何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

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第53話ウイッグ目線1

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「ええ!!まじ!?」
「まじ、まじ!!シャーサー様が、今度行く夜会に私を連れてってくれるんだって。それも、カミュセシ侯爵家だよ!」
「いいなあ。でも、なんでなんで?あんたなんか連れて行くの?」
客間を掃除していると、若いメイド二人がそんな会話をしていた。
最近入ったばかりの、お喋り好きで噂話が大好物、そしてシャーサー様好みの若者だ。
いつも口ばかりで手が動かない。
初めの頃は注意していたが、聞く耳を持たないのか、それともやる気がないのか、まともに仕事をこなさない。
注意すること自体が馬鹿馬鹿しくなって、今ではもう放ってある。
それに、少しでも注意すると、すぐシャーサー様の元へ行き、私に虐められていると告げ口をする。
そうすると、私の教え方が悪いからだ、と酷く叱責され、ひとりで掃除をするよう命じられる。
けれど、別段叱責される事も、掃除をひとりでする事に対して憤慨などしない。
逆にひとりでした方が、確実に綺麗に掃除ができる。
呼び出され、泣きわめく若いメイドの話を聞き、叱責される、という無駄な時間がとても面倒なのだ。
時間は有限なのだ。
「なんかね、カミュセシ侯爵様のご子息のケイト様に気に入られて招待されたんだって。でも、今回初めてケイト様の夜会に招待されて、初めてだと心細いだろうから、気の知れたメイドを連れてきたら、だって」
「ここは終わったので、隣の客室に行きましょう」
「え?あ、はーい」
「はーい。それでそれで?」
返事はするが、後ろをついてくるだけで、やはり仕事をする気はない。
「どうも若い人ばかり集まるらしくてね、年頃の女性だと親が心配するから、だって。同じくらいの年頃の男性もいるからだって。優しい人よね、ってシャーサー様が惚気てたわ。それに素敵な人みたいだから、楽しみ」
「え!!次は私を連れて行ってもらえるように頼もう」
「だね。これもシャーサー様だからだよねえ。シャーリー様はこんな事絶対ないもんねぇ。あの人陰気だもん」
急に言い方を変え、はっきりと私に向けて言う。
ため息しか出ない。
さて、仕事仕事。
シャーリー様がこの屋敷を出て、まだ一年も経っていない。
それなのに、その短い間に、シャーリー様はウィンザー子爵様の養女となられた。
あの時の、最後にお見送りしたシャーリー様のお姿を思い出すだけで、今でも胸が締めつけられ、涙が溢れてくる。
亡くなられた奥様の危惧通り、ご主人様は賭け事にうつつを抜かし、結局、その代償を払うことになったのはシャーリー様だった。
ご主人様には怒りを通り越して、
ただ、
この方は、なんと悲しい人なのだろう、そう思った。
その悪行に皆が嫌気をさし、召使いたちは次々と辞めていった。
今、この屋敷に残っているのは、私と料理長だけだ。
いや、料理長でさえ、何度も辞したいと申し出ている。
ただ、ご主人様がシャーリー様の料理を気に入っていて、あの味を作れるのが今の料理長しかいない、という理由だけで引き止められているに過ぎない。
だが、もし私が辞めたら、料理長もすぐに辞めるだろう。
一度だけ、ウィンザー子爵様がこの屋敷を訪れ、お姿を拝見したことがある。
その時、直感的に思った。
――ああ、この方は立派な方だ、と。
その後すぐ、ご主人様から、シャーリー様がウィンザー子爵様の養女になったと聞かされた。
あの方の元なら、きっと何の心配もないだろう。
そう思い、心から安堵した。
ただ、その時のご主人様、シャーサー様、そして奥様が、シャーリー様を罵倒し、誹謗する言葉を笑いながら口にする姿には、さすがに怒りを覚えた。
それから間もなく、イエーガー侯爵様のお誕生日に招待された。
「貧乏神が居なくなったから運気が上がってきた」
そう得意げに仰っていた少し後、ヨークシャー伯爵様方が屋敷を訪ねて来られた。
イエーガー侯爵様に招待されたことを伝えると、まるでこの世の終わりのような顔をし、よろめきながら帰って行かれた。
そのことをご主人様に伝えても、何もなかったかのように流された。
だが、私の胸騒ぎは的中した。
あれほど意気揚々とイエーガー侯爵様のお誕生日に出かけたのに、帰ってくるなり、物を投げつけ、三人そろって癇癪を起こし、手がつけられなかった。
「何故、こうなった!」
「どうして、あの女が!」
「どうするんだ、これから!」
「ヨークシャー伯爵家とも断絶されたぞ!」
「私が何とかするわ!!」
喚き散らすその言葉の端々から察するに、シャーリー様を養女に迎えたウィンザー子爵様は、想像以上に高い立場の方だったのだろう。
それに加え、「関わり合いを持たぬ」と書面を交わしたことを、あれほど喜んでいたのが、今になって裏目に出たようで、
「嵌められた」
と、また大声で罵詈雑言を吐いていた。
いいえ。
恐らく、ウィンザー子爵様が嵌めてくださったのだ。
シャーリー様の行く末を、誰よりも案じて。
シャーリー様は、もう手の届かないところへ行かれた。
いいえ、
やっと、幸せになられるのだ。
そう思うと、胸の奥が温かくなり、私は静かに目を閉じた。
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