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第三話 第三章
第二節
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「そう言えばお婆様。師匠の居る『社』と言うのは一体どのような場所なのでしょうか?」
夜明けまで戦いの傷を休めてから大和を迎えに行くことになったエイプリルと三笠。
道中である少々険しめの山道にフッドから受けた傷が少々響いているが、耐えつつ歩くエイプリル。その中で三笠に尋ねる。
「ああ、そう言えば戦いの前で余計な考えをしないようにときちんと説明していなかったわね」
「うぃ、何とか勝利することも出来ましたし…そろそろ良いかと思いまして……」
「そりゃそうね……それじゃあ『社』について説明しながら行こうかね…」
そう言って三笠は『社』について説明を始めてくれた。
『社』
それは三笠や大和が修得した体術。その某体術の流派における精神修練の一つである。
内容はとても単純、光や音すらも届かない空間に入り瞑想して過ごす。ただそれだけである。
「修業期間は最短で5日間。5日を過ぎたら修めたと見なされて外に出る事が出来るわ」
「その空間で過ごすだけなのでしょうか?ただ何もせず?…」
「今簡単かも?って思っちゃった?でもそうは問屋が卸さないのよねぇ…」
光も音も届かない何もない空間で過ごす。何も見えない何も聞こえない空間は嫌でも自分の感覚を…精神を…魂を…剥き出しにする。
剥き出しのそれらはふとした影響でその在り様は一気に変わってしまう可能性がある。
「それに『社』は流派の方針で最も不浄の場所。いわば負の感情や気が渦巻いている場所に建てないといけないの……」
その場所に居るだけで様々な負の情念と向き合わなければならない。しかもむき出しとなった精神で…である。
「更に『社』は時間の流れが歪んでいる。5日間の修行だけれど体感の時間は10倍。50日間程度に感じるわ」
「ッツ!!?」
それにより苦痛は想像を超え、精神や魂の弱い者は発狂して自害するか廃人となる可能性があるのである。
「だから遺書のようなモノを書かせる必要があるのよ…まあエイプリルちゃんの激励の手紙になっちゃったけれどね」
故にこの『社』は精神修練においては最難関と呼ばれる修行なのである。
「お婆様、『社』の方向はどちらに?」
「もうすぐそこよ、この山道の通りに進めば迷いもしないわ」
「うぃ、ありがとうございます!」
「あっ、エイプリルちゃん!?」
三笠に頭を下げて足を速めたエイプリル。
尊敬する師匠が何もないだろうという事は信じている。
しかし、まさかそれ程まで過酷な修行を行っていたとは…。
それもおくびに出さずに自分を激励してくれたという事に否が応でも足が進む。
足を速めた事もありすぐに『社』と思わしき場所に到着したエイプリル。
まるで洞穴の様な外観であり、入り口上部にかかったしめ縄と錠で閉じられた扉が『社』としての体裁を保っているようであった。
「師匠ッ!?大丈夫ですか師匠っ!!」
入り口前で思わず叫んでいたエイプリル。修行中なのにこんなに騒ぎ立てるのは迷惑だろうが咄嗟で仕方が無かった。
だがエイプリルの声に何の反応も無い。
「師匠ッ!師匠ッ!!」
今度は扉を叩いたエイプリル。それでも何の反応がない。
「まさか……」
思わず最悪の想像が頭をよぎったエイプリル。続いて叫び続ける。
「師匠ッ!エイプリルです師匠ッ!!師匠の激励もあり何とか勝利することが出来ました!!」
「…………」
「ですが、トワの【星団】も動き出し、コレからさらに過酷になっていきます!師匠の力が必要不可欠ですッ!!」
「…………………………」
「ですからお願いですッ!戻って来て下さい師匠ッ!!」
叫んだエイプリル。
すると扉の向こうから声が聞こえた。
「…ちぃっと下がってくれよ……」
「ッ!…うぃ!!」
それは待ち焦がれた声。エイプリルは嬉しそうに頷くと言われた通り扉から離れる。
次の瞬間、バゴンッ!!という炸裂音。同時に錠前が扉と共に綺麗に吹き飛んだ。
そして……。
