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2巻
2-1
しおりを挟む第一章 Dランクと30レベル
勇者召喚に巻き込まれたと思ったら、すぐに王都を追い出された俺――秋野冬至。
今は隣国トガルへと移り住み、順風満帆の冒険者生活を送っている。
レベルも30になったので、そろそろ装備を一新する必要が出てきた。
錬金術と採取の職人技能が【匠】に至ってから、レベルを上げ始めている装備製作、アクセサリー製作、採掘の三つが、5レベルの【二流】となった。
レベル8の【匠】まで、後3レベルほど育て上げるだけなのだが、前と比べて育てる職人技能が一つ増えていることにより、その分作業量は多くなる。
もっとも、現状の【二流】でも俺のレベルより上の装備を作れるので、何も困ることはない。このまま地味に、そして気楽に毎日コツコツ続けていきましょう。
◇ ◇ ◇
「こんにちはトウジさん。先日の依頼の結果、Dランクへの昇格ができますが、どうしますか?」
今日も今日とて冒険者ギルドへ赴き、手頃な依頼を受付へ持っていくと、Dランクへの昇格を告げられた。
「ああ、お願いします」
返答はもちろんイエス。受けられる依頼の難易度は上がるけど、その分報酬も増えるのだ。
魔物を倒せばドロップケテルを拾えるので、正直いちいち依頼を受けなくてもお金は稼げるが、しっかり依頼報酬も受け取って、蓄えにしておきましょう。
「では、こちらがDランクのギルドカードです」
「どうも」
受付のお姉さんから、新しいギルドカードを受け取った。
ついにDランクか……王都にいた時、よく荷物持ちを引き受けていた冒険者と同じランクである。
そう考えると、なんとも感慨深かった。
俺もなんとか異世界でやっていけてるんだな。
「Dランクからは日跨ぎ依頼も増えてきますので、野営等の準備は十分にして、安全な行動を心がけてくださいね?」
お姉さんの説明に頷いておく。
Eランクまでは、駆け出し冒険者ということもあり、町周辺の安全を担うギルド指定の、簡単な討伐依頼などがメインだった。
だが、Dランクからは『ここにあるこの素材を取ってきてくれ』とか、『ここにいるこいつを倒してあの素材を持ってきてくれ』とか、そんな個人的な依頼が多くなってくる。
収集癖の強い人が依頼をしているのだろうか?
なんにせよそういった傾向があり、Dランクになってようやく、並みの冒険者だと評価される。
このまま着実に依頼をこなしていけば、美味しい依頼が舞い込んでくる可能性もあるとのこと。
うむ、これは今しがた受けようとしていたEランクの依頼ではなく、Dランクの依頼をどんどん受けていくべきだ。
身分証明証でもあるギルドカードの信用性を上げておくことは、今後のためにもよいだろう。
「あの、さっそくDランクの依頼を受けてもいいですか?」
「どうぞ」
ってことで、Dランクの依頼を見ていく。
ふーむ、Eランクと比べて報酬は高めに設定されているのだけど、隣にあるCランクの依頼に比べたら天と地ほどの差があった。
並みの冒険者と呼ばれるのはDランクだが、一人前だと誇れるようになるのは、指名依頼も舞い込んでくるCランクからなのか。
別にそこまでランクにこだわらなくても、魔物を倒して得られるドロップケテルとかドロップ素材を売却して、それなりに生活していけるだけの収入は確保できる。
しかし今後、異世界を見てまわることを考えれば、周りから信用されるCランクになっておくべきだろう。
冒険者としての目標は、とりあえずそこにしておきましょう。
「よし、これにするか……お願いします」
俺は色々と張り出されている中から、掛け持ち依頼ができそうなものを複数選んだ。
「はい、では運搬、討伐、採取の依頼三つですね?」
「そうです」
「依頼を複数受けるのは構いませんが、あまり無理をして失敗してしまうと、その分ギルドでの評価は下がってしまい、最悪ランク降格ということもありますので、お気をつけくださいね?」
Dランクに昇格したばかりだというのに、一気に依頼を三つも受けてしまったもんだから、受付のお姉さんより心配の言葉をいただいてしまった。
「大丈夫です」
確かに心配する気持ちもわからんでもないが、いらない心配である。
討伐や採取依頼の達成に必要なアイテムは、もうすでにインベントリ内に確保されているのだ。
運搬依頼を終えて帰ってきた時に、ついでにそれもやっておきました的な感覚で納品すれば、問題なく依頼完了となるだろう。
