はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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2章

はじめまして、義家族様 4

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 翌朝、アグリアはすっきりとした心持ちで目をパチリと開いた。
 ここのところで一番と言っていいくらい、実に爽快な目覚めだった。

(ん……? この天井……。えっと……)

 見慣れない天井と部屋の景色に、しばしきょとんとした。そしてやっと思い出した。ここがシオンの実家の客間であると。

(はっ……! そうだったわ。ここってシオンの……)

 その瞬間、ふとあたたかなぬくもりに気がついた。

 ぐぎぎ、ときしむ音がしそうなぎこちない動きで首をぬくもりを感じる方へと向け、出かけた悲鳴をどうにかのみ込んだ。
 
「……っ‼」

(シ……シシシシ、シオン!? シオンの顔が、目の前に……‼ な、なんでっ!? どうしてっ!?)

 驚くべきことに、目覚めてみれば顔面の真ん前にシオンのドアップが迫っていた。
 ベッドの端と端にわかれて寝たのは覚えている。が、何がどうなってこんなに接近しているのか。

(鼻先がくっつきそう……! 動きたいけど……でも動いたら、シオンが起きちゃう……! どどどどど、どうしたら……!?)
 
 その瞬間、はたとシオンのびっくりするくらい長くきれいなまつ毛が目にとまった。ついつい見惚れてしまい、おかしな体勢のまま固まる。
 が、今はそんな悠長なことをしている場合ではない。シオンが起き出す前に、どうにかしてそばからどかなければ。

 そーっとシオンから身を離し、ベッドからはい出そうと動いたその時だった。

「……んん? あ、あぁ。起きたのか。アグリア」
「んひゃあっ‼ うわわわっ!」

 突然シオンの目がぱちりと開いて、慌てて後ろにずり下がった。

「あっ! おいっ、危ないぞっ!」
「へっ⁉ きゃあああっ! 痛っ!」

 勢いあまって、ベッドの端から盛大に落っこちた。
 
 背後から聞こえてくるこらえきれない笑い声に、返す言葉もなかった。


「おはよう! シオン、アグリア。よく眠れた?」

 朝食の席に着くなり、ルンルミアージュが飛びついてきた。

「ふふっ。おはよう、ルンルミアージュ。朝から元気いっぱいね」
「朝からはしゃぐと疲れるぞ。今日はお前が王都をあちこち案内してくれるんだろう? 途中で力尽きておんぶするのはごめんだぞ?」

 にやりと笑みを浮かべるシオンに、ルンルミアージュの頬がぷぅ、と膨れた。

「ほらほら、冷めないうちにいただきましょう」
「ふふっ。はしゃぐのはあとにして、こっちへいらっしゃい。ルンルミアージュ。あとでうんと甘えればいいんだから」

 リリアンヌの言葉に、ルンルミアージュの顔が嬉しそうにほころぶ。

 下の子に母親をとられるような気がして嫉妬から家を飛び出したルンルミアージュだったけれど、もうすっかり気持ちは落ち着いたらしい。
 すっかり甘えん坊の顔だ。

「そういえば、ふたりとも昨夜はよく眠れた? 王都はあなたの領地と違って、昼も夜も騒がしいでしょう」
「い、いえ! とんでもない。むしろうちの方が、早朝から鳥やら動物やらが鳴きだしてにぎやかなので!」
「あら、ふふふっ。そうなの。一度聞いてみたいわ」

 謎に慌てふためきながら答えれば、義母たちが不思議そうに笑った。

 心の中は、お願いだからもう誰も昨夜のことには触れないでほしいと懇願したい気持ちでいっぱいだった。
 今朝方のことを思い出すだけで、顔が熱くなる。

(結局なんであんなに至近距離でくっついて寝ていたのか、聞けず仕舞いだわ……。せめて今夜以降は、絶対に端から身動きせずに寝ないと……!)

 ぐっとテーブルの下で決意の拳を握りしめれば、シオンがぷっと噴き出すのが聞こえた気がした。


「さぁ、次はあっちの通りにあるパン屋に行きましょっ! あそこの売りは、何といっても糖蜜がたっぷりかかった菓子パンね。中には色んな木の実も入ってて、食感も抜群よ」
「糖蜜? うわぁ、おいしそうねっ」
 
 ルンルミアージュにぐいぐいと手を引かれ、王都の通りを歩く。

 シオンが言った通り、ルンルミアージュは実に王都の人気の店に詳しかった。今どんなものが流行っているか、とかどのお店の一番の売りは何か、とか。

「大したものね! もしかして、ルンルミアージュに聞いたらうちのジャムを置いてくれるお店も見つかるかしら……?」
「ジャム……って、例のメリューのジャムか?」

 シオンの問いかけに、こくりとうなずいた。
 メリューと聞いて、ルンルミアージュの目もきらりと輝いた。

「アグリアが作ってくれたメリューのパイ、とってもおいしかったわ! もっと食べたかったけど、もう収穫期は終わっちゃったんでしょう? お祖母様が王都中探したけど、もうどこにも売ってなかったって言ってた」
「ふふっ。メリューの旬はとても短いの。日持ちもしないし収穫量もそう多くないから、あまり流通させられないのよね」

 とは言え、メリューは我が領地の頼みの綱だった。

 他の領地でメリューを育てているという話はまず聞かないし、土壌的にも育てられる場所はそう多くない。

「せっかく王都に行くならついでに売り込んでこいって、父が今年作ったジャムを持たせてくれたのよ」
「なるほどな。ルンルミアージュ、お前ジャムを扱っていそうな店を知ってるか?」

 シオンの問いかけに、ルンルミアージュはしばし口元に指を当てて考え込んだ。

「そうねぇ……。思い当たるお店はいくつかあるけど……、でもジャムじゃなくメリューそのものを売るんじゃだめなの? 私、新鮮なメリューの方がもっと好きだわ」

 すっかりメリューの虜になったのは、シオンもルンルミアージュも同じらしい。

 すでに食べたい気持ちでいっぱいなのだろう。うっとりとした表情を浮かべるふたりを見やり、小さく笑った。

「できればそうしたいけど、メリューの実はやわらかいからあまり輸送に向かないの。ほんの一日ずれただけで、熟れてしまうから」

 輸送自体もできるだけ果実を傷めないようにとても気を遣うために、大量に王都には持ち込めない。その希少価値もあいまって、高値で売れるのだ。

「そうか。そういうことなら、保存が効いて輸送も簡単なジャムは最適だな」
「そうね。ジャムなら一年中食べられるし、ジャムで味を占めたファンが旬の時期に果実も買ってくれるかもしれないしね」
 
 ふむふむと納得したふたりは、ならばどこか扱ってくれそうな店を訪ね歩いてみようと奮起してくれた。
 のだけれど――。

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