何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫

文字の大きさ
65 / 72

第65話ルーンの誕生日3

しおりを挟む
見慣れた屋敷の廊下を歩くと、見慣れたメイド達に会う。
「あら、シャーリー様。その方は?」
「そうね、吟味中の方と言っておこうかしら。向日葵の部屋で休もうと思ってるの。あと帰りにね、チキンパイ持って帰りたいから用意して貰ってもいい?」
「・・・いいですよ。なんだか、シャーリー様、いつもと違いますね」
淀みなく答える私に、不思議そうに首を傾げる様子に、私の事も、そして、今のヨークシャー家の状態を知らされていないのだろう。
「そう、かな?パーティーだからだよ。じゃあお願いね」
ニッコリ笑って、客間のひとつ、向日葵の部屋に入った。
誤魔化せたかな?
それよりも・・・
ぐったりとソファに座るオーリュゥン様に不安になった。
手を繋いだ時の汗と、熱が気になった。
私を助けた時の手がとても熱く、息も荒かった。
ホールを出てから、ずっと様子がおかしい。
額に汗が滲んでいて、呼吸も浅い。
飲みすぎ?
それとも体調が悪いのだろうか?
「オーリュゥン様?大丈夫ですか?」
「・・・シャーリー・・・。すまないが、私に近づくな」
弱々しい声と、目を閉じた姿に、少し離れて座った。
「あ、あの、体調が優れないのですか?」
「・・・いや、シャーリーとあの男が話をしている間に、シャーサーに媚薬を飲まされた・・・」
「・・・!?」
幾つものため息をつきながら、苦しそうながらも楽しそうに答える内容に驚いた。
それは・・・つまり・・・。
媚薬を飲んだ事も、飲んだ人も知らないが、効果は知っている。
性欲を刺激され、その行為を満足するためだけに使用される。
という事は、オーリュゥン様は・・・シャーサーと・・・!?
胸が、ひやりと冷える。
「心配するな。何も無い」
からかうように笑いながらも、はっきりと、言い切る。
「元々、媚薬や毒物はある程度耐性を持つように、仕事柄している。あの程度なら何の問題もない。実際、あの女が触れるだけで気持ち悪かった」
はあ、と深呼吸をしながら、置いてある水差しの水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。
嘘をついていなさそうで、ほっとした。
でも、それなら何故こんなに・・・。
「では、飲みすぎですか?」
「違う・・・。シャーリー以外の女には問題ないのだろう・・・」
「私・・・?」
甘い吐息の中で答える内容に、首をかしげた。
私に魅力があるとは思えない。
ましてや、残念ながら凹凸は、ない。
シャーサーの方が100倍、いや、もっと魅力がある。
答えは皆無、と思っている間に、オーリュゥン様はぞんざいにコップを置き、また目を瞑った。
「・・・ああ・・・。興味がない女には問題ない・・・。だが、シャーリー・・・。あんたは・・・来るな・・・。私は、こんな薬で・・・抱きたくない」
辛辣な声で、自嘲気味に呟くオーリュゥン様に、体が強ばった。
つまり、媚薬は効いている。
それも、私に対してだけ。
かぁっ、と体が火照ってくる。
「わ、分かりました・・・」
なんとも答えにくい状況に、そう答えるのが精一杯だった。
同じソファに座りながらも、端と端にお互いが座り、私はオーリュゥン様に背を向け座り、沈黙となった。
幾度も深い呼吸が聞こえる。
この方は、私の気持ちも体も、気にしてくれている。
とても大人で、とても、精神が強い方なのだ、と胸が熱くなったが、冷静に考えると、
シャーサーが媚薬を盛った?
どこでそんな危険な物を手に入れたのだろう?
そんな素振り、一緒に暮らしていた時はなかった。
確かに、異性には人気はあったが、そんな2人で何処かに出かけるなんて、ルーン以外はいなかった。
いや、ルーンと始めたのだろうか?
いや、ルーンにそんな度胸はない。
それに、昔のシャーサーは、そこまで・・・。
華やかで、明るくて、誰からも愛されていた。
少し意地悪なところはあったけれど、こんな事する性格じゃなかった。
私が居なくなってから、シャーサーは変わったの?
それとも、私が知らなかっただけ?
胸が、ざわざわする。
「・・・シャーリー・・・。すまないが、水を貰ってきてくれるか?」
オーリュゥン様の小さい声が聞こえ、見ると水差しは空っぽだった。
「すぐに、貰ってきます」
急いで空の水差しを持ち、新しいのを貰ってきて、テーブルに置き、またさっきのように背を向け座った。
「どうぞ」
「すまないな・・・」
「いいえ・・・あの、媚薬とはそんなに簡単に手に入るものなのですか?」
背を向けながら素朴に質問した。
「いいや。通常のルートでは若者はおいそれと手に入れることは出来ない。己の性欲を満たす為に使用する事が多い為・・・犯罪になりやすいからな・・・」
コポコポとグラスに水を入れる音が聞こえ、飲みながら、答えてくれた。
その通りだ。
ましてや避妊薬を服用していなかった場合、妊娠する可能性がある。
それは、
男にしても女にしても、都合のいいような状況になる。
今回のように、オーリュゥン様を堕とし、そして身篭ってしまえば、なんと都合がいいだろう。
「ケイトだ」
一息付きながら、吐き捨てるように呟いた。
「ケイト様?あの優しそうな方ですか?」
喫茶店と、それと今日もシャーサーの側にいた。
「ああ。カミュセシ侯爵家の嫡男であり、厄介な奴だ」
「厄介?」
「確かにあの優しい顔で、話し上手で、爵位も申し分ないと来れば、女性は寄ってくる。それを上手く使って、悪しき事を悦びとする最低な男だ」
「悪しき?」
「あまりいい話ではない・・・。上手く騙し、娘を引き入れ、令息達で遊び飽きたら捨てる。夜会の茶番として男性の召使いの殴り合いをさせたり、と。それを全部もみ消し、表沙汰にならないようにしている」
「っ!!」
息を呑む。
「爺様達はとても嫌悪していた。己達の時代、それがまかり通っていたが、時代が違う。また……権力で物を言う時代でもない、と」
「……そんな人とシャーサーは一緒にいたのね」
愕然としながらも、納得する自分がいた。
昔のシャーサーと、ケイト様と一緒にいたシャーサーは、全く違った。
あの時、喫茶店で見たシャーサー。
今日、ホールで見たシャーサー。
2人、とても似た雰囲気があり、卑しい笑いを浮かべながら楽しむ姿がしっくりきた。
目つきが、違う。
笑い方が、違う。
纏う空気が、違う。
まるで、別人のよう。
いいえ、違う。
あれが、本当のシャーサー?
私が知らなかっただけ?
私が見ていなかっただけ?
バカ……。
なにやってんのよ、シャーサー。
胸が、きゅっと痛んだ。
「・・・シャーリー・・・」
「はい」
名を呼ばれ、つい、本当に何も考えてなくて、振り向いてしまった。
目が合った。
渇望に満ちた、熱く潤んだ瞳に、釘付けになった。
「・・・何で顔を見せる・・・」
「え・・・と・・・ごめんなさい・・・」
だって、名前呼ばれたから・・・。
「・・・少し我慢しろ」
甘い声で言い終わる前に、腕を捕まれ、抱きしめられた。
少し汗ばんだがっちりした体と、荒い呼吸に、体が緊張で強ばった。
ど、どうしたらいいの?
男性に抱きしめられるのは、人生2度目だ。
それも、1度目は、精神的に不安定で正直あまり覚えていないのに、今回は、はっきり、しっかり意識がある。
その上、こんな素敵な方に、自分に好意を持っていると言われ、気持ちがぐらつかないわけが無い。
荒い息と速く脈打つ心臓の音が、私を支配していくようだった。
背中を撫でる熱い手が、とても敏感に感じた。
体温が、伝わってくる。
胸に顔が埋まり、彼の香りが鼻をくすぐる。
心臓が、早鐘を打つ。
もう・・・どうしたらいいの・・・。
少しして、やっとオーリュゥン様が離れてくれた。
「・・・もう大丈夫だ。すまなかった・・・。まだまだだな、私は・・・。さあ、爺様達の所へ戻ろうか。あまり遅くなると心配されるし、シャーサーの事も報告しないとな」
何も無かったように、普通に言っているつもりなのだろうが、私から目を背け、あからさまに無理しているのが分かった。
「・・・はい」
でも、私はどうすることも出来ない。
だって、さすがにこの体を差し出す訳にはいかないもの。
「心配するな。あとは帰って、浴びるほどの酒を飲んで酔い潰れればいい事だ」
部屋を出て、頭を優しく撫でられた。
大きな手が、温かい。
「・・・シャーリー・・・。今度一緒に出掛けないか?」
「・・・はい」
声が、少し甘く響く、そうして余計な事を言わない。
「私は2人で出かけたい。それでもいいか?」
「・・・はい」
「そうか。それは楽しみだ」
くすぐったいくらいに嬉しそうに言われ、頬が熱くなった。
胸が、じんわりと温かくなる。
こんな気持ち、初めてだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

