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第40話オーリュゥン・イエーガー
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好きなように時間を過ごせ、という意味合いで言われていると理解したから、周りを見て床がぐらり、と揺れる感じにふらついた。
私、
一人で行って大丈夫?
周りを見渡す。
御義父様は、まだ3人の方々と話し込んでいる。
ノーセットは、子供たちと楽しそうに遊んでいる。
ハザードは、今日は来ていない。
私、ひとり、だ。
私、一人だ。
足元が、ふわりと揺らぐ。
心臓が、早く打つ。
冷や汗が、背中を伝う。
大丈夫。
大丈夫。
でも、足が動かない。
あの家で、一人でいる時。
何かをしてしまったら。
何か失敗したら。
家に帰ると、罵倒を浴びせられた。
「お前は何をやってもダメだ」
「余計な事をするな」
「お前のせいで」
そして、叩かれた。
手が、震える。
息が、浅くなる。
ほんの、些細な出来事だった。
いつものようにシャーサーの事を知りたい令息が私に近づいてきて、「趣味は何ですか?」と質問したのに、答えられなかった。
趣味、なんて無いもの。
いつもすぐに飽きて投げ出して、
でも、
当然それを表に出すことはできないから、適当に答えなさいよ、
と言われていた。
でも、
ウソ、
つけない。
でも、
ウソ、
つかないといけない。
刺繍?
ピアノ?
お菓子作り?
ヴァイオリン?
何?
どれもこれも、何一つまともに続かないのを知っている。
でも、適当に答えて、
「どうしてそんなふうに答えたの!?」
とシャーサーに怒鳴られ、お父様に殴られた。
そして、まともに答えもできない要領の悪いヤツだ、と卑下された。
じゃあ、どの答えが正しいの?
そんな事を思考している間に、シャーサーの事を聞いてきた方に答えをあぐねている間に、噂通りの言葉の通じない方だ、と揶揄を込めて言われ大きなため息と共に去っていかれる。
だめ、だ。
昔みたいに誰かに声をかけられて、まともに返せず、もしくは下手に返して、失望されたらどうしよう。
周りを見ると、少し離れた場所で虎視眈々とこちらを見つめる方々ばかりで、足がすくんだ。
御義父様たちの近くにいよう。
別に誰かと話したい訳じゃないし、知り合いも居ない。
カルヴァン様が来ると言っていたもの。大人しく待ってよう。
胸が息苦しくなり、ドキドキする。
怖い。
なにかして、御義父様に嫌われるのが怖い。
御義父様の見える範囲で、私は、行ったりきたりを繰り返した。
時間を潰し、皆さんのところへ戻ると、どなたかがイエーガー侯爵様にご挨拶されていた。
見た事ある様な顔だけど、誰?
周りは、華やかな衣装を纏った貴族たちで溢れている。
会話の声、笑い声、グラスの触れ合う音。
そして、甘い香水の匂い。
「ナリッシュ王子だ」
御義父様が、いつの間にか近くに来て小さく教えてくれた。
第一王子だ。
はあ、やはり大臣だと、それなりの方が来賓客になるのか。
王子は、金色の刺繍が施された深い青の礼服を着ている。
胸元には、王家の紋章。
優雅に、イエーガー侯爵様と会話をしている。
近くにおられる方々に挨拶を終え、こちらに来られた。
御義父様の顔を見ると、大丈夫だ、と小さく頷き私の前に立ってくれた。
背筋を伸ばして下さい。
ハザードの声が聞こえた気がして、慌てて背筋を伸ばし扇子を広げる。
「ご機嫌よう、ウインザー子爵様。宜しければ、ご紹介頂ければと思っております」
私に微笑みながら、御義父様に伺う。
「ご機嫌ようナリッシュ様。勿論です。シャーリー、こちらへおいで」
扇子を閉じ、深呼吸。
落ち着いて。
「お初にお目にかかります、シャーリー・ウインザーと申します」
軽く会釈し、震える声で、どうにか微笑んだ。
まさか王子と挨拶するなんて思ってないもの。
「ありがとうございます。私はナリッシュ・マジャリと申します。以後お見知りおきを。もしよろしければ」
