声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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「……かいぜるさま、すき」

小さな声。

けれど、はっきりと届いた。




「…………」

カイゼルは、動かなかった。

いや――動けなかった。

思考が、一瞬止まる。

目の前には、少しだけ頬を赤くしたエアリス。

言った本人は。

言ったことの重さを、どこまで分かっているのか。

ただ、まっすぐに見上げてくる。

「……」

胸の奥が、じわりと熱くなる。

戦場でも。

どんな報告でも。

揺れたことのない場所が――

確かに、揺れた。




「……そうか」

ようやく出た言葉は、短い。

だが。

声は、いつもより少しだけ低かった。

エアリスは、少しだけ不安そうに首を傾げる。

(……あ)

その反応で気づく。

(……これでは、伝わらない)

「……来い」

短く言う。

エアリスが一歩近づく。

そのまま――

手首をそっと取る。

びくっと震えるが、逃げない。

「……」

カイゼルは少しだけ迷ってから。

その手を――

包むように握る。

「……っ」

エアリスの目が大きくなる。

はじめて手を繋がれた。

「……私もだ」

低く、はっきりと。

エアリスの目を見て言う。

「……?」

一瞬、理解が追いつかない顔。

それでも。

少しずつ。

言葉の意味が染みていく。

「……す、き」

小さく、復唱するように。

「……ああ」

短く頷くカイゼル。


沈黙。

でも――

さっきまでとは違う。

少しだけ、あたたかい沈黙。





「……帰るぞ」

そのまま、手を離さない。

エアリスは驚きながらも――

ぎゅっと、少しだけ握り返す。

「……!」

カイゼルの指が、わずかに強くなる。

来た時と同じ馬。

だが――

今は少し違う。

「……しっかり掴まっていろ」

エアリスはこくりと頷く。

そのまま、カイゼルの服を掴む。

……だけではなく。

さっき繋いだ手。

名残のように、少しだけ触れる。

「……」

何も言わないカイゼル。

だが、手綱を握る手とは反対の手が――

ほんのわずか、後ろに下がる。

触れられる距離に。


風が吹く。

夏の、やわらかい風。

揺れる緑。

沈みかける夕日。


「……」

エアリスは、そっと目を閉じる。

(……すき)

さっき言った言葉。

初めて、自分の口で言えた。

怖くなかった。

逃げなかった。

そして――

返ってきた。


「……かいぜるさま」

ぽつり。

呼ぶ。

「どうした」

すぐに返ってくる声。

「……すき」

今度は、さっきより少しだけ自然に。

カイゼルは、一瞬だけ目を閉じる。

(……参ったな)

心の中で、そう呟く。

「……あまり、何度も言うな」

低い声。

「……?」

不思議そうなエアリス。

そのまま少しだけ振り返りるカイゼル。

「……こんなにも自分が持たないとは…」

「……?」

意味は分からない。

そのまま。

二人は、並んで帰っていく。

手の温もりを、残したまま。









感想 11

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みんなの感想(11件)

ねここ
2026.04.27 ねここ

尊いよ‼ぅっっっっああ!私の萌えツボに、ささぅーぅーーぅーーーーぅぅる

解除
きらら
2026.04.27 きらら

……これでは、伝わらない
カイゼル様!最高です👏👏

解除
えりごn
2026.04.17 えりごn

エアリスの無自覚な思いが先に形になって皆を守ってて、読んでてじんわり涙出て来たよ
声が出てよかった(TдT)

解除

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