メルローズ家は皆、モフモフに冒されている

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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「で、でもロイド殿下は今では起き上がることも難しいほどにお体が弱っていらっしゃるのでは……? まったく人前にも姿を現さないと聞いています。だからこそ、次の王位につくのは第二王子かダリエル殿下のどちらかと噂されているのですよね??」
「それは……」

 その問いに、見知らぬ声が答えた。

「その答えは私から説明しよう。フィオリナ」

 突然背後から聞こえた聞き慣れない声に、フィオリナはぴょんと飛び上がった。

「あ……ああああ、あなたはっ!? い、いいいい一体どこから……??」

 背後にいたのはリオだけだったはず。なのになぜ背後に見知らぬ青年が立っているのか。

 恐怖と困惑に顔を引きつらせ、フィオリナはじりと後ずさった。

 リオの姿はどこかへ消えてしまっていた。
 もしかして外の人間に見られては困ると急いで姿を隠したのだろうか。けれどいつだって自分にぴったり張り付いているはずのリオが、何も言わずそばを離れるなんてあり得なかった。

「……?」

 まるで絵画から抜け出してきたように凛々しく、実に華やかで美麗な青年だった。なめらかな流れるような髪に、吸い込まれるような強い緋色の目――。
 その眼差しは、フィオリナが幼い頃からよく知っているものと同じだった。

「……あなたは、いえ……まさかそんなはず……」

 そんなはずはない。あり得ない。だって――。

 困惑するフィオリナに、青年はつと近づくと手をすっと差し出した。

「驚かせてごめん。フィオリナ」
「え??」
「この姿で会うのははじめてだね。なんだかおかしな気分だよ。ふふっ」
「……!!」

 フィオリナを見つめる美しい緋色の目が、きらりときらめいた。

「まさか……あなたは……。でもどうしてそんなこと……?? だって……私が拾ったのは……」

 絶対にそんなはずはない。なのに、それが正解だと心が告げている。これまでずっと一緒に過ごしてきた記憶が、その姿がカチリと音を立ててはまった。

 自然にフィオリナの口から、その名前がこぼれた。

「リオ……、なの……?」
 
 青年の顔が、ふわりとやわらかく解けた。

「……ふふっ。うん、そう。私がリオだよ、フィオリナ。本当の名前はロイドだけどね」
「……それってつまり、リオがロイド殿下で……ロイド殿下がリオってこと!?」
「その通り! あの贈り物も花束も全部君のために用意したんだよ。……あ、そうそう。フィオリナがずっと欲しがっていた、世界の動物図鑑全巻もあるよ」
「ええっ!?」
「あぁ、それから僕は君に求婚することにしたんだ。受けてくれると嬉しいな」
「き……求婚っ!? リオと私が……結婚!? ど、どういうこと??」

 その青年――いや、ロイドの言葉に、屋敷は天と地がひっくり返ったような騒ぎに包まれた。

 そしてあっという間に話は進み、一年後――。



 ◇◇◇

「緊張している? フィオリナ」
「当然よ! 足がガクガク震えて吐きそうだわ……。まさか自分が、こんな場所に立っているなんて今も信じられないの……」

 純白のドレスの上に、王族のひとりとなった証である緋色のマントをまとったフィオリナ。その隣には、正装姿も凛々しいロイドが立っていた。

 外には、記念すべきこの祝祭を見届けるべく集まった民たちの割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いていた。地面を大きく震わせるようなその熱狂に、フィオリナはこくりと息をのんだ。

 これからはじまるのはなんと、フィオリナとロイドの婚礼だった。

 ロイドがフィオリナに自分の正体を明かし求婚したあの日以来、ロイドは実に積極的――というか強引とも思える押しの強さで、フィオリナを落としにかかった。

 フィオリナが魔力なしの自分が王子の伴侶になどなれないと尻込みすると、リオは決まってモフモフの姿へと変身するのだ。モフモフの体ですっぽりと包みこまれると、そのかぐわしい香りとあたたかさにフィオリナの思考はとろけてしまう。

 そして気がつけば、すっかり懐柔されてしまっていたのだった。

 フィオリナは震える手をぎゅっと握り合わせ、不安に目を潤ませた。

「すごく不安だわ……。皆魔力もない私が王子の伴侶になるなんてって、反対しないかしら……。ねぇ、どう思う? リオ」
 
 今だにうっかりするとリオと呼んでしまう癖が抜けない。もちろんロイドはリオだし、リオはロイドでもあるのだから別に間違いではないのだけれど。

「まさかあの時拾った猫が王子様だったなんて……。物語みたいな本当の話って、本当にあるのね……」

 つぶやいたフィオリナに、ロイドが苦笑した。

「言っておくけど、僕は猫じゃないよ? これでもれっきとした聖獣なんだけどな」

 そう。実はリオは聖獣だった。
 王族にのみ発現する聖なる血を持って生まれた存在とかで、人間と聖獣の両方の姿を自在に操り国を守るのだという。

 それがリオだった。

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