何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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寝れない

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寝よう。
明日はお昼寝しないようにしないとね。
アンナの言うように、あっちはあっち、こっちはこっち。
私があっちで失敗した事を皆は知らない。
だったら、こっちで、同じ失敗を繰り返さなくなったら、サヴォワ家に直ぐに戻れるかもしれない。
そうしたら、皆が、私を怒らなくなるかもしれない。
頑張ろう。
クローゼットの化粧台から立ち上がり振り返ると、やっと自分が頂いた部屋がとても広く豪華だとわかった。
巧みに織りなされた絨毯が、床一面を覆い尽くしている。繊細な花々や複雑な模様が描かれたその絨毯は、美術館の一つの作品のような気分になる。
広々とした部屋には、高級な家具が絶妙な配置で配されて、その家具一つ一つに見事な彫刻が施されている。
明らかにサヴォワ家とは、格が違う品物ばかりだ。
壮麗と言うよりも華厳と言った方が似合う家具ばかりだ。
キャウリー様は一体どんな人なのだろう?
ウィンザー子爵、という名をこれまで何度も考えたが、知らない。
いや、お母様が亡くなってからは貴族社会から遠のいているから疎いが、もし、高貴な方ならお父様の態度が違う筈だ。
まあ、いいか。暫くご厄介になるのだから、何か分かるかもしれない。
うーん、と伸びをして寝室のベッドに潜り込んだ。
ベッドも、布団も、フカフカで、こんなに身体が沈むのか、と思うほど沈むがとても気持ちいい。
天蓋のレースが、月明かりに揺れている。
綺麗だな。
目を閉じる。
でも、眠れない。
ゆっくり寝られる、と思うが、人間というのは正直だ。布団が変わると逆に寝られない。
目を開ける。
天井を見つめる。
天井が高い。
サヴォワ家の私の部屋とは、全く違う。
あっち向き、こっち向き、寝返りを打つ。
柔らかすぎて、逆に落ち着かない。
いや、柔らかいのは気持ちいい。
でも、慣れない。
また寝返りを打つ。
静かだ。
静かすぎる。
サヴォワ家では、いつも誰かの足音が聞こえた。
お父様とお姉様達の楽しい笑い声が、聞こえた。
私の部屋は端だったから、余計に聞こえた。
でも、ここは静か。
廊下も静か。
部屋も静か。
また寝返りを打つ。
羊を数えてみようか。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・。
駄目だ。
余計に目が覚める。
目を開けて、また天井を見る。
月明かりが、カーテンの隙間から差し込んでいる。
今日は、色々あった。
厨房で働いた。
ノーセットと出会った。
アンナと話した。
ハザードに色々教えてもらった。
思い出すと、また眠れなくなる。
ふと廊下でワゴンが動く音が聞こえた。
音?
静かだった廊下に、音がする。
時計を見ると九時三十分。
こんな時間に、誰だろう。
キャウリー様の夜食か何かかな?お父様もお酒が好きでよく飲んでいたもの。
気になって、ベッドを出た。
寝間着のまま、そっと寝室の扉を開ける。
居間を通り、部屋の扉をそっと開けて、廊下を見る。
アンナがワゴンを押してどこかへ向かっていた。
「アンナ・・・」
「ひえっ!!!な、なんだ・・・シャーリー様ですか・・・。もうびっくりさせないで下さいよ。こんな時間に声かける人いないんですから驚きました」
「ご、ごめんなさい・・・」
今の、ごめんなさいはあってるよね、うん。
ワゴンにクローシュとアイスペールが乗っていたのでやはり、お酒を飲む準備をしている、と確信はしたけど、中身を見たかった。
「その中身は?」
「中身ですか?これです」
アンナが不思議そうにクローシュを開けると、野菜のスティックとカットチーズが出てきた。
やっぱり。
料理長は夕食作りが終わると帰っていく。余程夜会やパーティがない限り、屋敷に残らない。基本調理場は料理長の許可がなければ使用は出来ないが、勿論屋敷の家族や許可を得ている人間なら問題ない。
けれど、この中身では誰かが作ってくれている訳ではない。
料理長が簡単なおつまみを作って帰る、というのが普通だ。
つまり、これ、だ。
でも、これじゃあ物足りない。
調理場に沢山のしょくざいがあったから、お酒に合うものを、
私、作れる。
うずうずする。
手が、疼く。
作りたい。
「あ、あの!」
「はい!?」
「私、少し作ってきますので、キャウリー様にそうお伝えください!!」
もう、じっとしていられなくて、アンナの驚いた顔を横目で見ながら、もう一度部屋に戻り、メイド服に着替え調理場に向かった。
怒られるかもしれないけど、それは、それで、明日考えよう。
眠れないなら、何か作ろう。
それが、一番いい。
廊下を走る。
心臓が高鳴る。
でも、怖くない。
今度は、ワクワクする高鳴りだ。
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