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 あの後すぐに、エドモンドは屋敷を訪ねてきた彼の部下達に引きずられるようにして、王城に連れ去られていった。
 夜には戻るとエドモンドが言うと、彼の部下達からは「どんだけ仕事が溜まっていると思っているんですか?」「夜どころか数日は帰れませんからね」「俺達だってねぇ、帰りたいんですからね!」と捲し立てられていたから、彼らの言葉を鵜呑みにするのならば今夜は屋敷に帰ってこれないのだろう。


(まさかエドモンドが仕事を休んでいただなんて)


 
 王城で次期宰相候補のエドモンドをやっかむものは多い。如何に彼が優秀であろと、人当たりを良く振る舞おうと、彼が『公爵家の次男』だというだけで彼の実力が『親の七光り』だと吹聴されてしまう。
 彼はそれを鼻で笑って「身をもって僕の優秀さを骨の髄まで分からせてやりますよ」と言って、その言葉通りに朝も昼も働き詰めだったからこそ、わたしのために休んでくれていたことが意外だった。


(今夜はわたし一人か……)

 既にわたしは夕飯を終えて、お風呂にも入った。後は寝るだけなのだが、少しの間くらいエドモンドを待つべきなのだろうか?

 チラリと部屋に一つしかないベッドに視線を落とす。

(このベッドで寝たら良いのかな?)

 メイドに案内された部屋は、今までわたしが使っていた部屋ではなく、エドモンドの私室であった。だから今夜わたしが眠るとしたら、彼が普段使っているものだ。なんだかドキドキしてベッドから視線を外す。

 彼の部屋はインテリアがほとんどなく、その代わりに壁一面もある大きな本棚には所狭しと云わんばかりに本が敷き詰められている。時間もあることだからと何冊か取ってみると、どれも専門的な内容でわたしには難しい。これでは暇を潰せそうにないなと思っていると、部屋の扉からノックの音が聞こえた。


「はい」
「……良かった。まだ起きていたのですね」

 部屋を訪ねてきたのはエドモンドだった。彼は安堵した様子で胸を撫で下ろすと、真っ直ぐにわたしに近付く。


「ただいま、戻りました」
「お、おかえりなさい」
「ふふ。なんだか新婚さんみたいなやり取りですね」
「……まだ仕事があるのでは?」

 思わぬ不意打ちに顔が赤くなりそうで、慌ててそっぽを向く。

「そんなもの休憩なしで終わらせてきましたよ」
「なんで、そんな無茶を……」
「だって約束したでしょう? 今夜には帰るって」

 なんてないことのように言ってのけるが、彼の部下達も数日の泊まり込みを覚悟するほどの仕事量をこなしてきているのだ。


「……クマが濃くなっています。今日は早めに休んだらどうです?」
「そうですね。さすがに僕も疲れました。入浴を終えたら、フィオナと眠るとしましょう」
「え?」

 どうやらわたしは墓穴を掘ってしまったらしい。


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