巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ

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第一部 王国に召喚された魂約者

8.残念美少女と魂約の真実

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すると、静まり返った空気をやわらげるように、エリオスさんが口を開いた。

「まあ、そんなに深刻な顔をしなくても大丈夫だよ」

穏やかで優しい声音。張りつめていた俺の神経が、少しだけ緩む。

「うむ。お主が一人で抱えることもないし、実際にやってもらうのはまだ先の話じゃ」

ヴェルミナさんは腕を組み、落ち着いた声音で続ける。

「勇者たちには、まず色々と学んでもらうことがある。その間に心の準備もつくじゃろう。それに――妾たちは勇者たち異世界人にすべて任せるような真似はせぬよ」

先代勇者たちには返しきれん恩もあるからのうと、そう言ってくれる彼女の言葉には、不思議と安心感があった。

……とはいえ。
俺は緊張のあまり、気づけば顔が青ざめ、体が小刻みに震え始めていた。

……仕方ないだろ。相手が魔王って言う“明確な敵”なら、怖くてもまだ覚悟はできる。倒すべき相手が見えているんだから。
けどこの人たちは、敵も味方も入り混じる世界で俺たちに“仲裁役”をしてくれって言ってるんだ。
遺恨だの禍根だの、ドロドロしたのが渦巻いてるこの状況でだぞ!

要するにさ、戦争の後始末を手伝ってくれってことだろ……
隣に座ってる誰かが“敵”にだったなんてことになる状況で、いくら勇者だからって難易度高すぎじゃないのかよ!?

頭がぐちゃぐちゃになって、胸のざわつきがひどくなっていく――そんな時、ふいに手に暖かな感触があった。

「……シンシアさん?」

心配そうに俺を見つめていたシンシアさんが、俺の近くまで来て床に座り込む。
そして俺を見上げて、そっと膝の上に置いた俺の手へ触れてきた。

細く華奢な指先――けれど、そこには不思議と強くて優しい力が宿っている。
目が合った瞬間、彼女はふわりと微笑んだ。

――大丈夫だよ。

声に出さなくても、そう言ってくれているような笑顔だった。
……やばい。顔が真っ赤になる。慌てて視線を逸らした。

≪クソッ!我ながらチョロすぎるが、これは年齢=彼女いない陰キャにはクリティカルヒットだよ!≫

惚れてまうやろぉー!!と心の中で叫びたくなる気持ちを必死で抑える。
赤面は止まらないのは不可抗力だから仕方なし!
そんな俺の様子を見ていたエリオスさんが、微笑みながら見守っていたが――

「さて……ここからは、ユウトの話をしようか」

一瞬で空気が引き締まる。次は俺にとって重要な話になるらしい。

「さっきユリウスが言ったように――竜族は監視者として、この五百年もの間、争いが起きないように見守ってきた」

エリオスさんはゆっくりと語りながら、シンシアさんへと視線を向け、再び俺の目を見る。

「そんな竜族の影響力はとても強い。そして、その竜族の皇女であるシンシアが、召喚されてすぐの勇者に惚れ――ましてや“魂約”までしているとなると……周りが君を放っておくことはないだろう」

「……!!」

言葉の意味を理解するより先に、心臓が跳ね上がった。
え、なにこのヤバそうな雰囲気!? た、確かに勇者とは言え一般人が皇女様と“婚約”を結ぶのは大事件だけど、ここまで張り詰めた空気に俺は戸惑ってしまう。

「だからユウト。君は現状、どの勇者たちよりも危うい立場にいる。しっかり聞いて、今後のことを考えてほしいな」

エリオスさんの真剣な眼差しに、思わず息を飲む。
横で控えていたユリウスさんが、ぎょっとした顔で叫んだ。

「ちょっと待ってください!会って間もないのに“婚約”って、いくら何でも早すぎますよ!」

ちょ、誤解だ! 俺は何もしてない! してないからな!?

「ユリウスよ」

ヴェルミナさんが紅茶を一口飲んでからゆっくりと言い放つ。

「一応言っておくとな、“結婚を約束する契り”ではなく、“魂を結びつける契約”の方じゃぞ」
「えええええええぇぇぇぇぇーーーー!!??」

一瞬思考停止したユリウスさんが裏返った声で叫んだ。
ここに防音の結界がなかったら城中に響いたであろう絶叫だったとだけ言っておこう。

「た、魂の契約……!?」「竜族の皇女と……!?」「なんということだ……」

次々に漏れる驚愕の声。

……おいおい、また新しい問題が発生したみたいなんだけど。
魂レベルの話なんて聞いてないんですけど。
俺の平穏は、いったいいつ訪れるんだよ……!

落ち着け俺、まずは状況を整理するために必要なことがあるだろ!

