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第64話ルーンの誕生日2
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先に歩き、御義父様の近くまで行き、会話の内容までは聞こえない絶妙な距離を保った。
背中に、ざわざわと視線を感じる。
ホールの喧騒はあるのに、ここだけが薄く膜を張ったように静かだった。
「何の話?」
自分でも驚くほど、声が平坦だった。
どうせ、謝罪の言葉でしょう?
「僕と婚約しよう」
……え?
空気が、一瞬止まった気がした。
「……は……?」
言葉の意味が、頭に届くまでに、僅かな時間差があった。
理解した瞬間、内臓が冷水に浸されたようにひくりと縮む。
「ずっと好きだったんだ。色々誤解もあって、こんな事になってしまったけど、僕はシャーリーと一緒にいたいんだ」
この人は、今、この状況が見えているの?
どの面下げて。
どの口で。
どんな神経で。
誤解?
誰が?
どこを?
何を?
どうして、そんな当たり前のように笑えるの?
血が、ざわざわと喚き出す。
耳鳴りがして、指先まで震えが走り、心臓が、早鐘を打つ。
「私は、何一つ誤解なんてしていないわ」
声が、少しだけ低くなる。
「元々、私はサヴォワ家から捨てられた。それなのに、あなた達が勝手に誤解して、話を大きくしたんでしょう!!」
私は、いつだって一生懸命に生きてきた。
言い訳も、逃げ道も作らずに。
「違うよ!」
ルーンの声が、被さるように響く。
「心配で心配で、極端な考えになってしまっただけなんだ。シャーリーを好きなのは、今でも変わらない。僕は君を幸せにできるよ」
……は?
「……私を、好き?」
幸せに、できる?
あなたが?
「そうだよ。僕には君しかいないんだ」
その言葉が、妙に軽く聞こえた。
いや、軽いのではない。
現実から浮いている。
「そう?それなら、どうしてシャーサーと関係を持ったの?」
一瞬の沈黙。
呼吸が、詰まる。
「……え……!?」
カマをかけただけだけど、当たり、ね。
胸の奥が、冷え切る。
「あなた達が私に会いに来た時、触れ方が違ったわ。気づかないとでも思った?」
声が、淡々としすぎていて、逆に怖かったかもしれない。
「少し前まで、私達は一緒にいたのよ。それが、私がいなくなってから、急に、まるで恋人同士みたいだった」
目線。
距離。
無意識に触れる手。
そこに、男女の関係を感じさせる空気が漂っていた。
「……あれは……シャーリーがいなくて、寂しかったのをシャーサーが慰めてくれただけだ」
必死に言い繕う声。
「別に、僕がシャーサーを好きなわけじゃない」
なんて、自分勝手。
私のいない期間なんて、ほんの数ヶ月。
もしかしたら、もっと前からだったのかもしれない。
可笑しくて、笑いが喉に引っかかった。
「何を言っているの?婚約していたのでしょう?私のことで解消されただけ。何もなければ、そのままだったわ」
息を吐く。
「……もう、やめましょう……」
無理。
会話が、噛み合わない。
この苛立ちを、これ以上抱えられない。
「でも!!僕は君が好きなんだ!!」
違う。
「いいえ」
静かに、でも、はっきりと。
「あなたが好きなのは、シャーリー・サヴォワ」
一歩、距離を取る。
「私は他人よ。私は、シャーリー・ウィンザーだもの!!」
ルーンが、何度も首を振る。
その仕草が、どこか必死で、歪んでいる。
「違う!!シャーリーはシャーリーだ!!」
一歩、近づく。
その距離に、嫌な寒気が走った。
「もう、関わり合いたくないの」
声が、少しだけ震えた。
「ヨークシャー家とも、サヴォワ家とも。だから、二度と私にも、御義父様にも、顔を見せないで!!」
ルーンの顔が、引きつる。
「シャーリー……"関わるな"って言葉の意味、分かって言ってるのか!?」
そこは、気づいたのね。
「……馬鹿な人」
思わず、零れた。
「どうして、その言葉をわざわざ口にするの?」
一瞬、しまった、という顔。
もう、遅い。
「おじ様から言われたのね。私と婚約してこい、って」
ルーンの視線が、揺れる。
「そうでなければ、ヨークシャー家は終わる」
静かに、事実を突きつける。
「"関わるな"。それを一介の貴族が言うなら問題ないわ。でも、ウィンザー家が言えば違う」
もうすぐ、御義父様は公爵になる。
「その側にいる人間からも、接触を許されなくなる。それは、ヨークシャー家の没落を意味する」
逃げ場は、ない。
「だから、おじ様は、唯一私に接触できるあなたに賭けた」
胸が、きしむ。
「……あなたは、愚かすぎるわ!」
声が、少しだけ荒くなる。
「どうして一度も、あなた一人での謝罪がなかったの!!」
感情が、溢れ出す。
「あなたが喧嘩を売ったままなのよ!!だったら、こちらは、買うしかないでしょう!!」
息が、苦しい。
「……あなたが……ただ、謝罪を……」
声が、震える。
「土下座してでも、私と二人きりで謝ってくれたなら……私は……私は……!!」
許したのに。
だって。
あなたは、いつも側にいてくれた。
恋かどうかは分からなくても、
大切な幼なじみだった。
壊したくなかった。
「ああ……」
背後で、女性の声。
おば様だ。
倒れそうになった体を、おじ様が支えている。
「違う!!僕は謝る気持ちはある!!」
声が、裏返る。
「でも!!シャーリーに側にいて欲しいんだ!!」
まずい。
目が、違う。
必死、というより、
追い詰められた獣の目。
駄目よ。
もう、あなたの追いつけない場所に、私の心はある。
目を伏せた、その一瞬。
「……!!」
視界の端で、光が走った。
ナイフ!?
