全寮制男子高校 短編集

天気

文字の大きさ
12 / 15
非王道 生徒会長×庶務

すれ違う言葉の先に2 *シリアス要素あり

しおりを挟む



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

冷暖房のない部屋。
薄い襖。
知らない男の声。

「この子がいなけりゃな」

母の背中。
忙しそうな姿。

「自分でできるでしょ?」

——ぼくが、いるから。
——ぼくが、我儘を言うから。

そして——

「あんたなんか、いなければよかったのに!!」

頭の中で、その声が何度も響く。

朝陽は、寮の非常階段で膝を抱えた。
冷たいコンクリートが、じかに伝わる。

息が苦しい。
視界が、揺れる。

そこへ、足音がした。

「……朝陽」

蓮だった。

朝陽は顔を上げられなかった。

「帰ろう」

「……無理です」

声が震える。

「一人にしない」

その言葉に、涙が溢れた。

——どうして、そんなこと言うんですか。

部屋に戻ると、蓮は何も言わず、毛布をかけた。
しばらく沈黙が続いたあと、朝陽がぽつりと呟いた。

「……俺、」

声が詰まる。

「俺、我儘を言うと、誰かを壊すんです」

蓮は、何も言わずに聞いていた。

朝陽は、少しずつ、話し始めた。

母の仕事。
家に来る男たち。
冷たい部屋。
お金が置かれた机。

そして、元との生活。
初めて褒められたこと。
料理を一緒にしたいと言ったこと。

初めて朝陽の過去を知った蓮。
内心では驚き困惑していたが、ゆっくり紡がれる朝陽の言葉を静かに隣に腰掛けて聞いていた。

「あの日……母に、言われたんです」

朝陽の声は、ほとんど囁きだった。

「……いなければよかった、って」

言葉にした瞬間、胸が裂けるように痛んだ。

「だから……誰かが忙しそうにしてると、俺がいるせいだって思って……」

「俺が、居なければ、って」

そこまで言って、朝陽は顔を覆った。

蓮の胸が、強く締め付けられる。

静かに、朝陽を抱き寄せた。

「奪われてねえ」

低く、はっきりした声。

「俺は、奪われてない」

朝陽の肩が震える。

「忙しいのは、俺が選んだことだ
朝陽のせいじゃない。それに」

蓮は、朝陽の額に額を寄せた。

「俺は、朝陽がいなくなったら、困る」

息が、触れるほど近い距離。

「邪魔だと思ったことなんて、一度もない」

朝陽の視界が滲む。


「……怒って、ませんか」

「怒ってる」

朝陽の身体が強張る。

「でも、それは……俺に何も言わず、一人で抱えたことに、だ」

蓮は、朝陽の手を包む。

「喧嘩してもいい、すれ違ってもいい。
それでも、離れない」

朝陽は、堪えきれず泣き出した。

声を殺すことも、できなかった。

蓮はただ、抱きしめ続ける。

「……ごめんなさい」

「謝るな」

「でも……」

「これからは、俺に言え」

「我儘でも、不安でも、全部」

朝陽は、ゆっくり頷いた。

胸の奥に、ずっと凍りついていたものが、少しずつ溶けていく。

——いなくなってほしい、って言われない。
——ここにいていい。

その夜、二人は同じベッドで眠った。
朝陽は、久しぶりに夢を見なかった。


窓の外では、冬の気配が、静かに深まっていた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...