258 / 650
本編
559 破壊と破壊の権化共
いつの間にか夜が明けて、水平線の向こうから朝日が顔を出していた。
そんな頃合い。
『我に槍を取らせた、それを誇りに思うが良いスライムの王よ!』
「槍持ちはどこまでも傲慢である。その性根、我が圧し折ろう!」
ついに槍を解放したポセイドンとグレイドキングになったキングさんの戦いが始まる。
それはお互い本気中の本気であることを指し示していた。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様です。回復ポーションいりますか?」
「ありがとう。君、良い奴だな」
「いえいえ」
柄の部分が捩れ曲がり三俣の鋭利なポセイドンの槍。
その力を迂闊に使わないように制限がされていて、その解放は限られた者しかできないらしい。
「他に解放できる人って誰がいるんですか?」
「そうだなー、天海深塔のメランちゃんとかかなー」
「??」
「ああ、八大迷宮の一つだよ」
南東にずっと行った先に、陸地の中に囲まれた大きな海があるそうだ。
その中央に遥か深海へと伸びる塔が存在し、天海深塔と呼ばれる。
ダンジョンコアの名前は、憂鬱のメランコリー。
憤怒に、暴食に、傲慢に、怠惰に、憂鬱に。
なんか八大迷宮って二つ名持ちばっかりだよな。
後の三つはなんなのだろうか?
さて、そんなことは置いといて、ポセイドンとキングさんの戦いに集中だ。
『ヌハッ! 見ろこの力、凄いだろう、ヤバイだろう!』
ポセイドンが槍を掲げると、グググッと空間が軋む感覚がした。
そして一気に揺れが衝撃となって押し寄せてくる。
「あ、あんまり地震を起こして欲しくないんだが……聞いちゃいねえ……」
隣でシーモンクのため息。
どうやら槍を解放したポセイドンの力は、地震を起こすことだった。
「プルァァ! 槍の力で遥かに増幅させた振動? 我には届かんぞ!」
グレイトキングになったキングさんは、キッと睨みつけることによって相殺する。
「出た、睨み衝撃波」
「睨み衝撃波?」
「うちのキングさんは、グレイトキングになると攻撃全部から衝撃出るんですよ」
「なんだそれ、ヤバ過ぎないか?」
「そっちのポセイドンさんの地震もヤバイですよ……」
うん、結論どっちもヤバイ。
破壊と破壊の攻撃の応酬、その余波は海だからまだ良いけど……。
もし陸地だったら、周りがとんでもないことになっていただろう。
『純粋な破壊力か! 我の相手に相応しく仕上がったなスライムの王!』
「我と拮抗するとは、貴様こそなかなかやるではないか、海の支配者!」
『だが、これはどうかな? 直接破壊を叩き込んでやる!』
「プルッ!?」
ポセイドンが槍を掲げると、キングさんを中心に空間が歪んだ。
ズゥゥと何かが集約する様な音の後、ピシピシと軋む音がする。
『ヌハハハ! どうだ、直接地震を叩き込んでやったわ!』
「そんなもの効かぬぞプルァアアアアア!」
ダメージを負うが、すぐに無敵時間が到来して雄叫び全方位。
全てを蹴散らす破壊力がキングさんから巻き起こった。
観察していて思うのだが、キングさんの衝撃波って対象を指定できるのかな?