「ナリッシュ様。あちらでまだご挨拶が済んでおられない方がおりますよね」
御義父様が、有無を言わさない強い口調で、微笑んだ。
ビクリと、王子の顔が一瞬引き攣った。
でも、すぐに穏やかな顔に戻る。
「そうでした。気を使って頂きありがとうございます。では、またの機会にお話を致しましょう」
もうこちらの返事を聞くことも無く、それだけ言うと去って行かれた。
去れ、という事か。
それも、第一王子に対して。
御義父様、凄い。
「ウインザー様、では、私は如何でしょうか?」
低く、落ち着いた声。
「・・・オーリュゥンか・・・」
ため息と、とても嫌そうで、仕方なさそうな?不思議な感情で御義父様が返事をした。
先程挨拶した方のひとりだ。そして一緒にイエーガー侯爵様がいる。
「どうした・・・私の孫も・・・参戦させよう・・・と思ってな。そんな顔・・・するな。ますます・・・面白く・・・なるだろうが」
イエーガー侯爵様が、ゆっくりと言う。
「待てよ!どういう事だ?カルヴァンを勧めるんじゃなかったのか?」
サーヴァント公爵様が何故か慌ててやってきて、乱暴に言う。
「ふん・・・いい娘を見て・・・孫に勧めるのは・・・お爺の・・・役目だろうが。お前だけが・・・シャーリーに・・・合う孫を・・・持っている・・・訳では・・・無い」
「待て!お前たち、私の娘だ!!」
御義父様が、声を荒げる。
その通りでございます。
というか、
「はい、御義父様。私は御義父様が選ばれた方が良いと思っています」
素直にそう答えると、御義父様は安心したように頷き、お2人は、ムッとした。
「お前・・・どこまで・・・手懐けるんだ」
イエーガー侯爵様が、ゆっくりと言う。
「イエーガー侯爵様、少し違います。私を拾ってくださったのは紛れもなく御義父様です。そのお陰で私は、ここにいます。御義父様が私にとって全てでございます」
「シャーリー、違うだろ?己の意思で決めるべきだろう?」
「はい、サーヴァント公爵様。私の意思は、御義父様の意思でございます。つまり、御義父様の意思が、私の意思でございますので、御義父様が選ぶべきでございます」
「ふむ。シャーリー、よく言った。つまり、私が気に入らなければ、私とノーセットの側にいるのだな」
御義父様が満足そうに言う。
「勿論です」
それはそれで、嬉しい。一生あの家で皆で過ごせる。
「待ち、なさい」
「待て!」
「何がだ。お前達こそ、相応しい娘を、と前々から吟味していただろう?その中から選べばいいだろう?」
「だから、シャーリーなんだろう!?」
「スクルト・・・カルヴァンと・・・シャーリーが・・・出かけた・・・のだろう?では・・・次は・・・オーリュゥンだ」
穏やかでゆっくりながらも最後の言葉に覇気を感じる。
なんか・・・ややこしくなりそうだな。
ちらりと、オーリュゥン様を見ると、我関せずとばかりに、持っていたワインを飲んでいた。
背が高い。
御義父様と同じくらい。
肩幅が広く、がっしりとした体格。
まさに、騎士、という感じ。
礼服を着ているけど、その下の筋肉が分かる。
顔は、精悍。
鋭い、深い茶色の目。
まるで大地のような、力強い色。
カルヴァン様の銀色の瞳とは正反対だ。
高い鼻。
引き締まった顎。
そして、綺麗に日焼けした褐色の肌。
健康的で、生命力に溢れている。
短く刈り込んだ黒髪。
きっと、訓練の邪魔にならないようにだろう。
カルヴァン様の、長く美しい銀髪とは対照的。
月光のような美しさと、太陽のような力強さ。
繊細と豪快。
静と動。
まるで、正反対の二人。
オーリュゥン様は、確かに素敵だと思う。
うーん。
もう一度、顔を見る。
うん、興味ない。
このまま、去ろう。
面倒な事になりそうだ。
別にカルヴァン様が嫌いではないが、御義父様がどう思っているのか分からないもの。
私は御義父様が、決めた方なら、信じられるもの。
さて、パーティーが始まるのはもう少ししてからだから、
それなら、
キラリーン!
