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本編
477 閑話・勇者一行6
邪竜と呼ばれる存在を無事に倒し、俺たちは陸路を経由してデプリ王都へと戻ってきた。
「もう疲れたよぉ、優斗くぅん」
俺たちの住む王城を目の前にして、加奈がそんな口を零す。
「まあまあ、みんなで無事に戻ってこれたんだから」
「そうだけど……ずっと馬車に揺らるのは飽きたよう……」
トガル経由で海を渡ればすぐに帰れるらしいが、俺たちはまだ連合諸国に勇者として認められていない。
だから北の地にある断崖凍土までの往復は、お忍びの旅路。
教会の力が強い国を身分を隠して渡りながら、かなり時間をかけての道中だった。
「なんか空を飛べる乗り物とかあったら良いのに!」
「だったら、由乃が空を飛べる魔法を使える様になれば早いのでは?」
「それ良いね小夜ちゃん!」
「ちょっと、無茶だってば。私たち4人だったら、風の魔法で飛べるかもしれないけど……全員は無理」
由乃の言う通りだ。
僕たちはまだこの世界を知らないから、神官兵士たちに案内を頼まなきゃいけない。
アイテムボックスも持たないから、そのスキルを持つ人を同行させなきゃ話にならない。
賢者の力を持つ由乃でも、さすがにそんな大所帯を空に飛ばすのは無理な話だった。
「仮に空に飛べたとして、着地の時はどうするのよ」
「そりゃあもう、良い感じにふわっと?」
「できたらとっくにやってる。私がちょっとでもミスれば、飛行機の墜落事故と同じだからね?」
「うう……やっぱりやめとこうかな……」
生身で空を飛んだ時のことを想像した加奈は、苦い顔をしながら諦めていた。
俺とか小夜みたいな、VITもそれなりにあるタイプだったら、少しは平気。
だけど、加奈や由乃の様なINTに寄ったステータスの持ち主は、持たないだろう。
「それが良いわよ。しかも杖盗まれて、私はちょっと弱体化しちゃってるし」
「もう! あの操られてた神官兵士! なんなの!」
「仕方ないわよ。まあ買った物でもないから特に思い入れはないから平気よ」
今回の戦いの中で、操られた奴含め神官兵士の何人かは死んでしまった。
悲しいけれど、大義のためには犠牲は付き物だって神官兵士長は言っている。
そんな人たちのためにも、俺たちは勇者として責任持って力を使わないと……。
「絶対うちらの力を認めさせて、伝説の勇者たちの装備を貰わなきゃだね!」
「そうね、頑張りましょ」
犠牲になった人のためにも、と言うことなのだろうか。
大通りを王城までまっすぐ進む帰りの馬車の中で、ぐっと小さな拳を握りしめる加奈。
そんな姿を見ていると、頑張ろうと思えた。
「でも……これから先、こうしてデプリ以外でも問題があるとするなら、移動手段はかなり重要よね?」
「確かに由乃の言う通りだね」
由乃の言葉に頷いておく。
今回は、なんとか断崖凍土に潜む邪竜を倒すことができた。
間に合った。
しかし、これから先。
また世界のどこかで危機が起こった際……。
間に合うかはわからなかった。
「でもでも、今教会の人たちがそれを作ってくれてるんでしょ?」
「そうだね、加奈」
神官兵士長は、僕たちが連合諸国に認めらたあかつきには、空飛ぶ船をお披露目すると言っていた。
今はまだ試作段階だけど、こっそり協力者とのやり取りの元で製作を進めているらしい。
「それがあれば、空を飛んで各国を行き来できる様になるんだよね、優斗くぅん?」
「いつできるかはわからないけど、たぶんね」
「わぁっ! みんなで空を飛べるって、なんかすごいかも! あたし飛行機乗ったことないし!」
「そんなに良いもんじゃないわよ……」
「えー? 年一回海外旅行してる由乃ちゃん家は良いご身分ですなあ~! このこの~!」
「ちょ、ちょっとくすぐるのやめなさいってば! ぁっ、ゃん! ちょっとこら!」
じゃれ合う由乃と加奈を尻目に、じっと瞑想していた小夜が口を開く。
