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第二章 英雄の力
2-9 誰が持つんだ、その大剣を! 持てる人はいます
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ミカンという女の子からの、依頼を引き受け、早速、依頼先のロプ村という、ところに向かうことになったカチュア達。
現在は、まだ、アヴァルの街中にいます。
「さて、行きましょうか~」
「行こう、行こう!」
「は~」
ため息を付くルナ。
「ルナちゃん、どうしたんですか? 息を大きく吐いて……」
「何事もないように、言っているよ。この人」
ルナは、目を細くさせながら、エドナを見つめていた。
「え? どーしたの~? ルナちゃん? エドナちゃんを見つめて?」
「先に行っていた。というか、迷子になっていたエドナさんを見つけた時は、ものの見事にやられましたよ」
「はうう……。それはもう、忘れてよー!」
それは、ほんの少しの前の話。
エドナは、カチュアとルナから逸れてしまった。エドナは二人を探していったが、その途中で、転んでしまい、その拍子で道歩く人にぶつかっていった。しかし、それだけでは済まなかった。エドナが、ぶつかった人が更に、道歩く人にぶつかっていった。それから、次々と、街の人たちを巻き込んで、ドミノ倒しのように倒していってしまった。
エドナは巻き込んでしまった街の人達に謝罪をして周っていたら、彼女を探していたカチュア達と合流することができた。
「あーそうですね~。じゃあ、行きましょう。……その前に、聞きますが、あなた方は、ロプ村がどこにあるか、わかりますか?」
「あ! そういえば……カチュアさんは、ロプ村がどこにあるか知っています?」
「う~ん……分からないわ~。エドナちゃんは~?」
「あたしは、つい此間まで、他の村へ行ったことすらなかったから、分からないんだよ」
「そんなことだと、思いました」
ルナは大きくため息を付いた。
「ルナが場所わかりますから案内しますよ」
「え? でも、外は危険種がたくさんいるわよ~。ルナちゃん連れて行くのは危険だわ~」
「エドナさんも行くんでしょ? ルナとエドナさんは、そんなに年は離れていないです。それに、ルナには魔術があります。いざとなれば、魔術で蹴散らしますから、連れてって下さい!」
「そーなのね~。分かったわ。ありがと~」
(自分で言ったのも、なんですが、そんな簡単に納得しちゃっていいのですか?)
「……その前に、カチュアさん」
ルナは、カチュアの身体を上から下まで見渡す。
「エドナさんは弓を持っています。ですが、カチュアさんは武器を所持していないですね。素手で戦うつもりですか? 見た感じ、魔道具も装備していないようですし」
「カチュアさん、確か、剣を扱うんだけど、この街に着までに全部壊しちゃたんだよ。だから、今のカチュアさんは武器を一つも持っていないんだよ。でも、カチュアさんなら素手でも戦えますよ」
「素手って、確かに可能ですね。……ちなみに、カチュアさんは勇能力でも、持っているんですか? あのバカ力は尋常ではないですよ」
「勇能力って、確か、よく英雄譚に載っている、英雄の持つ力だよね? あたしは詳しく知らないんだよ。カチュアさんがそれなのかな?」
肝心のカチュアはというと。
「勇能力って何~?」
「……知らないようですね」
(分かっていました。勇能力の力は魔力を使用しますから。カチュアさん自身には魔力を感じられませんでしたから)
「それじゃあ、カチュアさんは、魔術は使えますか?」
「ん~? 使ったことはないわ~」
「そうですか。魔術は便利ですよ。魔物を相手にするには、物理で攻めるよりも、その魔物に弱い属性魔術をぶつける方が効率がいいです。もしよかったら、予備の魔道具と力は弱めの魔石はありますので貸してあげますよ。ちなみに七属性全部の魔石を揃っていますので、ご自身の合った属性を使えます。やり方も教えますよ」
