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第2話呼び方
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「・・・理由を知らないのか」
ウインザー子爵様はソファで苛立ちを隠さず呟いた。
怒っているのがわかった。
私にではなく、お父様に、というのがひしひしと分かり、慌てて首を振った。
「あ、あの、理由は知りませんが、お父様がそこまで仰るということは、その、心中穏やかではない致し方ない理由があったからだと思います」
そうでなければ、こんな見ず知らずの屋敷のメイドなんて言わないと思う。
だって、やはりこの方は見たことがない。お父様の親戚にも、お母様の親戚にもいない。
だけれども、とても品格と威厳があり、雰囲気がこれまで見た方々と全く違った。
「それはそうだろう!!賭け事で負けて、その返済の代わりに娘を出す、と言われたんだ!!だが、そんなバカげた事を鵜呑みにする方が、もっと愚かだ!!」
賭け事。
愕然とした。
お母様が亡くなる時、ベッドの中で、賭け事はもうしないでね、分かった二度としない、と固く約束していた。
あの時涙を流しながら、お父様は何度も言っていた。
その言葉にお母様は安心して、見たこともない優しい微笑みを見せた。
それなのにお父様は、破った。
酷い。
「とりあえず、君は帰りなさい。送ってあげるから」
立ちあがりウインザー子爵様は私に言ったが、首を強く振った。
「ダメです!今帰れば、私・・・私は、やっぱり役立たずと怒られます!」
絶対に殴られる。
帰ればどうなるのか、その仕打ちが脳裏を駆け巡り目眩がした。
「それに、お父様がそう約束されたのであれば、私はここで働かないといけません!!お願いします!!家に帰れません!!少しでもいいんです!!一生懸命働きますので、置いてください!!」
必死に言って立ち上がり、頭を下げた。
帰れない。
帰ったらとても怒られる。
殴られるよりも、ウィッグに辛い顔をまた、させてしまう。
暫く嫌な沈黙が流れた。
苛立ちを彷彿させる息の吐き方が、耳につたわる。
どうしよう。明らかに困っている。
それはそうだ。
この方の言うように冗談を真に受けて、お父様は私をここに連れてきた。
けれど、ここで素直に「はい」と言って踵を返し屋敷に帰れない。
帰れば……。
胸がぎゅっと縮まり、呼吸が浅くなる。
「・・・分かった。君がそこまで言うなら、少し置いてあげよう。名前は?サヴォワ伯爵令嬢殿」
根負けしたようにため息をつき、私の側に来ると肩を叩いた。
その掌の重みは強くも弱くもなく、ただどこか戸惑いの気配を含んでいた。
「ありがとうございます。シャーリーと申します。ご主人様、ありがとうございます」
良かった。
ほっとして顔を上げると、眉を上げ不機嫌な顔はそのままで睨まれた。
けれど、どこか探るような目でもあった。
「シャーリーか。確認だが、父君は義父か?」
「いいえ、本当の父です。何故ですか?」
不思議な質問をする。
でも、ウインザー子爵様は頬を引き攣らせ、なんだかますます機嫌が悪くなってきた。
質問した本人ですら、その答えにどう反応すべきか分からないような迷いが滲んでいた。
「そうか。それなのにこんな事を、か。まあいい。シャーリー、私の事はご主人様とは呼ぶな。キャウリー様と呼びなさい。私の名はキャウリー・ウインザーだ。いいかい?ここで働くにしても、シャーリーは伯爵令嬢に変わりはない」
言葉は厳しいのに、どこか自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「・・・分かりました。ごしゅ・・・、いえ、キャウリー様ですね」
私の言葉に満足そうに頷いてくれた。
「それでいい。少し待ちなさい」
そう言うと、扉を開け誰かを呼んでいた。
その背中には、怒りとも困惑ともつかない影が揺れていた。
少しして、年配の女性が入ってきた。
「お呼びですか、ご主人様」
銀色の混じった灰色の髪を、一糸乱れぬようにきっちりとひとつに括っている。
歳月を刻んだ顔には細かな皺が刻まれていたが、それが気品を損なうことはなく、むしろ長年の経験と誇りを物語っているようだった。
神経質そうな細い顔立ちは、鼻筋が通り、頬骨が高く、若い頃はさぞ美しかったのだろうと想像できる。
背筋をぴんと伸ばし、線は細いが姿勢の良さが凛とした印象を与えている。