何か食べよう。
食事は別室に用意してあり、このホールでは飲み物しか用意されていない。
そろそろ食事の準備がされている時間だ。
別室もすぐそこの扉から行けるようになっていて、この身内だけしか入れないようになっている、と御義父様が説明してくれた。
他の来賓の方は、また違う部屋に食事が用意してある。
つまるところ、自由に食べれます。
えへへ。
どんな物が用意してるんだろう。
ワクワクする。
でも、少し待って。
私、一人で行って大丈夫かな?
周りを見渡す。
御義父様は、話し込んでいる。
ノーセットは、子供たちと楽しそうに遊んでいる。
ハザードは、今日は来ていない。
本当は御義父様とノーセットと一緒に楽しみたいけれど、御義父様に今声をかけると、巻き込まれそうだ。
仕方ない。ひとりで食事、行こう。
「シャーリー、話しが終わってないと思うんだが」
うっ。
なんで、ついてくるの?
振り返ると、オーリュゥン様が立っていた。
「・・・オーリュゥン様・・・」
オーリュゥン・イエーガー。
イエーガー侯爵様の孫息子だ。
それも、騎士団副隊長で、25歳。
つまり、御義父様の教え子だ。
騎士団というのもあり、御義父様のようにとても筋肉質の体。
精悍で、男らしい。
カルヴァン様の、繊細で美しい顔立ちに比べ、オーリュゥン様は力強く、野性的。
現に綺麗に日焼けた褐色の肌は、勇ましく素敵だった。
鋭い目が、私を見ている。
深い茶色の瞳。
でも、その目は、どこか優しい。
先程の挨拶の時に、「名前で」と言われたので呼ばせて頂いた。
確かに素敵だとは思ったが、興味はない。
くっと、可笑しそうに笑いだした。
なに?
「不思議な女性だな。私を見て、あからさまに嫌そうな顔するとは」
はあ。
確かにあなたの立場なら声をかけたい女性は沢山いるでしょう。
なんだかどこかで聞いたセリフだわ。
「そんなに警戒するな。私も警戒していたんだ。お爺様がどうしても話をしなさいと、煩く言われてたから、どんな女性かと思ってね」
またまた、何処かで聞いた話だな。
「では、もう話しはしましたのでお約束は守れたかと。これで失礼致します」
軽く裾を持ち会釈し、踵を返した。
食事!!
「待て!!」
「・・・如何いたしました?」
なによ、もう。
「オーリュゥン様!!」
丁度その時、女性の声がした。
高い、甲高い声。
「呼ばれていますよ」
よし!!
「何だ、その顔は。何故嬉しそうなんだ」
「申し訳ありません。素直な心が顔に出てしまったのですね。ほら、用があるようですよ」
にこやかに微笑むと、ムッとされた。
1人の女性がこちらに歩いてきた。
ピンクのドレス。
金色の髪。
でも、少し離れた場所で、挙動不審の動きになり止まった。
それ以上足を踏み入れるのを躊躇しているのだ。
私と、オーリュゥン様を、交互に見ている。
「お待ちですよ」
どうぞ。
「・・・こんな事なら、約束などしなければ良かった・・・。では後ほど」
いえいえ、女性に呼ばれていますのに、そんな野暮な事は致しません。
でも、
「はい、では後ほど」
社交辞令の微笑みでそうお返しした。
オーリュゥン様が、ため息をつきながら、女性の方へ向かう。
その背中を見送る。
さて、やっと食事!!
心の中でガッツポーズをした瞬間…。
「・・・シャーリー」
この声・・・。
まさか。
心臓が、どきんと跳ねる。
嫌な予感。
ゆっくりと、振り返る。
「・・・ルーン」
私、
一人で行って大丈夫?
