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やっと同じ空の下
しおりを挟む「オーランド様、町が見えてきましたよっ!!」
馬車の窓から頭を突き出し、ミリィは声を上げた。
王都から馬で数時間ほどの距離に位置するその町は、王都ほどではないにせよなかなかに大きな町だった。立ち並ぶ建物や町の入口に作られた門からも、にぎわいがうかがえた。けれど、今は出入りする馬車や町人の姿もなくひっそりと静まり返っている。
馬車を降り、護衛騎士たちが先導するあとをオーランドとともについていく。
「……人の姿が見えませんね。患者たちは一体どこに集められているんでしょう? そこにきっとランドルフ様もいるはずなんですけど……」
時が止まったような不気味な静けさの中を、辺りを警戒するように進んでいく。すると、目の前に何者かの影が動いたのが見えた。
その見覚えのある影に、ミリィは護衛騎士が慌てて呼び止めるのも聞かずに弾かれたように駆け出した。
「あっ! ミリィ様っ、お待ち下さいっ!! ……!?」
ゆっくりと振り向いたその姿に、ミリィは視界がじわりとにじむのを感じた。そして言葉もなくその人の姿を見つめたのだった。ランドルフ・ベルジアの姿を――。
「……!!」
驚愕に大きく目を見開くランドルフと、しばし見つめ合う。ずっと会いたいと願っていた人が、目の前にいる。毎日毎日無事を祈り続けていた人が、ここにいる。手を伸ばせば届くほどの位置に――。
やっとのことで、言葉を絞り出した。
「ランドルフ様……、ご無事で……。良かった……。本当に……良かった……。やっと……お会いできた……」
「ミリィ……」
やっとたどり着いたその姿が、涙でじわりと揺れた。ずっとずっと遠い空の下、離れ離れだったその人が目の前にいる。どこか信じられない気持ちで、その姿を見やった。
ぽろぽろと大粒の涙が目からこぼれ落ちていく。ずっとずっと会いたかった。けれどその思いを必死に押し込めて、これまでずっと頑張ってきたのだ。
もう溢れ出した思いを留めることはできなかった。
ランドルフもまた目を大きく見開いて、呆然とミリィを見つめ続けていた。
「……」
「……」
しばし言葉もなく見つめった。
「ミリィ……。まさかこんな場所であなたに対面するとは……。すまない。あなたまで危険に巻き込んでしまって……」
「いいえっ……! ランドルフ様のせいではっ。私が勝手に……」
「ここまで無事で良かった……。本当に……」
「ランドルフ様こそ、ご無事で……」
その時、「……コホンッ!」という控えめな咳払いがランドルフの背後から聞こえてきた。
「えー……っとですね。お邪魔するようで本当に忍びないんですが……、ちょっと今はそれどころではないというか、なんというか……」
遠慮がちに割り込んできたその声に、ようやく自分たちに注がれる生温い視線にようやく気が付きふたりして飛び上がった。
「あ……!! あああああ、あぁ! そうだった! すっ、すまないっ。つい……」
「わっ、わわわわ、私こそすみませんっ!! ええと……、ミリィ・オーランドと申します。あとこちらは王立薬学院のオーランド・デオラム様。こちらは同じ薬学院の研究者様で、こっちは護衛騎士の……」
慌てて皆を紹介すれば、ランドルフも慌てて自分とその部下たちをざっと紹介してくれた。
「あなたがオーランド殿か。此度は遠路はるばる隣国にまでおいでいただき、心より感謝する。緊急事態とはいえ、無理を言って申し訳なかった。道中無事で何よりだ」
ランドルフがいつものキリリとした顔を貼り付け、オーランドに声をかければ。
「……協力も何も、王命ですから。ランドルフ殿、申し訳ありませんがこれより治療が終わるまでは貴殿の婚約者殿は私の助手として扱わせていただきます。……ご理解を」
なぜかいつもの無愛想っぷりに拍車がかかったオーランドが、ぶっきらぼうに応えた。
「あ、あぁ。……了解した。よろしく頼む……」
一体何事かと首を傾げるミリィの視線の先で、一瞬ランドルフとオーランドの間で火花が散った気がした。ランドルフの眉も何かを察したのかぴくりと上がる。
「あの……おふたりともどうかなさいましたか? オーランド様? ランドルフ様??」
するとその空気をかき消すように、先ほどの声の主が明るい口調で話しかけてきた。
「お初にお目にかかります。ミリィ・レイドリア様。私はランドルフ隊長の元で副隊長を務めさせていただいております、ロイドと申します。以後お見知りおきください。……へぇ! この方が例の天使さんですかぁ!!」
そしてちらりとオーランドにも視線を向けた。
「で、こちらが天才薬学者様のオーランド様……。どうぞよろしく。……ふぅん。こりゃまた色々と起こりそうですね。くくっ! いやぁ、ミリィちゃんなかなかやるなぁ!! ははははっ!! ランドルフ隊長も大変ですねぇ!!」
「……??」
ロイドが意味ありげにオーランドとランドルフ、そして自分に交互に視線を移したのを見て、首を傾げた。
「私が……何か??」
意味がわからずオーランドとランドルフを見やれば、ふたりともなんともいえない表情を浮かべていてなお一層わけがわからない。するとランドルフが慌てたように声を上げた。
「いや、まぁ……。と、とにかくだ! 話は病院で聞こう。町の患者たちを集めてあるんだ」
ようやくその言葉にミリィは本来の目的を思い出し、慌ててランドルフたちの案内で病院へと向かったのだった。
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