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第1話ポイされました
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「・・・もう一度言ってみろ」
私の前に座るその方が、眉間に深く皺を寄せ、鋭く睨み言った。
さっきも聞きました、その質問。
二度も同じ言葉を聞かされ、胸の奥がますます後ろめたくなり、顔を見る勇気もなく、自然と俯いた。
ぎゅっと握った自分の拳だけが目に入る。
「・・・あの・・・何も言わずここで暫くメイドとして働いてこいと言われて、降ろされました・・・」
さっきと同じ答えを、呼吸が苦しくなりながらもどうにか口にした。
「お前、自分が伯爵令嬢だとわかっているのか? あんな事、本気にするのか!?」
ガッチリした肉体を持つ白髪のおじ様がソファに座り、目を釣りあげ、私を真上から睨みつけてくる。
ただならぬ威圧感持っている方だった。
白髪まじりの髪を後ろに撫でつけたその男性は、年齢は六十を超えているように見えるのに、年寄りという印象がどうしても浮かばなかった。
背筋はまっすぐで、無駄な肉のない広い肩、分厚い胸板。
手の甲には硬く盛り上がった筋があり、その節ばった指がソファの肘掛を軽く叩くだけで、胸の奥まで響くような緊張が走る。
目は金茶色。
落ち葉のような優しい色のはずなのに、怒気を含むと刃物みたいに冷たく光るのに、何故か不思議に怖い、とは思わかなかったが、ともかく、とても疲労感ありありで、私を見つめてくる。
あんな事を本気にするのか?
その言葉に、心の中で小さく首を傾げた。
だって、私、理由を知らないもの。
でも、否定なんて出来ず、はい、と答えるしかなかった。
するとその方は大きくため息をつき、呆れ顔で天を仰いだ。
胸がきゅっと縮む。
なんだか、申し訳ありません。
***
遡ること、たった3時間前。
私はいつものように、御義母様とお姉様の昼食を準備し、2人が食事をしている間に、お姉様に頼まれているドレスの裾のほつれを自分の部屋で直していた。
窓から差し込む柔らかな午後の光が、針先に小さくきらめく。
静かな部屋の中で、自分の息遣いだけが妙に大きく聞こえた。
これが終わったら、さっさとお昼食べて、次はお姉様の部屋の掃除をしなきゃ。
昼食後、お茶を飲んでいる間に終わらせないといけない。
そうじゃないと、またお姉様に叱られてしまう。
だめだ、そんなの。
お姉様を怒らせるということは、私が至らないからだ。
トロいから、お姉様と御義母様を苛立たせてしまうんだ。
ほつれた場所を綺麗に三つ折りにして、待ち針を刺す。
色は、これが近いかな? それとも、こっちかな?
糸をいくつか並べ、ひとつを選んで針に刺す。
細かい作業に集中すると、少しだけ、心が落ち着く。
ここなら誰にも怒鳴られない。誰にも睨まれない。
ただ、静かに、針を進めていればいい。
お父様も同じように、私を見る度に大きなため息をつく。
役に立たないのだから屋敷の手伝いぐらいはできるだろ、と言われ、ずっと手伝っているけど、不手際が多くて、よく怒鳴られたり殴られたりする。
私、シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた、17歳。
双子の姉、シャーサーは、亡くなった綺麗なお母様にとても似ていて、ふわふわの金色の髪に青い瞳の、お人形のように可愛かった。
それに比べて私は……顔立ちは双子でよく似ているのに、黒い髪に赤い瞳で、吸血鬼みたいだと気味悪がられた。
それに、お姉様みたいに気立ても愛想もない。
社交界に出ても、どうやってお喋りすればいいのか分からなくて、鬱陶しがられた。
だから仕方ないよね。
お父様にしたら、笑えもしない娘は紹介したくない。
お姉様にしたら、暗くて愛想のない妹に周りが気を遣うのが嫌なんだ。
そんな私だもの、伯爵家に相応しくないと思われても仕方ない。
一年前、お父様が新しい御義母様を連れてきた。
とても若くて、綺麗で、三人で並ぶと本当の家族みたいで……絵のようだった。
だから、仕方ないよ。
私は、側にいない方がいい。
ぐぐううううううう、とお腹が鳴る。
お腹すいたな……。朝からスープを二口しか飲んでいない。
ダメだなあ。もっと朝食もゆっくり食べられるように、
さっ、
ぱっ、
と何でもできるようにならないと。
指先が少しだけ震える。
空腹で力が入りにくくて、針を持つ手に余計な力が入ってしまう。
でも、弱音は吐けない。文句も言えない。
ただ、もっと上手くやらなきゃ、と自分に言い聞かせるしかない。
メイド長のウィッグが手伝おうとすると、
私がノロマに見せてわざと手伝わせている、と御義母様とお姉様に叱られる。
