プライベート・スペクタル

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第二話 第二章

第五節

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「リストの中にある名前ですッ!?」
標的となる存在の一つ。それだけで全員は警戒態勢に入る。
「……しかし、登録されていた画像と異なるような…?該当する被収容者はもっと大柄だと記憶している筈です」
「…へッ、だとしたらおめでたいぜお嬢さん。素顔を晒して白昼を歩き回る指名手配犯がいるのかい?変装するに決まっているだろう?更に俺達は【星】だ。体形レベルでの変装はお手の物ってな…」
「…そうでしょうか?」
「そうなんだよ」
そう言って話を打ち切ったH3050。ガンホルダーから片手鎚を取り出し構える。
「今お前らに突き付けられているのは、海を越えたはるか遠い合衆国ステイツからここまでやって来た危険人物が目の前に居るってことだ、それだけ理解しときゃあ……良いッ!!」
片手鎚を投擲したH3050。超高速でエイプリルや白雪達の方に飛んでいく。
山なりの軌道ということもあり何とか躱す。
地面に着弾した瞬間、大きな爆発とともに地面を大きく穿った。
「何という威力、まるで榴弾!!」
とんでもない重量なのかバスケットボール程の大きさの打面なのに大規模なクレーターが作り上げられる地面。
更にどういう原理なのか片手鎚はH3050の手元に戻った。
「どんどんいくぜ!」
更に投げまくるH3050。遠心力を利用した投法によって今度はブーメランのような軌道を描く。
進路上の木々や大岩をことごとく粉砕した。
自衛隊員は兎も角エイプリルや白雪も避けるのに必死で反撃を行うことが出来なかった。
「どうしたどうした!?こんなものなのかよォ!俺達の鬼役っていうのは!?…不意打ちとはいえさっきの『龍王』といいッ!とんだ期待外れだな!」
「くッ!…」

「へぇ……そいつは大変申し訳ないこって!!」
その言葉と共にH3050に向かって飛んでいったもう一つの片手鎚。同形同型であるが、投げていたものとは違う。
躱すH3050。その直線状存在した先ほどまでの廃屋は瓦礫の山と化す。
飛んで来た方向。そこから現れたのは、大和である。
「師匠ッ!!」
「ったく、こちとら場を和まそうとは確かにしたけれど…流石にあそこまでは俺のアドリブ範疇外だぞこの野郎!!」
「へへッ、そいつは済まないことをしたな」
軽口をたたく大和。頭部から出血しトレードマークのバンダナが血で滲んでいるが大丈夫そうである。
「だが期待は少々上方修正だぜ『龍王』…俺の鎚を喰らってそれはなッ!!」
瓦礫から鎚を拾い上げ投擲したH3050。エイプリル達に投げた時よりはるかに速い。
「ああ、タフネスは俺のセールスポイントでね!履歴書にもそう書いてんだ!!」
だがそれを蹴り返した大和。投擲時よりも更に加速した鎚にH3050は受けずに躱す。
着弾点にはこれまでの中でひときわ大きなクレーターが穿たれた。
「おおぅ!?やるじゃあないか!更に上方に修正ッ!!」
「悪ぃがそういう評価はどこか他所でやんな!お呼びじゃあねぇんだよ!!」
「いや~へへッ…中々に良いモノを見れたぜ…それじゃあそろそろ…」
両手にそれぞれ鎚󠄀を構えるH3050。いよいよ来るかと大和は重心を下げ構える。
「ここから逃げさせてもらおうかなッ!!」
「あッ、手前ッ!?」
「また会おう!」
そう言い捨て背を向けたH3050。そのまま一目散に逃げ出す。
大和は即座に追いかける。
「師匠ッ!?」
「待機だエイプリル!それと白雪もッ!メイソンの確保は完了してねぇだろ?そっちに集中!」
「う、うぃ!」
付いて来ようとしたエイプリル達をそう制した大和。有無を言わさない指示だと気づいたエイプリルは素直に従った。
「師匠。お気を付けて!!?」
激励にサムズアップで応じた大和。
そのままH3050を追って森の中へと入った。

