死神主と辺境の守護猫(ニャ) 〜大の猫嫌いの強面辺境伯が、猫化した私に超絶デレた件につきまして

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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その1 料理人、いえ猫になりました

事件が起きたようです!?

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「……あの? どうかしました? オズワルド様」 

 急に目の前に立ちはだかった大きな背中に声をかけてみたけれど、反応はない。すると、背中の向こうからくくくっ、という笑い声が聞こえてきた。 

「へぇ……。くくっ!! オズワルド、お前……今自分がどんな顔してるか気づいてるか? まさかお前が女性相手にそんな顔をする日がくるとはな。その子、どうせ大昔世話になったなんちゃらの孫娘とやらじゃないんだろ? 一体何者だ?」 

 その言葉にオズワルドはうむむ……とうめき声をあげ黙り込むと、不本意そうにレキオルに何か耳打ちした。  

「……っ? お前……それは本当かっ!? なんでそれを早く言わないんだっ!!」 

 するとレキオルはその目をキラキラと輝かせ、顔に笑みが浮かべ私の手を取った。 

「やぁ、俺はレキオルだ。さっきは疑うような物言いをしてごめんね? 俺はこいつとは親友なんだ。というわけで今度屋敷に遊びに行くから、その時は俺もぜひご相伴にあずからせてね! ガツンと系の料理、期待してるよ!!」 

 どうやらオズワルドがレキオルに私の正体が料理人であることを明かしたらしい。となればこちらもどこかの孫娘の振りなどせずに済んで楽というものだ。 

「ええ、オズワルド様がそれでいいとおっしゃるなら、もちろん喜んで!」 

 打って変わって気安い態度に変わったレキオルに、曖昧に微笑んで見せれば。 

「いやぁ、屋敷に遊びに行くの、楽しみだなぁ! 色んな意味で今後楽しめそうだし!」 
「おかしな冷やかしをするつもりならくるな! 屋敷に近づいたら全力で追い返してやるぞ」 
「なんだよ~! つれないこと言うなよ、オズワルド! 俺とお前の仲じゃないか!! はっはっはっはっ!」 

 そんなやりとりをするふたりの向こうでは、先程までオズワルドに群がっていた令嬢たちもこうも仲良さそうに話し込みはじめた男ふたりに割って入るわけにもいかず、歯噛みしながら遠巻きに見つめていた。これでしばらくは女性たちの猛攻を防げるに違いないと胸をなで下ろす。 

 ならば、とオズワルドの影でなお一層背景と同化しようとしたその時だった。 

(……ん? なにやら強い視線を感じるような……?? 今度は一体誰……??)        

 ぎゃあぎゃあ楽しげに話し込むオズワルドとレキオルから視線を外し背後を振り向けば、遠くから赤い何かが向かってくるのが見えた。 

 そこにいたのは、赤いドレスを身にまとったひとりの令嬢だった。その射抜くような真っ直ぐな視線は、オズワルドでもレキオルという青年でもなくまっすぐに私をとらえていた。瞬間その目に漂う張り詰めた色にざわり、とした。どうやら嫌な予感のもとはこれだったらしい。そう気がついた時には遅かった。 

「……おい!!」 

 背後にいるオズワルドがそれに気づき、鋭い声を上げる。 
 けれど、私は動けずにいた。その女性の手に握られているのは多分小さな瓶のようなもの。その目は私だけをとらえていた。 
 今すぐ逃げるべきだと思いながらも、下手に動けばオズワルドやレキオルに何らかの害が及ぶかもしれない。そう思うと動けなかった。そして動くわけにいかずその場で固まる私と、女の目が一瞬かちりと合った。 

「……許しませんわっ!! 絶対に……!!」 

 そんな声が聞こえた気がした。 

 パシャンッ!!  

 次の瞬間、自分めがけて何かが放たれたのは何だったろう? 
 気づけば何かの液体が胸元を濡らしていた。そこから漂うかいだことのない奇妙な匂いに思わず顔をしかめた。 

「リイナ!!」 

 オズワルドの私の名を呼ぶ鋭い声と、レキオルの厳しい声が聞こえた。 

「おいっ!! すぐに警……べ!! それとすぐに医師を!!」 

 なんだか偉そうにまわりの人間たちに指示を出すレキオルの姿は、さっきまでのヘラリとした様子とはなんだか別人のようで。 

(レキオル様って一体何者……? にしてもこの液体何なのかしら……? まさか毒なんてこと、ないよねぇ……?) 

 そんなことをぼんやりと考えながら、気がつけば意識が遠のいていたのだった。 

 


 ◇◇◇

 ぱちり……! 

 目が開いたら、見知らぬ白髪の紳士が私のおなかのあたりをもにもにと無遠慮にまさぐっていた。その感触に絶叫する。いや、したつもりだった。けれど口から出たのはまさかの。 

「ぶぎゅぁ~おぅんっ!!!!」 

 その声に、我ながらきょとんとする。今の叫び声は一体なんだ。まるで動物が驚いた時のような鳴き声みたいな。 

「……??」 

 なんだか嫌な予感がする。何かがおかしい。見える視界も、体の感覚も、それに声も。そして恐る恐る自分の体を見下ろした私は――。 

「ふにゃあ~~~~~っおぅんっっ!? ふぎゃっ?? うにゃあ~んっ??」 

 どうしたことでしょう……。 
 ふと見下ろした目に飛び込んできたのは、薄茶色のやわらかな毛に全身覆われた体。丸っこい小さな手には、ぷにぷにとした丸い肉球がのぞいているし、何と言っても体が元の大きさとは比べ物にならないくらい小さく縮んでしまっていた。 

(こ……これは一体……?? 私の体、どうなっちゃったの……!? こ、これは……まさか……!?) 

 そしてゆっくりとあたりを見渡せば、消毒薬の匂いが鼻についた。そしてあらためて自分の体をついさっきまでまさぐっていた人物に視線を向け、そしてどうやらこの初老の男は医者であるらしいことに気がつく。ということは、決して不埒な考えで私のお腹をまさぐっていたわけではなく私を診察してくれていたらしい。 

 一体どうなっているのかと背後を振り返れば、そこには心配そうな顔をしたオズワルドと深刻そうな険しい表情を浮かべたレキオルがいた。 

「良かった……。気がついたか、リィナ。……すまない。私がそばにいながらこんなことになってしまって……」 

 オズワルドが苦しげにつぶやき、私に向かって頭を下げた。 

(えーと……何かの液体をかけられて気を失ったのはかろうじて覚えてるけど……。多分私を、オズワルド様が抱えてここに連れてきてくれたんだよね? こんなことって……つまり、猫になったこと、だよね?? 一体何がどうなってるの??) 

 混乱する私を見下ろしながら、先程の医者がレキオルに渋い顔で話しかけた。 

「……うむ。やはりかけられたのは、人を猫化する魔法薬のようですな。製造も販売も禁止されておりますから、誰かがもぐりの魔術師にでも秘密裏に作らせたものでしょうなぁ……。一定期間人間と猫の姿を繰り返した後は、自然に元に戻るとは思いますが……」 

 その言葉に、思わず「ふぎゃっ!?」と奇妙な声を上げた私なのだった。

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