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第60話ルーンからの招待状
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「何の御用でしょうか、御義父様」
夕食が終わったあと、
"大切な話がある"と執務室へ呼ばれた。
胸の奥に、小さな波紋が立つ。
この部屋に呼ばれる時は、たいてい避けられない現実が待っている。
「座りなさい」
促され、ソファに腰を下ろす。
御義父様の前、机の上には、一通の手紙。
見覚えのある紋章。
見覚えがありすぎて、胸の奥がひやりと冷えた。
「ヨークシャー伯爵家からの招待状だ」
やはり。
「……ルーン……」
「そうだ。その者の誕生日パーティーの招待だ。私と、お前にな」
忘れていたわけではない。
ただ、心の奥に押し沈めていただけだ。
来月、誕生日。
毎年、私とシャーサー、それぞれに届いていた招待状を送ってきてくれた。
私"個人"の名で。
それが、どれほど嬉しかったか。
誰もがシャーサーと連名で呼ぶ中、私だけを見てくれる人がいると思えた。
大切に取っておいた。
すべて、
サヴォワ家に、置いてきた。
いや、正しくは、
私は、何一つ持って出られなかった。
「……私を、呼んでいるのですね」
「それしか考えられん。今まで一度も招待されたことはない。接点もない。どうする?嫌なら断る」
会いたくない。
心が、はっきりそう言った。
けれど、断れば終わる話でもない。
ここで背を向けても、きっとまた、形を変えて近づいてくる。
「御義父様」
「何だ?」
ハザードが静かにお茶を淹れてくれる。
その所作が、張りつめた空気をほんの少しだけ和らげた。
「ヨークシャー伯爵家に、何かされたのですか?」
「いいや。何もしていない」
御義父様は淡々と続ける。
「ヨークシャー家もサヴォワ家も、我々は何もしていない。だが、グリニジの誕生日以来、両家は断絶している。婚約も解消だ」
胸の奥で、歯車が噛み合っていく。
「もし、こちらを招くなら、サヴォワ家は呼ばんだろう。火に油を注ぐような真似はしない。子息が何をしたか、理解しているということだ」
御義父様は、こちらを見る。
「さて。どうする?」
意地が悪い。
あえて、サヴォワ家の名を出すところが。
でも、それで分かった。
嫌がらせではない。
おそらく、謝罪。
御義父様が何もしていない以上、ルーンは納得するまで動くだろう。
そして、御義父様を招いた時点で、サヴォワ家が同席することはない。
まさか、また争うつもり?
一瞬、そう思ったけれど、
いや、ない。
ルーンは、波風を立てる人ではない。
ただ、流されやすい。
自分の意思より、周囲の声に揺れる人だ。
「行きます」
「許すのか?」
また、嫌な聞き方をする。
「いいえ。あり得ません」
言葉は、驚くほど澄んでいた。
「私ならともかく、御義父様を侮辱した。それだけで、許す理由はありません」
胸の奥に、静かな火が灯る。
「だから、伝えます。二度と、私に、いいえ、ウィンザー家に関わらないでください、と」
サヴォワ家と同じだ。
もう、あの二つの家とは、関わらない。
絶対に、許さない。
だからこそ、静かにしていてほしい。
「よろしい」
御義父様は、短く頷いた。
「返事はしておこう。今回はグリニジにも招待が来ている。薄いながらも取引があるからな」
そして、続ける。
「お前が行くなら、オーリュゥンも同行させる。何かあってはいけない」
「はい、御義父様」
正直、助かった。
ルーンの誕生日なら、
必ずシャーサーは来る。
そして、彼女の友人たちも。
かつての、私の"知り合い"だった人々も。
いや、私には、友人と呼べる人はいなかった。
皆、シャーサーの隣にいたから、私にも笑いかけていただけ。
それで、よかった。
あの頃は。
シャーサーがいるから、私には存在価値があると思っていた。
でも、今は違う。
