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すれ違う言葉の先に2 *シリアス要素あり
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冷暖房のない部屋。
薄い襖。
知らない男の声。
「この子がいなけりゃな」
母の背中。
忙しそうな姿。
「自分でできるでしょ?」
——ぼくが、いるから。
——ぼくが、我儘を言うから。
そして——
「あんたなんか、いなければよかったのに!!」
頭の中で、その声が何度も響く。
朝陽は、寮の非常階段で膝を抱えた。
冷たいコンクリートが、じかに伝わる。
息が苦しい。
視界が、揺れる。
そこへ、足音がした。
「……朝陽」
蓮だった。
朝陽は顔を上げられなかった。
「帰ろう」
「……無理です」
声が震える。
「一人にしない」
その言葉に、涙が溢れた。
——どうして、そんなこと言うんですか。
部屋に戻ると、蓮は何も言わず、毛布をかけた。
しばらく沈黙が続いたあと、朝陽がぽつりと呟いた。
「……俺、」
声が詰まる。
「俺、我儘を言うと、誰かを壊すんです」
蓮は、何も言わずに聞いていた。
朝陽は、少しずつ、話し始めた。
母の仕事。
家に来る男たち。
冷たい部屋。
お金が置かれた机。
そして、元との生活。
初めて褒められたこと。
料理を一緒にしたいと言ったこと。
初めて朝陽の過去を知った蓮。
内心では驚き困惑していたが、ゆっくり紡がれる朝陽の言葉を静かに隣に腰掛けて聞いていた。
「あの日……母に、言われたんです」
朝陽の声は、ほとんど囁きだった。
「……いなければよかった、って」
言葉にした瞬間、胸が裂けるように痛んだ。
「だから……誰かが忙しそうにしてると、俺がいるせいだって思って……」
「俺が、居なければ、って」
そこまで言って、朝陽は顔を覆った。
蓮の胸が、強く締め付けられる。
静かに、朝陽を抱き寄せた。
「奪われてねえ」
低く、はっきりした声。
「俺は、奪われてない」
朝陽の肩が震える。
「忙しいのは、俺が選んだことだ
朝陽のせいじゃない。それに」
蓮は、朝陽の額に額を寄せた。
「俺は、朝陽がいなくなったら、困る」
息が、触れるほど近い距離。
「邪魔だと思ったことなんて、一度もない」
朝陽の視界が滲む。
「……怒って、ませんか」
「怒ってる」
朝陽の身体が強張る。
「でも、それは……俺に何も言わず、一人で抱えたことに、だ」
蓮は、朝陽の手を包む。
「喧嘩してもいい、すれ違ってもいい。
それでも、離れない」
朝陽は、堪えきれず泣き出した。
声を殺すことも、できなかった。
蓮はただ、抱きしめ続ける。
「……ごめんなさい」
「謝るな」
「でも……」
「これからは、俺に言え」
「我儘でも、不安でも、全部」
朝陽は、ゆっくり頷いた。
胸の奥に、ずっと凍りついていたものが、少しずつ溶けていく。
——いなくなってほしい、って言われない。
——ここにいていい。
その夜、二人は同じベッドで眠った。
朝陽は、久しぶりに夢を見なかった。
窓の外では、冬の気配が、静かに深まっていた。
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