さらに、運搬する物資をインベントリに入れて持ち運ぶことで、途中で魔物狩りや薬草採取もできて効率が良い。
「まあ、トウジさんなら問題ないと思いますけどね? スライムキングを倒せるほどですし」
「はは、どうも」
下水道依頼の一件で、ギルドからはそれなりに信頼を得られているようで何より。
「では、荷積みはアルバート商会にてお願いいたします」
「はい」
アルバート商会と言えば、マイヤーのところか。
彼女は俺の秘密の一部を知っているから、気兼ねなく運搬用の物資をインベントリに入れることができるので、ありがたい。
「北の詰所に持っていく依頼? ほなこっちこっち」
冒険者ギルドから渡された荷積み伝票を持って、さっそくアルバート商会へ向かうと、ちょうど店番をしていたマイヤーが対応してくれた。
今日は店員のセバスが非番らしく、彼女が代わりに商会を回しているらしい。
十九歳にして日本でいうところの、大手家電量販店のフロアマネージャーのようなもんだ。
いや、セバスとともに全ての業務を統括しているそうなので、立場的にはもっと上だろう。
二十九歳でフリーターだった俺からすれば、天と地ほどの違いだな。
「最近は、なんや山脈が物騒やって聞いとるし、気をつけてな?」
「そうなの?」
「せやで。山脈の向こう側――デプリ王国側で、勇者達が魔物を狩りまくっとるらしいんや。おかげで食いっぱぐれた冒険者達が、こっちにちらほら流れてきとる。生態系が乱れて、縄張りを追われた魔物がこっちに来ないか、サルトの兵士も警戒態勢を敷いとるんやって」
「へ~、なるほどね」
兵士を多く山脈に配置することになり、他の部分に手が回らず、冒険者ギルドに補給物資の運搬を依頼するようになったとのこと。
そういえばこの間、森にオークキングが出たけど、もしかしてそれも山脈の反対側で暴れまわっている勇者達のせいなんじゃないか?
なんとなくそんな気配がするが、杞憂に終わってほしいものだ。
勇者関連、巡り巡って俺のところにカルマが、業が、来かねないのだし……。
「あ、そうだマイヤー。ついでに武器の納品も頼めない?」
「ええで、まーたぎょうさん作って持ってきたん?」
「ハハハ……」
マイヤーの想像通り、インベントリに眠る武器は合計三百本以上ある。
細かい数字はよく覚えていない。最近眠くても、無意識に装備を製作しているくらいだからなあ……。
「よし、武器は全部でこんなもんかな?」
「おおきに~」
武器は大量だったが、ペット達も含め、みんなで手分けして箱詰めした。それなりに時間のかかる作業でも、ポチとゴレオも手伝ってくれれば早いものだ。
「あ、これ、こないだのポーションの売れた代金や」
「ありがとう。じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
以前納品したポーションの代金を受け取ると、俺はインベントリの空いたスペースに荷車と運搬する補給物資を放り込んだ。
「トウジ、忘れ物してへん? 大丈夫?」
ポチ達を連れて踵を返す俺の背中に、マイヤーのそんな声が届く。
「ん? え、何が?」
「いやぁ、トウジのことやから、行き先でトラブルに巻き込まれるかもしれへんやん?」
「ないない」
場所はしっかりマップに登録しておいたし、そもそも移動自体はインベントリのおかげで手ぶらみたいなもんだ。荷物を取られる心配はない。
「でもなあ、一人で勝手に先に進んで、野盗に襲われるレベルやで?」
「ぐっ」
言い返す言葉がなかった。確かにそうである。
「ってか、場所の確認はしたん? そこそこの距離やから、弁当と水筒は持ったん?」
「おかんかよ……」
「心配やなぁ。一緒に行ってやりたいけど、うちは仕事で行けへんし、誰かトウジについて行ってくれんかなぁ?」
「いや、そこまでしなくても……」
俺はもう、このサルトの街で冒険者としてそれなりに生活できている。以前と比べて装備も整ったし、ポチやゴレオ、コレクト、キングさんだっているからな。
「アォン!」
大丈夫だよ、と言おうとしたら、隣にいたポチが先に胸を叩いて吠えた。
「まあ、ポチがついてくれとるなら心配あらへんな! しっかり見とくんやぞぉ?」
「ォン!」
「俺、もう二十九歳なんですけど……」
十歳年下の女の子に、まるで母ちゃんみたいに心配されて、コボルトにお守りを託される。
こんな二十九歳あっていいんですか!?