(魔術をそんなに使っていない人には、弱めの魔力を秘めた魔石を使わないと危険です。以前、強い魔力を秘めた魔石を使って、自爆した人がいましたから)
「ん~~それはありがたいんだけど、魔道具を持っていても、わたしは魔術が使えないのよ~」
「ん? そんなことは、ないはずですよ。魔道具を持っていていれば、魔術の火力に違いはありますが、誰だって扱えますよ」
(まあ、扱う属性の相性もありますけど。ルナは風の魔術以外の属性魔術は扱えます。しかし、それ以外に魔術が、使えないとなると)
「もしかして、カチュアさんは勉強が苦手な方ですか?」
「実は、そーなのよ~」
「やっぱりですか。魔道具を持っていていれば誰だって使えます。ですが、それは、魔術に関する勉強をしていればの話です」
「わたし、とても、勉強は苦手なのよ~」
『それ、誇っていいのか?』
「うん、まあいいです。これは……想像以上に手が掛かるわ」
ルナはカチュア達が見えない方向へ顔を向け、また大きなため息を吐いた。
「おや、君は確か、アルヴスくんの妹さんではないか」
突然、この街の住人らしき男性から声をかけられる。
「あなたは確か……」
「はっはっはっは!」
腕を腰を当てながら、急に笑い出した。
「『はっはっはっは』さんって言うんですね?」
「違いますよ。ただの笑い声ですよ。エドナさん」
「おっと失礼した。『あなたが確か』と言われたところで、名乗るべきところに急に笑い出してしまったからな」
(普通は「はっはっはっは」が名前なんて思わないんだけどね。それに、世の中には、輝き命名、何て言うものがあるから。名称合っているよね?)
「申し遅れた」
尋ねた男性は、右手をこめかみ辺りに当てた。
「わたしはベレクト。ガロン様の配下のものだ」
「はう? ガロン? 人の名前かな? 何処で聞いたことがあるんだよ。どこだっけ?」
「八騎将って聞いたことないですか? この帝国の八人の将軍のことです」
「あ! 何処で聞いたことがあると思ったら、村長さんから聞いたことがあるんだよ。『ガ』が付く人がいるのは、覚えている。後は『ゲ』が付く人と。『ネ』が付く人。『マ』が付く人もいたはずなんだよ」
(それは、覚えているって言うのか? ルナも呆れ顔しているよ)
「……ところで」
(ほら、呆れて、スルーしているよ)
「そのガロン……様の隊の人が、なんでここに?」
(気のせいかな? ルナは『様』付けにすることを躊躇したように感じた)
ベレクトと名乗る、男はポーズを取った。
『何で、ポーズの決めるの? この人』
「ふむ、アウルの街にいたんだが、急遽、ガロン様に呼び出されてしまったんだ」
(何で、別のポーズに変えているんだ? この人)
「その途中でこの街の近くで陣地を作って、そこで兵達を休ませているんだ。さすがに大軍を街に入れさせるわけにはいかないからな」
「ガロン……様の配下とは思えない配慮ですね」
「ガロン様は戦うことしか頭に入っていませんから」
ベレクトはまた別のポーズを決めた。
(この人、ポーズを決めないと喋れないのか?)
「その急遽というのは、今回のあの国によるものですか?」
「お察しの通りだ。今は退いているとはいえ、また仕掛ける可能性がある。だがら、呼び出されたのです。救援を行わないとならないというのに。幸い、シグマ様の部隊が駆けつけてくれたものの言いのもの、持ち場を任された我々が離れるのも無責任ですね」
(また、別のポーズに変えている。忙しい人だな。ポーズ決めるのに)
「本当にガロン……様の配下とは思えない責任感の持ち主ですね」
「口だけならなんとも言えますよ。……おっと、そろそろ、出発しないとだ。一秒で遅れたら大変なことに。では、わたしはこれで失礼する」
そういって、ポーズ決めながら、この場を去っていった。
(この国の軍に所属する者は、ポーズを決めるのが作法なのか?)