いつの間に。
首に触れられる、その直前。
衝撃。
視界が揺れ、ルーンの体が後ろへ弾き飛ばされる。
「大丈夫か!!」
強い腕に、引き寄せられた。
「……オーリュゥン……様……」
恐怖で、足元が定まらない。
ふわりと浮く感覚を、支えられる。
「シャーリー!!大丈夫か!?」
御義父様の声。
「……はい……」
ぞっとした。
ルーンが、私を、殺そうとした?
周囲に、人が集まる。
好奇と恐怖が入り混じった視線。
ホール全体が、ざわめきに包まれる。
「お前達……どこかの……部屋で……休ませて…もらいなさい……」
イエーガー侯爵様の低い声。
「誰にも……会うな……落ち着いたら……帰るぞ……」
「はい、爺様」
オーリュゥン様が、静かに手を差し出す。
御義父様が、小さく言った。
あとは、こちらで片付ける。
「……はい……御義父様……」
「行こう」
頷き、一緒にホールを出る。
廊下に出ても、
耳の奥でざわめきが消えない。
心臓が、まだ暴れている。
手が、止まらないほど震えていた。
背中に、ざわざわと視線を感じる。
ホールの喧騒はあるのに、ここだけが薄く膜を張ったように静かだった。
「何の話?」
自分でも驚くほど、声が平坦だった。
どうせ、謝罪の言葉でしょう?
「僕と婚約しよう」
……え?
空気が、一瞬止まった気がした。
「……は……?」
言葉の意味が、頭に届くまでに、僅かな時間差があった。
理解した瞬間、内臓が冷水に浸されたようにひくりと縮む。
「ずっと好きだったんだ。色々誤解もあって、こんな事になってしまったけど、僕はシャーリーと一緒にいたいんだ」
この人は、今、この状況が見えているの?
どの面下げて。
どの口で。
どんな神経で。
誤解?
誰が?
どこを?
何を?
どうして、そんな当たり前のように笑えるの?
血が、ざわざわと喚き出す。
耳鳴りがして、指先まで震えが走り、心臓が、早鐘を打つ。
「私は、何一つ誤解なんてしていないわ」
声が、少しだけ低くなる。
「元々、私はサヴォワ家から捨てられた。それなのに、あなた達が勝手に誤解して、話を大きくしたんでしょう!!」
私は、いつだって一生懸命に生きてきた。
言い訳も、逃げ道も作らずに。
「違うよ!」
ルーンの声が、被さるように響く。
「心配で心配で、極端な考えになってしまっただけなんだ。シャーリーを好きなのは、今でも変わらない。僕は君を幸せにできるよ」
……は?
「……私を、好き?」
幸せに、できる?
あなたが?
