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52.
村の広場。
陽の光がやわらかく降り注いでいる。
カイゼルは村長たちと話をしている最中だった。
「今年は作物の出来もよくて――」
真剣な話。
少し離れたところ。
エアリスは、その様子を静かに見ていた。
(……かいぜるさま)
真剣な横顔。
さっき見た、優しい表情とはまた違う。
(……すごい)
じっと見ていると――
「ねえ!」
不意に声。
びくっと肩が跳ねる。
振り向くと――
小さな子どもが立っていた。
さっきの、カイゼルに話しかけていた子だ。
「カイゼルさまと仲良しな人でしょ?」
無邪気な声。
「……」
エアリスは一瞬戸惑う。
でも、逃げない。
こくり、と頷く。
「やっぱり!」
ぱっと顔が明るくなる。
「きれいだね!」
「……っ」
思ってもいなかった言葉に、目が少し見開く。
「ねえねえ!名前は?」
「……」
口が開く。
でも、すぐには出ない。
少しだけ俯く。
すると――
「もしかして、しゃべるのむずかしいの?」
きょとん、とした顔。
責めるでもなく。
ただ、不思議そうに。
「……」
こくり、と小さく頷く。
「そっか!」
それだけで納得する子ども。
「じゃあ、ぼくいっぱいしゃべるね!」
にこっと笑う。
「……!」
その距離の近さに少し驚きながらも――
嫌ではない。
むしろ。
少しだけ、あたたかい。
⸻
「これ見て!」
子どもが手を引く。
一瞬びくっとするエアリス。
でも、振り払わない。
そのままついていく。
広場の端。
木の近く。
「ほら!」
小さな木の実。
「これね、すっぱいんだよ!」
一つ取って差し出す。
「……」
エアリスは少し迷って――
そっと受け取る。
口に入れる。
「……!」
一瞬で、顔がきゅっとなる。
すっぱい。
それを見て、子どもが笑う。
「あはは!やっぱり!」
「……っ」
驚きながらも。
少しだけ、口元が緩む。
ほんの少し。
でも確かに。
⸻
「ねえねえ、あっちも行こう!」
ぐいっと引っ張られる。
今度は――
少しだけ、自分から一歩踏み出す。
一緒に歩く。
その様子を――
少し離れた場所から、カイゼルが見ていた。
「……」
話をしながらも、視線だけがそちらへ向く。
(……)
エアリスが。
他人に。
あんな風に。
自然に、近くにいる。
逃げていない。
「……カイゼル様?」
村長の声で、はっとする。
「ああ、続けてくれ」
だが――
目は、ほんの少しだけ細くなっていた。
⸻
「ねえ!」
子どもがまた話しかける。
「カイゼルさまのこと、すき?」
「……!」
不意打ち。
エアリスの動きが止まる。
「ぼくね!だいすき!」
胸を張る子ども。
「つよくて、やさしくて、かっこいいんだ!」
「……」
エアリスは、ゆっくりとカイゼルの方を見る。
遠くで話している姿。
さっきと同じ。
でも――
少し違って見える。
(……すき)
胸の奥が、あたたかくなる。
そして。
小さく、口を開く。
「……す……」
子どもが、ぱっと顔を上げる。
「……?」
エアリスは、少しだけ勇気を出す。
「……す、き……」
かすれる声。
それでも、確かに。
「え!」
子どもが目を輝かせる。
「しゃべった!」
嬉しそうに笑う。
「やっぱりすきなんだね!」
「……っ」
少し恥ずかしそうにしながらも。
こくり、と頷くエアリス。
⸻
その様子を――
カイゼルは、確かに見ていた。
「……」
胸の奥が、じわりと熱くなる。
自分に直接向けられた言葉ではない。
それでも。
十分だった。
⸻
「ねえ!また来てね!」
子どもが手を振る。
エアリスも、ぎこちなく手を上げる。
小さく、ふりふりと。
「……」
その姿に。
村の人たちも、やわらかく笑う。
⸻
カイゼルの元へ戻るエアリス。
「……楽しかったか」
こくり、と大きく頷く。
「……そうか」
少しだけ、優しくなる声。
そして――
「……す、き」
ぽつり。
エアリスが呟く。
「……?」
カイゼルが視線を向ける。
エアリスは、少しだけ慌てて。
それでも。
今度はちゃんと。
「……かいぜるさま、すき」
小さく、でもはっきりと。
⸻
今度こそ。
カイゼルは、完全に固まった。
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