていた。
 動物なら、たとえ狂暴でもグラビティハンマーの爆発に驚いて逃げていくはずである。彼らが人を襲う時は大概、自分たちの身を守るためであり人を殺すためではない。

 トルクは古代文明の生き残りである。この世界の人間たちを殺して回っている正体不明の生物なのだ。その目はいつも虚ろで、彼らに感情というものがあるのかどうかさえ分からない。その身体は人間のような形をしているが、ハンマーで殴ろうが剣を突き刺そうが簡単に壊すことはできない。皮膚は赤黒く変色し、筋肉は彼らの顔と思われる部分まで大きく膨張している。その筋肉から生み出される彼らの腕力は凶悪で、捕まると首をねじ切られてしまうか体中の骨を粉砕されてしまう。多くの探検家たちがこの世界を彷徨うトルクたちに命を奪われてきた。

よいこはねむれ
ゆめはせかいのひみつを
ひみつはトルクのやみを
つれてくる
わるいこトルクにつれてかれ
けしてかえってこれはせぬ
ねむれわがこよ
よいゆめを

 王国では古くから親から子へとこの歌が歌い継がれ、トルクは並の探検家では歯が立たない。その虚ろで恐ろしい姿から、「古代の亡霊」とも呼ばれている。
「あれ、もしかしてロン?」がさごそ、と音を立てて顔をだしたのは、白い肌をした女の子二人組だった。
「ほんと、ロンだ~。」オレンジ色の髪の毛を垂らす女の子たちは二人とも顔がよく似ている。どうやらロンとは顔馴染みらしい。
「アーシャ、それにサーシャじゃない。二人も三次試験まで残ってたんだね。」動物やトルクではなかったことに安心したのか、ロンはハンマーをリュックの中にしまうと、彼女たちに近づく。
「ひどーい、当然じゃない。」とアーシャが頬を膨らませて怒る。
「当然じゃない。」サーシャも同じように頬を膨らませる。
「ごめんごめん、敵が来るかもと思って気を張っちゃってて。」とロンが謝る。
「試験中だし、ライバルであることに間違いないよ~。そっちの方はロンの相方?」セイムに気づいたサーシャが緊張感のない明るい声で言う。
「そうそう、セイムっていうんだ。ぼくの相棒だよ。セイム、この二人は養成学校のクラスメイトでね、双子なんだ。」とロンが言うと、セイムがペコリと頭を下げる。そして、ちらっとロンの方に目配せをする。
「あ、ごめんね二人とも、僕らもう行かなきゃ。試験がんばろうね!」
「わ、本当だね。時間もないのにこんな所で喋っちゃって。」とアーシャ。
「ほんと、ダダダダって私達を追いかけるような足音がしたから逃げてきたけど、まさかロンたちだったとはね~。」とサーシャ。
「・・・待て、足音と言ったか?」セイムが二人の方を初めてまともに見た。
「そうそう、私達の後をつけるみたいにして足音が近づいてくるから、どこかに隠れなきゃいけないって逃げてきたんだけど。」とサーシャが言う。
「ちょっと待て、俺たちはずっと身を屈めて歩いてきたんだ、そんな誰かに聞こえるような音を立てては・・・。」

 ドンッ。
 その瞬間、ロンの後ろに何かが落ちてくるのをセイムは見た。
 突然のことだった。
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