あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう! 

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

文字の大きさ
35 / 54

届いた奇跡

しおりを挟む
 
 
 村人たちの看病に追われる中、奇跡が起きた。

「ランドルフ隊長!! 手紙が届きましたっ。一通は王宮から、もう一通は婚約者殿からですっ!!」

 ランドルフは治療の手を一瞬止め、それを受け取った。
 王宮からの知らせは、アズールに秘密裏に協力する旨の国王陛下からの許可に関するもの。そしてミリィからは、手紙とともに小さな小包みが届いた。

「……?」

 中を見たランドルフは、驚きの声を上げた。

「特効薬だと……? ミリィが……? オーランドってまさか、あの天才薬学者のか……??」

 ミリィからの手紙には、この流行病の特効薬をオーランド・デオラムの助手としてともに発見し作り上げたと書いてあった。取り急ぎ少量だが送る、と。

「これが……この病の特効薬だと?」

 ランドルフは手の中の瓶に入った粉末状のそれを、信じられない思いで見つめた。小包にはその詳しい使用方法が、丁寧に書かれていた。

 オーランド・デオラム――、その聞き覚えのある名に、ランドルフは記憶をたどった。
 この国の薬学の第一人者で、まだ若いが天才肌の優秀な青年だったはずだ。そんな人物の助手になぜミリィが? 

 けれどそんな疑問よりも、ランドルフはこの奇跡のようなタイミングに驚きを隠せずにいた。

「どうしました? ランドルフ隊長、国から何か火急の知らせでも……?」

 ロイドの顔に、ちらと緊張感が走ったのに気づきランドルフは首を横に振った。

「いや、そうではない。ただミリィからこの病の特効薬が届いたんだ……。ごく少量ではあるが……」
「はぁっ!? えっ? まさか薬を……作ったんですか!? ランドルフ隊長の天使ちゃんが??」

 ランドルフはミリィから届いた奇跡に、笑みを浮かべた。

「これがあれば、感染を恐れずこの村の者たちの治療に当たることができる……!! ロイド! まずは隊員全員にこの薬を飲ませてくれ! 感染の予防になる!」

 ロイドはしばしぽかんと口を開いたまま固まっていたが、弾かれたように薬を受け取ると仲間のところに飛んでいった。

 ランドルフは不思議な力がこんこんとわいてくるのを感じていた。まるですぐそばでミリィが力づけてくれるような、そんな力を。
 その不思議な感覚に、ランドルフはこくりとうなずいた。

「薬を飲んだ者から、重症者優先で薬を投与してくれ! 数には限りがある。無駄にするなよ!」
「「「は、はいっ!!」」」

 そして手紙を大事そうに懐にしまい、自分も忘れずに薬を飲んだ。そしてすぐさま村人たちの治療を再開したのだった。



 ◇◇◇

 特効薬は、驚くほどに良く効いた。高熱とひどい発疹に苦しんていた村人たちも、今では熱もあらかた下がり穏やかな呼吸に戻った。まだ起き上がれずにいる者も、数日もすればきっと楽になるだろう。
 
 村人たちから涙ながらの感謝を受けながら、ランドルフは首を横に振った。

「礼ならば、この薬を生み出したオーランドという薬学者と私の婚約者に言ってくれ。この病の広がりを懸念して、ともに急ぎ生み出してくれたんだ。間に合って良かったよ」
「おぉ、なんとありがたい……! 婚約者様もなんと優れたお方か……。我々の命が生き長らえたのは皆様のおかげです! なんと礼を申し上げたらいいか……」

 ようやく起き上がれるようになったあの老人の目から、雫がこぼれ落ちた。
 そこにひとりの少年が現れ、大きな声を上げた。

「なぁ! ランドルフ様!! 本当にこの国は生まれ変わるのかっ? あのアズールって奴が、本当に俺たちを救ってくれるのかっ??」

 確か名前をジングといったはずだ。森に生息している野草に詳しい少年で、熱から回復してからはランドルフたちとともに村人たちの治療にもずいぶん協力してくれた。

 そうたずねるジングの顔には、ありありと不信と期待の色とが混ざり合っていた。
 ランドルフはジングの目線まで身をかがめ、視線を合わせた。そして。

「あぁ! あの男はやるといったらやるさ。その覚悟のある奴だからな。だから信じろ!」
「……」
「ジング、この薬を作った私の婚約者も国で天才と呼ばれるオーランドという薬学者も、信じたんだ。きっとこの病から苦しむ者を救う手立てはあると信じたからこそ、この薬は生まれたんだ」
「この薬を作ったの、オーランドっていう学者なのか……?」
「あぁ、そうだ! きっと多くの人を助けられると信じて、ふたりはこの薬を作った。希望を信じてやってみなきゃ、何も成し遂げられないんだ。アズールも信じている。この国を必ず救い良い国に生まれ変わらせることができると……!」

 ランドルフのその言葉にジングはしばし黙り込み、そして。

「……わかった。信じるよ。アズールって奴も、ランドルフ様の言葉も。それに……、この薬を作ってくれたそのオーランドって人も!!」

 ジングの目が、希望にキラリと輝いた。

「ランドルフ様っ!! 村を助けてくれてありがとうっ。この恩は絶対いつか返すっ!! 絶対だ!! 男に二言はないからなっ。覚えておいてくれよっ!!」

 ランドルフはすっかり明るさを取り戻したジングの髪をくしゃりとなで、うなずいた。

「あぁ! 覚えておくよ。その時はよろしく頼む!! 良い国には、お前のようないい目をした民が必要だからな」
 
 そしてランドルフたちは、村人たちにあたたかく見送られ村を後にした。アズールと王都近くにある町で落ち合うために。

 道中ランドルフは、両手を見下ろし口元をやわらかく緩めた。

「これで少しは汚れたこの手も、ましになったかな……。ミリィのおかげだ……」

 小さくつぶやいたその声は、どこか晴れ晴れとしていた。
 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...