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嘘をつくとそれを通すために幾つもの嘘が必要になる。
わたしはそのことを理解しないまま、ただ辛い現実から逃げたくて嘘をついてしまった。
「起きましたか……」
唐突に目が覚めて、重い瞼をゆるゆると開ける。視界一杯に映るのは無表情な夫の姿。しかしよくよく彼を見れば、切長な目の下のクマは濃く、シャツはよれていて皺が目立ってきている。
普段であればどれだけ忙しかろうと入念に身なりが整えていて、隙のない印象を相手に抱かせていた。そんな彼のこのような姿を見るのは初めてだ。
(一体どうしたのかしら?)
上体を起こそうとすれば、彼は背中に手を廻して支えてくれた。そしてベッド近くに置いてあったサイドテーブルから「起き抜けで喉が渇いているでしょうから」と水差しを手渡される。
正直、わたしを嫌っているであろう彼がこんなにも甲斐甲斐しくわたしの世話をしてくれるなんて思いもしなかった。
(まだ夢の世界にいるようだわ)
だって彼は幼い頃からわたしを見ると決まって顔を顰め、顔を背けていた。だからわたしも彼を避けようとすれば、それが癇に障ったのか今度はネチネチと嫌味を言われ続けるーー他の人にはにこやかに対応しているくせに、わたしにはひたすらに冷たい態度を取る彼のことが苦手で仕方がなかった。
だから彼と結婚が決まったと聞いた時、なんの冗談だと耳を疑ったものだ。
そして、結婚したからといってわたしと彼の仲は改善することはなかった。
子供を授かるために義務として抱かれることもあるけれど、彼は必要以上にわたしに触れることもなかったし、行為が終わればすぐに彼は部屋を出ていく。ほとんど会話もなく、あったとしても定期的な嫌味のみ。冷え切った夫婦関係は一年を過ぎても変わらないまま。
夫と云えど親しくもない相手に、甲斐甲斐しく世話を焼かれるなんて、気まずいにもほどがある。沈黙を誤魔化すようにちびちびと水を口に含んでいると、じっと自分を見つめる遠慮のない視線が居た堪れなさを倍増させる。すっかり萎縮した様子のわたしに彼は重たい溜息を吐き出す。
「眼が覚めたことを使用人達に知らせてきます」
くるりと背を向けた彼は明確に拒絶の姿勢を示した。このまま彼が去ってしまえば、また冷え切った夫婦生活を続けなければならないのだろうかーーそんなこともう沢山だ。
「待ってください」
「何か?」
ぎゅっと彼のシャツの裾を掴むと自分を見下ろす彼の瞳とかち合う。何か言わなければならないのに、考えなしに彼を引き止めたものだから言葉が続かない。
やんわりと手を外されると更に焦りが募り、混乱と焦燥からわたしはパニックになり、とんでもない嘘が口から放り出る。
わたしはそのことを理解しないまま、ただ辛い現実から逃げたくて嘘をついてしまった。
「起きましたか……」
唐突に目が覚めて、重い瞼をゆるゆると開ける。視界一杯に映るのは無表情な夫の姿。しかしよくよく彼を見れば、切長な目の下のクマは濃く、シャツはよれていて皺が目立ってきている。
普段であればどれだけ忙しかろうと入念に身なりが整えていて、隙のない印象を相手に抱かせていた。そんな彼のこのような姿を見るのは初めてだ。
(一体どうしたのかしら?)
上体を起こそうとすれば、彼は背中に手を廻して支えてくれた。そしてベッド近くに置いてあったサイドテーブルから「起き抜けで喉が渇いているでしょうから」と水差しを手渡される。
正直、わたしを嫌っているであろう彼がこんなにも甲斐甲斐しくわたしの世話をしてくれるなんて思いもしなかった。
(まだ夢の世界にいるようだわ)
だって彼は幼い頃からわたしを見ると決まって顔を顰め、顔を背けていた。だからわたしも彼を避けようとすれば、それが癇に障ったのか今度はネチネチと嫌味を言われ続けるーー他の人にはにこやかに対応しているくせに、わたしにはひたすらに冷たい態度を取る彼のことが苦手で仕方がなかった。
だから彼と結婚が決まったと聞いた時、なんの冗談だと耳を疑ったものだ。
そして、結婚したからといってわたしと彼の仲は改善することはなかった。
子供を授かるために義務として抱かれることもあるけれど、彼は必要以上にわたしに触れることもなかったし、行為が終わればすぐに彼は部屋を出ていく。ほとんど会話もなく、あったとしても定期的な嫌味のみ。冷え切った夫婦関係は一年を過ぎても変わらないまま。
夫と云えど親しくもない相手に、甲斐甲斐しく世話を焼かれるなんて、気まずいにもほどがある。沈黙を誤魔化すようにちびちびと水を口に含んでいると、じっと自分を見つめる遠慮のない視線が居た堪れなさを倍増させる。すっかり萎縮した様子のわたしに彼は重たい溜息を吐き出す。
「眼が覚めたことを使用人達に知らせてきます」
くるりと背を向けた彼は明確に拒絶の姿勢を示した。このまま彼が去ってしまえば、また冷え切った夫婦生活を続けなければならないのだろうかーーそんなこともう沢山だ。
「待ってください」
「何か?」
ぎゅっと彼のシャツの裾を掴むと自分を見下ろす彼の瞳とかち合う。何か言わなければならないのに、考えなしに彼を引き止めたものだから言葉が続かない。
やんわりと手を外されると更に焦りが募り、混乱と焦燥からわたしはパニックになり、とんでもない嘘が口から放り出る。
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