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5章
過去と今、そして未来 3
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しばらくしたある晴れた日、国を挙げての華々しい祝賀パレードが催された。
「ご婚約おめでとうございまぁすっ! リンド王子殿下ーっ! パン聖女様ーっ!」
「バンザーイッ、バンザーイッ!」
「これでこの国もますます安泰だな。何しろこの国の未来は、救国のパン聖女様とリンド王子殿下の御世になるんだからなっ」
「婚約おめでとうーっ! パンのお姉ちゃあんっ! 王子様ーっ!」
晴れ渡った空に響き渡る民からの歓声に、リンドと並んで手を振って応える。
今日はリンドと救国の聖女の婚約式とあって、国中が歓喜にわいていた。
観衆に向かって手を振りながら、シェイラはちらと隣に座るリンドを見やった。
いつにないぱりっとした正装姿のリンドに、思わず頬が染まる。
「ん? どうした、シェイラ」
「えっ? ううん! なんでもないっ」
馬車に乗り込み城下を練り歩くリンドと自分の手は、固く握られていた。そこから伝わる熱にさらに頬を染めうつむいた。
「なんだか夢みたい……。本当にこの日がやってくるなんて」
ゴトゴトと民へのお披露目会場へと向かう馬車の中、シェイラはこれまでのことを感慨深く思い返していた。
ある日突然聖女だと言われ、王宮に連れてこられた。そしてわけもわからないままに聖力を放ってみせよ、と命じられた。
どうしてただのパン屋の娘が聖女なんかに、と天に恨み言を言いたい気分で途方に暮れていたら、リンドが背中を押してくれた。
『君ならきっとうまくやれると思う』
あの一言がなかったら、今ここに自分はいない。
いや、そもそも遠い昔にお互いにまだ幼かった頃に運命の出会いを果たしていなかったら、今日という日は迎えられなかったのかもしれない。
「私、本当はさっきまで不安だったんです。私にリンド殿下の伴侶なんて本当に務まるのかなって……。でも今、ここに立ててよかったって心から思えます」
そうリンドに告げた瞬間、馬車がゆっくりと止まった。
リンドに手を引かれ馬車から降りれば、割れんばかりの歓声が観衆から沸き起こった。
「シェイラ様だっ! リンド殿下とシェイラ様のご到着だぞっ」
「ご婚約おめでとうございます! 殿下、聖女様!」
「シェイラ様、とってもきれいっ!」
「たまげたな。こりゃさすがは救国の聖女様だ。光り輝いてるみたいにきれいだなぁ!」
皆の歓喜の眼差しと声が、なんともこそばゆくも嬉しい。
国中が明るい希望に満ちていた。近い未来にリンドが国王として立つことが約束された未来を、明るく照らし出すように。
「救国の聖女様がついていてくださるんだ。この国の未来はきっと安泰だ。なぁ、ばあさんや」
「えぇ、そうですとも。おじいさん」
「私もいつか聖女様になれる? シェイラ様みたいに、この国を守るのー!」
「ふふっ。聖女になれるかは、天の思し召しだもの。なれるかはわからないわ。でも民として国を一緒に守っていくことはできるわよ」
「わぁいっ! なら私も一緒に頑張るー!」
キラキラと輝く宝石のような笑顔にあふれた観衆の姿を見渡し、ほぅ、と息をついた。
「リンド殿下と会えてよかった。リンド殿下が、この国の王子様でよかった……」
リンドがいてくれたから、心からこの国を守りたいと思えた。どんなに怖い魔物相手にも、見たこともない化け物相手にだって立ち向かうことができたのだ。
そしてこれから起こるかもしれない不穏な未来にだって、きっと強く立ち向かえる。そう覚悟を決めることができたのは、リンドが一緒だからだ。
「いつかこの国に恐ろしいことが起きるのかもしれない。老女が見た未来が、この国に起こるのかも。……でも、そんな悪い未来はリンドと一緒に変えていけるって、私は心からそう思えるんです」