それ以来、ウィッグは悲しそうな顔で私を見て、何も言えなくなった。
だから私は、なるべく自分の部屋でできることをしている。
ウィッグに迷惑や心配をかけちゃダメだもん。
あの時のウィッグの目を思い出すと、今でも胸が痛む。
謝りたかったけど、謝ればもっと迷惑をかけてしまう気がして、何も言えなかった。
だから、せめて、ひとりで頑張らなきゃ。
針を進める。一針、また一針。
丁寧に、丁寧に。
お姉様に怒られないように。殴られないように。
ただ、それだけを願いながら。
「ここにいたの! 早く来い!!」
突然扉が開き、お父様が部屋に入ってきた。
次の瞬間、髪の毛を掴まれた。
「・・・っ!!・・・・おとう・・・さま!!・・・あるけ・・・るから・・・離して・・・!!」
痛い。
でも離してくれない。
無理やり引っ張られて歩きにくくて、転びそうになる。
その拍子にさらに強く引っ張られ、涙が溢れた。
足がもつれて、廊下の壁に肩をぶつける。
痛みに思わず声が出そうになったけれど、ぐっと堪えた。
文句を言ったら、もっと怒られる。もっと痛い目に遭う。
ただ、ただ、引きずられるままについていくしかなかった。
連れていかれたのは、お父様の部屋。
顔を上げると、お姉様と御義母様がいた。
「・・・ごめんなさい・・・。ちゃんと気をつけるわ・・・」
ともかく謝らないと。
申し訳なさで心臓がぎゅうっと痛んで、下を向いた。
誰とも目を合わせたくなかった。
だって、この部屋に入った瞬間、
"役立たず"
と責める眼差しを向けられたのが、すぐ分かったから……。
「まあ、いい。お前これからウインザー子爵家にメイドとして暫く行くことになる」
お父様の、背筋が凍るような楽しそうな声に寒気がした。
ウインザー子爵家?
聞いたこともない。
親戚でも知り合いでもない、全く知らない家。
「来い!」
怒鳴り声に、体がビクリと震えた。
叩かれる!
「何も言わず、ただメイドとして働いてくればいいんだ!! それくらい役に立て!! さっさと行け!!」
大声に、ひっ、と悲鳴が出た。
お姉様と御義母様の笑いが耳にこびりつき、胸が痛んだ。
ああ……さっき変な声を出してしまったからだ。
なんで私って、こんなダメなんだろう。
そうして私は、着の身着のまま、何一つ持たされず、ウインザー子爵家の前で、
ぽい、
されました。
私の前に座るその方が、眉間に深く皺を寄せ、鋭く睨み言った。
さっきも聞きました、その質問。
二度も同じ言葉を聞かされ、胸の奥がますます後ろめたくなり、顔を見る勇気もなく、自然と俯いた。
ぎゅっと握った自分の拳だけが目に入る。
「・・・あの・・・何も言わずここで暫くメイドとして働いてこいと言われて、降ろされました・・・」
さっきと同じ答えを、呼吸が苦しくなりながらもどうにか口にした。
「お前、自分が伯爵令嬢だとわかっているのか? あんな事、本気にするのか!?」
ガッチリした肉体を持つ白髪のおじ様がソファに座り、目を釣りあげ、私を真上から睨みつけてくる。
ただならぬ威圧感持っている方だった。
白髪まじりの髪を後ろに撫でつけたその男性は、年齢は六十を超えているように見えるのに、年寄りという印象がどうしても浮かばなかった。
背筋はまっすぐで、無駄な肉のない広い肩、分厚い胸板。
手の甲には硬く盛り上がった筋があり、その節ばった指がソファの肘掛を軽く叩くだけで、胸の奥まで響くような緊張が走る。
目は金茶色。
落ち葉のような優しい色のはずなのに、怒気を含むと刃物みたいに冷たく光るのに、何故か不思議に怖い、とは思わかなかったが、ともかく、とても疲労感ありありで、私を見つめてくる。
あんな事を本気にするのか?
その言葉に、心の中で小さく首を傾げた。
だって、私、理由を知らないもの。
でも、否定なんて出来ず、はい、と答えるしかなかった。
するとその方は大きくため息をつき、呆れ顔で天を仰いだ。
胸がきゅっと縮む。
なんだか、申し訳ありません。
***
遡ること、たった3時間前。
私はいつものように、御義母様とお姉様の昼食を準備し、2人が食事をしている間に、お姉様に頼まれているドレスの裾のほつれを自分の部屋で直していた。
窓から差し込む柔らかな午後の光が、針先に小さくきらめく。
静かな部屋の中で、自分の息遣いだけが妙に大きく聞こえた。
これが終わったら、さっさとお昼食べて、次はお姉様の部屋の掃除をしなきゃ。
昼食後、お茶を飲んでいる間に終わらせないといけない。
そうじゃないと、またお姉様に叱られてしまう。
だめだ、そんなの。
お姉様を怒らせるということは、私が至らないからだ。
トロいから、お姉様と御義母様を苛立たせてしまうんだ。
ほつれた場所を綺麗に三つ折りにして、待ち針を刺す。
色は、これが近いかな? それとも、こっちかな?