「そうだよ。僕には君しかいないんだ」
その言葉が、妙に軽く聞こえた。
いや、軽いのではない。
現実から浮いている。
「そう?それなら、どうしてシャーサーと関係を持ったの?」
一瞬の沈黙。
呼吸が、詰まる。
「……え……!?」
カマをかけただけだけど、当たり、ね。
胸の奥が、冷え切る。
「あなた達が私に会いに来た時、触れ方が違ったわ。気づかないとでも思った?」
声が、淡々としすぎていて、逆に怖かったかもしれない。
「少し前まで、私達は一緒にいたのよ。それが、私がいなくなってから、急に、まるで恋人同士みたいだった」
目線。
距離。
無意識に触れる手。
そこに、男女の関係を感じさせる空気が漂っていた。
「……あれは……シャーリーがいなくて、寂しかったのをシャーサーが慰めてくれただけだ」
必死に言い繕う声。
「別に、僕がシャーサーを好きなわけじゃない」
なんて、自分勝手。
私のいない期間なんて、ほんの数ヶ月。
もしかしたら、もっと前からだったのかもしれない。
可笑しくて、笑いが喉に引っかかった。
「何を言っているの?婚約していたのでしょう?私のことで解消されただけ。何もなければ、そのままだったわ」
息を吐く。
「……もう、やめましょう……」
無理。
会話が、噛み合わない。
この苛立ちを、これ以上抱えられない。
「でも!!僕は君が好きなんだ!!」
違う。
「いいえ」
静かに、でも、はっきりと。
「あなたが好きなのは、シャーリー・サヴォワ」
一歩、距離を取る。
「私は他人よ。私は、シャーリー・ウィンザーだもの!!」
ルーンが、何度も首を振る。
その仕草が、どこか必死で、歪んでいる。
「違う!!シャーリーはシャーリーだ!!」
一歩、近づく。
その距離に、嫌な寒気が走った。
「もう、関わり合いたくないの」
声が、少しだけ震えた。
「ヨークシャー家とも、サヴォワ家とも。だから、二度と私にも、御義父様にも、顔を見せないで!!」
ルーンの顔が、引きつる。
「シャーリー……"関わるな"って言葉の意味、分かって言ってるのか!?」
そこは、気づいたのね。
「……馬鹿な人」
思わず、零れた。
「どうして、その言葉をわざわざ口にするの?」
一瞬、しまった、という顔。
もう、遅い。
「おじ様から言われたのね。私と婚約してこい、って」
ルーンの視線が、揺れる。
「そうでなければ、ヨークシャー家は終わる」
静かに、事実を突きつける。
「"関わるな"。それを一介の貴族が言うなら問題ないわ。でも、ウィンザー家が言えば違う」
もうすぐ、御義父様は公爵になる。
「その側にいる人間からも、接触を許されなくなる。それは、ヨークシャー家の没落を意味する」
逃げ場は、ない。
「だから、おじ様は、唯一私に接触できるあなたに賭けた」
胸が、きしむ。
「……あなたは、愚かすぎるわ!」
声が、少しだけ荒くなる。
「どうして一度も、あなた一人での謝罪がなかったの!!」
感情が、溢れ出す。
「あなたが喧嘩を売ったままなのよ!!だったら、こちらは、買うしかないでしょう!!」
息が、苦しい。
「……あなたが……ただ、謝罪を……」
声が、震える。
「土下座してでも、私と二人きりで謝ってくれたなら……私は……私は……!!」
許したのに。
だって。
あなたは、いつも側にいてくれた。
恋かどうかは分からなくても、
大切な幼なじみだった。
壊したくなかった。
「ああ……」
背後で、女性の声。
おば様だ。
倒れそうになった体を、おじ様が支えている。
「違う!!僕は謝る気持ちはある!!」
声が、裏返る。
「でも!!シャーリーに側にいて欲しいんだ!!」
まずい。
目が、違う。
必死、というより、
追い詰められた獣の目。
駄目よ。
もう、あなたの追いつけない場所に、私の心はある。
目を伏せた、その一瞬。
「……!!」
視界の端で、光が走った。
ナイフ!?
いつの間に。
首に触れられる、その直前。
衝撃。
視界が揺れ、ルーンの体が後ろへ弾き飛ばされる。
「大丈夫か!!」
強い腕に、引き寄せられた。
「……オーリュゥン……様……」
恐怖で、足元が定まらない。
ふわりと浮く感覚を、支えられる。
「シャーリー!!大丈夫か!?」
御義父様の声。
「……はい……」
ぞっとした。
ルーンが、私を、殺そうとした?
周囲に、人が集まる。
好奇と恐怖が入り混じった視線。
ホール全体が、ざわめきに包まれる。
「お前達……どこかの……部屋で……休ませて…もらいなさい……」
イエーガー侯爵様の低い声。
「誰にも……会うな……落ち着いたら……帰るぞ……」
「はい、爺様」
オーリュゥン様が、静かに手を差し出す。
御義父様が、小さく言った。
あとは、こちらで片付ける。
「……はい……御義父様……」
「行こう」
頷き、一緒にホールを出る。
廊下に出ても、
耳の奥でざわめきが消えない。
心臓が、まだ暴れている。
手が、止まらないほど震えていた。
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