「私は新たに発見されたと言われる武器の方が気になる」
「ああ、教会が用意してくれる奴だね?」
「うむ」
その名も、新・勇者装備。
教会が新たに読み解いた教典の中に記された装備のことなんだそうだ。
各国に散らばった伝説の装備よりは劣るが、今の装備よりもかなり強い。
「色々と便宜を図ってくれて、教会には感謝だね」
各国を渡る際のサポートや戦闘のサポート。
教会には、お世話になりっぱなしである。
惜しみない協力をしてくれる人たちのためにも。
救いを求めているこの国の人たちのためにも。
「絶対に、世界に認められる勇者になって、過去の勇者を超えた勇者になってやろう」
「うん!」
「ええ、そうね」
「もちろん、私は過去の剣聖なんかとうの昔に超えていると自負しているぞ」
俺の言葉に、強く頷き返してくれる加奈と由乃と小夜。
美人だな、俺を慕ってくれるのがもったいないとさえ思う。
うん、彼女たちのために頑張ろう。
「ねえ、由乃ちゃん、召喚とかってできないの?」
「召喚? 加奈ってば、なによいきなり?」
「いやさあ……巨大な鳥とか、竜とか、呼べたらそれに乗って空飛べると思わない?」
勇者用の従魔のことだろうか。
確かに、空飛ぶ船よりもファンタジー世界の勇者っぽい感じはする。
「だから、できたらやってるってば、召喚は専門外よ」
「前に殺したゴブリンの使役していた竜を捕まえておけばよかったか……しまったな、強かったからついつい本気を出して殺してしまったのは早計だったか……」
「でも小夜、やらなきゃやられてたのはこっちだったかもしれないし、仕方ないわよ」
「うーん、なおさらアキノトウジを早く見つけ出して、俺たちの仲間にするしかないかな?」
デプリの国王が、他の国々に送り出した密偵からの情報によれば、彼は召喚を扱うらしい。
最初は弱い魔物ばかりだったそうなのだけど、今ではロック鳥も従えるまでになったとか。
過去の勇者だって、未曾有の危機に直面した時、何かしらの移動手段を持っていたはず。
そんなすごい従魔を得られたなら、それがまさしく勇者の乗り物であると言えるのだ。
「ふん、逃げ出した軟弱者なんぞ、仲間に入れる気は無い」
「小夜ちゃんの言う通り、あの人をこのメンツに入れるの……なんかあたしは嫌だなあ……」
「でも、戦闘系のスキルばかり持ってる俺たちにはない物を、アキノトウジは持ってるよ」
「優斗のいう通り、一人で神官兵士の代わりができるのなら、仲間に加えておくのは一つの案ね」
デプリからトガルへと逃れたのも、行商人の振りをしてなんだそうだ。
やはり、彼は戦闘できないサポート系のスキルを隠し持っていたと確定できる。
召喚された者は5人。
一人でもかけてしまっては、いつかは俺たちでは対応できなくなる可能性もある。
なぜ、5人呼ばれたのか。
巻き込まれただけかと思っていたけど。
何か深い意味があるんじゃないかと。
俺はそう強く感じていた。
「たとえ途中で入っても待遇は同じじゃないでしょ? ここまで頑張ったのはあたしたちなんだからね!」
「……意外と腹黒いわね、加奈」
「むふふふ、そんなことないよーん?」
「まあ、それは仲間に引き入れてからの話にしようか」
もちろん相応の対応はする。
広められてはいないけど、罪人扱いなのだから。
その時、彼は虐げられてしまうかもしれない。
そうなれば、逆に俺たちが守ってあげないといけなくなる。
まあ、スキルを隠蔽して逃げた分の罪は仕方がない。
王国側にも、彼にも、良い感じに収まるように立ち回らなきゃだ。
面倒臭いが、これも勇者の役目なのである。
「でも、どうやって仲間に引き入れるのかしら? 私たち、お忍びじゃないと国から出れないでしょ?」
「そこは王様が良きように動いてくれてるらしいから、全部任せておいて、俺たちは少し休息を取ろう」
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