木々の隙間を縫いながら進む大和。H3050を見失わないように常に捉え続けながら追い続ける。
「追ってきやがったか、へへッ」
大和を確認しながら不敵な笑みを浮かべるH3050。
鎚を取るとすれ違った木々に振るう。幹が折れた木々は大和の方に倒れてきた。
「しゃらくせぇ!!」
最小の動作で躱す大和。続け出来上がる障害物も飛び越していく。
「それじゃあこれだ!」
次に地面を叩き付けたH3050。土埃が大きく舞う。
だがそれも腕を振るった風圧で払い飛ばす。その拍子に飛礫を拾うとH3050に投擲する。
それをH3050も弾く。
そのまま追いかけっこの攻防が続いていく。
「チッ!」
軽く舌打ちした大和。差が縮まらず攻防戦が拮抗した現状に苛立つ部分もある。だがそれよりも他の事だ。
ビール樽のような体形ながら予想以上に快速で目の前を走るあの【星】。
コイツは想像よりもはるかに強い。一撃貰った鎚の投擲の威力もさることながら立ち回りから見てもわかるほどに強かだ。
エイプリル達ではまだ勝てない程に…。
大和が彼女達を制したのは、先の理由だけでなくそれもあったからである。
もし最初の奇襲。標的が大和でなく他の誰かだとしたら…。
ギリ……と無意識に歯ぎしりをした大和。自分が腹立たしい。

【演目】『龍桜  旋風 春一番』

【演目】をる大和。
身体操術により重心を真下から真横に、更に独自の歩法をもって強く踏みしめる。
縮地術に近い爆発的な加速は一瞬にしてH3050に追いついた。
「おおぅ!!?」
一瞬で距離を詰められたことに思わず驚くH3050。鎚を振るう。
だが、容易くいなす大和。即座に反撃の打撃を叩き込む。
直撃したH3050。幾つかの木々を巻き添えで薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
「やっぱ強いな…」
そう漏らす大和。打撃を直撃させたのに思った以上に攻撃の手ごたえが軽かった。おそらく直前に僅かに後ろに跳び衝撃を弱めたのだろう。
それを寸前で判断し実行できるそれだけの実力を持っている。
「成程成程、成程…こいつが『龍王』か………へへッ………」
ヨロヨロと起き上がるH3050。口元の血をスカーフで拭う。
そして歯を見せニカッと笑った。
「良いぜうん!今回は合格ッ!!」
「まだ試験官気取りかぃアンタ。ずいぶんと余裕があるみたいだな?」
「なーにそれはお互い様さ…そうだろう?『龍王』…」
見透かすような視線を大和に送るH3050。
「なあ聞いてやるよ、いったい何が目的だ?」
「目的?」
「ああ、そんな口ぶりにわざわざ火中の栗を拾うような行動…お前は何かの目的のためにこんな真似をしている…そいつを聞いておこうと思ってな」
「へへッ、察しが良いのもうれしい誤算だ」
「そいつはどうも……で?」
「だが、そいつを語るのはまた今度にさせてもらおう」
「…あっそ」

【演目】『龍桜  狂咲一分くるいざきいちぶ

だったら実力行使とH3050に仕掛ける大和。先程の移動を応用し加速させた最速の打撃を叩き込まんと大きく踏み込み距離を詰める。
だが打撃の直前H3050の姿が急に掻き消えた。
「ッ!?」
透明になったというわけではない。気配自体が消えていることからおそらくは瞬間移動。H3050の【演目】なのだろう。
『心配しないでくれ『龍王』。時が来れば包み隠さず語らせてもらう。それまで待っていてほしい』
「おいおいオイオイ何勿体ぶってやがるんだ。ここで引き延ばすと後々のハードルが色々と高けーぞ」
『へへッ、心配ご無用!もう少し何も知らないほうが楽しめるだろうからな!!』
「考察ってか?」
『そういう事だ。それでは『龍王』また近いうちに会おう!!』
そう言い捨て言葉が途絶えたH3050。おそらくこの場から離れたのであろう気配も遠くなっていた。
その場には大和のみとなった。
「…ったく、少年漫画みてーな引きしやがって…」
残った場で呟いた大和。
それに反応するものは居らず、返ってきたのは茂った木々のさざめきと川のせせらぎの音だけであった。

※諸事情で2週間ほど休載します。次回更新は7/23予定です。
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