「えっと……魂約って、なんなんですか?」

と、思い切って口を開いた。

「魂の契約ってことを言ってましたので、すごく重要なのはわかるんですが……」

俺の疑問に、ヴェルミナさんが顎に手を当てて説明を始める。

「ふむ、簡単に言うとこういうことじゃ」

彼女の言葉をまとめると――

・本来、魂約とは互いの明確な合意があって結ばれる契約であり、魂のパスを繋ぐ行為。

・一度結んでしまうと、容易には解消できない。

・契約時に魔力を循環させることで、互いの能力を共有したり、混ぜ合わせることが可能になる。

・しかし循環には危険もある。片方の器が小さければ、負荷に耐えきれず魂が破裂して消滅してしまう。

・そのため通常は格の近い者同士でしか行われない。

・さらに、魂の波長が合わなければ成立しないうえ、強い側が弱い側に引っ張られてしまうことすらある。

――要するに。
俺、いつの間にか命の危機どころか魂レベルの危機に片足突っ込んでたってこと!?

≪お、おいおいおい、魂レベルってそれ……冗談ぬきで蘇生魔法すら受け付けないってヤツじゃん……≫

頭を抱えていると、当の契約者本人であるシンシアさんが、頬を染めながらひじ掛けに置かれた俺の手にちょこんと頭を乗せて目と閉じている。

「……っ」

その仕草があまりにも自然で、俺の心臓は跳ね上がる。
だってすんごく幸せそうな表情してるんだよ?
その上、柔らかい銀髪の感触、熱を帯びた頬。至近距離にある竜姫の吐息。
やめろ、俺の理性ゲージがゴリゴリ削れる……!

しかしとあることに気が付きハッとしてテーブルに身を乗り出した。
その拍子に――

「あうっ!?」

シンシアさんがバランスを崩し、テーブルの角に頭をぶつけた。
めちゃくちゃいい音がした。ゴンッて。いや絶対痛いだろ今の!?

慌てて「ご、ごめん!」と謝る俺。
だが彼女は目をぱちくりさせただけで、次の瞬間ににこっと笑った。

「ちょっとびっくりしただけだから、大丈夫!」

……いや、普通に頭から血が流れるレベルの勢いだったと思うんだけど。
痛がる様子が一切ないのは、竜族の耐久力ゆえなのか?

≪やっぱり竜族って頑丈なんだな……。まあどちらにしろ無事でよかったけど……≫

気を取り直して、俺は質問をぶつけた。

「その魂約って……お互いの合意がないとできないんですよね!? 俺、そんな記憶が一切ないんですけど!?」

だってそうだろ。俺と彼女が会ったのは、召喚の間とこの部屋の二回だけ。
もちろん「魂を繋げますか? はい/いいえ」みたいな確認なんて受けてない!

「ほれ、召喚の間でシアがお主に抱き着いたじゃろ? あの時じゃよ」

あっけらかんと答えるヴェルミナさん。

……え?
え、え?
ハグ=魂契約成立って、どんなバグ仕様だよ!?

思考がショートして固まった俺の代わりに、隣のユリウスさんが叫んでくれた。

「召喚されてすぐじゃないですか!!」

まさに俺の言いたいことを全部代弁してくれた。ありがとうユリウスさん。多分ここでの一番の理解者だと思うよ。

「な、何をやってるんですかシンシア様は!」
「えへへぇ……勢いで、つい!」

照れながら言うシンシアさん。両手で頬を押さえて、嬉しそうに笑っている。
おい、勢いで魂の契約とかするな! こっちの寿命がその勢いで縮んでるからな!?
下手したら、勇者が召喚されました→しかし俺だけは消滅しちゃいました テヘ☆彡
になってたってことだろ?笑えないんだけど……

「落ち着かんか、ユリウス」

ヴェルミナさんが肩をすくめてなだめる。

「僕も同じ気持ちではあるんだけど、話が進まなくなるから落ち着いてくれるかい」

エリオスさんが同情するような視線をユリウスさんに向けると、ユリウスさんは深呼吸をして椅子に座った。

「留学時代にお会いした際とは全く印象が違い過ぎたので少しショックを受けてました」

シンシア様に勝手なイメージを押し付けてしまいすみませんがと、申し訳なさそうに頭を下げる。
しかし竜族の三人は特に気にした様子もなく……

「まあ普段はもっと淑女らしい振る舞いをするからね」
「妾たちですらこんな暴走したシアを見ることはなかったからのう」
「ゴメンね、ユウトのこと考えると気持ちのコントロールが上手くいかないの」

そう言っているこの場のメンバーに俺は言いたい……

≪残念美少女の淑女らしい姿が全然想像できないんだけど!≫

まあ、口が裂けても言えないけどさ……
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