死神主と辺境の守護猫(ニャ) 〜大の猫嫌いの強面辺境伯が、猫化した私に超絶デレた件につきまして

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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その2 やっと見つけた居場所

近づく暗雲

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 五年前、隣国内で頻発していた絵画十数点の盗難と贋作制作に関わった罪で貴族家の当主数名と、それに手を貸したとみなされた者たちが一斉に捕らえられた。
 その首謀者とされたのがコーラスタ家当主、つまりデルロイの父親だった。けれどデルロイの父親は獄中でずっと無実を訴え続けた。けれどあまりに過酷な取り調べのためか獄中で命を落としたのだった。そして他の者たちも無罪を叫びながら謎の死を遂げ、最終的に自白のひとつもないまま全員が有罪として事件は幕引きとなった。 

 そのあまりにも非道なやり方に当然非難の声も上がったが、それらは皆黙殺され次第に事件について口を開くものはいなくなった。真犯人は別にいるのだろうと噂されながらも、皆口を閉ざしたのだ。

 オズワルドの話に、沈黙が落ちた。

「ろくな証拠もなく皆無罪を叫んでいたのに、どうしてそんな……!? そんなの絶対におかしいっ!! 絶対に他に真犯人がいるに決まってる……! だって皆そんな死んでいくなんて明らかに不自然じゃないですかっ!!」 

 思わずそうつぶやけば、デルロイが吐き捨てるように答えた。 

「父は絶対にそんな犯罪に手を染めたりしていない。そんな必要もなければ、そんな人間でもないんだ。父だけじゃない。とらえられた者たちも、真実を探ろうとした人間も皆真犯人にはめられたんだ……」 
「じゃあデルロイは、事件の真相を調べようとしてこの国に……?」 

 デルロイが、その目をぎらりと光らせうなずいたのだった。 

「あぁ。でも国では妹を人質にとられているからな……。隣国では命も狙われているしもう動きが取れない。だからこの国でひとり調べを進めていたんだが、そこにオズワルドに声をかけられたってわけさ」
「で……でもこの国でも似た事件が起きているって、一体どういうことなんですか……? 真犯人がこの国の美術品にも手を出しはじめたってことなんですか? また絵画の盗難とか贋作とかそういう……」 

 するとオズワルドはしばし黙り込み、口を開いた。 

「目的はまだはっきりしない。ま、純粋に考えれば金が目的だと考えられるが……、どうもこの事件には裏がある気がするんだ。金欲しさにここまで人の命を狙うとは考えにくいからな……。それでレキオルから命を受けて俺が調べることになったんだ。隣国に盗難品が流れるとしたら、この国境を超えるだろうからな……」 

 確かにそうだ。海を渡って盗難品をやり取りするには監視の目が厳しすぎる。荷の調べも徹底しているし、出入りする船もすべてチェックされているはずだし。となれば陸地から、この辺境地から隣国と行き来するに決まっていた。 

「そんな……」 

 辺境の地がもしもの際には戦場になることも頭では理解していたつもりだった。けれど実際にそんな血生臭い事件がこの地で起きるのかもしれないと想像したら、ゾクリと背筋が冷たくなった。 

「ただの盗難事件であればいいが、もし隣国の真犯人の手によるものだとすれば危険もともなうだろうからな。この領地や屋敷におかしな輩が忍び込む可能性もある。お前たちも一応その心積もりで目を光らせておいてくれ」 

 オズワルドのその命に、使用人たちは顔を見合わせこっくりとうなずいた。
 もとよりこの地はいつ何時臨戦態勢になるかわからない土地ではある。庭師もメイドも馬丁も、そして料理人も皆いざとなれば戦う覚悟はできている。

「わかりました! この辺境を荒らすやつはただじゃおかねぇ!! この屋敷におかしなやつが入りこまないよう、しっかり監視しておくよ!!」
「まったく欲の皮の突っ張っったやつらの考えてることはわかんねぇや。でもま、俺たちでお手伝いできることはなんだってやりやすぜ!! オズワルドの旦那のため、この屋敷のため、この辺境のためなら任せときな!!」 

 庭師と馬丁がそのがっちりとした胸をドンと叩けば、グエンが拳をぐっと握りしめた。 

「わ……私だってやる時はやりますからねっ!! このお屋敷と辺境のためならこのグエン、たとえ火の中水の中だよ!!」 

 他の皆も次々に立ち上がり、口を開く。 

「私だってこう見えて身のこなしは軽いですからねっ!! 女だからって甘く見てると痛い目にあわせてやりますとも!!」 
「俺だって!!」 
「あっしだってやりまっせ!!」 

 負けじと私もぐっと両足を踏ん張り、声を上げた。 

「わ……私だってこのお屋敷と辺境のためなら頑張りますよっ!! オズワルド様への恩返しだってまだまだ返しきれてませんからねっ!! なんなら特製の超激辛スパイス爆弾で……!!」 

 鼻息荒く口を揃える使用人たちの姿に、オズワルドが慌ててなだめにかかる。 

「いや、別にお前たちに武器を取って戦ってほしいわけじゃない。ただいざとなれば俺も隣国内に潜入する可能性もあるし、となるとこの屋敷の守りはお前たちに任せることになるからな。その時はこの屋敷を守ってくれ」 
「オズワルド様が、隣国に……?」 

 このお屋敷にオズワルドがいない。そう考えただけでなんだか心細い。いつだってそばにいてくれる、そんな気がしていたから。けれどいざ有事ともなればオズワルドがこの屋敷を出ていって二度と戻ってこないなんてことだって、ありえない話ではないのだ。
 背筋がぞくりとした。
 それにここは私にとって世界で一番大切な居場所なのだ。そこが危険にさらされるかもしれないなんて、大切な人たちが危険な目にあうかもしれないなんて絶対に嫌だ。 

(絶対にそんなこと……させない。オズワルド様が危険な目にあうことも……、このお屋敷が踏み荒らされるのも、誰かが傷つくのも絶対に嫌!! 絶対に守って見せる……!! ここは私の……私たちの大事なお屋敷なんだから……!!) 

 不安に揺れながら拳を握りしめる私たちに、オズワルドは小さく笑った。

「そう固くなるな。万が一の話だよ。皆を危険にさらすような真似はしない。ただそのからみで近日中にちょっと動きがある。特に危険はないから安心してくれ。……ついでにリイナ、お前の養子縁組の件も片付けるつもりだ」 
「へっ……!? ついでにって、何を……??」 
「それなんだが……、実はお前の養親にちょいと疑わしい積み荷を盗み出してもらおうかと思ってな。くくっ……!!」

 そう言ってオズワルドはにやりと黒い笑みを浮かべたのだった。


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