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本編
478 閑話・一人の盗賊の死によって始まる何か
トガルから船で移動した場所に存在する島型の大迷宮。
その名も、極彩諸島。
数ある島の内の一つに、大きく賑わいを見せる場所が存在する。
島の名前はオデッセイ。
大海賊の一人、女帝カリプソと呼ばれる人物が支配する領域。
傘下の海賊達が、島に上がり、疲れを癒すための場所だ。
夜の島には、大きく明かりが灯され酒場や賭博場が扉を開く。
止むことのない喧騒の中には、海賊以外の姿もそれなりにいた。
冒険者、軍服、賊、その他。
様々な奴らが集まる此処は、もはや海賊の癒し場だけでは無いのかもしれない。
「大船長」
島の特等席にも近い、一番上の見晴らしのいい場所に聳える豪邸。
中の広い一室にて、豪華なソファーに体を預ける美女がいる。
この島を支配する女帝、カリプソだ。
そんなカリプソに、背広を身につけた女性が近づいて声をかける。
「ご一報がございます」
「ちょっと、大船長って名前はもう古いってば」
「し、しかし……なんとお呼びすれば……?」
「代表で良いって言ってるでしょー? 代表よ、代表」
「は、はあ……」
「もう海なんてあんまり出ることないし、とにかくやり直し!」
「で、では……代表」
「あらあら、まあまあ……で、何かしら?」
言い直された呼び名に満足した代表とやらは、笑顔で聞き返す。
その様子に若干あきれ返りつつも、背広を着た女性は話し始めた。
「ローバーが、ギリス中央山脈で死にました」
「えっ、弱虫ローバーちゃん死んじゃったの?」
その一報にカリプソは目を丸くする。
「ちょっと詳しく聞かせてちょーだい」
「報告によると、ワイバーンライダーと取引してギリスの山中に潜伏していたところを冒険者に討たれたそうです」
「へー、傘下の盗賊たちもかなりの規模にまで拡大してたと思うけど……まさか、Sランク引いちゃった系かな?」
「いえ、Aランククランとそれらが率いるAランクパーティーだと聞いています、Sではないです」
「せっかく大盗賊にしてあげたのに、ついてないわねぇー」
賊稼業は、有名になればなるほど指名手配され賞金が懸けられる。
その金目当てに寄ってくる冒険者は、魔物を除けば天敵にも近い存在だ。
ある種、賊側が脅すから彼らの護衛業は成り立っている節があるけれど。
それでも体裁的には、絶対的な敵対関係なのである。
「規模拡大したら山降りて街に色々忍ばせとけって言ったのにねー?」
「どうやら、ギリスでもそれを狙って準備している最中だったようです」
「なにそれ、本当についてないわね」
どんまいどんまい、と軽い調子で反応するカリプソに、背広の女性が尋ねる。
「そしてその件で、エルカリノと私たちに報復の助力要請が来てますが、どうしますか?」
「エルカリノはどんな反応をしていたか、とかまではわかるかしら?」
「今探らせてますが……おそらく報復に力を貸すと思われます」
「まあ、あいつは一度子分だと認識したら、しっかりケツを拭いてあげるタイプだものね」
「それで、私たちはどうしますか?」
「うーん……」
しばし考えると、ぐっと酒の入ったグラスを煽り、カリプソは結論を出す。
「お断りでー」
「一応、エルカリノに示しを合わせておくには、多少の助力はした方が良いかもしれませんよ?」
「ローバーちゃんとは多少の縁はあったけど、あっちは海賊やめて盗賊、もう義理なんてないの」
同盟を結んだ海賊であるならば、多少は協力してやる義理はあった。
しかし、盗賊相手に助太刀するほど、カリプソはお人好しではない。
「これから忙しいって時に、手元を離れた奴のケツなんて拭けないわよ」
それに、と続ける。
「ワイバーンライダーは目立つでしょ? 規模拡大を狙った潜伏中に、そんなのと取引するのもナンセンスね。運が悪いというか、私には身から出た錆にしか思えないわよー?」
「同感です」
「そんでもってAランクの集団に遅れを取るって、どーせ見誤って変なのに手を出したでしょー?」
「そこまではわかりませんが、冒険者はもともとワイバーンライダーを討伐しに来ていた存在らしいです。そして、討たれる前までは、クラン戦力を削るための代表が教えた裏工作もしっかりやっていたそうですよ?」
「うーん、私が教えたことをやってたんなら、普通に運がないわねー。そんな奴らの報復を手伝ったら、藪蛇して面倒ごとに巻き込まれる可能性があるから絶対関わらないわよー? 縁起わるーい!」
「あの……酔ってますか……?」
「失礼ね、酔ってないわよー?」
ケラケラと笑って、葉巻に火をつけて大きく吸ったカリプソは、吐き出しながら真顔になる。
「とりあえずマークしておく必要がありそうね、その冒険者」
「すでに名前は入手しています」
「さすがね。で、誰かしら?」
「その場にいた冒険者で取り急ぎ名前を挙げるとするなら《鉄壁》のドルジ」
「ああ、それなりに大御所ね」
「現在、元《編み髪》のクランメンバーも引き入れ、さらに大きくなっています」
「あれ、あそこってライバルみたいな感じじゃなかった?」
「昔から両クランマスター同士では繋がりがあったらしく、クランマスターが戦死し、その後分散したメンバーを取り込んだ形になっています。ちなみに、ローバーが壊滅させたクランが《編み髪》ですよ。討たれたときのパーティーには《編み髪》のメンツもいたそうです」
「ふーん。もろに因果応報してるわね、縁起悪っ」
「続けて良いですか?」
「どうぞ」
「あとはAランクパーティー《平々凡々》のノーマリー」
「うーん、知らないわねえ……なんか平凡そうな名前だから気にしなくて良いわよ、次」
「あとはこれと言って名を挙げるほどの存在はいないのですが……トウジ・アキノという人物が、なんとも平々凡々よりもさらに平凡な顔立ちのくせに、ドルジやノーマリーたちに感謝されていた、という報告もございます」
「なにそれ、平々凡々よりも平凡って、一周回って胡散臭くない?」
「私は密偵からの情報をそのままお話ししているだけなので、そこまではわかりません……」
「よし、そのトウジ・アキノって冒険者を詳しく洗っといてちょーだい」
「へ? 《鉄壁》の規模が大きくなっているので、そちらの同行を調査するんじゃないんですか?」
「いや、そっちは報復を受けたら受けたって事後報告で良いわよ。それよりもトウジ・アキノね!」
「は、はあ……」
「いつだか、エルカリノが貿易船を襲って返り討ちにあった出来事があったのは覚えてるかしら?」
「覚えています。ロック鳥とものすごく強いスライムキングを使役する冒険者に手ひどくやられたそうですね」
「ドレイクちゃんから聞いたんだけど、その冒険者がトウジ・アキノだってさ?」
「そ、そうなんですか? そんな魔物を使役するなんて、平凡でもなんでもないと思うんですけど……」
「でしょ? 胡散臭いけど、ドレイクちゃん私には嘘つかないから」
「それが事実なら、ローバーをやったのはトウジ・アキノという冒険者でしょうか?」
「かもね」
「だったら、一応エルカリノ側に情報提供だけはしておきますか?」
「しなくて良いわよ。こっちは絶対に関わらない、それが鉄則。もっとも、あっちも調べはついてるでしょうし」
「わかりました」
「でも、個人的に監視はしておいて。ドレイクちゃんが良いって言った冒険者でしょ? なんだか面白そうだし、もしかしたらエルカリノと盗賊の報復だってひっくり返しちゃって、面白いものが観れるかもしれないわよー?」
「相変わらずですね……」
「むふふ、そろそろならず者が海を支配する、って古いナンセンスな言い方も止めにして、これからの私たちは海を管理する側に回るの。冒険者ギルドの誘致だって話もまとまりそうだし、なんか面白い男は手の上で転がしとくのが一番よ。むふふ、むふふふふ」
新しいおもちゃを見つけたような雰囲気を出すカリプソに、背広の女性はまたかと呆れた表情を作った。
関わらないと言っておきながら、全力で関わっちゃってないだろうか、と心の中で密かに思うのである。
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