「あの大声で話す人。帝国に仕える人なんだよね?」
「あの人は特殊な方ですよ。八騎将の一人である、ガロンの配下なのよ」
(さっきまで帝国のお偉いぽい人に対して『様』付けしていたのに、ベレクトとかいう者がいなくなったら、急に呼び捨てし出したよ)
「八騎将って、コルネリア帝国を守る八人の将軍だよね。村長さんに何千回も聞いたことがあるんだよ」
(その同じ内容を何千回を聞いていたはずなのに、所属する者名前を正確には覚えていなかったけどね)
「そう、その八騎将の一人シグマ様の配下がルナの兄です」
「そうなんだ!」
「ガロンは、冷血な性格で、『力』を絶対的正義だと思っている脳筋で有名な方なんです。べレクトさんは、そんなガロンの下に就いているとは、思えないほど陽気な方なんです。噂では、凄い実力の持ち主らしいですよ」
「う~ん」
カチュアが頭を抱えているんだよ。
「どうしたんですか? カチュアさん?」
エドナがカチュアに声を掛けた。
「あの人~」
「ベレクトさんがどうしたんですか?」
「なんか不思議な感じがするのよ~。表に出している姿と、内に秘めた心が不自然に感じるのよ~」
「頭がこんがらがってきた。つまり……どういうことですか?」
「うまく言えないけど、表に出している姿を作っているのではないですか? ガロンの元に就いているから激務でしょうね。空元気でご自身を保っているでしょうね」
「うーん……ルナちゃんの説明でも、よくわからないんだよ」
「ルナも上手く説明できません。それよりも、べレクトさんのことはいいから、早く行きましょう」
(言われてみれば、ガロンの下に付くにしては、陽気過ぎますね。空元気でもあそこまで陽気ではいられません。他のガロンの配下の者は心を失ったのではないかって思う程、覇気が感じられませんのに。あの陽気さが不気味に見えます)
しばらく、ルナの案内で、街を歩いくカチュアとエドナ。
「着きましたよ。ここです」
案内された先には、剣みたいな模様が入った大きな看板を飾った店だった。
「ここは?」
「武器屋です。あなた方……特にカチュアさんは、ちょっと装備を整えた方がいいですよ。入りますよ」
ルナが、店のドアを開けると。
「いらっしゃい!」
店の中に入ると、言ってはいけない二文字の店主が出迎えてきた。
「あれ?」
店主はエドナの顔をじーと見つめた。
「嬢ちゃんじゃないか! どうしてここに?」
「エドナさんの知り合いですか?」
「はうう? 確かに見たことあるようだけど、どこで会ったかな?」
「おい、おい、何忘れているんだよ! ハルトだよ。ハルト! 何忘れているんだよ」
「……あーーー! ハルトさん! ハルトさんだ!」
ハルトは以前、ライム村に住んでいて、現在はどこかの街で、武器屋を営んでいる。
「武器屋をしている話は聞いていたんだけど、この街にいらっしゃったのですね」
「そういえば、言っていなかった」
「ハルトさんのことだから、街の名前を忘れていたんだよ。きっと」
「確かに、街の名前忘れていたな」
(大丈夫なのかこの人?)
「そちらのちっこい嬢ちゃんと、マントの……微かに見える顔からすれば姉ちゃんか? この二人は?」
「こっちはルナちゃんで、こっちはカチュアさんなんだよ」
「で、なんで、ちっこい嬢ちゃんがここに?」
「そっか! ハルトさんは、ライム村で起きたことを知らないんだ! 実は……」
エドナはハルトに、ライム村で起きた惨劇のことを話した。
「そんなことが……辛かったな。……大丈夫なんか? こんな時に?」
「あたしは大丈夫なんだよ!」
「……そっか、無理はするなよ。それよりも、マントの嬢ちゃん」
ハルトは、フードを被ったカチュアに向かって、お辞儀をした。
「ありがとうな。ちっこい嬢ちゃんを守ってくれて」
「ううん。わたしもエドナちゃんに助けられたわ~」
「お礼と言ってはなんだけど、ただで武器を提供するよ」
「ありがとうなんだよ。ハルトさん」
「ところで、なんで一人だけ、マントなんて着ているんだ?」
「うーん~。わたしは目立つらしいのよ~」
「そっか、なんか、事情があるなら仕方がないか。で、マントの嬢ちゃんは、どんな武器を扱うんだ?」
「主に剣よ~。なかったら、槍でも、斧でも、鎌でも、ハンマーでも、いいわ~」
「色々使えるんだな。取り敢えず剣だな。剣となると、このショートソードか?」
「カチュアさんは、壊れにくい剣の方がいいかな? そこの大きな剣とか、いいかもしれないんだよ」
エドナが指先には、大きな剣があった。
しかし、その大剣の大きさは、カチュアの身長を軽く超えていた。ハルトよりかはちょっと小さめだ。
「ええと……これはさすがに手慣れた剣士でも持つだけでさえ、難しいぞ」
カチュアは、その大剣の持ち手を、掴んだ。
「え?」
カチュアは片手で大剣を軽々と持ち上げてしまった。
「うそだろ……」
「怪力なのは分かっていましたが、まさか、片手で……」
ハルトとルナは、とても驚いた表情をしていた。
「マントの嬢ちゃんは、もしかして勇能力の持ち主か?」
「勇能力? そーなんですか? エドナちゃん?」
「うーん、わからないんだよ。ハルトさん、勇能力って、なんですか?」
「そう言えば、ちっこい嬢ちゃんは、勇能力とは無縁だったから触れることはなかったんだな。英雄と呼ばれるような者が持つ特殊能力だ」
「魔術とは違うの?」
「まあな」
「そんなことよりも、行かないと~」
「じゃあ、行こう~」
「ちょっと待って」
店から、出ようとする、カチュアとエドナを止め、ルナはハルトの方へ振り向いた。
「ハルトさんでしたっけ? あなた、どこかで会ったことが、ある気がするのです」
「俺はピンク髪の嬢ちゃんには、会ったことないが」
「ハルトさんは、忘れているだけなんだよ! 現に、もうルナちゃんの名前も忘れているんだよ!」
「失礼な! 忘れっぽいのは、名前だけだ! 顔は見たら覚えられるぜ」
「名前を忘れるのも失礼だと思うんですか……まあいいです。失礼します」
「気をつけな」
お店から出るんだよ。
(やっぱり、気のせいでしょうか? ハルトさんとかいう方の顔。どこかでみたことがあるんです。どこでしたっけ?)
【武器屋前】
「じゃあ、行きましょ」
「あ! はーいなんだよ」
カチュアとエドナとルナは歩き出した。
「って、カチュアさん! 剣引きずっていますよ」
「え?」
カチュアの貰ったばかりの大剣が、カチュアの身長を超しているため、背中に背負った鞘に納めた大剣の先が、地面に付いて引きづっていた。
現在は、まだ、アヴァルの街中にいます。
「さて、行きましょうか~」
「行こう、行こう!」
「は~」
ため息を付くルナ。
「ルナちゃん、どうしたんですか? 息を大きく吐いて……」
「何事もないように、言っているよ。この人」
ルナは、目を細くさせながら、エドナを見つめていた。
「え? どーしたの~? ルナちゃん? エドナちゃんを見つめて?」
「先に行っていた。というか、迷子になっていたエドナさんを見つけた時は、ものの見事にやられましたよ」
「はうう……。それはもう、忘れてよー!」
それは、ほんの少しの前の話。
エドナは、カチュアとルナから逸れてしまった。エドナは二人を探していったが、その途中で、転んでしまい、その拍子で道歩く人にぶつかっていった。しかし、それだけでは済まなかった。エドナが、ぶつかった人が更に、道歩く人にぶつかっていった。それから、次々と、街の人たちを巻き込んで、ドミノ倒しのように倒していってしまった。
エドナは巻き込んでしまった街の人達に謝罪をして周っていたら、彼女を探していたカチュア達と合流することができた。
「あーそうですね~。じゃあ、行きましょう。……その前に、聞きますが、あなた方は、ロプ村がどこにあるか、わかりますか?」
「あ! そういえば……カチュアさんは、ロプ村がどこにあるか知っています?」
「う~ん……分からないわ~。エドナちゃんは~?」
「あたしは、つい此間まで、他の村へ行ったことすらなかったから、分からないんだよ」
「そんなことだと、思いました」
ルナは大きくため息を付いた。
「ルナが場所わかりますから案内しますよ」
「え? でも、外は危険種がたくさんいるわよ~。ルナちゃん連れて行くのは危険だわ~」
「エドナさんも行くんでしょ? ルナとエドナさんは、そんなに年は離れていないです。それに、ルナには魔術があります。いざとなれば、魔術で蹴散らしますから、連れてって下さい!」
「そーなのね~。分かったわ。ありがと~」
(自分で言ったのも、なんですが、そんな簡単に納得しちゃっていいのですか?)
「……その前に、カチュアさん」
ルナは、カチュアの身体を上から下まで見渡す。
「エドナさんは弓を持っています。ですが、カチュアさんは武器を所持していないですね。素手で戦うつもりですか? 見た感じ、魔道具も装備していないようですし」
「カチュアさん、確か、剣を扱うんだけど、この街に着までに全部壊しちゃたんだよ。だから、今のカチュアさんは武器を一つも持っていないんだよ。でも、カチュアさんなら素手でも戦えますよ」
「素手って、確かに可能ですね。……ちなみに、カチュアさんは勇能力でも、持っているんですか? あのバカ力は尋常ではないですよ」
「勇能力って、確か、よく英雄譚に載っている、英雄の持つ力だよね? あたしは詳しく知らないんだよ。カチュアさんがそれなのかな?」
肝心のカチュアはというと。
「勇能力って何~?」
「……知らないようですね」
(分かっていました。勇能力の力は魔力を使用しますから。カチュアさん自身には魔力を感じられませんでしたから)
「それじゃあ、カチュアさんは、魔術は使えますか?」
「ん~? 使ったことはないわ~」
「そうですか。魔術は便利ですよ。魔物を相手にするには、物理で攻めるよりも、その魔物に弱い属性魔術をぶつける方が効率がいいです。もしよかったら、予備の魔道具と力は弱めの魔石はありますので貸してあげますよ。ちなみに七属性全部の魔石を揃っていますので、ご自身の合った属性を使えます。やり方も教えますよ」
(魔術をそんなに使っていない人には、弱めの魔力を秘めた魔石を使わないと危険です。以前、強い魔力を秘めた魔石を使って、自爆した人がいましたから)
「ん~~それはありがたいんだけど、魔道具を持っていても、わたしは魔術が使えないのよ~」
「ん? そんなことは、ないはずですよ。魔道具を持っていていれば、魔術の火力に違いはありますが、誰だって扱えますよ」
(まあ、扱う属性の相性もありますけど。ルナは風の魔術以外の属性魔術は扱えます。しかし、それ以外に魔術が、使えないとなると)
「もしかして、カチュアさんは勉強が苦手な方ですか?」
「実は、そーなのよ~」
「やっぱりですか。魔道具を持っていていれば誰だって使えます。ですが、それは、魔術に関する勉強をしていればの話です」
「わたし、とても、勉強は苦手なのよ~」
『それ、誇っていいのか?』
「うん、まあいいです。これは……想像以上に手が掛かるわ」
ルナはカチュア達が見えない方向へ顔を向け、また大きなため息を吐いた。
「おや、君は確か、アルヴスくんの妹さんではないか」
突然、この街の住人らしき男性から声をかけられる。
「あなたは確か……」
「はっはっはっは!」
腕を腰を当てながら、急に笑い出した。
「『はっはっはっは』さんって言うんですね?」
「違いますよ。ただの笑い声ですよ。エドナさん」
「おっと失礼した。『あなたが確か』と言われたところで、名乗るべきところに急に笑い出してしまったからな」
(普通は「はっはっはっは」が名前なんて思わないんだけどね。それに、世の中には、輝き命名、何て言うものがあるから。名称合っているよね?)
「申し遅れた」
尋ねた男性は、右手をこめかみ辺りに当てた。
「わたしはベレクト。ガロン様の配下のものだ」
「はう? ガロン? 人の名前かな? 何処で聞いたことがあるんだよ。どこだっけ?」
「八騎将って聞いたことないですか? この帝国の八人の将軍のことです」
「あ! 何処で聞いたことがあると思ったら、村長さんから聞いたことがあるんだよ。『ガ』が付く人がいるのは、覚えている。後は『ゲ』が付く人と。『ネ』が付く人。『マ』が付く人もいたはずなんだよ」
(それは、覚えているって言うのか? ルナも呆れ顔しているよ)
「……ところで」
(ほら、呆れて、スルーしているよ)
「そのガロン……様の隊の人が、なんでここに?」
(気のせいかな? ルナは『様』付けにすることを躊躇したように感じた)
ベレクトと名乗る、男はポーズを取った。
『何で、ポーズの決めるの? この人』
「ふむ、アウルの街にいたんだが、急遽、ガロン様に呼び出されてしまったんだ」
(何で、別のポーズに変えているんだ? この人)
「その途中でこの街の近くで陣地を作って、そこで兵達を休ませているんだ。さすがに大軍を街に入れさせるわけにはいかないからな」
「ガロン……様の配下とは思えない配慮ですね」
「ガロン様は戦うことしか頭に入っていませんから」
ベレクトはまた別のポーズを決めた。
(この人、ポーズを決めないと喋れないのか?)
