巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ

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第一部 王国に召喚された魂約者

25.迷子紐の皇女!?新たな従者と力の片燐

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微妙な空気のまま朝食を終え、俺たちはそろって食堂を出た。

広い廊下を歩きながらも、さっきの空気の名残がまだどこかに漂っている。
とはいえ、食堂を出る前に友莉が軽口を叩いてくれたおかげで、気まずさは少しずつ薄れていった。

「俺は訓練場に行くけど、みんなはどうするんだ?」

義孝が背伸びをしながら振り返る。

「アタシと奏は魔術について教えてもらいに行くわ!」

即答する友莉。その声には、さっきまでの張りつめた気配はもうない。
さすが切り替えの早いタイプだ。
隣の奏も、少し照れたように笑ってうなずいた。

「悠斗君はどうするの?」
「俺は中庭に行って時間潰すかな」

「鍛錬とかしないのか?」
「いや、まずはスキルの練習をしないといけないんだけど……教えてくれる人が取り込み中なんだよ」
「取り込み中?」

義孝が首を傾げる。
俺は肩をすくめて笑ってみせた。

「あれ、友莉たちから聞いてないの?」
「アタシたちの口からは勝手に言えないでしょ……」

ジト目で俺を見ながら、友莉が呆れたように言う。

≪なるほど。さっき食堂で奏を止めたのは、そのことか≫

心の中で納得する。
奏が話そうとした時、友莉がぴしゃりと止めた理由がようやくわかった。

俺は特に隠す気はないが、さすがにスキルの全貌を話すのは気が引ける。
食事会で見せた後、俺のスキルは他の人はもちろん義孝や獅童にも当分は“隠蔽の指輪”で表示されている内容を伝えることになっている。

「簡単に言っちゃうとな……シアの持ってる力を俺も使えるんだけど、それが練習しないと危険なんだってさ」

エリオスさんとヴェルミナさんに言われたことを、話せる範囲で説明する。
義孝は「そうだったのか……がんばれよ!」とだけ言って訓練場の方へ歩いていった。
その表情に、一瞬だけ悔しさが滲んでいた気がした。

「ホント……男って乙女心に鈍感よねぇ……」
「友莉ちゃん?」

隣からの突然の言葉に顔を向けると、友莉が俺をジト目で睨んでいて、奏が不思議そうに見ていた。

「え? 俺なんかした?」
「今回はアンタじゃないわよ。ほら行こ、奏!」
「待ってよ、友莉ちゃん!」

俺の疑問には答えず、二人は足早に去っていく。
残された俺は「えぇ~……」と情けない声を漏らすしかなかった。

――――

友莉の意味深な言葉を考えても、その乙女心に鈍感な俺に理解できるはずもない。
早々に思考を放棄した俺は、気分転換をかねて中庭へ向かうことにした。

すると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。

「ユウートー!」

やたらテンションの高い――最近出会ったばかりなのに、もう聞き慣れた声だ。
振り返ると、見知らぬメイドを連れてこちらへ走ってくるシアの姿が見えた。

手を挙げて返事をすると、嬉しくなったのか――彼女は猛ダッシュで飛びついてくる……が、俺の数センチ手前でピタッと止まり、そのまま地面に落下した。

「ふぎゃ!?」

……いつものことか、と思ったが、今回はヴェルミナさんの姿がない。
代わりにいるのは、シアの後ろに立つメイドさんだけ。
不思議に思ってその人に目を向けると、手には一本のロープが握られていた。

そして、その先はシアの腰に結ばれている。

≪えっと……これって、迷子紐?≫

俺たちの世界では幼児用の安全グッズとして知られているアレだ。
現代ではリュック型が主流だが、昔はロープだったと聞いたことがある。
どうやらこの世界の皇女様には、必需品らしい。

≪いや、シア限定だろ……。ていうかメイドさん、遠慮ないな……≫

なんだか哀れになってきて、俺は優しく声をかけた。

「大丈夫か?」
「うぅ~……また廊下に顔ぶつけちゃったよぅ~……」

情けない声を上げるシアは、文句を言いたげにメイドさんを睨んでいるのだが、彼女は気にも留めず、俺の方へ歩いてきた。

「私の主がお見苦しいところをお見せしました。失礼ですが、ユウト様でよろしかったでしょうか?」

お見苦しいも何も、あなたが原因では……とツッコミたい衝動を抑えつつ、「はい、そうですけど……」と答える。

「お初にお目にかかります。私はシンシア・ヴァルゼリオン様の専属メイドをしております、セリーネ・ヴァルティエルと申します。
以後お見知りおきくださいませ。」

そう言って上品に頭を下げた彼女――セリーネさんは、続けて穏やかに微笑んだ。

「どうぞ、私のことは“セリィ”とお呼びください」

主であるシアを完全に放置して。

……いや、悪意を感じるのは気のせいか?

