声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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村の広場。

陽の光がやわらかく降り注いでいる。

カイゼルは村長たちと話をしている最中だった。

「今年は作物の出来もよくて――」

真剣な話。

少し離れたところ。

エアリスは、その様子を静かに見ていた。

(……かいぜるさま)

真剣な横顔。

さっき見た、優しい表情とはまた違う。

(……すごい)

じっと見ていると――

「ねえ!」

不意に声。

びくっと肩が跳ねる。

振り向くと――

小さな子どもが立っていた。

さっきの、カイゼルに話しかけていた子だ。

「カイゼルさまと仲良しな人でしょ?」

無邪気な声。

「……」

エアリスは一瞬戸惑う。

でも、逃げない。

こくり、と頷く。

「やっぱり!」

ぱっと顔が明るくなる。

「きれいだね!」

「……っ」

思ってもいなかった言葉に、目が少し見開く。

「ねえねえ!名前は?」

「……」

口が開く。

でも、すぐには出ない。

少しだけ俯く。

すると――

「もしかして、しゃべるのむずかしいの?」

きょとん、とした顔。

責めるでもなく。

ただ、不思議そうに。

「……」

こくり、と小さく頷く。

「そっか!」

それだけで納得する子ども。

「じゃあ、ぼくいっぱいしゃべるね!」

にこっと笑う。

「……!」

その距離の近さに少し驚きながらも――

嫌ではない。

むしろ。

少しだけ、あたたかい。




「これ見て!」

子どもが手を引く。

一瞬びくっとするエアリス。

でも、振り払わない。

そのままついていく。

広場の端。

木の近く。

「ほら!」

小さな木の実。

「これね、すっぱいんだよ!」

一つ取って差し出す。

「……」

エアリスは少し迷って――

そっと受け取る。

口に入れる。

「……!」

一瞬で、顔がきゅっとなる。

すっぱい。

それを見て、子どもが笑う。

「あはは!やっぱり!」

「……っ」

驚きながらも。

少しだけ、口元が緩む。

ほんの少し。

でも確かに。




「ねえねえ、あっちも行こう!」

ぐいっと引っ張られる。

今度は――

少しだけ、自分から一歩踏み出す。

一緒に歩く。

その様子を――

少し離れた場所から、カイゼルが見ていた。

「……」

話をしながらも、視線だけがそちらへ向く。

(……)

エアリスが。

他人に。

あんな風に。

自然に、近くにいる。

逃げていない。

「……カイゼル様?」

村長の声で、はっとする。

「ああ、続けてくれ」

だが――

目は、ほんの少しだけ細くなっていた。




「ねえ!」

子どもがまた話しかける。

「カイゼルさまのこと、すき?」

「……!」

不意打ち。

エアリスの動きが止まる。

「ぼくね!だいすき!」

胸を張る子ども。

「つよくて、やさしくて、かっこいいんだ!」

「……」

エアリスは、ゆっくりとカイゼルの方を見る。

遠くで話している姿。

さっきと同じ。

でも――

少し違って見える。

(……すき)

胸の奥が、あたたかくなる。

そして。

小さく、口を開く。

「……す……」

子どもが、ぱっと顔を上げる。

「……?」

エアリスは、少しだけ勇気を出す。

「……す、き……」

かすれる声。

それでも、確かに。

「え!」

子どもが目を輝かせる。

「しゃべった!」

嬉しそうに笑う。

「やっぱりすきなんだね!」

「……っ」

少し恥ずかしそうにしながらも。

こくり、と頷くエアリス。




その様子を――

カイゼルは、確かに見ていた。

「……」

胸の奥が、じわりと熱くなる。

自分に直接向けられた言葉ではない。

それでも。

十分だった。




「ねえ!また来てね!」

子どもが手を振る。

エアリスも、ぎこちなく手を上げる。

小さく、ふりふりと。

「……」

その姿に。

村の人たちも、やわらかく笑う。




カイゼルの元へ戻るエアリス。

「……楽しかったか」

こくり、と大きく頷く。

「……そうか」

少しだけ、優しくなる声。

そして――

「……す、き」

ぽつり。

エアリスが呟く。

「……?」

カイゼルが視線を向ける。

エアリスは、少しだけ慌てて。

それでも。

今度はちゃんと。

「……かいぜるさま、すき」

小さく、でもはっきりと。




今度こそ。

カイゼルは、完全に固まった。







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