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47.
数日後。
砦の執務室にコンコン、とノックする音が響く。
「入れ」
「失礼いたします」
執事が一礼し、入室する。
手には――
王都からの封書。
「王都より正式な通達が届いております」
「……来たか」
カイゼルが受け取る。
封を切る。
静かに目を通す。
「……」
一通り読み終え――
口元が、わずかに歪む。
「……決まったな」
低く呟く。
「内容は」
執事が問う。
「アルヴェイン家――」
淡々と、読み上げる。
「爵位剥奪。全財産没収。王都からの永久追放」
「……」
執事が静かに目を伏せる。
当然の結果。
「当主は責任を問われ、官職解任」
「イザベラは……」
一瞬、言葉を区切る。
「貴族籍剥奪。今後、いかなる貴族との接触も禁止」
「マーカス家は」
別の書状へ目を落とす。
「すでに破産処理に入っている。債務超過により資産差し押さえ」
「……」
逃げ場は、ない。
「セドリックは詐欺的契約の疑いで調査対象。社交界から完全排除」
「母親は?」
「……地方へ強制移送」
静かに、言い切る。
「……終わりだな」
執務室に、重くも静かな空気が流れる。
だがそれは――
冷たさではなく、決着の空気だった。
⸻
王都。
かつてのアルヴェイン邸。
すでに「元」だ。
「やめて……やめてよ!!」
イザベラの叫び。
屋敷の中を、役人たちが行き交う。
家具が運び出される。
絵画が外される。
宝石も、調度品も。
すべて。
「触らないで!!それは私の……!」
「すでに王国の差し押さえ対象です」
冷たい声。
「離しなさいよ!!」
手を伸ばす。
だが――
掴めない。
奪われる側になった現実。
「……っ」
歯を食いしばる。
「なんで……なんでよ……!!」
崩れるように膝をつく。
「……なんで、あいつじゃなくて……!」
床に爪を立てる。
「なんで、私が……!!」
だが――
誰も答えない。
⸻
別の場所。
セドリックは、項垂れていた。
豪奢だった部屋は、すでに空に近い。
「……終わった……」
ぽつりと。
机の上には、借金の明細。
差し押さえ通知。
「……こんなはずじゃ……」
震える手。
何も、掴めない。
「……っ」
思い出す。
婚約を破棄した日。
エアリスの顔。
「……あの時……」
一瞬、よぎる後悔。
だが――
すぐに消える。
「……いや……あいつが悪い……」
何も変わらない。
⸻
そして――
門の外。
追い出される三人。
荷物は、最低限。
馬車もない。
「……嘘よ……」
イザベラが呟く。
ぼろ布のような外套。
かつての華やかさは、影もない。
「……こんなの、認めない……」
だが――
門は、閉ざされる。
重く。
完全に。
「……っ」
振り返る。
もう、戻れない。
「……あいつが、なんだって言うのよっ……」
憎しみだけが、残る。
だが――
その相手はもう。
手の届かない場所にいる。
⸻
最北の砦。
穏やかな午後。
「……?」
エアリスが、執務室で顔を上げる。
カイゼルの視線が、こちらに向いていた。
「どうした」
「……」
少し考えて。
ペンを取る。
『なにか あった?』
「……」
カイゼルは、一瞬だけ考え。
そして――
短く言う。
「……終わった」
「……?」
首を傾げるエアリス。
「お前を苦しめていたものは、もうない」
静かに。
はっきりと。
「……」
エアリスの手が、止まる。
言葉の意味を、ゆっくりと理解する。
(……もう)
(……こない?)
(……いたく、ない?)
「……」
こくり、と。
小さく頷く。
そして――
少しだけ。
ほんの少しだけ。
肩の力が抜ける。
「……」
カイゼルは、それを見て。
そっと、頭に手を置く。
「これからは」
低く、優しく。
「好きに生きろ」
「……!」
目を見開くエアリス。
じんわりと、目が潤む。
「……」
こくり、と頷く。
今度は、少し強く。
⸻
すべてを失った者たちと。
これからを得た者。
同じ世界で。
まったく違う場所へ。
分かたれた。
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