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しおりを挟むもはや立派な聖獣として成長を遂げたロイドは、次期国王となることが満場一致で認められた。そのロイドと結婚するということは、つまり――。
「ふふっ。心配性だね、フィオリナは。君ほど未来の王妃にふさわしい人はいないよ。物怖じせずに僕の背に乗って空を飛ぶことだってできるし、たくましいし。魔獣が闊歩するこの世界では、たくましさは必須だからね」
「そりゃあ普通の貴族の令嬢とは違うのは認めるけど……。でもどうしてもっと早くに言ってくれなかったの? 自分が聖獣で、猫なんかじゃないって。私が小さい頃魔獣に襲われた時だって、聖なる力で助けたんだって話してくれたらよかったのに……」
あの時リオは、どうにかして命を救おうとして自分の血を飲ませたらしい。魔獣の血に毒されたフィオリナを助けるには、それしかなかったから。
その聖なる血が体内に入ったことによって、フィオリナは助かり瘴気にも耐えうる力を与えられたのだった。
確かにそれは嬉しい。おかげで瘴気耐性もついたし、リオと一緒に自由に外を飛び回れるようにだってなったのだし。
でも――。
思い起こせば、リオには何もかも打ち明けてきたのだ。どんな恥ずかしい悩みも不安も、時には誰かの悪口だって。何ならリオの背中を涙と鼻水でぐっしょり濡らしたことだってあるし、大きくふっくらしたお腹に顔をスリスリしたことだって数え切れないほどある。
「あぁ……。あなたが王子だって知ってたら、あんなことはしなかったのに……! 顔から火が出そうよ!」
けれどロイドはくすくす楽しげに笑うばかり。
「君のそばにいられるなら、なんだっていいと思ったんだ。猫だって聖獣だって、なんだって。ダリエルが君にあんなことを言い出すまではね……」
ダリエルがフィオリナをただ汚い欲のために好きに扱おうとしていたことを知り、ロイドは決心したのだ。ダリエルも側妃も、自分の欲にかられた王宮内にはびこる者たちもこのままにはしておけないと。
だからリオとしてではなく、ロイドとしてフィオリナの前に姿を現したのだった。
「じゃああの一件がなかったら、一生人間の姿に戻る気はなかったの? もうとっくに人間の姿に戻ることも自由にできていたんでしょう?」
「うん。もうとっくに。でも君をこわがらせちゃいけないと思って隠してたんだ。いきなりロイドの姿に変わったら、さすがにびっくりして離れていっちゃうかなって思ったからさ。なんといっても聖獣の姿から人間に戻る時は裸だし」
「……!!」
フィオリナの顔が真っ赤に染まった。
「でもまぁ、ダリエルのおかげで君を独り占めできたんだからこれはこれでよかったのかな! こんなことでもなきゃ、絶対に王宮に戻る気にはなれなかったし」
ロイドが聖獣である兆しが現れたのは、まだ幼い頃。
聖獣の力を持って生まれたと知れれば、間違いなく他の王位継承権を持つ者たちにロイドは命を狙われる。だから王妃はごく一部の信頼の置ける臣下以外には秘密にしていたのだ。伴侶である国王にさえ。
「大変だったんだよ。小さい頃はいつ誰に命を狙われるかもわからなかったし、聖獣の力があんまりにも強大過ぎて体が悲鳴を上げるしさ。……そんな時、ダリエルと側妃が僕に毒を盛ったんだよ」
「毒……!?」
ロイドは暗い影を漂わせた笑みを浮かべ、うなずいた。
毒は聖獣としての力で無効化できたものの、毒による一時的な体内の異常でロイドは人間の姿に戻れなくなった。
人間にも戻れず体の中で暴れる聖獣の力を持て余したロイドは、パニックを起こし王宮を飛び出した。
そしてたどり着いたのが、メルローズ家のお屋敷だった。
「君が助けてくれなかったら、僕はあのまま凍え死んでいたかもしれない。ドロドロした王宮も怖かったし、自分の体がどうなってしまうのか不安でいっぱいだったし。もうこのまま死んでもいいかなって……」
まだ小さな細い体を震わせていたリオを思い出しフィオリナの胸がツキリ、と痛んだ。
「でも君にぎゅっと抱き締められた時、思ったんだ。あぁ、ここにいればもう大丈夫だって。ここなら絶対に安全だって」
「リオ……」
「だからあのまま人間の姿に戻れなくてもいいと思ってたんだ。王子に戻ったらまたあの恐ろしい魔窟に戻る羽目になるし、君とも離れ離れになると思ったし」
「で……でも国は!? 王子として国を守らなきゃ、とか、民を守らなきゃとか……」
ロイドの口元に、どこか黒い笑みが浮かんだ。
「……ん、別に? だって君をそばで守れないんじゃ、国を守る意味なんてないじゃないか。僕が守りたいのは、君なんだから。君のためならなんだってできるよ? もしダリエルも国王も側妃ももろとも、国を滅ぼせって言うんなら今すぐそうしたっていい」
「ひっ!!」
なんて恐ろしいことを言うのだ、この王子は。
王子とは本来国を平穏に導くために頑張るものではないのか。
顔を引きつらせ、フィオリナは慌ててロイドの手をぎゅっと握りしめた。
「だっ……、だめ! そんなことしちゃ絶対にだめっ!! もうダリエル殿下も側妃様も一生牢屋から出られないんだし、国王陛下だって王妃様にがっちりお灸をすえられて心を入れ替えるって言ってるんだから!! だから、私と一緒にこれからずっとこの国を大事に守っていきましょうっ。ねっ!!」
やれやれ、どうやら拾った猫はとんだヤンデレ猫――、もといヤンデレ聖獣だったらしい。
フィオリナは期待と不安のない混じったため息をふぅ、と吐き出した。
「ふふっ! 君がそう言うなら、頑張るとしようかな。あと五年もすればきっと父は退位する。そうなったら君はいよいよこの国の王妃だね。覚悟はできてる?」
まるでいたずらっ子のようなキラキラとした緋色の目で、ロイドがのぞき込んだ。
それに負けじと目を輝かせ、フィオリナは笑った。
「もちろんよっ!! こうなったらどこまでもあなたと行くわっ。拾った子猫は最後までちゃんと面倒を見なきゃ! でしょ?」
それから長い年月が過ぎ、国は幾度かの大型魔獣による危機や災厄に見舞われながらもどんどん繁栄した。
美しい毛並みの燃えるような緋色の目をした聖獣と、その背に乗り時に勇敢に戦う美しい王妃の力で――。
そんなふたりの肖像画は、なぜか王妃が聖獣の首筋に顔を埋めるというなんともおかしな姿で描かれていた。
それを見た民たちは、口々に噂し合った。きっとこれは伴侶であり国を守護する聖獣でもある国王に口づけているのに違いない、と。
けれどまぁそれが実際に何を描いていたのかは、メルローズ家の人間ならば知っている――。
〈おしまい〉
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この度もありがとうございました!