メルローズ家は皆、モフモフに冒されている

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

文字の大きさ
4 / 6

しおりを挟む
 


「フィオリナ! お前に……お前に縁談話がきた……。お相手は……第三王子のダリエル様だ……」

 その知らせに、メルローズ家は暗く打ち沈んだ。

 第三王子であるダリエルは、とかく悪評が絶えなかった。
 女癖も酒癖も悪く、性格もずいぶんとネジ曲がっていると聞く。裏で犯罪ギリギリのことまでしているなどという噂すらあった。
 なのに、ダリエルを産んだ側妃が現国王に寵愛されているせいで咎め立てる者もいなかった。

 なぜよりにもよってそんな人物に、大切なフィオリナが目をつけられてしまったのか――。

 普通に考えれば、王族がわざわざ魔力のないフィオリナを娶るなどあり得ないことだった。

 もしも王族に魔力なしが生まれれば、間違いなくフィオリナは責め立てられるだろう。それに、メルローズ家と縁を結んだところで政略的に考えても何の利もないのだ。

「なぜこんなことに……。できることならば貴族位を捨ててでも断ってしまいたいが、そんなことをしたら間違いなくこの領地は……」 

 メルローズ家の管理する領地は、去年起きたひどい水害のせいで荒れ果てていた。立て直すには、国からの援助がどうしても必要だった。
 その許可が下りてすぐに舞い込んだ縁談、しかも王族との縁談ともなればそもそも断れるはずもない。

「お父様……、よいのです。ダリエル殿下がそうお望みなら、致し方ありません。本当は私だってずっとここにいたい……。リオとお父様とお母様たちとずっと一緒にいたい。でも王命ですもの……。私、お嫁に参りますわ」

 フィオリナは泣く泣く縁談を承知した。
 自分のわがままで領民を犠牲にはできないし、まして家族を苦しめるわけにはいかないからと。

 その日からフィオリナはリオとの別れの日数を数えながら、涙をこらえて精一杯の笑顔で過ごした。
 けれど、現実はなんとも残酷だった。

「フィオリナ。そなたには婚儀が済み次第、すぐにこの薬を飲んでもらいたい」

 王宮に呼び出されたフィオリナは、ダリエルに小さな包みを渡された。

 中にあったのは、小さな丸薬がひとつ。それは永遠に子を産めなくするための薬だった。効果は一生涯、相手が誰であろうとも永遠に決して子をなすことはできなくなる。

「……! これを、私に飲め……と? それではなぜ殿下は私との婚姻を……?」

 子をなさないつもりなら望みは一体なんなのか、と震える声でたずねたフィオリナに、ダリエルは薄笑いを浮かべ言った。

「そんなの決まっているだろう? 君は実にきれいで愛らしいからな。これまで付き合ってきた女たちもあれはあれで悪くはない。が、さすがに妻として迎えるには物足りないし品もなさ過ぎる。それにどうせ手元に置くのなら、見栄えのするものの方がいいに決まっているだろう?」

 その瞬間、フィオリナの心は壊れた。

 絶望にふらつきながらもようやく屋敷へ帰り着いたフィオリナは、すぐさまリオに泣きついた。

「リオ……。どうして私は、魔力なしとして生まれてきてしまったのかしら……。人並みに魔力があれば、もっと普通の結婚だってできたかもしれないわ。別に夢を見ていたわけではないのよ……? ただどうせ結婚するのなら、お父様とお母様、お姉様のようにあたたかい家庭を作れたらってそう思っただけなのに……」

 両親には言えなかった。

 自分を幼い頃からかわいがってくれる姉と兄にも。子を生まないただの愛玩人形として自分は求められただけだった、なんて――。

「うううぅぅぅっ……! ひっく……、ふ……うぅっ……!!」

 激しくリオの大きな体にしがみつき泣きむせぶフィオリナを、リオはくるむように長いしっぽで包みこんだ。
 まるでフィオリナを傷つけるすべてのものから守るように。

 けれどこれほどに大きな体と驚異的な力を持つリオにだって、フィオリナの結婚まではどうにもすることはできない。

 ――そのはずだった。

 それから一週間が過ぎた頃。
 絶望のあまりすっかりやせ細り元気をなくしたフィオリナのもとに、一通の知らせが舞い込んだ。

「婚約の申し出を……撤回する、だと!? なぜ……なんでまた急にダリエル殿下は心変わりを!?」

 真っ先に浮かんだのは喜び、次に浮かんだのは疑問だった。
 
「……あの、手紙にはなんて? 断りの理由については書かれていないのですか……?」
 
 フィオリナは不安だった。

 先日会ったダリエルには、絶対の自信がにじんでいた。必ずほしいものは手に入れるという、絶対的な自信が。
 なのになぜ急に心変わりしたのか。

「それが……。なんともよくわからないんだよ。……『フィオリナ嬢に二度と近づかないと命をかけて誓うから、どうかこの話はなかったことにしてくれ』と。これは一体どういう意味だ?? さっぱりわからん」

 父だけでなく、その場にいた全員が首を傾げた。
 その時だった。

「大変ですっ!! 王宮からまたお手紙が届きましたっ。それにたくさんの花束に贈り物の山も……!!」

 ダリエルからの手紙に続いて届いたのは、山のような贈り物の箱とむせ返るような香りを放つ美しいたくさんの花束だった。

「こ……これは……一体……??」

 メイドから受け取った手紙を困惑顔で読み進める父の顔が、またしても蒼白になった。

「……あの、お父様? 今度は一体何の知らせですの? それもダリエル殿下から……?」

 手紙を読み終えた父の手が、ぶるぶると震えていた。

「いや……今度は、ロイド殿下からの手紙だ」
「ロイド殿下!? ……って、まさか第一王子のロイド殿下ですかっ!?」

 ロイドは、本来ならば次期国王となる権利を一番に有する王子だった。正妃の産んだ子であり、実に優秀かつ外見も性質も優れていると評判だったし。
 ――少なくとも、七年ほど前までは。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

処理中です...