恋愛四季折々

奔埜しおり

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第六話 夏~前林菜摘と加藤明の場合~

夏②

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 あれから数日が経った。
 七月末にあったコンクールの地区大会は無事金賞をとって、八月中旬にある県大会に向けて練習中だ。

 今日は主に、楽譜の中で同じ場所や、似たようなメロディーを吹いている人たちで集まって、先日洗い出した反省点を克服するために練習をしている。
 三年生はまだ夏期講習が終わっていない時間なのでいない。
 他の学年も、夏期講習が義務付けられている特進と希望者がいない。

「加藤くーん、また裏打ちが表になっちゃってるよ」
「嘘っ!」
「加藤。残念ながら本当」

 驚く加藤に私がとどめを刺す。
 ガクッと落ち込む加藤。

 私たちは今、課題曲であるマーチ系の曲に、タッタッタッという表打ち、ッタッタッタという裏打ちがある人たちで集まっている。

「ほら加藤君、もう一回行くよ。ワントゥースリーフォーワントゥースリー」

 加藤がフルートに息を吹き込む。
 フルートの澄んだ音色が、カッカッカッと定期的に音を鳴らすメトロノームのあとを追うようにしてッタッタッタと弾む。
 が、それも最初のうちで、徐々に徐々に遅くなったと思ったらいつの間にかメトロノームと同時になっている。
 流石に加藤も気付いたようで吹くのをやめた。

「裏打ち難しい……」

 加藤のため息に、ホルン担当の広子ひろこが苦笑を浮かべる。

「まあ、大体の表と裏はチューバたちとバスドラのベースラインと、私たちホルンとスネアでやってるからねー。他のパートもあるにはあるけど、マーチの楽譜の九割が表打ちだけ、とか裏打ちだけ、とか滅多にないし」
「そうなんだよ。なんでフルートの3rdだけ裏打ち九割になってるんだろ、この楽譜。ホルンだけでいいと思うんだけどな……」
「加藤くーん。はっ倒すよー」
「わわっ、ごめんなさいっ!」

 広子に不穏な笑みで言われて、慌てて加藤が謝る。

「んじゃ、裏と表逆にしようか。次は表担当の人たちで吹いてみよう」

 広子の掛け声に合わせて、次は表の担当であるチューバなどのベースラインとクラリネット3rdの私が吹き始める。

「……ん。粒の大きさ揃えようか。合ってるところのほうが多いんだけど、たまにズレるかな。特に十四小節目の二拍目とか」
「はい!」

 返事をして、各々鉛筆で楽譜に書き込む。それを確認してから、広子はまた口を開いた。

「そいじゃ、もう一回。ワントゥースリーフォーワントゥースリー」
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