周りを見渡す。
御義父様は、まだ3人の方々と話し込んでいる。
ノーセットは、子供たちと楽しそうに遊んでいる。
ハザードは、今日は来ていない。
私、ひとり、だ。
私、一人だ。
足元が、ふわりと揺らぐ。
心臓が、早く打つ。
冷や汗が、背中を伝う。
大丈夫。
大丈夫。
でも、足が動かない。
あの家で、一人でいる時。
何かをしてしまったら。
何か失敗したら。
家に帰ると、罵倒を浴びせられた。
「お前は何をやってもダメだ」
「余計な事をするな」
「お前のせいで」
そして、叩かれた。
手が、震える。
息が、浅くなる。
ほんの、些細な出来事だった。
いつものようにシャーサーの事を知りたい令息が私に近づいてきて、「趣味は何ですか?」と質問したのに、答えられなかった。
趣味、なんて無いもの。
いつもすぐに飽きて投げ出して、
でも、
当然それを表に出すことはできないから、適当に答えなさいよ、
と言われていた。
でも、
ウソ、
つけない。
でも、
ウソ、
つかないといけない。
刺繍?
ピアノ?
お菓子作り?
ヴァイオリン?
何?
どれもこれも、何一つまともに続かないのを知っている。
でも、適当に答えて、
「どうしてそんなふうに答えたの!?」
とシャーサーに怒鳴られ、お父様に殴られた。
そして、まともに答えもできない要領の悪いヤツだ、と卑下された。
じゃあ、どの答えが正しいの?
そんな事を思考している間に、シャーサーの事を聞いてきた方に答えをあぐねている間に、噂通りの言葉の通じない方だ、と揶揄を込めて言われ大きなため息と共に去っていかれる。
だめ、だ。
昔みたいに誰かに声をかけられて、まともに返せず、もしくは下手に返して、失望されたらどうしよう。
周りを見ると、少し離れた場所で虎視眈々とこちらを見つめる方々ばかりで、足がすくんだ。
御義父様たちの近くにいよう。
別に誰かと話したい訳じゃないし、知り合いも居ない。
カルヴァン様が来ると言っていたもの。大人しく待ってよう。
胸が息苦しくなり、ドキドキする。
怖い。
なにかして、御義父様に嫌われるのが怖い。
御義父様の見える範囲で、私は、行ったりきたりを繰り返した。
時間を潰し、皆さんのところへ戻ると、どなたかがイエーガー侯爵様にご挨拶されていた。
見た事ある様な顔だけど、誰?
周りは、華やかな衣装を纏った貴族たちで溢れている。
会話の声、笑い声、グラスの触れ合う音。
そして、甘い香水の匂い。
「ナリッシュ王子だ」
御義父様が、いつの間にか近くに来て小さく教えてくれた。
第一王子だ。
はあ、やはり大臣だと、それなりの方が来賓客になるのか。
王子は、金色の刺繍が施された深い青の礼服を着ている。
胸元には、王家の紋章。
優雅に、イエーガー侯爵様と会話をしている。
近くにおられる方々に挨拶を終え、こちらに来られた。
御義父様の顔を見ると、大丈夫だ、と小さく頷き私の前に立ってくれた。
背筋を伸ばして下さい。
ハザードの声が聞こえた気がして、慌てて背筋を伸ばし扇子を広げる。
「ご機嫌よう、ウインザー子爵様。宜しければ、ご紹介頂ければと思っております」
私に微笑みながら、御義父様に伺う。
「ご機嫌ようナリッシュ様。勿論です。シャーリー、こちらへおいで」
扇子を閉じ、深呼吸。
落ち着いて。
「お初にお目にかかります、シャーリー・ウインザーと申します」
軽く会釈し、震える声で、どうにか微笑んだ。
まさか王子と挨拶するなんて思ってないもの。
「ありがとうございます。私はナリッシュ・マジャリと申します。以後お見知りおきを。もしよろしければ」
「ナリッシュ様。あちらでまだご挨拶が済んでおられない方がおりますよね」
御義父様が、有無を言わさない強い口調で、微笑んだ。
ビクリと、王子の顔が一瞬引き攣った。
