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届いた奇跡
しおりを挟む村人たちの看病に追われる中、奇跡が起きた。
「ランドルフ隊長!! 手紙が届きましたっ。一通は王宮から、もう一通は婚約者殿からですっ!!」
ランドルフは治療の手を一瞬止め、それを受け取った。
王宮からの知らせは、アズールに秘密裏に協力する旨の国王陛下からの許可に関するもの。そしてミリィからは、手紙とともに小さな小包みが届いた。
「……?」
中を見たランドルフは、驚きの声を上げた。
「特効薬だと……? ミリィが……? オーランドってまさか、あの天才薬学者のか……??」
ミリィからの手紙には、この流行病の特効薬をオーランド・デオラムの助手としてともに発見し作り上げたと書いてあった。取り急ぎ少量だが送る、と。
「これが……この病の特効薬だと?」
ランドルフは手の中の瓶に入った粉末状のそれを、信じられない思いで見つめた。小包にはその詳しい使用方法が、丁寧に書かれていた。
オーランド・デオラム――、その聞き覚えのある名に、ランドルフは記憶をたどった。
この国の薬学の第一人者で、まだ若いが天才肌の優秀な青年だったはずだ。そんな人物の助手になぜミリィが?
けれどそんな疑問よりも、ランドルフはこの奇跡のようなタイミングに驚きを隠せずにいた。
「どうしました? ランドルフ隊長、国から何か火急の知らせでも……?」
ロイドの顔に、ちらと緊張感が走ったのに気づきランドルフは首を横に振った。
「いや、そうではない。ただミリィからこの病の特効薬が届いたんだ……。ごく少量ではあるが……」
「はぁっ!? えっ? まさか薬を……作ったんですか!? ランドルフ隊長の天使ちゃんが??」
ランドルフはミリィから届いた奇跡に、笑みを浮かべた。
「これがあれば、感染を恐れずこの村の者たちの治療に当たることができる……!! ロイド! まずは隊員全員にこの薬を飲ませてくれ! 感染の予防になる!」
ロイドはしばしぽかんと口を開いたまま固まっていたが、弾かれたように薬を受け取ると仲間のところに飛んでいった。
ランドルフは不思議な力がこんこんとわいてくるのを感じていた。まるですぐそばでミリィが力づけてくれるような、そんな力を。
その不思議な感覚に、ランドルフはこくりとうなずいた。
「薬を飲んだ者から、重症者優先で薬を投与してくれ! 数には限りがある。無駄にするなよ!」
「「「は、はいっ!!」」」
そして手紙を大事そうに懐にしまい、自分も忘れずに薬を飲んだ。そしてすぐさま村人たちの治療を再開したのだった。
◇◇◇
特効薬は、驚くほどに良く効いた。高熱とひどい発疹に苦しんていた村人たちも、今では熱もあらかた下がり穏やかな呼吸に戻った。まだ起き上がれずにいる者も、数日もすればきっと楽になるだろう。
村人たちから涙ながらの感謝を受けながら、ランドルフは首を横に振った。
「礼ならば、この薬を生み出したオーランドという薬学者と私の婚約者に言ってくれ。この病の広がりを懸念して、ともに急ぎ生み出してくれたんだ。間に合って良かったよ」
「おぉ、なんとありがたい……! 婚約者様もなんと優れたお方か……。我々の命が生き長らえたのは皆様のおかげです! なんと礼を申し上げたらいいか……」
ようやく起き上がれるようになったあの老人の目から、雫がこぼれ落ちた。
そこにひとりの少年が現れ、大きな声を上げた。
「なぁ! ランドルフ様!! 本当にこの国は生まれ変わるのかっ? あのアズールって奴が、本当に俺たちを救ってくれるのかっ??」
確か名前をジングといったはずだ。森に生息している野草に詳しい少年で、熱から回復してからはランドルフたちとともに村人たちの治療にもずいぶん協力してくれた。
そうたずねるジングの顔には、ありありと不信と期待の色とが混ざり合っていた。
ランドルフはジングの目線まで身をかがめ、視線を合わせた。そして。
「あぁ! あの男はやるといったらやるさ。その覚悟のある奴だからな。だから信じろ!」
「……」
「ジング、この薬を作った私の婚約者も国で天才と呼ばれるオーランドという薬学者も、信じたんだ。きっとこの病から苦しむ者を救う手立てはあると信じたからこそ、この薬は生まれたんだ」
「この薬を作ったの、オーランドっていう学者なのか……?」
「あぁ、そうだ! きっと多くの人を助けられると信じて、ふたりはこの薬を作った。希望を信じてやってみなきゃ、何も成し遂げられないんだ。アズールも信じている。この国を必ず救い良い国に生まれ変わらせることができると……!」
ランドルフのその言葉にジングはしばし黙り込み、そして。
「……わかった。信じるよ。アズールって奴も、ランドルフ様の言葉も。それに……、この薬を作ってくれたそのオーランドって人も!!」
ジングの目が、希望にキラリと輝いた。
「ランドルフ様っ!! 村を助けてくれてありがとうっ。この恩は絶対いつか返すっ!! 絶対だ!! 男に二言はないからなっ。覚えておいてくれよっ!!」
ランドルフはすっかり明るさを取り戻したジングの髪をくしゃりとなで、うなずいた。
「あぁ! 覚えておくよ。その時はよろしく頼む!! 良い国には、お前のようないい目をした民が必要だからな」
そしてランドルフたちは、村人たちにあたたかく見送られ村を後にした。アズールと王都近くにある町で落ち合うために。
道中ランドルフは、両手を見下ろし口元をやわらかく緩めた。
「これで少しは汚れたこの手も、ましになったかな……。ミリィのおかげだ……」
小さくつぶやいたその声は、どこか晴れ晴れとしていた。
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