目に見えないものも、全てを衝撃波で蹴散らしている気がする。
俺の邪竜スキルの引力とか斥力みたいに、対象を選択して狙い撃ちしているのかも。
『やるではないか! 貴様は他にも能力を隠し持っているな?』
「ふん、感づいたか」
『教えろ! 先ほどから二発に一発が何と無く手応えがない!』
「戯けが、自分で考えろ! プルァアアアア!」
今度はキングさんが攻勢に打って出る。
相変わらず肉弾戦での特攻だが、無敵時間がある分、有利なのだ。
一撃受けても、その間にとんでも衝撃力を持った拳を叩き込む。
さらにビリーの特殊能力によってボスクラスには威力が倍。
『ヌウッ! まだまだ! 我を舐めるな!』
そんな応酬を受けても倒れずにしばき合いの横線をするポセイドン。
タフだ。
さすがは海の支配者と呼ばれる巨人である。
「これ、いつ終わるんだよ……」
「ほんとそっすね……」
「ォォォ……」
「ォォォ……」
シーモンクのため息が移ったしまったのか、ワルプとビリーもため息を吐いていた。
どっちも「ォォォ……」で何を思っているのかわからない。
でも恐らく、俺やシーモンクと一緒で早く終わってくれ、と思っているのだろう。
ワルプもビリーも共に伝説クラスのような強さを持つ。
しかし、それが赤子に感じてしまうほど。
ポセイドンとキングさんは、一線を画す存在だった。
ちなみに、今ならワルプの異常状態ハメコンボが通用すると思う。
だが、それをしたらキングさんから大目玉を食らってしまうのだ。
ワルプもそこは理解しているようで、できるだけ目立たないようにしている。
ほんと、こいつって見た目と違って気遣いなタイプだよな。
海のドロップアイテムとか、拾ってくれたりするし。
あ、そうだ。
なんか戦いに応じて周りにドロップアイテムが散乱している。
どうやら何も知らない魔物が巻き込まれているらしい。
たまたま近場にいた魔物にとっては良い迷惑だよな、これ。
「腹減ったなあ……」
「あ、飯ならあるんで朝飯にしますか?」
「良いのか? 飯の面倒まで見てもらって」
「まあ、まだまだ続きそうですからね」
大荒れに荒れる戦いを前にして、ワルプの大きな頭の上にテーブルを置く。
インベントリからポチの作り置きしていた料理を出すと器に盛っていった。
もはや本当にただの物見遊山になっている。
しかし、見ておけと言われたからね、こっちは。
どうやって見とくかは、こっちの采配でいいんだから、飯くらい食わせろ。
「なんだこの料理! すげーうめえ!」
「でしょ? うちの従魔のポチが作ったんですよ。牛丼です」
「ほうほう、この味は昔食ったことがある懐かしさを感じる」
ん?
それはパインのおっさんの料理を味わったことがあるってことかな?
シーモンクは南東の方から来たと言うが、おっさんも行ってたか。
相変わらずフットワークが軽い人だよな、なんて牛丼をつつきながら思った。
「この味を求めて陸地に足を伸ばしてたんだよ」
「おー、それがこっちに来た理由なんですね」
「そうそう。海じゃ暖かい飯なんて無理だし、暇だし、つまらんからなあ」
「色々と悩みがあるんですね。海って自由そうなのに」
「そんなことないぞ、自由すぎるのも周りにおっかないの多くて苦痛だ」
シーモンクは牛丼をお代わりし、かき込みながら言葉を続ける。
「陸地には俺の知らない物がたくさんあって、そっちの方が遥かに自由だ」
「ほうほう」
「海賊は陸地から海に自由を求めて出て来たようだが、それは夢まぼろしに惑わされて逃げて来ただけに思える。完結していて発展がないからな、海の暮らしなんて。いろんな新しい物が次々と生まれてくる陸地はまさに未来の象徴。ずっと海で暮らしてきた俺たちからすれば、しっかり存在する理想郷さ。うまい飯もあるし」
「その意見には同意です」
海を自由だと思うのは、何もないからだ、と思った。
人は社会というしがらみに囚われ生きる。
そこから何もない場所に自由を求めるのもわかる。
しかし、本当に何もない場所は、それはそれで苦痛。
文明というものがあって、暮らしが楽になって。
そっちの方がみんな自由に生きているよな、と感じるものだ。
「よくいますよね、都会が嫌だから自由を求めて田舎に行く人」
「だな、でもそれって逃れてるだけて結局変わらんのよ」
「ですね、だったら何も持たず裸で山に入るくらいすりゃいいのに」
そうしたら、いかに社会というものが必要かわかるだろう。
その中でどう生きるか、それが自由というもんなのだ。
自由にし過ぎて、底辺を生きていた俺がいうのだから間違いない。
しがらみはあれど、そこでどう生きるかによって変わってくるね。
『……ふう、ふう……やるではないかスライムの王』
「貴様もな。我の衝撃を体で受けきるとは、流石だ」
『とりあえず、飯にするぞ。さっきから戦いも見ずにそこで飯を食っとるやつらが許せんのだ』
「同感だ。我らがこんなに熱い戦いを繰り広げているのに、この不届きものめらが」
やべ、飯食って話し込んでたらやべえの二人に因縁つけられた。
「えっと……じゃ、飯にします……?」
『うむ! その牛丼、我にもよこせ! 戦いはまだまだ続くのだからな!』
「しっかり栄養を取り我と戦え。次で最後の一撃を食らわせてやる」
……戦いはまだまだ続くっぽいです。
早く終われ!
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました