【2025年再投稿版】蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第二章 英雄の力

2-10 堂々と『無理』と、答える

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 一方、カチュア達が向かうロプ村はと言うと。



【ロプ村周辺にある森の中】

 ルナの兄であるアルヴスは、道中、自身が率いる部隊を休憩きゅうけいさせていた。アルヴス本人は木陰こかげで一休みしていた。

「結局、野宿か。遠回りでも、ロプ村に寄るべきだったか」

(まさか、タウロの街へ向かうための橋が壊されていたなんて。ヴァルダン連中の仕業か。でも、この辺に大軍が進行した痕跡こんせきが見つからない。それなら、悪天候あくてんこうで……いや、ここ最近の天候は、嵐が起きなかった程、良好なのに。じゃあ、なんでだ?)

「アルヴス殿! 大変です!」

 慌てたアルヴスの部下が駆けつけてきた。

「どうした? 部下くん。そんなに慌てて? 何かあったのか?」
「先程、ロプ村で、ヴァルダンの襲撃にそなえて待機していた我が部隊から伝書が届きました。それによりますと、ロプ村が何者かによって襲撃されたとのことです!」
「何だと! 分かった! 今すぐ向かおう!」

(しかし、ヴァルダンが再び攻めてきたという報告を受けていない。まさか、潜伏せんぷくでもしていたのか? それとも……)



【ロプ村】

 その頃、ロプ村はというと。

「へぇへぇ!!! 街に入れねぇ俺は退屈しているんだ! ほら! 行くぜ!」

 大剣を持つチャラついた男が、拡散させた火の魔術で村中に放っていた。

 村中から悲鳴が響き渡っていた。

 村に建っていた家は燃やされていった。火の魔術は人にも当たり、体中燃えていった。

 そこには、アルヴスは率いれている部隊の者と、同じ装備をした者も倒れていた。

「ぎゃはははは!!! 楽しいぜぇ! この聞こえる絶望的な叫びは、いつ聞いてもスカッとするぜぇ!」

 大剣を持つチャラついた男は笑いながら、火の魔術を放っていた。

 村人はパニックを起こし、正常な判断ができなくなったため、村中を走り回っていた。村から出ようとしたくっても出入口は炎の海によって塞がれていた。

 そんな中、「きゃああ!!!」と叫びながら一人の女性が転んでしまった。

 大剣を持つチャラついた男の目に、転んだ女性が入ってしまった。そして、女性に近づいていった。

「お! 可愛い姉ちゃんではないか。丁度いい、欲求不満だったんだぜぇ。俺の女になれよ」
「やめろ! 彼女は俺の婚約者……」

 一人の男性が、女性を助けに向かっていった。

 シュッパーーーーン!!!

 大剣を持つチャラついた男は、大剣で婚約者の男を真っ二つに斬り下ろした。

「おい、おい。歯向かうなら、あっさりやられないでくれよ。弱者がしゃしゃり出てくるものじゃねぇよ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 人殺しぃぃぃぃぃ!!!」

 婚約者の男が目の前に殺され、悲鳴をあげた。

「さてと、他に、この村で、別嬪べっぴんさんはいないかな……俺の魔術でやられてねぇよな?」
「やめるんだ!!!」

 駆けつけたアルヴスは、叫びながら水の魔術を、大剣を持つチャラついた男目掛けて放った。

 しかし、大剣を持つチャラついた男は、アルヴスの攻撃を躱した。

「おいおいおいおい! 不意打ふいうちなのに、そんな大声を出したら無意味ではないか? それに、何だ? そのへなちょこの魔術は? 魔術の使い方を知っているのか?」
「お前こそ、周りを見たらどうだ? 手元を見ろ、手元を」
「手元?」

 大剣を持つチャラついた男の手元にいた、手駒にしようとした村住人の女性の姿はなかった。

 その村住人の女性は、いつの間にかアルヴス近くにいた。

しょうに合わない声の出し方をしてしまったが、上手く俺の魔術に注意を向けられたな。女性を盾にする可能性があるから、弱めの魔術を打ち込んだが、何とか隙を作って、地の魔術である鎖で彼女を捕らえて救出できたな)

「なるほどね。あくまで、善人をうって言うのか?」

 村中、周っていた炎はいつの間にか消えていた。それは、アルヴスが到着したのと同時に、水の魔術を発動し、火を消していった。

(こいつ、顔どこかで見たことあるな。どこだっけな? こんなことをやらかすなら手配書に載っている……ん? 手配書?)

「そっか! お前は、ガイザックか?」
「ガイザック! って、現在手配中のあの?」
「そうだ、部下くん。……そうなると、奴は英雄の力『勇能力』を所持している。ガイザックの相手は俺が引き受ける。部下くん達は村人達頼む」
「分かりました。気を付けてください」
「! 危ない!!」

 アルヴスの右手から螺旋状らせんじょうとなった水の魔術を放った。放った先には、アルヴス達を襲い掛かろうとしていた、大きな炎の玉だった。

 螺旋状となった水の魔術と大きな炎の玉が衝突した。そして、螺旋状となった水の魔術が大きな炎の玉の中へ入っていった

 ボォーーーーーン!!!

 爆発した。

(く! 奴の魔術の発動が早いな! これが無詠唱。もう少し、俺の魔術の発動が早ければ、水の壁が作れたのに。仕方がない)

 アルヴスは、すぐさま刃の様な形状をした水の魔術を、ガイザック目掛けて放った。

 しかし、ガイザックに躱されてしまった。

「は! 瞬発で避けたが、水の魔術か! 水遊びするだけのザコ属性魔術じゃないか!」

 シュパーーーーン!!!

「え?」

 刃の様な形状をした水の魔術は、ガイザックの真後ろにあった樹木を切断していった。

 ガイザックはその光景を見て唖然あぜんとしていた。

「知らないのか? 水の魔術は使い方次第で、刃のごとく切り裂くことができるんだ」
「バカヤロ!!! 明らかに、俺を殺す気だろ!!」
「障壁があるんだから、一発くらい当てても、問題ないだろ」

 涼しい表情をするアルヴス。

「相変わらずですね、アルヴス様は。外道には容赦ないですね」

 アルヴスの部隊の者がアルヴスの部下に、体を震わせながら、尋ねた。

「相手が貴族でも、不正を働いた者なら、言い逃れできない証拠を提示して、取り締まるって有名ですから。着いた異名が外道殺しのアルヴス」
「そのせいで、貴族達に目を付けられているんですよね」
「まあ、今のアルヴス様を生んだのも、その腐敗ふはいした貴族なんですけどね」

(奴は無差別に魔術を放っているから、村人に被害が及んでしまう。何とか、奴を村から遠ざけさせないとだ)

「俺は女と遊びてぇんだよ! 邪魔するなら、容赦しねえぜ」

 ガイザックの背後から無数の火の玉が出現した。

(まずい!)

 無数の火の玉はアルヴス目掛けて飛んで行った。

 ドドドドドドドドドド!!!

 アルヴスの背後から土でできた大きな壁が出現した。

「危ねぇ!」

 アルヴスは襲い掛かって来た無数の火の玉をギリギリ躱した。

 アルヴスに命中しなかった無数の火の玉は、アルヴスが発動させた、土でできた大きな壁にぶつかっていった。土でできた大きな壁の先には、村人やアルヴスの部隊の者全員がいた。

(さっきの魔術を発動したら、すぐさま詠唱を始めていたから、何とか間に合った。だが、あの高威力の魔術では、すぐに壊されるだろう)

「ふぅーん。自分が攻撃を受けるかもしれないのに、村人のために、ギリギリまで壁を作るのか。とことん善人ぶるんだな」

 ガイザックは容赦なく火の玉を飛ばし続けた。

 アルヴスは腰に掛けてあった鞘から二本の剣を取り出して、構えた。

「はぁあああああ!!!」

 二つの剣を連続で振るい、次々飛んで来る火の玉を打ち消していった。

(地の魔術で硬化した剣で、火の玉を斬っていってるが、いつまで持つんだ?)

 それぞれ攻撃と防御の手を緩めることはなかった。

(魔術は強力だ。だが、ワンパターンだな。勇能力を持つ者は、火力で攻めるのが大半だ。ガイザックも例外ではないか。寧ろ、魔術を主体する俺の場合は、接近戦よりかは、対処しやすい。火の魔術しか使ってこないな。ここは、水と雷の魔術を同時に使うか)

「そろそろ、終わりだ!」

 ガイザックの手の平から火の玉が出現した。段々と火の玉が大きくなっていった。

「そこだ!」

アルヴスはいつの間にか二つの剣を鞘に納め、両手の人差し指を大きくなった火の玉に向けた。

 人差し指から水と雷の魔術が直進に放たれ、火の玉に突っ込んでいった。

 ドカーーーーーン!!!

「ぎぃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ガイザックは村から出て行くように空高く吹っ飛んで行った。

(火の魔術に水と雷の魔術を同時に打ち込めば、爆発する見たいだけど、未だにこの原理は判明していない)

「何とか、遠ざけさせたな。よし! 部下くん! 私は、このまま、ガイザックを追いかける。取り敢えず、シグマ様に増援を要求してくれ。それまで、怪我人のケアを頼む」
「一人で大丈夫なんですか?」
「え? 当然、無理だ」

 真顔で答える、アルヴス。

「堂々と『無理』と、答えないで下さいよ!」
「勝ち目は薄いんだから、仕方がないよ」
「しかし、圧倒していたように見えました」
「奴をここから遠ざけさせるためだ。捕えに行くとはまた違う」

(ガチに行ったら、障壁を壊さないとだから、勝ち目ないんだ。衝撃は防げない見たいだから、吹き飛ばして置いたんだけどな)

「つまり、そう言うことだ。俺は、俺で、やるべきことをする。それだけだ。じゃあ、後は頼んだ」

 アルヴスは部下達をロプ村に残して、吹っ飛んで行ったガイザックを追いかけて行った。

「まだ、俺には、やらなければならない、使命があるから死ねないが、軍人としての使命もこなさないとだ。ガイザック、俺を殺したら、恨んでやるからな」
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