老女の見たこの国の未来に何が待ち受けているのかは、まだ何もわからない。けれどきっとふたり一緒なら乗り越えていけるはずだ。
あの日、老女がはっぱをかけてくれたからじゃない。リンドからの求婚を勇気を出して受け入れたのは、リンドとならどんなことも越えていけると心から思えたから。
自分を信じて励まし続けてくれたリンドと一緒なら、どんな道も歩いていける。この国を守っていける。そう信じられた。
あふれるような思いを込めて告げれば、リンドの耳が赤く染まった。
「私も信じている。君とふたりなら、どんなことがあってもこの国を強く守っていけると。何と言っても君は、私にとっても救国の聖女なんだからね。君が途方に暮れた私の涙をぬぐってくれたように、この国の民の憂いもきっと払いのけられると」
リンドの手に力がこもった。それをきゅっと握り返し、笑いかけた。
「はい! 私とリンドとふたり、そして大切な皆と一緒にこの国をもっともっと豊かで幸せな国にしましょう。悪い未来だって、皆で力を合わせればきっと変えられるはずだから!」
力強くそう告げれば、リンドがにっこりと笑ってうなずいた。
「あぁ、そうだな! これからよろしく頼む、シェイラ。心から愛しているよ」
その一言と、リンドの口元に浮かんだとろけるような甘い笑みにぼんっと顔から火が噴いた。
「へっ⁉ あ……、はいっ! ふへへっ。ありがとう……ございますっ。わ、私も……好き、です……。えへへっ」
すると何を思ったか、リンドが真っ赤に染まったシェイラの頬に唇を寄せた。小さな音を立てて離れていく唇に、シェイラの顔がますます赤く染まっていく。
「……っ!」
目を丸くして言葉もなく口をパクパクさせるシェイラに、リンドがいたずらっ子のようにくすりと笑った。
嬉しさと気恥ずかしさでもじもじと微笑み合えば、仲睦まじい王子と救国の聖女の姿に大地が揺れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
そして翌年、リンドとシェイラは無事華々しく婚礼を挙げ夫婦としての一歩を歩み出したのだった。
「ご婚約おめでとうございまぁすっ! リンド王子殿下ーっ! パン聖女様ーっ!」
「バンザーイッ、バンザーイッ!」
「これでこの国もますます安泰だな。何しろこの国の未来は、救国のパン聖女様とリンド王子殿下の御世になるんだからなっ」
「婚約おめでとうーっ! パンのお姉ちゃあんっ! 王子様ーっ!」
晴れ渡った空に響き渡る民からの歓声に、リンドと並んで手を振って応える。
今日はリンドと救国の聖女の婚約式とあって、国中が歓喜にわいていた。
観衆に向かって手を振りながら、シェイラはちらと隣に座るリンドを見やった。
いつにないぱりっとした正装姿のリンドに、思わず頬が染まる。
「ん? どうした、シェイラ」
「えっ? ううん! なんでもないっ」
馬車に乗り込み城下を練り歩くリンドと自分の手は、固く握られていた。そこから伝わる熱にさらに頬を染めうつむいた。
「なんだか夢みたい……。本当にこの日がやってくるなんて」
ゴトゴトと民へのお披露目会場へと向かう馬車の中、シェイラはこれまでのことを感慨深く思い返していた。
ある日突然聖女だと言われ、王宮に連れてこられた。そしてわけもわからないままに聖力を放ってみせよ、と命じられた。
どうしてただのパン屋の娘が聖女なんかに、と天に恨み言を言いたい気分で途方に暮れていたら、リンドが背中を押してくれた。
『君ならきっとうまくやれると思う』
あの一言がなかったら、今ここに自分はいない。
いや、そもそも遠い昔にお互いにまだ幼かった頃に運命の出会いを果たしていなかったら、今日という日は迎えられなかったのかもしれない。
「私、本当はさっきまで不安だったんです。私にリンド殿下の伴侶なんて本当に務まるのかなって……。でも今、ここに立ててよかったって心から思えます」
そうリンドに告げた瞬間、馬車がゆっくりと止まった。