「あ~~~~っ!!日の光気ん持ちィイイイイイイ!!」
中から大和が笑顔で現れた。
「師匠!師匠ッ!ししょぉぉう!!」
「おおエイプリル。お久しぶり!」
軽い感じでエイプリルに手を挙げた大和。無精に髭が伸び、服がボロボロの状況であったが元気そうである。
エイプリルはそんな大和の姿を見て思わず抱き着いた。
「師匠!何ともないのですか!?お身体は!?」
「ん?おお…文字通りピンピンよ!むしろ頭も体も含め絶好調!モヤ一つすら無ぇ!」
「よかった…」
おこがましいと思いつつもエイプリルは安堵する。
「それよりもエイプリルが元気にここに居るって事は……」
「うぃ?」
「無事に勝ったんだな……さっすが俺の弟子♪」
「し、師匠っ!?何をッ…」
不意にエイプリルの頭に手を置いた大和。そのまま優しく撫で始める。
「弟子の大事な一戦に立ち会う事が出来なかったからな…こうさせてくれ……本当によくやったな」
「ッ……うぃ、えへへ……」
大和の言葉に顔を綻ばせたエイプリル。
そこにようやく三笠が追い付いた。
「無事にやり切ったみたいねぇ」
「おお婆ちゃん。婆ちゃんもお久しぶり~……それよりもエイプリルを見てもらってありがとうな」
「いいのよぉ、婆ちゃんも楽しかったし……【演目】も完成させて、それで敵を撃破したエイプリルちゃん見せたかったわぁ」
「遂にかエイプリル!?スゲェ!!!」
「うぃ、まだまだ発展途上ですが何とか……えへへへ~…」
「それに大和ちゃん。貴方も『社』を経て相当強くなったようね、動きを見なくとも纏う気配だけで十二分に理解出来るわ」
「ん、そうだろ」
笑みを浮かべながら自信満々に頷いた大和。見た目は変わらないがこれまでの大和と比べると明らかに濃く強い威圧感。いよいよ深く底が全く見えなくなったと感じたエイプリルが身震いするほどであった。
「心配すんなエイプリル。俺は俺よ…」
「う、うぃ!」
恐れを感じていたエイプリルを宥めた大和。
「それよりも腹が減ったなぁ~『社』の中水すらも無かったからなァ」
「ふふッ…そうだったわね、じゃあ戻って朝食としましょうか……採れたての食材を使った豪勢なモノにしましょ」
三笠の提案に大和は「そりゃあ良い」と笑った。
夜明けまで戦いの傷を休めてから大和を迎えに行くことになったエイプリルと三笠。
道中である少々険しめの山道にフッドから受けた傷が少々響いているが、耐えつつ歩くエイプリル。その中で三笠に尋ねる。
「ああ、そう言えば戦いの前で余計な考えをしないようにときちんと説明していなかったわね」
「うぃ、何とか勝利することも出来ましたし…そろそろ良いかと思いまして……」
「そりゃそうね……それじゃあ『社』について説明しながら行こうかね…」
そう言って三笠は『社』について説明を始めてくれた。
『社』
それは三笠や大和が修得した体術。その某体術の流派における精神修練の一つである。
内容はとても単純、光や音すらも届かない空間に入り瞑想して過ごす。ただそれだけである。
「修業期間は最短で5日間。5日を過ぎたら修めたと見なされて外に出る事が出来るわ」
「その空間で過ごすだけなのでしょうか?ただ何もせず?…」
「今簡単かも?って思っちゃった?でもそうは問屋が卸さないのよねぇ…」
光も音も届かない何もない空間で過ごす。何も見えない何も聞こえない空間は嫌でも自分の感覚を…精神を…魂を…剥き出しにする。
剥き出しのそれらはふとした影響でその在り様は一気に変わってしまう可能性がある。
「それに『社』は流派の方針で最も不浄の場所。いわば負の感情や気が渦巻いている場所に建てないといけないの……」
その場所に居るだけで様々な負の情念と向き合わなければならない。しかもむき出しとなった精神で…である。
「更に『社』は時間の流れが歪んでいる。5日間の修行だけれど体感の時間は10倍。50日間程度に感じるわ」
「ッツ!!?」
それにより苦痛は想像を超え、精神や魂の弱い者は発狂して自害するか廃人となる可能性があるのである。
「だから遺書のようなモノを書かせる必要があるのよ…まあエイプリルちゃんの激励の手紙になっちゃったけれどね」
