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しおりを挟む十七歳になったフィオリナは、美しく可憐に成長した。
雪のように白い肌はきめ細かで、薔薇色に染まった頬と唇とのコントラストが目を引いた。
瘴気のせいで少し虚弱気味だった体も今ではほどよく筋肉に覆われ、すらりと伸びた手足は健康的な色気すら感じさせる。
皆そんなフィオリナに心奪われ、その愛らしさの虜になった。
にも関わらず、いまだに縁談話は一件も舞い込んでいなかった。
それはひとえに、メルローズ家特有のモフ吸いという奇妙な癖のせいだった。
その上魔力がないという決定的な欠陥を持ち合わせていたゆえに、誰も結婚を望まなかったのだ。
けれどそんなこと、フィオリナは一向に気にしてはいなかった。
『さぁ! リオ、行くわよっ。今度は南の森に行ってみましょ! あそこには希少なキノコが群生してるって噂なのっ。たくさん採れればいいお金になるし、薬にもなるわ。領地の皆も喜んでくれるしっ』
『ブワオォォォォンッ!!』
フィオリナの快活なかけ声に、リオが一帯に響き渡るような声でいなないた。
背中にフィオリナを乗せたリオが、風をとらえて一気に空に舞い上がる。そして遠く遠くへと飛んでいくのだ。
『リオ! 今日はとってもいい天気ねっ。散策日和だわっ』
フィオリナが歓声を上げリオの背中をポンポンと叩けば、リオが喉をご機嫌に鳴らした。
フィオリナは瘴気耐性がついたことで、すっかり明朗活発な少女へと変わった。
リオとともにあちらこちらを飛び回っては、希少な薬草やキノコなどを採取したり新種の動物を見つけたりして。
さらに大きく成長し力も強くなったリオは、そんなフィオリナを魔獣からもさまざまな危険からも守り抜いた。
そんなリオを、家族も領民も皆あたたかく受け入れていた。
リオが誰かを傷つけたことなんて一度だってなかったし、むしろフィオリナとともに領地のために働いてくれることさえあったのだから。
そんなリオへのフィオリナの愛情も、年々強くなっていった。メルローズ家の面々がドン引きするほどに。
「あぁ……。なんてかわいいの……。好き……、大好き……。たまらないわ……、この首の辺りの香りも、お腹も……。ずっとこうしていたいわ……」
「グルルル……。グワゥゥゥゥ……」
「リオ、あなたの毛並みって本当に素敵ね。ふふっ! 表の毛はちょっぴりゴワゴワしてるけど、内側の毛はこんなにふわふわでやわらかくって……」
フィオリナがうっとりとリオの背中に顔を埋める。それが済むと今度はやわらかなお腹をさわさわとなでては、頬を擦りつけるといった塩梅に。
お腹の辺りは少しこそばゆいのか、リオが身をよじりながらも気持ちよさそうに鳴き声を上げるのが常だった。
そんなフィオリナには、願いがあった。
「ねぇ、リオ? きっと魔力なしの私は、誰からも縁談を申し込んではもらえないわ。私と結婚したら、もしかしたら子どもに魔力なしが伝わってしまうかもしれないもの。皆が嫌がるのも当然よ。でもね、私そんなことちっとも気にしてないのよ!」
「ウウウウゥ……?」
「だって、そうしたらずっとここにいられるじゃない! さすがにあなたは他の領地へは連れていけないもの。でも私がお嫁に行かずにずっとここに残れば、これからもあなたと一緒に生きていけるでしょう? ね、とっても素敵だと思わない?」
生まれつき魔力のないフィオリナは、結婚の望み薄だった。
誰だってわざわざ魔力なしの伴侶を迎えて苦労したいと思う者はいないだろう。屋敷の管理だって大変になるし、気軽に外出することだって難しいのだから。
フィオリナがそう告げるたびに、リオは同意するように大きく声を上げるのだ。
「ンゴゥワォォォォンッ!! ングニャアアァァァォンッ!!」と。
フィオリナとリオのそんなやりとりを、家族はいつだって半分は心配そうに半分は仕方ないとあたたかな目で見守っていた。
フィオリナが幸せならばそれも悪くない、と――。
けれどそんな平穏な日々は長くは続かなかった。
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