197 / 650
本編
498 宿直と学院七不思議・その1
しおりを挟む夕食の後、俺は夜のソレイル王立総合学院へと向かった。
宿直とは、夜に泊まり込んで警戒に当たる業務である。
夜の校舎なんで何だか怖いな、なんて思うことは全くない。
異世界だし幽霊とか精霊とかいたっておかしくないからだ。
さらに言えば、魔物ひしめく森の中で野宿する方がもっと怖かったりする。
もっとも、学院はマンモス校。
故に、夜半の警戒に当たる人員も多く、俺は一人じゃないのである。
「しかし、一人じゃないのは、ソレはソレでなんかなあ……」
誰もいなくなった建物内を歩きながら独り言ちる。
そう、ぶっちゃけ一人だったらの話だ。
警戒は水島あたりにやらせて、俺は宿直室で装備製作やポーション製作を進めたかったのである。
朝、飲み会明けで寝坊し、無限採掘と生え散らかした薬草採取しかできないでいた。
この遅れを取り戻さんとばかりに、疲労度マックスになるまでしたかった……。
日課が……。
ちなみに、依然として【神匠】は遠い。
熟練度のメーターがここ最近全然たまらなくなっていた。
各地を飛び回ったり、依頼でごたついてたり。
いろんな物が後手後手に回っている感がある。
職人技能や六大性質のレベル上げは、できる限り毎日やっておかないと。
最近めっきり存在感がなくなってしまった六大性質。
こちらは、比較的レベル上げがやりやすいものから順々に育っている。
忘れてると思うから、一覧を出しておくぞ。
・六大性質
・布施 ケテル獲得量+10% ドロップ率+10%
・自戒 ダメージ+10% ボスダメージ+10%
・忍辱 HP+2000 状態異常耐性+10%
・精進 熟練度獲得率+10% スクロールの成功確率+10%
・禅定 属性耐性無視+10% 防御無視+10%
・智慧 MP+2000 バフ時間延長+10%
一つをマックスにすると仏を召喚でき、1日一回一つのスキルを発動可能
六波羅仏神というスキルで30分に限り、全部使用可能クールタイム1日
・レベルの上げ方
・布教
一定の価値以上のアイテムを他のプレイヤーに渡す。
・自戒
発生した戒律を守って一定時間プレイする。
・忍辱
同種モンスターからダメージを受けた際、そのモンスターに反撃しない。
・精進
同種モンスターを一定量、一定時間倒す。もしくは一定時間同じことをこなす。
・禅定
動かず、何もせず、一定時間待機。
・智慧
書物アイテムの閲覧所持、強化のスクロールを使用する。
全体的に、忍辱以外はちまちまレベルが上がっていたりする。
平均7程度で、上がりやすいものは10とか。
難易度それなりな自戒クエストがちまちま間にあったから、自戒のみ15レベル。
うーん……俺が思ったよりも相当レベルをあげるのが難しいな!
ネトゲとリアルでは、やはりレベル上げに関わる経験値の入りが違うらしい。
是が非でも、【布教】【智慧】【精進】はマックスにしておきたいところ。
いや、全てをマックスにするのが目標だけど、上記の三つは効果が良い。
布教のケテル獲得量+10%、ドロップ率+10%。
こいつは俺の生活の上で間違いなく利益をもたらす効果。
精進の熟練度獲得量+10%、スクロールの成功確率+10%。
俺が職人技能を使い装備製作し、それを強化する上で重要。
智慧のバフ時間延長+10%。
こちらはバフスキルのみならず、高級巨人の秘薬の効果時間も伸びる。
つまるところ、33秒巨人でいられるので強いと見た。
無敵が2秒でもしこたま強いんだから、巨人3秒伸びるだけで強いだろ。
「しかしなあ……今だにレベル上げの判定がよくわからんのだよなあ……」
「キュイー」
俺のつぶやきに、ライトを持って隣を歩く水島が適当に頷いていた。
独り言を呟きながら夜の校舎を歩くもの癪なので、とりあえず水島を出した次第。
こういう雑用は水島の得意分野っていうか、そういうキャラだからね。
「智慧と精進はまあ良しとして、布教がなあー」
「キュー」
装備をイグニールに、ヒヒイロカネをオスローに渡した時はちまちま経験値を得られていた。
しかしながら、深淵樹海でキッチン用具をインサスにプレゼントするくらいじゃダメだった。
ポチのお古だからっていうのもあるかもしれないが、それでもそれなりに高価なんだがなあ。