でも、すぐに穏やかな顔に戻る。
「そうでした。気を使って頂きありがとうございます。では、またの機会にお話を致しましょう」
もうこちらの返事を聞くことも無く、それだけ言うと去って行かれた。
去れ、という事か。
それも、第一王子に対して。
御義父様、凄い。
「ウインザー様、では、私は如何でしょうか?」
低く、落ち着いた声。
「・・・オーリュゥンか・・・」
ため息と、とても嫌そうで、仕方なさそうな?不思議な感情で御義父様が返事をした。
先程挨拶した方のひとりだ。そして一緒にイエーガー侯爵様がいる。
「どうした・・・私の孫も・・・参戦させよう・・・と思ってな。そんな顔・・・するな。ますます・・・面白く・・・なるだろうが」
イエーガー侯爵様が、ゆっくりと言う。
「待てよ!どういう事だ?カルヴァンを勧めるんじゃなかったのか?」
サーヴァント公爵様が何故か慌ててやってきて、乱暴に言う。
「ふん・・・いい娘を見て・・・孫に勧めるのは・・・お爺の・・・役目だろうが。お前だけが・・・シャーリーに・・・合う孫を・・・持っている・・・訳では・・・無い」
「待て!お前たち、私の娘だ!!」
御義父様が、声を荒げる。
その通りでございます。
というか、
「はい、御義父様。私は御義父様が選ばれた方が良いと思っています」
素直にそう答えると、御義父様は安心したように頷き、お2人は、ムッとした。
「お前・・・どこまで・・・手懐けるんだ」
イエーガー侯爵様が、ゆっくりと言う。
「イエーガー侯爵様、少し違います。私を拾ってくださったのは紛れもなく御義父様です。そのお陰で私は、ここにいます。御義父様が私にとって全てでございます」
「シャーリー、違うだろ?己の意思で決めるべきだろう?」
「はい、サーヴァント公爵様。私の意思は、御義父様の意思でございます。つまり、御義父様の意思が、私の意思でございますので、御義父様が選ぶべきでございます」
「ふむ。シャーリー、よく言った。つまり、私が気に入らなければ、私とノーセットの側にいるのだな」
御義父様が満足そうに言う。
「勿論です」
それはそれで、嬉しい。一生あの家で皆で過ごせる。
「待ち、なさい」
「待て!」
「何がだ。お前達こそ、相応しい娘を、と前々から吟味していただろう?その中から選べばいいだろう?」
「だから、シャーリーなんだろう!?」
「スクルト・・・カルヴァンと・・・シャーリーが・・・出かけた・・・のだろう?では・・・次は・・・オーリュゥンだ」
穏やかでゆっくりながらも最後の言葉に覇気を感じる。
なんか・・・ややこしくなりそうだな。
ちらりと、オーリュゥン様を見ると、我関せずとばかりに、持っていたワインを飲んでいた。
背が高い。
御義父様と同じくらい。
肩幅が広く、がっしりとした体格。
まさに、騎士、という感じ。
礼服を着ているけど、その下の筋肉が分かる。
顔は、精悍。
鋭い、深い茶色の目。
まるで大地のような、力強い色。
カルヴァン様の銀色の瞳とは正反対だ。
高い鼻。
引き締まった顎。
そして、綺麗に日焼けした褐色の肌。
健康的で、生命力に溢れている。
短く刈り込んだ黒髪。
きっと、訓練の邪魔にならないようにだろう。
カルヴァン様の、長く美しい銀髪とは対照的。
月光のような美しさと、太陽のような力強さ。
繊細と豪快。
静と動。
まるで、正反対の二人。
オーリュゥン様は、確かに素敵だと思う。
うーん。
もう一度、顔を見る。
うん、興味ない。
このまま、去ろう。
面倒な事になりそうだ。
別にカルヴァン様が嫌いではないが、御義父様がどう思っているのか分からないもの。
私は御義父様が、決めた方なら、信じられるもの。
さて、パーティーが始まるのはもう少ししてからだから、
それなら、
キラリーン!