「その急遽というのは、今回のあの国によるものですか?」
「お察しの通りだ。今は退いているとはいえ、また仕掛ける可能性がある。だがら、呼び出されたのです。救援を行わないとならないというのに。幸い、シグマ様の部隊が駆けつけてくれたものの言いのもの、持ち場を任された我々が離れるのも無責任ですね」
(また、別のポーズに変えている。忙しい人だな。ポーズ決めるのに)
「本当にガロン……様の配下とは思えない責任感の持ち主ですね」
「口だけならなんとも言えますよ。……おっと、そろそろ、出発しないとだ。一秒で遅れたら大変なことに。では、わたしはこれで失礼する」
そういって、ポーズ決めながら、この場を去っていった。
(この国の軍に所属する者は、ポーズを決めるのが作法なのか?)
「あの大声で話す人。帝国に仕える人なんだよね?」
「あの人は特殊な方ですよ。八騎将の一人である、ガロンの配下なのよ」
(さっきまで帝国のお偉いぽい人に対して『様』付けしていたのに、ベレクトとかいう者がいなくなったら、急に呼び捨てし出したよ)
「八騎将って、コルネリア帝国を守る八人の将軍だよね。村長さんに何千回も聞いたことがあるんだよ」
(その同じ内容を何千回を聞いていたはずなのに、所属する者名前を正確には覚えていなかったけどね)
「そう、その八騎将の一人シグマ様の配下がルナの兄です」
「そうなんだ!」
「ガロンは、冷血な性格で、『力』を絶対的正義だと思っている脳筋で有名な方なんです。べレクトさんは、そんなガロンの下に就いているとは、思えないほど陽気な方なんです。噂では、凄い実力の持ち主らしいですよ」
「う~ん」
カチュアが頭を抱えているんだよ。
「どうしたんですか? カチュアさん?」
エドナがカチュアに声を掛けた。
「あの人~」
「ベレクトさんがどうしたんですか?」
「なんか不思議な感じがするのよ~。表に出している姿と、内に秘めた心が不自然に感じるのよ~」
「頭がこんがらがってきた。つまり……どういうことですか?」
「うまく言えないけど、表に出している姿を作っているのではないですか? ガロンの元に就いているから激務でしょうね。空元気でご自身を保っているでしょうね」
「うーん……ルナちゃんの説明でも、よくわからないんだよ」
「ルナも上手く説明できません。それよりも、べレクトさんのことはいいから、早く行きましょう」
(言われてみれば、ガロンの下に付くにしては、陽気過ぎますね。空元気でもあそこまで陽気ではいられません。他のガロンの配下の者は心を失ったのではないかって思う程、覇気が感じられませんのに。あの陽気さが不気味に見えます)
しばらく、ルナの案内で、街を歩いくカチュアとエドナ。
「着きましたよ。ここです」
案内された先には、剣みたいな模様が入った大きな看板を飾った店だった。
「ここは?」
「武器屋です。あなた方……特にカチュアさんは、ちょっと装備を整えた方がいいですよ。入りますよ」
ルナが、店のドアを開けると。
「いらっしゃい!」
店の中に入ると、言ってはいけない二文字の店主が出迎えてきた。
「あれ?」
店主はエドナの顔をじーと見つめた。
「嬢ちゃんじゃないか! どうしてここに?」
「エドナさんの知り合いですか?」
「はうう? 確かに見たことあるようだけど、どこで会ったかな?」
「おい、おい、何忘れているんだよ! ハルトだよ。ハルト! 何忘れているんだよ」
「……あーーー! ハルトさん! ハルトさんだ!」
ハルトは以前、ライム村に住んでいて、現在はどこかの街で、武器屋を営んでいる。
「武器屋をしている話は聞いていたんだけど、この街にいらっしゃったのですね」
「そういえば、言っていなかった」
「ハルトさんのことだから、街の名前を忘れていたんだよ。きっと」
「確かに、街の名前忘れていたな」
(大丈夫なのかこの人?)
