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本編
498 宿直と学院七不思議・その1
夕食の後、俺は夜のソレイル王立総合学院へと向かった。
宿直とは、夜に泊まり込んで警戒に当たる業務である。
夜の校舎なんで何だか怖いな、なんて思うことは全くない。
異世界だし幽霊とか精霊とかいたっておかしくないからだ。
さらに言えば、魔物ひしめく森の中で野宿する方がもっと怖かったりする。
もっとも、学院はマンモス校。
故に、夜半の警戒に当たる人員も多く、俺は一人じゃないのである。
「しかし、一人じゃないのは、ソレはソレでなんかなあ……」
誰もいなくなった建物内を歩きながら独り言ちる。
そう、ぶっちゃけ一人だったらの話だ。
警戒は水島あたりにやらせて、俺は宿直室で装備製作やポーション製作を進めたかったのである。
朝、飲み会明けで寝坊し、無限採掘と生え散らかした薬草採取しかできないでいた。
この遅れを取り戻さんとばかりに、疲労度マックスになるまでしたかった……。
日課が……。
ちなみに、依然として【神匠】は遠い。
熟練度のメーターがここ最近全然たまらなくなっていた。
各地を飛び回ったり、依頼でごたついてたり。
いろんな物が後手後手に回っている感がある。
職人技能や六大性質のレベル上げは、できる限り毎日やっておかないと。
最近めっきり存在感がなくなってしまった六大性質。
こちらは、比較的レベル上げがやりやすいものから順々に育っている。
忘れてると思うから、一覧を出しておくぞ。
・六大性質
・布施 ケテル獲得量+10% ドロップ率+10%
・自戒 ダメージ+10% ボスダメージ+10%
・忍辱 HP+2000 状態異常耐性+10%
・精進 熟練度獲得率+10% スクロールの成功確率+10%
・禅定 属性耐性無視+10% 防御無視+10%
・智慧 MP+2000 バフ時間延長+10%
一つをマックスにすると仏を召喚でき、1日一回一つのスキルを発動可能
六波羅仏神というスキルで30分に限り、全部使用可能クールタイム1日
・レベルの上げ方
・布教
一定の価値以上のアイテムを他のプレイヤーに渡す。
・自戒
発生した戒律を守って一定時間プレイする。
・忍辱
同種モンスターからダメージを受けた際、そのモンスターに反撃しない。
・精進
同種モンスターを一定量、一定時間倒す。もしくは一定時間同じことをこなす。
・禅定
動かず、何もせず、一定時間待機。
・智慧
書物アイテムの閲覧所持、強化のスクロールを使用する。
全体的に、忍辱以外はちまちまレベルが上がっていたりする。
平均7程度で、上がりやすいものは10とか。
難易度それなりな自戒クエストがちまちま間にあったから、自戒のみ15レベル。
うーん……俺が思ったよりも相当レベルをあげるのが難しいな!
ネトゲとリアルでは、やはりレベル上げに関わる経験値の入りが違うらしい。
是が非でも、【布教】【智慧】【精進】はマックスにしておきたいところ。
いや、全てをマックスにするのが目標だけど、上記の三つは効果が良い。
布教のケテル獲得量+10%、ドロップ率+10%。
こいつは俺の生活の上で間違いなく利益をもたらす効果。
精進の熟練度獲得量+10%、スクロールの成功確率+10%。
俺が職人技能を使い装備製作し、それを強化する上で重要。
智慧のバフ時間延長+10%。
こちらはバフスキルのみならず、高級巨人の秘薬の効果時間も伸びる。
つまるところ、33秒巨人でいられるので強いと見た。
無敵が2秒でもしこたま強いんだから、巨人3秒伸びるだけで強いだろ。
「しかしなあ……今だにレベル上げの判定がよくわからんのだよなあ……」
「キュイー」
俺のつぶやきに、ライトを持って隣を歩く水島が適当に頷いていた。
独り言を呟きながら夜の校舎を歩くもの癪なので、とりあえず水島を出した次第。
こういう雑用は水島の得意分野っていうか、そういうキャラだからね。
「智慧と精進はまあ良しとして、布教がなあー」
「キュー」
装備をイグニールに、ヒヒイロカネをオスローに渡した時はちまちま経験値を得られていた。
しかしながら、深淵樹海でキッチン用具をインサスにプレゼントするくらいじゃダメだった。
ポチのお古だからっていうのもあるかもしれないが、それでもそれなりに高価なんだがなあ。