私は、
ウィンザー家の娘。
シャーリー・ウィンザー。
もう、誰かの影ではない。
夕食が終わったあと、
"大切な話がある"と執務室へ呼ばれた。
胸の奥に、小さな波紋が立つ。
この部屋に呼ばれる時は、たいてい避けられない現実が待っている。
「座りなさい」
促され、ソファに腰を下ろす。
御義父様の前、机の上には、一通の手紙。
見覚えのある紋章。
見覚えがありすぎて、胸の奥がひやりと冷えた。
「ヨークシャー伯爵家からの招待状だ」
やはり。
「……ルーン……」
「そうだ。その者の誕生日パーティーの招待だ。私と、お前にな」
忘れていたわけではない。
ただ、心の奥に押し沈めていただけだ。
来月、誕生日。
毎年、私とシャーサー、それぞれに届いていた招待状を送ってきてくれた。
私"個人"の名で。
それが、どれほど嬉しかったか。
誰もがシャーサーと連名で呼ぶ中、私だけを見てくれる人がいると思えた。
大切に取っておいた。
すべて、
サヴォワ家に、置いてきた。
いや、正しくは、
私は、何一つ持って出られなかった。
「……私を、呼んでいるのですね」
「それしか考えられん。今まで一度も招待されたことはない。接点もない。どうする?嫌なら断る」
会いたくない。
心が、はっきりそう言った。
けれど、断れば終わる話でもない。
ここで背を向けても、きっとまた、形を変えて近づいてくる。
「御義父様」
「何だ?」
ハザードが静かにお茶を淹れてくれる。
その所作が、張りつめた空気をほんの少しだけ和らげた。
「ヨークシャー伯爵家に、何かされたのですか?」
「いいや。何もしていない」
御義父様は淡々と続ける。
「ヨークシャー家もサヴォワ家も、我々は何もしていない。だが、グリニジの誕生日以来、両家は断絶している。婚約も解消だ」
胸の奥で、歯車が噛み合っていく。
「もし、こちらを招くなら、サヴォワ家は呼ばんだろう。火に油を注ぐような真似はしない。子息が何をしたか、理解しているということだ」
御義父様は、こちらを見る。
「さて。どうする?」
意地が悪い。
あえて、サヴォワ家の名を出すところが。
でも、それで分かった。
嫌がらせではない。
おそらく、謝罪。
御義父様が何もしていない以上、ルーンは納得するまで動くだろう。
そして、御義父様を招いた時点で、サヴォワ家が同席することはない。
まさか、また争うつもり?
一瞬、そう思ったけれど、
いや、ない。
ルーンは、波風を立てる人ではない。
ただ、流されやすい。
自分の意思より、周囲の声に揺れる人だ。
「行きます」
「許すのか?」
また、嫌な聞き方をする。
「いいえ。あり得ません」
言葉は、驚くほど澄んでいた。
「私ならともかく、御義父様を侮辱した。それだけで、許す理由はありません」
胸の奥に、静かな火が灯る。
「だから、伝えます。二度と、私に、いいえ、ウィンザー家に関わらないでください、と」
サヴォワ家と同じだ。
もう、あの二つの家とは、関わらない。
絶対に、許さない。
だからこそ、静かにしていてほしい。
「よろしい」
御義父様は、短く頷いた。
「返事はしておこう。今回はグリニジにも招待が来ている。薄いながらも取引があるからな」
そして、続ける。
「お前が行くなら、オーリュゥンも同行させる。何かあってはいけない」
「はい、御義父様」
正直、助かった。
ルーンの誕生日なら、
必ずシャーサーは来る。
そして、彼女の友人たちも。
かつての、私の"知り合い"だった人々も。
いや、私には、友人と呼べる人はいなかった。
皆、シャーサーの隣にいたから、私にも笑いかけていただけ。
それで、よかった。
あの頃は。
シャーサーがいるから、私には存在価値があると思っていた。
でも、今は違う。
私は、
ウィンザー家の娘。
シャーリー・ウィンザー。
もう、誰かの影ではない。
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