「そちらのちっこい嬢ちゃんと、マントの……微かに見える顔からすれば姉ちゃんか? この二人は?」
「こっちはルナちゃんで、こっちはカチュアさんなんだよ」
「で、なんで、ちっこい嬢ちゃんがここに?」
「そっか! ハルトさんは、ライム村で起きたことを知らないんだ! 実は……」
エドナはハルトに、ライム村で起きた惨劇のことを話した。
「そんなことが……辛かったな。……大丈夫なんか? こんな時に?」
「あたしは大丈夫なんだよ!」
「……そっか、無理はするなよ。それよりも、マントの嬢ちゃん」
ハルトは、フードを被ったカチュアに向かって、お辞儀をした。
「ありがとうな。ちっこい嬢ちゃんを守ってくれて」
「ううん。わたしもエドナちゃんに助けられたわ~」
「お礼と言ってはなんだけど、ただで武器を提供するよ」
「ありがとうなんだよ。ハルトさん」
「ところで、なんで一人だけ、マントなんて着ているんだ?」
「うーん~。わたしは目立つらしいのよ~」
「そっか、なんか、事情があるなら仕方がないか。で、マントの嬢ちゃんは、どんな武器を扱うんだ?」
「主に剣よ~。なかったら、槍でも、斧でも、鎌でも、ハンマーでも、いいわ~」
「色々使えるんだな。取り敢えず剣だな。剣となると、このショートソードか?」
「カチュアさんは、壊れにくい剣の方がいいかな? そこの大きな剣とか、いいかもしれないんだよ」
エドナが指先には、大きな剣があった。
しかし、その大剣の大きさは、カチュアの身長を軽く超えていた。ハルトよりかはちょっと小さめだ。
「ええと……これはさすがに手慣れた剣士でも持つだけでさえ、難しいぞ」
カチュアは、その大剣の持ち手を、掴んだ。
「え?」
カチュアは片手で大剣を軽々と持ち上げてしまった。
「うそだろ……」
「怪力なのは分かっていましたが、まさか、片手で……」
ハルトとルナは、とても驚いた表情をしていた。
「マントの嬢ちゃんは、もしかして勇能力の持ち主か?」
「勇能力? そーなんですか? エドナちゃん?」
「うーん、わからないんだよ。ハルトさん、勇能力って、なんですか?」
「そう言えば、ちっこい嬢ちゃんは、勇能力とは無縁だったから触れることはなかったんだな。英雄と呼ばれるような者が持つ特殊能力だ」
「魔術とは違うの?」
「まあな」
「そんなことよりも、行かないと~」
「じゃあ、行こう~」
「ちょっと待って」
店から、出ようとする、カチュアとエドナを止め、ルナはハルトの方へ振り向いた。
「ハルトさんでしたっけ? あなた、どこかで会ったことが、ある気がするのです」
「俺はピンク髪の嬢ちゃんには、会ったことないが」
「ハルトさんは、忘れているだけなんだよ! 現に、もうルナちゃんの名前も忘れているんだよ!」
「失礼な! 忘れっぽいのは、名前だけだ! 顔は見たら覚えられるぜ」
「名前を忘れるのも失礼だと思うんですか……まあいいです。失礼します」
「気をつけな」
お店から出るんだよ。
(やっぱり、気のせいでしょうか? ハルトさんとかいう方の顔。どこかでみたことがあるんです。どこでしたっけ?)
【武器屋前】
「じゃあ、行きましょ」
「あ! はーいなんだよ」
カチュアとエドナとルナは歩き出した。
「って、カチュアさん! 剣引きずっていますよ」
「え?」
カチュアの貰ったばかりの大剣が、カチュアの身長を超しているため、背中に背負った鞘に納めた大剣の先が、地面に付いて引きづっていた。
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