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しおりを挟む「私は君しか望まない……!! 君がそばにいてくれるのなら、なんだってできる……!! 好きだっ!! フラウベル!!」
それはとんでもなく激しい衝動だった。
目の前に立っているフラウベルへの想いが弾け、気がつけば勝手に体が動いていた。
なんとヴィアルドは、フラウベルを勢いよくかき抱いたのだった。むぎゅっと、力強く。
突然にヴィアルドに息もできないくらい強く抱きしめられたフラウベルはと言えば。
「……っ!!!!」
言葉もなくただ口をパクパクとさせ全身を真っ赤に染めるばかりだった。
そしてようやく自身のしていることに気がついたヴィアルドは、慌ててフラウベルを自由にすると。
「はっ……!! す……すすすすすっ、すまないっ!! つい……感情が昂ぶって……思わず……!!」
今にも卒倒しそうな顔で平謝りするヴィアルドに、フラウベルは頬を染めながらも嬉しそうに微笑んだのだった。
「いいえ……。良いのです……。だって、私たち……婚約者同士なんですもの……。これくらいはきっと許されますわ……」
はにかむフラウベルの全身はまだ真っ赤なまま。それを見つめるヴィアルドの顔もあっという間に同じ色に染まる。
「では……私との婚約は……このまま?? このまま婚約を継続しても……?」
そうたずねるヴィアルドの顔はまるで夢を見ているかのようにまだ半信半疑といった様相で。
それにフラウベルの頭がこく、こく、と上下した。そして。
「はい……!! もちろん継続でお願いいたします!! ……その、この先もずっと、末永く仲良くしてくださると嬉しいです……!! ヴィアルド様……!!」
そのなんともかわいらしい返答に、ヴィアルドの相貌が崩れた。
「そう……か……!! ははっ……。そうか……。それは……良かった……!!」
泣き笑いの顔でヴィアルドはフラウベルにふわりと微笑みかけ、そして――。
バタンッ!!
ヴィアルドはまるでスイッチが切れたようにその場に崩れ落ちた。魔力の多くを一時に解放し過ぎて、心身が限界を迎えたのだ。
「ヴィアルド様……っ!? 大変っ!! ヴィアルド様っ……!! しっかりっ!!」
頭を打ち付けそうになったすんでのところを、フラウベルが持ち前の反射神経でさっと体を支え、慌てて助けを呼ぼうと辺りを見渡す。
そして、こっそりふたりの様子を見守っていた同僚の手を借り、ヴィアルドの体を医務室へと運び込んだのだった。
こうしてふたりの初恋は実り、婚約は無事継続することに決まった。
危うくひとつの恋で国が壊滅するところだったと胸をなでおろす同僚の男をよそに、ベッドに横たわるヴィアルドもそれを見守るフラウベルも非常に幸せそうに微笑んでいて。
そんなふたりのかわいらしくも傍迷惑な恋に、男はやれやれとため息を吐き出したのだった。
◇◇◇◇
それからしばらくの時が過ぎ――。
その日、ガーランド家フラウベルとヨーク家ヴィアルドの婚礼が華々しく執り行われた。本来ならば王族もしくは国王の特別な許可を得た者だけが使用することのできる、大聖堂で。
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