「と、とにかく……もう行くよ……」
「ほな頑張ってなー」
心配されるのはありがたいけど、なんだかなあ。
手を振るマイヤーに見送られて、俺はなんとも言えない気持ちでアルバート商会を後にしたのであった。
◇ ◇ ◇
サルトの北門からしばらく森を歩き、補給物資の運搬先である、北方の詰所へとたどり着いた。
道中でトラブルが起こると、マイヤーに「そら見たことか」と言われてしまいそうなので、念には念を入れて警戒した。疲れた。
「この辺でいいか」
マップ機能に表示された詰所の位置は、ここから少し歩いた先。
誰も見ていないことを確認し、俺はインベントリから荷車を出し、補給物資を積んでいく。
積載量ギリギリまでインベントリに突っ込んできたので、補給物資は山盛りだ。到底一人では押せないレベルのギチギチ感なのだけど、ここでゴレオの出番である。
「頼むよ、ゴレオ」
首の関節をゴリゴリ言わせながら、コクコクと頷くゴレオは、車輪が軋み怪しい音を立てる荷車を力強く引き始めた。さすが力持ち。
「ギルドの依頼で補給物資を持ってきました」
そのまま詰所を訪ねると、兵士がやや顔を引きつらせて受け入れてくれる。
「そうか、ありがとう……って、すごい量だな……助かるけど……すごい量だな……」
荷車を引くゴレオの姿を見て、ボソッと「あのゴーレムマニアか」と呟いているあたり、詰所に派遣される兵士の中でも、俺の異名が語り継がれているようだ。
「ここに全て置いといてくれ」
ゴレオとポチ、さらに兵士の方々と手分けして、積荷を荷車から下ろし終えると。
──ぐぅぅ。
俺とポチのお腹の音が響き渡った。
「これだけの量を運んできたんだから、そりゃ腹も減るだろう。部屋を出て右の奥に食堂があるから、そこで何か食べるといいよ」
「あ、ありがとうございます……」
そもそもゴレオを使って運んできたのだから、俺達はそんなに働いていないのだが……気を使ってくれたのか。非常にありがたい提案だけど、少し恥ずかしかった。
ゴレオを図鑑に戻して、ポチと二人で詰所の食堂に向かう。
「お邪魔しまーす……」
入り口からそーっと覗くと、明らかに兵士ではない人がちらほらいた。
俺と同じ、運搬依頼を受けた冒険者だろうか?
「あら、トウジじゃないの?」
「ん?」
雑多に座った冒険者の中に、見知った顔がいた。
「奇遇ね、あんたも依頼で詰所に来たのかしら?」
燃えるような赤い髪と、赤い瞳を持つ女性、イグニールだ。以前、依頼中に森で出会った。
「はい、運搬依頼で来ました。イグニールさんもですか?」
「いや、私は魔物の警戒補助依頼よ」
どうやら運搬依頼の他にも、有事の際の戦闘員として、冒険者を雇い入れているらしい。
冒険者ギルドにそんな依頼を出すなんて、山脈の向こう側の状況は、俺が想像していたより深刻っぽいな。依頼で森へ入る際はしっかり気をつけよう。
「……っていうかトウジ、畏まらなくていいわよ」
「わかった。それよりイグニール、足は大丈夫なの?」
世間話のついでに、この間のオーク騒動で折れてしまった足について尋ねる。
「ええ、治療院でバッチリ直してもらったから」
彼女はそう言いながら、スカートをめくった。レギンスを穿いた足を出し、パンパンと叩いてみせる。レギンスがあっても、スカートめくるのってやらしいね。
ちなみに彼女の言う治療院とは、お金を払えば回復系のスキルを持った人が傷の手当てをしてくれる、病院のようなところである。
痛々しかった顔の傷も、折れた足も、無事に綺麗さっぱり治ったようで何よりだ。
「ォン」
それから適当な世間話をしていると、ポチが俺のズボンを引っ張って急かしてきた。
「ああ、ごめんごめん、ちょっと待って」
早く調理をしたくて堪らないようなので、食堂の奥にある厨房へとポチを連れていく。
すっかり料理好きなコボルトになってしまった。まあ、作った料理は美味しいものばかりなので良いんだけど。
「ォン……ォン……」
厨房へと入ったポチは、保存されている食料を隈なくチェックし、首を横に振りながらため息をつく。どうやら、ここにある食材はあまり新鮮とは言えないらしい。
街から離れた詰所にある食材なんて、大抵は保存が利くものばかりなのだから、それは仕方ない。
つーか、いっぱしの料理人みたいな態度だな、こいつ……。
真の料理人だったら食材が古くても、なんとか調理をしてみせろと思う。けど、俺もインベントリに新鮮な食材を蓄えているのだから、古いものを食べる気はない。
「ほら、食材適当に出しとくから、これでなんか頼む」
「アォン」
兵士さん達の食料を無闇矢鱈に食べる訳にはいかないと適当な理由をつけて、インベントリから食材を取り出してポチに渡す。
「え、なに……ポチが料理を作るの……? 作れるの……?」
手持ち無沙汰だったのか、厨房についてきていたイグニールが唖然としていた。
大方ポチのことを、ただのペットだと思っているのだろう?