薄い唇は真一文字に結ばれ、一切の無駄を許さないような厳格さを漂わせていた。
しかし、深い皺の刻まれた目元には、どこか柔らかな光が宿っているようにも見えた。
入室と同時に、部屋の空気がわずかに引き締まり、それでいて安心感が広がる。
“長年この家を支えてきた人”というのが一目で分かる雰囲気だった。
「この子はシャーリーという。暫くこの屋敷でメイドとして働くことになった。シャーリー、この者は、メイド長のハザードだ。屋敷の事を教えてもらいなさい」
「分かりました。ハザード様」
メイド長を紹介してもらい、ここに本当に置いてもらえると安堵した。
「シャーリー、ハザード、だ。様はいらない。ハザード、シャーリーは伯爵令嬢だ。呼び方は気をつけるよう教えなさい」
「あ、あの・・・私はメイドとして来ました。それなら」
「シャーリー。よく聞くんだ。呼び方は、その者ではなく、呼んだ者の立場を左右する。いい意味でも悪い意味でも。分かるか?」
諭すように、真っ直ぐに私に質問した。
その声音には、先ほどよりいくぶん冷静さが戻っていた。
こくりと頷いた。
「わかります、キャウリー様。お母様がよく仰っておいででした。貴族とは無意識に優位に立ちたがる。どこでそれを判断するのかは、己をどう呼ぶか、と」
「その通りだ。良い母君だ。別に私がシャーリーに優っているとは正直思っていない。だが、シャーリーの立場を蔑ろにしたくはない。つまり、シャーリーがハザードを様付けするのに、ハザードが私をキャウリー様と呼ぶのはおかしいだろ?私を名で呼ぶということは、同等か、上に立つ者かどちらかだ。それなのに、私の屋敷のメイド長に様を付ける。それでは私の立場がない」
とてもよく理解できたし、キャウリー様はきちんと考えがある方なのだと思った。
「わかります、キャウリー様。ハザードと呼びます」
「宜しい。ハザード、では、後は頼んだ」
「はい、ご主人様。では、シャーリー様、こちらにどうぞ」
「はい。ハザード」
私の答えに、ハザードはとても満足そうに微笑んだ。
その瞬間、厳格な顔立ちがふっと和らぎ、深い皺の奥に慈しみのような温かさが滲んだ。
長年この屋敷を守ってきた者だけが持つ、静かな威厳と優しさ。
この人になら、きっと色々教えてもらえる。
そう思うと、少しだけ、胸の奥が温かくなった。
ウインザー子爵様はソファで苛立ちを隠さず呟いた。
怒っているのがわかった。
私にではなく、お父様に、というのがひしひしと分かり、慌てて首を振った。
「あ、あの、理由は知りませんが、お父様がそこまで仰るということは、その、心中穏やかではない致し方ない理由があったからだと思います」
そうでなければ、こんな見ず知らずの屋敷のメイドなんて言わないと思う。
だって、やはりこの方は見たことがない。お父様の親戚にも、お母様の親戚にもいない。
だけれども、とても品格と威厳があり、雰囲気がこれまで見た方々と全く違った。
「それはそうだろう!!賭け事で負けて、その返済の代わりに娘を出す、と言われたんだ!!だが、そんなバカげた事を鵜呑みにする方が、もっと愚かだ!!」
賭け事。
愕然とした。
お母様が亡くなる時、ベッドの中で、賭け事はもうしないでね、分かった二度としない、と固く約束していた。
あの時涙を流しながら、お父様は何度も言っていた。
その言葉にお母様は安心して、見たこともない優しい微笑みを見せた。
それなのにお父様は、破った。
酷い。
「とりあえず、君は帰りなさい。送ってあげるから」
立ちあがりウインザー子爵様は私に言ったが、首を強く振った。
「ダメです!今帰れば、私・・・私は、やっぱり役立たずと怒られます!」
絶対に殴られる。
帰ればどうなるのか、その仕打ちが脳裏を駆け巡り目眩がした。
「それに、お父様がそう約束されたのであれば、私はここで働かないといけません!!お願いします!!家に帰れません!!少しでもいいんです!!一生懸命働きますので、置いてください!!」
必死に言って立ち上がり、頭を下げた。
帰れない。
帰ったらとても怒られる。
殴られるよりも、ウィッグに辛い顔をまた、させてしまう。
暫く嫌な沈黙が流れた。
苛立ちを彷彿させる息の吐き方が、耳につたわる。
どうしよう。明らかに困っている。
それはそうだ。
この方の言うように冗談を真に受けて、お父様は私をここに連れてきた。
けれど、ここで素直に「はい」と言って踵を返し屋敷に帰れない。
帰れば……。