「まあいい、やれることからやっていこう」
日課の装備製作、ポーション製作、そんでもって強化だ。
比較的上げやすいものを順々に上げていく。
ずっと前からやれることをやって生きて来たんだし、それで良いはずだ。
何かしら効率の良いレベル上げ方法が見つかれば、その時に考えよう。
ちなみに、禅定の動かず、何もせず、一定時間待機。
これは寝てるだけじゃ、さすがに上がらなかった。
人生うまくいかんもんだね、やっぱり。
大きく経験値を得られたのは、イグニールと一緒にワシタカくんに乗った時である。
「おっと、ここが宿直室だな……こんばんはー」
宿直室についたのでガチャリと扉を開けると、中に一人だけ警備のおっさんが座っていた。
「こんばんはトウジさん……ってイルカのおっさん!?」
「ああ、俺の従魔なので、お気になさらず。一緒に宿直します」
「キュイ」
ぺこりと挨拶をする水島。
それを見て、警備の人は「従魔ですか、びっくりしたなあ……」と胸をなで下ろしていた。
確かに、いきなりヌッと水島が顔を出したら驚くか。
失礼なことをした。
「すいません、驚かせてしまって」
「いやいや中々礼儀正しい従魔じゃないですか、人でが足りてなかったのでありがたいですよ」
「ありがとうございます。茶菓子ですので、召し上がってください」
「おお、これはギリス銘菓の女王クッキーじゃないですか! 良いんですか?」
「どうぞどうぞ、食べ飽きてるかもしれませんが……」
「いえいえ、何度食べても飽きないこの味は、まさに私たちの故郷の味ですよ」
「そりゃ良かったです」
差し入れたお菓子を戸棚においた警備の人は、壁にかけてある鍵をもって立ち上がる。
「では、ちょうど良い時間ですし行きましょう」
「はい」
「トウジさんには……ええと、こっちの鍵ですね、うん、こっちの鍵だ」
三人で一緒に行くのかな、と思っていたら鍵の一部を手渡された。
「これは?」
「基本的に宿直の人は各フロアごとのマスターキーを持って巡回するんですよ」
「ふむふむ」
「宿直業務が初めてのトウジさん向けに、巡回ルートをアシュレイ先生が作ってくれていますので、それに従って巡回をお願いいたします」
言葉と一緒に地図も手渡される。
それはアシュレイ先生手書きの「初めての宿直るーと案内図」だった。
なんとも可愛らしい丸文字である。
しかし、地図の線もなんか角が丸いので逆に読み辛かった。
マップ機能にルート登録すらされないレベル。
「最初は、みんなで一緒に行かないんですか?」
「それも良いんですが、二人……いや従魔も含めて三人いるなら、さっさとこなして休憩するのが良いでしょう?」
「確かにそうですね」
余った時間は適当な空き教室でこっそり装備製作とかポーション製作に打ち込めそうなので、提案に乗った。
やはり業務は効率的なのが良いのだよ、効率的なのが。
いつぞやのガレーのような言い草だが、魔物も何もいない場所だし、各自手分けして巡回したほうがいい。
さっさと終わらせて、やり残した日課を終わらせようかね。
「でもさすがに水島個人で行かせるのはあれなので、俺と一緒に行動させます」
「わかりました。では行きますか」
「はい」
「トウジさんは、裏庭からクラブ活動用の校舎へと向かって、そこの各施設をお願いします。研究用の魔物を飼育している場所もあるのですが、一応リストがありますので、しっかり逃げ出していないか、そして檻に鍵がかかっているかもチェックをお願いします」
「え、魔物を飼育してるんですか……?」
「ええ、研究用で。なあに、特に凶悪な魔物はおりませんし、厳重に鍵がかけられているので大丈夫ですよ。少し怖いかもしれませんが、宿直担当の乗り越えし度胸の壁のようなものです」
「えっ、初日ですけど」
「私も初日にさせられて、ひやっとしたものですよ。では時間も惜しいですし気合い入れて行きまっしょい──」
「あっちょっと! ……早っ」
なんだかこれ見よがしに面倒な部分を押し付けられた気がしないでもないが、まあいいか。
厳重に檻に入れられているならば、それでよし。
しかし研究用の魔物を飼育って、意外とマッドなことをしてるんだな、学院も。
「行くぞ水島」
「キュイー」
95
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。