空飛ぶ大どろぼう

八神真哉

文字の大きさ
5 / 33

第3話 がん坊伝説

しおりを挟む
まるで、がん坊伝説だ。
翔太は、何年か前におばあさんから聞いた、この神社にまつわる昔話を想い出した。

――そう、あれはたしか、こんな話だった。

『昔々、八幡村に、がん坊と呼ばれる子どもがいた。
もちろん、それは本当の名前ではない。
悪さをしてもあやまりもしない。人のいうことをまったく聞かない、手に負えない、がんこな子どもだったので、みながそう呼んでいたのだ。

貧しい小作のもとに嫁いだお母は、がん坊を生んですぐに死んだ。
お父は、がん坊が9の齢に病で死んだ。

がん坊には12になる美しい姉がいた。
お父でさえ見放した、がん坊のしりぬぐいをした。
うちも外も美しい娘であった。

ともに親戚に引き取られた。
この親戚も貧しい小作だった。

人が増えても耕す田畑が増えるわけではない。食いぶちだけが減っていく。一人前に働けもしない。
人買いに売られなかっただけでもありがたい話である。
にもかかわらず、がん坊はその親戚のいうこともきかなかった。

1年がたったある日、武器を手にした盗賊たちが、村の名主の屋敷におしいった。
そこにあった米や銭だけでは満足せず、名主一家をたてにとり、反物や美しい娘を要求した。

役人を呼びに行こうと声をあげた者もいたが、だれも賛成しなかった。
1年前に、となり村で同じ事件が起きていたからだ。

役人たちは、助けに来なかった。おのれの命おしさに引きのばした。
盗賊が引きあげたと聞いて、ようやく腰をあげた。

ならば、要求を飲むほかない。
名主を見殺しにしたとて親族がつぐであろう。

ことわれば、今後、田畑を貸してくれなくなるだろう。仕事をまわしてくれなくなるだろう。

話し合いがもたれ、がん坊の姉が差し出されることが決まった。
水のみ百姓とよばれる、がん坊の親戚では、米など出せないことがわかっていたからだ。

――それまで、一度たりとも人に頭をさげたことのないがん坊も、この時ばかりは頭をさげた。土下座までした。

だが、だれ一人として首をたてにふる者はいなかった。
がん坊にとって姉はたったひとりの味方だった。身も心も美しい自慢の姉だった。
盗賊たちに連れて行かせるわけにはいかなかった。

盗賊たちを道づれにして死ぬ――がん坊は覚悟を決め、カマを手にした。
月のきれいな夜だった。

がん坊は多家神社に立ち寄り、生まれて初めて神に祈った。
心を入れかえ奉仕します、と一心不乱に祈った。

思いが通じたのか、神殿から声ならぬ声が返ってきた。
境内にはえている木の、赤い実をひとつだけ食べていけという。

奇跡が起きた。
赤い実を食べたがん坊は、空を飛べる体になったのだ。

ことはあっけなく終わった。
盗賊たちは、カマを手に夜空を飛ぶ、がん坊の姿を目にしたとたん、転がるように逃げ去ったのだ。
化け物か鬼神に違いないと

こうして、村に平和がもどった。

だが、得意になったがん坊は、神様との約束をやぶって、残っていた赤い実を全部食べてしまう。
そのとたん、突然起こった、つむじ風によって天高く舞いあげられ、二度と村にもどってくることはなかった。

村人たちは、その赤い実のなる木を怖れ、お祓いしてもらったのち、焼きはらったという。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サッカーの神さま

八神真哉
児童書・童話
ぼくのへまで試合に負けた。サッカーをやめようと決心したぼくの前に現れたのは……

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。 『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』──── 小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。 凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。 そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。 そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。 ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。 言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い── 凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚! 見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。 彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり…… 凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

処理中です...