故にこの『社』は精神修練においては最難関と呼ばれる修行なのである。
「お婆様、『社』の方向はどちらに?」
「もうすぐそこよ、この山道の通りに進めば迷いもしないわ」
「うぃ、ありがとうございます!」
「あっ、エイプリルちゃん!?」
三笠に頭を下げて足を速めたエイプリル。
尊敬する師匠が何もないだろうという事は信じている。
しかし、まさかそれ程まで過酷な修行を行っていたとは…。
それもおくびに出さずに自分を激励してくれたという事に否が応でも足が進む。
足を速めた事もありすぐに『社』と思わしき場所に到着したエイプリル。
まるで洞穴の様な外観であり、入り口上部にかかったしめ縄と錠で閉じられた扉が『社』としての体裁を保っているようであった。
「師匠ッ!?大丈夫ですか師匠っ!!」
入り口前で思わず叫んでいたエイプリル。修行中なのにこんなに騒ぎ立てるのは迷惑だろうが咄嗟で仕方が無かった。
だがエイプリルの声に何の反応も無い。
「師匠ッ!師匠ッ!!」
今度は扉を叩いたエイプリル。それでも何の反応がない。
「まさか……」
思わず最悪の想像が頭をよぎったエイプリル。続いて叫び続ける。
「師匠ッ!エイプリルです師匠ッ!!師匠の激励もあり何とか勝利することが出来ました!!」
「…………」
「ですが、トワの【星団】も動き出し、コレからさらに過酷になっていきます!師匠の力が必要不可欠ですッ!!」
「…………………………」
「ですからお願いですッ!戻って来て下さい師匠ッ!!」
叫んだエイプリル。
すると扉の向こうから声が聞こえた。
「…ちぃっと下がってくれよ……」
「ッ!…うぃ!!」
それは待ち焦がれた声。エイプリルは嬉しそうに頷くと言われた通り扉から離れる。
次の瞬間、バゴンッ!!という炸裂音。同時に錠前が扉と共に綺麗に吹き飛んだ。
そして……。
「あ~~~~っ!!日の光気ん持ちィイイイイイイ!!」
中から大和が笑顔で現れた。
「師匠!師匠ッ!ししょぉぉう!!」
「おおエイプリル。お久しぶり!」
軽い感じでエイプリルに手を挙げた大和。無精に髭が伸び、服がボロボロの状況であったが元気そうである。
エイプリルはそんな大和の姿を見て思わず抱き着いた。
「師匠!何ともないのですか!?お身体は!?」
「ん?おお…文字通りピンピンよ!むしろ頭も体も含め絶好調!モヤ一つすら無ぇ!」
「よかった…」
おこがましいと思いつつもエイプリルは安堵する。
「それよりもエイプリルが元気にここに居るって事は……」
「うぃ?」
「無事に勝ったんだな……さっすが俺の弟子♪」
「し、師匠っ!?何をッ…」
不意にエイプリルの頭に手を置いた大和。そのまま優しく撫で始める。
「弟子の大事な一戦に立ち会う事が出来なかったからな…こうさせてくれ……本当によくやったな」
「ッ……うぃ、えへへ……」
大和の言葉に顔を綻ばせたエイプリル。
そこにようやく三笠が追い付いた。
「無事にやり切ったみたいねぇ」
「おお婆ちゃん。婆ちゃんもお久しぶり~……それよりもエイプリルを見てもらってありがとうな」
「いいのよぉ、婆ちゃんも楽しかったし……【演目】も完成させて、それで敵を撃破したエイプリルちゃん見せたかったわぁ」
「遂にかエイプリル!?スゲェ!!!」
「うぃ、まだまだ発展途上ですが何とか……えへへへ~…」
「それに大和ちゃん。貴方も『社』を経て相当強くなったようね、動きを見なくとも纏う気配だけで十二分に理解出来るわ」
「ん、そうだろ」
笑みを浮かべながら自信満々に頷いた大和。見た目は変わらないがこれまでの大和と比べると明らかに濃く強い威圧感。いよいよ深く底が全く見えなくなったと感じたエイプリルが身震いするほどであった。
「心配すんなエイプリル。俺は俺よ…」
「う、うぃ!」
恐れを感じていたエイプリルを宥めた大和。
「それよりも腹が減ったなぁ~『社』の中水すらも無かったからなァ」
「ふふッ…そうだったわね、じゃあ戻って朝食としましょうか……採れたての食材を使った豪勢なモノにしましょ」
三笠の提案に大和は「そりゃあ良い」と笑った。
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