一度目で黒狼公に討たれた私ですが、二度目の夜はお父様のそばでしか眠れません

師走
恋愛
八歳の冬、リリア・ヴァルグレイは父に殺された。 王国最強の討魔貴族――黒狼公レオンハルト・ヴァルグレイ。 人にも魔にも容赦のないその男は、黒花の災厄に呑まれかけた実の娘を、自らの手で討ったのだ。 けれど次に目を覚ました時、リリアは赤ん坊に戻っていた。 もう二度と、お父様に剣を向けられたくない。 そう願うのに、夜になるとまた黒花の囁きが忍び寄る。甘くやさしいその声は、孤独な心に触れて、静かに破滅へと導こうとする。 そして、その囁きがぴたりと止むのは――世界でいちばん怖いお父様のそばだけだった。 一度目の父は、同じ城で暮らしていても遠い人だった。 リリアを見ない。抱かない。呼びもしない。 そのくせ二度目の父は、相変わらず冷たいまま、なぜか夜ごとリリアを放っておいてくれない。侍女を替え、部屋を守らせ、怯えて眠れない娘を黙って自分の近くへ置いてしまう。 人にはあれほど容赦がないのに、リリアにだけ少しずつおかしくなっていく。 怖い。近づきたくない。 それでも、その腕の中でしか眠れない。 またあの冬が来る。 また同じように、黒花はリリアを呑み込もうとするかもしれない。 今度こそ囁きに負けないために。今度こそ父に剣を抜かせないために。 一度目で父に討たれた娘は、二度目の人生でもっとも恐ろしいその人のそばへ、自分の意志で手を伸ばしていく。 小説家になろう様でも掲載中

エミリーと精霊

朝山みどり
恋愛
誰もが精霊と契約する国。エミリーの八歳の誕生日にやって来たのは、おもちゃのようなトカゲだった。 名門侯爵家の娘としてありえない恥。家族はエミリーをそう扱った。だからエミリーは居場所を得るために頑張った。役に立とうとした。

処理中です...