糸をいくつか並べ、ひとつを選んで針に刺す。
細かい作業に集中すると、少しだけ、心が落ち着く。
ここなら誰にも怒鳴られない。誰にも睨まれない。
ただ、静かに、針を進めていればいい。
お父様も同じように、私を見る度に大きなため息をつく。
役に立たないのだから屋敷の手伝いぐらいはできるだろ、と言われ、ずっと手伝っているけど、不手際が多くて、よく怒鳴られたり殴られたりする。
私、シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた、17歳。
双子の姉、シャーサーは、亡くなった綺麗なお母様にとても似ていて、ふわふわの金色の髪に青い瞳の、お人形のように可愛かった。
それに比べて私は……顔立ちは双子でよく似ているのに、黒い髪に赤い瞳で、吸血鬼みたいだと気味悪がられた。
それに、お姉様みたいに気立ても愛想もない。
社交界に出ても、どうやってお喋りすればいいのか分からなくて、鬱陶しがられた。
だから仕方ないよね。
お父様にしたら、笑えもしない娘は紹介したくない。
お姉様にしたら、暗くて愛想のない妹に周りが気を遣うのが嫌なんだ。
そんな私だもの、伯爵家に相応しくないと思われても仕方ない。
一年前、お父様が新しい御義母様を連れてきた。
とても若くて、綺麗で、三人で並ぶと本当の家族みたいで……絵のようだった。
だから、仕方ないよ。
私は、側にいない方がいい。
ぐぐううううううう、とお腹が鳴る。
お腹すいたな……。朝からスープを二口しか飲んでいない。
ダメだなあ。もっと朝食もゆっくり食べられるように、
さっ、
ぱっ、
と何でもできるようにならないと。
指先が少しだけ震える。
空腹で力が入りにくくて、針を持つ手に余計な力が入ってしまう。
でも、弱音は吐けない。文句も言えない。
ただ、もっと上手くやらなきゃ、と自分に言い聞かせるしかない。
メイド長のウィッグが手伝おうとすると、
私がノロマに見せてわざと手伝わせている、と御義母様とお姉様に叱られる。
それ以来、ウィッグは悲しそうな顔で私を見て、何も言えなくなった。
だから私は、なるべく自分の部屋でできることをしている。
ウィッグに迷惑や心配をかけちゃダメだもん。
あの時のウィッグの目を思い出すと、今でも胸が痛む。
謝りたかったけど、謝ればもっと迷惑をかけてしまう気がして、何も言えなかった。
だから、せめて、ひとりで頑張らなきゃ。
針を進める。一針、また一針。
丁寧に、丁寧に。
お姉様に怒られないように。殴られないように。
ただ、それだけを願いながら。
「ここにいたの! 早く来い!!」
突然扉が開き、お父様が部屋に入ってきた。
次の瞬間、髪の毛を掴まれた。
「・・・っ!!・・・・おとう・・・さま!!・・・あるけ・・・るから・・・離して・・・!!」
痛い。
でも離してくれない。
無理やり引っ張られて歩きにくくて、転びそうになる。
その拍子にさらに強く引っ張られ、涙が溢れた。
足がもつれて、廊下の壁に肩をぶつける。
痛みに思わず声が出そうになったけれど、ぐっと堪えた。
文句を言ったら、もっと怒られる。もっと痛い目に遭う。
ただ、ただ、引きずられるままについていくしかなかった。
連れていかれたのは、お父様の部屋。
顔を上げると、お姉様と御義母様がいた。
「・・・ごめんなさい・・・。ちゃんと気をつけるわ・・・」
ともかく謝らないと。
申し訳なさで心臓がぎゅうっと痛んで、下を向いた。
誰とも目を合わせたくなかった。
だって、この部屋に入った瞬間、
"役立たず"
と責める眼差しを向けられたのが、すぐ分かったから……。
「まあ、いい。お前これからウインザー子爵家にメイドとして暫く行くことになる」
お父様の、背筋が凍るような楽しそうな声に寒気がした。
ウインザー子爵家?
聞いたこともない。
親戚でも知り合いでもない、全く知らない家。
「来い!」
怒鳴り声に、体がビクリと震えた。
叩かれる!
「何も言わず、ただメイドとして働いてくればいいんだ!! それくらい役に立て!! さっさと行け!!」
大声に、ひっ、と悲鳴が出た。
お姉様と御義母様の笑いが耳にこびりつき、胸が痛んだ。
ああ……さっき変な声を出してしまったからだ。
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