「まあいい、やれることからやっていこう」
日課の装備製作、ポーション製作、そんでもって強化だ。
比較的上げやすいものを順々に上げていく。
ずっと前からやれることをやって生きて来たんだし、それで良いはずだ。
何かしら効率の良いレベル上げ方法が見つかれば、その時に考えよう。
ちなみに、禅定の動かず、何もせず、一定時間待機。
これは寝てるだけじゃ、さすがに上がらなかった。
人生うまくいかんもんだね、やっぱり。
大きく経験値を得られたのは、イグニールと一緒にワシタカくんに乗った時である。
「おっと、ここが宿直室だな……こんばんはー」
宿直室についたのでガチャリと扉を開けると、中に一人だけ警備のおっさんが座っていた。
「こんばんはトウジさん……ってイルカのおっさん!?」
「ああ、俺の従魔なので、お気になさらず。一緒に宿直します」
「キュイ」
ぺこりと挨拶をする水島。
それを見て、警備の人は「従魔ですか、びっくりしたなあ……」と胸をなで下ろしていた。
確かに、いきなりヌッと水島が顔を出したら驚くか。
失礼なことをした。
「すいません、驚かせてしまって」
「いやいや中々礼儀正しい従魔じゃないですか、人でが足りてなかったのでありがたいですよ」
「ありがとうございます。茶菓子ですので、召し上がってください」
「おお、これはギリス銘菓の女王クッキーじゃないですか! 良いんですか?」
「どうぞどうぞ、食べ飽きてるかもしれませんが……」
「いえいえ、何度食べても飽きないこの味は、まさに私たちの故郷の味ですよ」
「そりゃ良かったです」
差し入れたお菓子を戸棚においた警備の人は、壁にかけてある鍵をもって立ち上がる。
「では、ちょうど良い時間ですし行きましょう」
「はい」
「トウジさんには……ええと、こっちの鍵ですね、うん、こっちの鍵だ」
三人で一緒に行くのかな、と思っていたら鍵の一部を手渡された。
「これは?」
「基本的に宿直の人は各フロアごとのマスターキーを持って巡回するんですよ」
「ふむふむ」
「宿直業務が初めてのトウジさん向けに、巡回ルートをアシュレイ先生が作ってくれていますので、それに従って巡回をお願いいたします」
言葉と一緒に地図も手渡される。
それはアシュレイ先生手書きの「初めての宿直るーと案内図」だった。
なんとも可愛らしい丸文字である。
しかし、地図の線もなんか角が丸いので逆に読み辛かった。
マップ機能にルート登録すらされないレベル。
「最初は、みんなで一緒に行かないんですか?」
「それも良いんですが、二人……いや従魔も含めて三人いるなら、さっさとこなして休憩するのが良いでしょう?」
「確かにそうですね」
余った時間は適当な空き教室でこっそり装備製作とかポーション製作に打ち込めそうなので、提案に乗った。
やはり業務は効率的なのが良いのだよ、効率的なのが。
いつぞやのガレーのような言い草だが、魔物も何もいない場所だし、各自手分けして巡回したほうがいい。
さっさと終わらせて、やり残した日課を終わらせようかね。
「でもさすがに水島個人で行かせるのはあれなので、俺と一緒に行動させます」
「わかりました。では行きますか」
「はい」
「トウジさんは、裏庭からクラブ活動用の校舎へと向かって、そこの各施設をお願いします。研究用の魔物を飼育している場所もあるのですが、一応リストがありますので、しっかり逃げ出していないか、そして檻に鍵がかかっているかもチェックをお願いします」
「え、魔物を飼育してるんですか……?」
「ええ、研究用で。なあに、特に凶悪な魔物はおりませんし、厳重に鍵がかけられているので大丈夫ですよ。少し怖いかもしれませんが、宿直担当の乗り越えし度胸の壁のようなものです」
「えっ、初日ですけど」
「私も初日にさせられて、ひやっとしたものですよ。では時間も惜しいですし気合い入れて行きまっしょい──」
「あっちょっと! ……早っ」
なんだかこれ見よがしに面倒な部分を押し付けられた気がしないでもないが、まあいいか。
厳重に檻に入れられているならば、それでよし。
しかし研究用の魔物を飼育って、意外とマッドなことをしてるんだな、学院も。
「行くぞ水島」
「キュイー」
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