「セリィ! こんなことしておいて放置するのは酷いと思うの!」

シアは文句を言いたげに声を上げるが、セリィは「“こんなこと”?」と小首をかしげる。

「この紐のことだよ! いつつけたの!?」
「シンシア様の身支度を整えている際に、ですね」

「全然気づかなかったんだけど!?」
「私の竜燐(竜化時の鱗)を素材としておりますので、不可視の効果があります。丈夫で、とても便利なのですよ」
「な、何のために!?」

シアは、自分の身支度をセリィに手伝ってもらっていた時点ですでに結ばれていたこと、そして――まるでやんちゃな子供のように扱われていたことにショックを受けているようだった。

「うぅ~……さすがに酷いんじゃないかな? 私ってセリィの主人だよね?」
「はい、とても敬愛していた主人ですね」
「うんうん、そうだよね!……あれ? 敬愛して“いた”?」

シンシアのそんな疑問に、セリィは淡々と語る。

「皇国にいた私が、急遽シンシア様の専属メイドに任じられ、王城に呼ばれたところまでは良かったのです」

どうやら彼女は、シアの“自由すぎる行動”と、滞在期間の延長に伴い呼ばれたらしい。
皇族に次ぐ家系の三女で、実力・教養・シアとの相性も評価されて打診があり、メイド教育を受けていたが途中で切り上げ王国に来たそうだ。

「今朝がたこの国に到着しましたので、ご挨拶に伺いました。ですが扉を開けたら――なぜか応接室と寝室の間の壁から、シンシア様が生えておられまして」
「ぶはっ!?」

朝の出来事が一瞬で蘇り、俺は堪えきれず吹き出した。
シアは「ち、違うの!あれはね!」と慌てて弁明しようとするが、セリィは冷めた視線を送り、とどめを刺す。

「そのため、シンシア様への認識を改めることにいたしました」
「お願いセリィ!改め直してぇ!」

懇願するシアを冷たくあしらい、セリィは「難しいですね」と言い放つ。
その光景は、まるで姉と妹のよう――いや、むしろ妹が姉にダメ出ししているようにも見えた。

≪見た目が少し幼く見えるせいで本当の姉妹みたいだ≫

思わず笑っていると――

「おう、陰キャのくせに二人も女を侍らせてご満悦か?」

その声に振り返ると、赤城獅童がこちらに向かって歩いてきていた。
厄介なのが来たな、と心の中で呟く。

≪ん?なんだこれ……≫

わずかな違和感――空気がわずかに震え、少しむずがゆいような圧を感じた俺は思わず顔をしかめた。
その反応が気に入ったのか、獅童は口角を上げて立ち止まる。

「よう陰キャ。なんか反応したらどうだ? まさかビビってんじゃねぇだろうなぁ?」

挑発的な笑みを浮かべる彼に、俺は思わず眉をひそめる。
……おかしいな。前はあれほど怖かったのに、今は不思議と恐怖が湧いてこない。

≪小型犬がキャンキャン吠えてる感じ……いや、むしろ――≫

「一匹だけで、なぜか威嚇してるハムスター……?」

口に出してしまった瞬間――

「テメェ、今なんつったぁ!?」

獅童が地を蹴った瞬間――
モノクロの幻影が先を走り、本物がそれをなぞるように迫ってくる。
――未来が、わずかに“視えている”。

≪あれ? なんだこれ……?≫

あまりの不思議さに混乱していたのか、危機感が薄れていたのか。
気づけば拳が目前に迫っていた。
とっさに目を閉じ、衝撃に備える――が。

ガンッ!

硬質な音が響き、何の感触もないまま、俺は恐る恐る目を開ける。
獅童は拳を押さえて後ずさり、驚愕の表情を浮かべていた。

≪これが……【天竜燐】の効果か。顔面直撃でも何も感じないとは……≫

心の中で驚きながらも、表情だけは変えないよう努めた。
それが気に障ったのか――獅童の表情がさらに険しさを増す。

「テメェ……何しやがった?」
「えっとぉ~……立ってただけだけど?」

素直に答えると、さらに顔を真っ赤にして怒り狂う。
その瞬間――むずがゆいような圧が少し強くなった気がした。

≪もしかして獅童もスキルを使ってるのか……?≫

俺は竜眼を使う。
視界に獅童の情報が浮かび上がった。


――鑑定結果――

名前:赤城 獅童
年齢:16歳
性別:男
状態:激怒 / 焦り
魔力:C+(残量70%)
魔力適性:火 / 地 / 風

〔通常スキル〕
身体強化Lv3:発動 / 先見Lv4:発動 / 痛覚耐性Lv6 / 体術Lv3 / 威圧Lv2:発動

――。

≪なるほどな……【威圧】か≫

さっき感じた違和感の正体に納得する。
戦闘でもないのに発動させてるとか、獅童らしいとは思うけど勘弁してほしい……。

「はぁ~、獅童?こういうの、もうやめないか?」
「はぁ? なんだテメェ……。後ろの女に守られたからって調子乗ってんじゃねぇぞ。それと陰キャごときが俺を呼び捨てか? あぁ!?」

わぁ~お。どうやら彼の俺への評価は変わらず、さっきの攻撃を防いだのはシアかセリィの力だと思ったらしい。

≪まあ俺が竜族のシアと魂約してるのは知ってるだろうし、そう思うのは当然かな≫

そう考えていたら、再び獅童が俺に向かって来ようとした。

その刹那――薄い桜色の銀髪をなびかせた少女が、俺と獅童の間にすっと割って入った。
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