リンドに手を引かれ馬車から降りれば、割れんばかりの歓声が観衆から沸き起こった。
「シェイラ様だっ! リンド殿下とシェイラ様のご到着だぞっ」
「ご婚約おめでとうございます! 殿下、聖女様!」
「シェイラ様、とってもきれいっ!」
「たまげたな。こりゃさすがは救国の聖女様だ。光り輝いてるみたいにきれいだなぁ!」
皆の歓喜の眼差しと声が、なんともこそばゆくも嬉しい。
国中が明るい希望に満ちていた。近い未来にリンドが国王として立つことが約束された未来を、明るく照らし出すように。
「救国の聖女様がついていてくださるんだ。この国の未来はきっと安泰だ。なぁ、ばあさんや」
「えぇ、そうですとも。おじいさん」
「私もいつか聖女様になれる? シェイラ様みたいに、この国を守るのー!」
「ふふっ。聖女になれるかは、天の思し召しだもの。なれるかはわからないわ。でも民として国を一緒に守っていくことはできるわよ」
「わぁいっ! なら私も一緒に頑張るー!」
キラキラと輝く宝石のような笑顔にあふれた観衆の姿を見渡し、ほぅ、と息をついた。
「リンド殿下と会えてよかった。リンド殿下が、この国の王子様でよかった……」
リンドがいてくれたから、心からこの国を守りたいと思えた。どんなに怖い魔物相手にも、見たこともない化け物相手にだって立ち向かうことができたのだ。
そしてこれから起こるかもしれない不穏な未来にだって、きっと強く立ち向かえる。そう覚悟を決めることができたのは、リンドが一緒だからだ。
「いつかこの国に恐ろしいことが起きるのかもしれない。老女が見た未来が、この国に起こるのかも。……でも、そんな悪い未来はリンドと一緒に変えていけるって、私は心からそう思えるんです」
老女の見たこの国の未来に何が待ち受けているのかは、まだ何もわからない。けれどきっとふたり一緒なら乗り越えていけるはずだ。
あの日、老女がはっぱをかけてくれたからじゃない。リンドからの求婚を勇気を出して受け入れたのは、リンドとならどんなことも越えていけると心から思えたから。
自分を信じて励まし続けてくれたリンドと一緒なら、どんな道も歩いていける。この国を守っていける。そう信じられた。
あふれるような思いを込めて告げれば、リンドの耳が赤く染まった。
「私も信じている。君とふたりなら、どんなことがあってもこの国を強く守っていけると。何と言っても君は、私にとっても救国の聖女なんだからね。君が途方に暮れた私の涙をぬぐってくれたように、この国の民の憂いもきっと払いのけられると」
リンドの手に力がこもった。それをきゅっと握り返し、笑いかけた。
「はい! 私とリンドとふたり、そして大切な皆と一緒にこの国をもっともっと豊かで幸せな国にしましょう。悪い未来だって、皆で力を合わせればきっと変えられるはずだから!」
力強くそう告げれば、リンドがにっこりと笑ってうなずいた。
「あぁ、そうだな! これからよろしく頼む、シェイラ。心から愛しているよ」
その一言と、リンドの口元に浮かんだとろけるような甘い笑みにぼんっと顔から火が噴いた。
「へっ⁉ あ……、はいっ! ふへへっ。ありがとう……ございますっ。わ、私も……好き、です……。えへへっ」
すると何を思ったか、リンドが真っ赤に染まったシェイラの頬に唇を寄せた。小さな音を立てて離れていく唇に、シェイラの顔がますます赤く染まっていく。
「……っ!」
目を丸くして言葉もなく口をパクパクさせるシェイラに、リンドがいたずらっ子のようにくすりと笑った。
嬉しさと気恥ずかしさでもじもじと微笑み合えば、仲睦まじい王子と救国の聖女の姿に大地が揺れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
そして翌年、リンドとシェイラは無事華々しく婚礼を挙げ夫婦としての一歩を歩み出したのだった。
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