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しおりを挟む「フィオリナ! お前に……お前に縁談話がきた……。お相手は……第三王子のダリエル様だ……」
その知らせに、メルローズ家は暗く打ち沈んだ。
第三王子であるダリエルは、とかく悪評が絶えなかった。
女癖も酒癖も悪く、性格もずいぶんとネジ曲がっていると聞く。裏で犯罪ギリギリのことまでしているなどという噂すらあった。
なのに、ダリエルを産んだ側妃が現国王に寵愛されているせいで咎め立てる者もいなかった。
なぜよりにもよってそんな人物に、大切なフィオリナが目をつけられてしまったのか――。
普通に考えれば、王族がわざわざ魔力のないフィオリナを娶るなどあり得ないことだった。
もしも王族に魔力なしが生まれれば、間違いなくフィオリナは責め立てられるだろう。それに、メルローズ家と縁を結んだところで政略的に考えても何の利もないのだ。
「なぜこんなことに……。できることならば貴族位を捨ててでも断ってしまいたいが、そんなことをしたら間違いなくこの領地は……」
メルローズ家の管理する領地は、去年起きたひどい水害のせいで荒れ果てていた。立て直すには、国からの援助がどうしても必要だった。
その許可が下りてすぐに舞い込んだ縁談、しかも王族との縁談ともなればそもそも断れるはずもない。
「お父様……、よいのです。ダリエル殿下がそうお望みなら、致し方ありません。本当は私だってずっとここにいたい……。リオとお父様とお母様たちとずっと一緒にいたい。でも王命ですもの……。私、お嫁に参りますわ」
フィオリナは泣く泣く縁談を承知した。
自分のわがままで領民を犠牲にはできないし、まして家族を苦しめるわけにはいかないからと。
その日からフィオリナはリオとの別れの日数を数えながら、涙をこらえて精一杯の笑顔で過ごした。
けれど、現実はなんとも残酷だった。
「フィオリナ。そなたには婚儀が済み次第、すぐにこの薬を飲んでもらいたい」
王宮に呼び出されたフィオリナは、ダリエルに小さな包みを渡された。
中にあったのは、小さな丸薬がひとつ。それは永遠に子を産めなくするための薬だった。効果は一生涯、相手が誰であろうとも永遠に決して子をなすことはできなくなる。
「……! これを、私に飲め……と? それではなぜ殿下は私との婚姻を……?」
子をなさないつもりなら望みは一体なんなのか、と震える声でたずねたフィオリナに、ダリエルは薄笑いを浮かべ言った。
「そんなの決まっているだろう? 君は実にきれいで愛らしいからな。これまで付き合ってきた女たちもあれはあれで悪くはない。が、さすがに妻として迎えるには物足りないし品もなさ過ぎる。それにどうせ手元に置くのなら、見栄えのするものの方がいいに決まっているだろう?」
その瞬間、フィオリナの心は壊れた。
絶望にふらつきながらもようやく屋敷へ帰り着いたフィオリナは、すぐさまリオに泣きついた。
「リオ……。どうして私は、魔力なしとして生まれてきてしまったのかしら……。人並みに魔力があれば、もっと普通の結婚だってできたかもしれないわ。別に夢を見ていたわけではないのよ……? ただどうせ結婚するのなら、お父様とお母様、お姉様のようにあたたかい家庭を作れたらってそう思っただけなのに……」
両親には言えなかった。
自分を幼い頃からかわいがってくれる姉と兄にも。子を生まないただの愛玩人形として自分は求められただけだった、なんて――。
「うううぅぅぅっ……! ひっく……、ふ……うぅっ……!!」
激しくリオの大きな体にしがみつき泣きむせぶフィオリナを、リオはくるむように長いしっぽで包みこんだ。
まるでフィオリナを傷つけるすべてのものから守るように。
けれどこれほどに大きな体と驚異的な力を持つリオにだって、フィオリナの結婚まではどうにもすることはできない。
――そのはずだった。
それから一週間が過ぎた頃。
絶望のあまりすっかりやせ細り元気をなくしたフィオリナのもとに、一通の知らせが舞い込んだ。
「婚約の申し出を……撤回する、だと!? なぜ……なんでまた急にダリエル殿下は心変わりを!?」
真っ先に浮かんだのは喜び、次に浮かんだのは疑問だった。
「……あの、手紙にはなんて? 断りの理由については書かれていないのですか……?」
フィオリナは不安だった。
先日会ったダリエルには、絶対の自信がにじんでいた。必ずほしいものは手に入れるという、絶対的な自信が。
なのになぜ急に心変わりしたのか。
「それが……。なんともよくわからないんだよ。……『フィオリナ嬢に二度と近づかないと命をかけて誓うから、どうかこの話はなかったことにしてくれ』と。これは一体どういう意味だ?? さっぱりわからん」
父だけでなく、その場にいた全員が首を傾げた。
その時だった。
「大変ですっ!! 王宮からまたお手紙が届きましたっ。それにたくさんの花束に贈り物の山も……!!」
ダリエルからの手紙に続いて届いたのは、山のような贈り物の箱とむせ返るような香りを放つ美しいたくさんの花束だった。
「こ……これは……一体……??」
メイドから受け取った手紙を困惑顔で読み進める父の顔が、またしても蒼白になった。
「……あの、お父様? 今度は一体何の知らせですの? それもダリエル殿下から……?」
手紙を読み終えた父の手が、ぶるぶると震えていた。
「いや……今度は、ロイド殿下からの手紙だ」
「ロイド殿下!? ……って、まさか第一王子のロイド殿下ですかっ!?」
ロイドは、本来ならば次期国王となる権利を一番に有する王子だった。正妃の産んだ子であり、実に優秀かつ外見も性質も優れていると評判だったし。
――少なくとも、七年ほど前までは。
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