何か食べよう。
食事は別室に用意してあり、このホールでは飲み物しか用意されていない。
そろそろ食事の準備がされている時間だ。
別室もすぐそこの扉から行けるようになっていて、この身内だけしか入れないようになっている、と御義父様が説明してくれた。
他の来賓の方は、また違う部屋に食事が用意してある。
つまるところ、自由に食べれます。
えへへ。
どんな物が用意してるんだろう。
ワクワクする。
でも、少し待って。
私、一人で行って大丈夫かな?
周りを見渡す。
御義父様は、話し込んでいる。
ノーセットは、子供たちと楽しそうに遊んでいる。
ハザードは、今日は来ていない。
本当は御義父様とノーセットと一緒に楽しみたいけれど、御義父様に今声をかけると、巻き込まれそうだ。
仕方ない。ひとりで食事、行こう。
「シャーリー、話しが終わってないと思うんだが」
うっ。
なんで、ついてくるの?
振り返ると、オーリュゥン様が立っていた。
「・・・オーリュゥン様・・・」
オーリュゥン・イエーガー。
イエーガー侯爵様の孫息子だ。
それも、騎士団副隊長で、25歳。
つまり、御義父様の教え子だ。
騎士団というのもあり、御義父様のようにとても筋肉質の体。
精悍で、男らしい。
カルヴァン様の、繊細で美しい顔立ちに比べ、オーリュゥン様は力強く、野性的。
現に綺麗に日焼けた褐色の肌は、勇ましく素敵だった。
鋭い目が、私を見ている。
深い茶色の瞳。
でも、その目は、どこか優しい。
先程の挨拶の時に、「名前で」と言われたので呼ばせて頂いた。
確かに素敵だとは思ったが、興味はない。
くっと、可笑しそうに笑いだした。
なに?
「不思議な女性だな。私を見て、あからさまに嫌そうな顔するとは」
はあ。
確かにあなたの立場なら声をかけたい女性は沢山いるでしょう。
なんだかどこかで聞いたセリフだわ。
「そんなに警戒するな。私も警戒していたんだ。お爺様がどうしても話をしなさいと、煩く言われてたから、どんな女性かと思ってね」
またまた、何処かで聞いた話だな。
「では、もう話しはしましたのでお約束は守れたかと。これで失礼致します」
軽く裾を持ち会釈し、踵を返した。
食事!!
「待て!!」
「・・・如何いたしました?」
なによ、もう。
「オーリュゥン様!!」
丁度その時、女性の声がした。
高い、甲高い声。
「呼ばれていますよ」
よし!!
「何だ、その顔は。何故嬉しそうなんだ」
「申し訳ありません。素直な心が顔に出てしまったのですね。ほら、用があるようですよ」
にこやかに微笑むと、ムッとされた。
1人の女性がこちらに歩いてきた。
ピンクのドレス。
金色の髪。
でも、少し離れた場所で、挙動不審の動きになり止まった。
それ以上足を踏み入れるのを躊躇しているのだ。
私と、オーリュゥン様を、交互に見ている。
「お待ちですよ」
どうぞ。
「・・・こんな事なら、約束などしなければ良かった・・・。では後ほど」
いえいえ、女性に呼ばれていますのに、そんな野暮な事は致しません。
でも、
「はい、では後ほど」
社交辞令の微笑みでそうお返しした。
オーリュゥン様が、ため息をつきながら、女性の方へ向かう。
その背中を見送る。
さて、やっと食事!!
心の中でガッツポーズをした瞬間…。
「・・・シャーリー」
この声・・・。
まさか。
心臓が、どきんと跳ねる。
嫌な予感。
ゆっくりと、振り返る。
「・・・ルーン」
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