フッ……うちのポチを舐めてもらっては困るぜ。
正直に言おう。俺より気が利くし、正義感強いし、ネーミングセンスあるし、掃除の腕も整理整頓の腕も、何もかもが上位互換なスーパーコボルトだ。生活力超高い。
誇らしく思う反面、なんだか少し情けなくなってくるのは、気のせいだろうか……?
そんなこんな思っている間に、ポチが手際よく調理をスタートさせる。
熱した油の中に、この間オークを分解して得た【豚肉】に小麦粉、卵、パン粉をまぶして投入し、カラッと揚げた一品……と、とんかつだ。
ご丁寧にキャベツの千切りも付け合わせとして添えてあるし、もうどっからどう見てもとんかつ。スープも添えて、みんな大好きとんかつ定食。
「お、美味しい……!!」
「アォン」
一口食べたイグニールの反応に、誇らしげな表情のポチ。
俺はてっきりポークソテーでも作るのかと思っていたが、こいつはそんな俺の予想を軽く超えてきやがった。
もちろん俺は何も教えていない。この料理を教えたのは牛丼屋のおっさんに決まっているが……おっさんのレパートリー、半端ないって。
「ただの、コボルトよね……?」
「そのはずだけどね?」
「なんで疑問系なのよ……」
呆れるイグニールに、適当に笑って返しておいた。
こればっかりは俺にもわからない。ただ一つ言えることは、異世界生活において、俺はポチのおかげですごく助かっているということである。
それだけで良い。良いのだ。だって今でも十分過ぎて、供給過多レベルなんだよなあ……。
「ポチ、すごく美味しいよ」
「アォン!」
後片付けがすんなり終わるよう厨房内でとんかつ定食を食べつつ、誇らしげな表情をして尻尾をふりふりするポチの頭を、なでなでもふもふして褒めてあげる。
毎朝自分で毛並みを整えているから、とっても良い肌触り。
「ねえ、私にも……もふもふさせてもらえないかしら……?」
ポチを膝の上に乗せて、顔面をもふもふむにむにして遊んでいると、目を輝かせたイグニールがそう尋ねてきた。
「ポチ次第だけど、どうかな?」
「ォン」
ポチに聞くと、どうやらオッケーのようでイグニールの前に行き、万歳する。
両手を上げて、好きにしろとの意思表示。
「わあっ」
イグニールはポチを抱きかかえて、もふもふを楽しんでいた。
「う、うまそう……」
「な、なんだ、あの料理……」
そんなポチの姿に癒されていると、出来立てほやほやのとんかつ定食の匂いにつられてか、厨房に人が集まってくる。
「良い匂いだあ……」
「ゴクリ……」
よだれを垂らしながら厨房を覗き込む冒険者、と昼休憩に来た兵士の方々。
とんかつの香ばしい匂いって、堪らないくらい食欲をそそるから仕方がない。
ソースはないけど、トガル名産のタレを用いて、十分に美味しくいただけました。
さて、覗き込む面々は、食べかけのとんかつ定食をすごく食べたそうにしている。
なんとなく見られたからには振る舞わなければならない気がした。
「どうする、ポ──」
──トントントントントントントントン!
あっ、もうキャベツの千切りを始めてる……。
作れるか作れないか聞こうと思ったのだけど、どうやらやる気満々みたいです。
まったく、味わってもらえる喜びを知りやがって、ポチめ!
「皆さんの分も用意するっぽいですよ」
ポチの意気込みを無下にする訳にもいかないので、指を咥えてこちらを窺う腹ペコ集団を見てそう呼びかける。
「い、良いのか!?」
「よっしゃあ! すっげぇ腹減ってきてたんだよ!」
「では、食堂のほうで少し待っていてくださいね」
この時間だけ、料理屋ポチの開店である。俺は料理ができないので、店員第一号としての初勤務だ。居酒屋バイトもしたことあるので、即戦力として頑張ります。
こうなるともう、どっちが主人だかわからなくなってくるな……でも、料理をするポチの表情を見ると、自然と表情も緩んでくるんだ。
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