胸がぎゅっと縮まり、呼吸が浅くなる。
「・・・分かった。君がそこまで言うなら、少し置いてあげよう。名前は?サヴォワ伯爵令嬢殿」
根負けしたようにため息をつき、私の側に来ると肩を叩いた。
その掌の重みは強くも弱くもなく、ただどこか戸惑いの気配を含んでいた。
「ありがとうございます。シャーリーと申します。ご主人様、ありがとうございます」
良かった。
ほっとして顔を上げると、眉を上げ不機嫌な顔はそのままで睨まれた。
けれど、どこか探るような目でもあった。
「シャーリーか。確認だが、父君は義父か?」
「いいえ、本当の父です。何故ですか?」
不思議な質問をする。
でも、ウインザー子爵様は頬を引き攣らせ、なんだかますます機嫌が悪くなってきた。
質問した本人ですら、その答えにどう反応すべきか分からないような迷いが滲んでいた。
「そうか。それなのにこんな事を、か。まあいい。シャーリー、私の事はご主人様とは呼ぶな。キャウリー様と呼びなさい。私の名はキャウリー・ウインザーだ。いいかい?ここで働くにしても、シャーリーは伯爵令嬢に変わりはない」
言葉は厳しいのに、どこか自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「・・・分かりました。ごしゅ・・・、いえ、キャウリー様ですね」
私の言葉に満足そうに頷いてくれた。
「それでいい。少し待ちなさい」
そう言うと、扉を開け誰かを呼んでいた。
その背中には、怒りとも困惑ともつかない影が揺れていた。
少しして、年配の女性が入ってきた。
「お呼びですか、ご主人様」
銀色の混じった灰色の髪を、一糸乱れぬようにきっちりとひとつに括っている。
歳月を刻んだ顔には細かな皺が刻まれていたが、それが気品を損なうことはなく、むしろ長年の経験と誇りを物語っているようだった。
神経質そうな細い顔立ちは、鼻筋が通り、頬骨が高く、若い頃はさぞ美しかったのだろうと想像できる。
背筋をぴんと伸ばし、線は細いが姿勢の良さが凛とした印象を与えている。
薄い唇は真一文字に結ばれ、一切の無駄を許さないような厳格さを漂わせていた。
しかし、深い皺の刻まれた目元には、どこか柔らかな光が宿っているようにも見えた。
入室と同時に、部屋の空気がわずかに引き締まり、それでいて安心感が広がる。
“長年この家を支えてきた人”というのが一目で分かる雰囲気だった。
「この子はシャーリーという。暫くこの屋敷でメイドとして働くことになった。シャーリー、この者は、メイド長のハザードだ。屋敷の事を教えてもらいなさい」
「分かりました。ハザード様」
メイド長を紹介してもらい、ここに本当に置いてもらえると安堵した。
「シャーリー、ハザード、だ。様はいらない。ハザード、シャーリーは伯爵令嬢だ。呼び方は気をつけるよう教えなさい」
「あ、あの・・・私はメイドとして来ました。それなら」
「シャーリー。よく聞くんだ。呼び方は、その者ではなく、呼んだ者の立場を左右する。いい意味でも悪い意味でも。分かるか?」
諭すように、真っ直ぐに私に質問した。
その声音には、先ほどよりいくぶん冷静さが戻っていた。
こくりと頷いた。
「わかります、キャウリー様。お母様がよく仰っておいででした。貴族とは無意識に優位に立ちたがる。どこでそれを判断するのかは、己をどう呼ぶか、と」
「その通りだ。良い母君だ。別に私がシャーリーに優っているとは正直思っていない。だが、シャーリーの立場を蔑ろにしたくはない。つまり、シャーリーがハザードを様付けするのに、ハザードが私をキャウリー様と呼ぶのはおかしいだろ?私を名で呼ぶということは、同等か、上に立つ者かどちらかだ。それなのに、私の屋敷のメイド長に様を付ける。それでは私の立場がない」
とてもよく理解できたし、キャウリー様はきちんと考えがある方なのだと思った。
「わかります、キャウリー様。ハザードと呼びます」
「宜しい。ハザード、では、後は頼んだ」
「はい、ご主人様。では、シャーリー様、こちらにどうぞ」
「はい。ハザード」
私の答えに、ハザードはとても満足そうに微笑んだ。
その瞬間、厳格な顔立ちがふっと和らぎ、深い皺の奥に慈しみのような温かさが滲んだ。
長年この屋敷を守ってきた者だけが持つ、静かな威厳と優しさ。
この人になら、きっと色々教えてもらえる。
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