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本編
581 寿司と煮付けと唐揚げ
しおりを挟む「できたぞー」
「アォーン」
新たにスピリットベリーを植える中、池のそばまでおっさんとポチが俺たちを呼びに来る。
「すぐ戻ります」
「わーいご飯だしー!」
「ぴー!」
食べることが大好きなジュノーとピーちゃんが両手をあげて喜んでいた。
ピーちゃんかわいい。
「それにしても、地下にこんなすげぇ池があるなんて、まだ驚いてるぜ」
「深淵樹海に比べたらまだまだですよ」
「ハハ、アレと比べるのは少し違うさ。しかし、ここも野菜どもがのびのび暮らしてやがるから、良い場所さ」
おっさんの視線が横に流れる。
おそらく、放し飼いにしている野菜モンスたちを見ているのだろう。
作業中は基本的に無視していたが、じっとしてると結構たかって来る。
襲っているのか、なついているのか。
それはわからないが、文字通り野菜にたかられるのだ。
「ほーらのけのけ」
まるで養鶏場で群がる鶏をあしらうかのごとく、寄って来る野菜モンスたちを足で追いやるおっさん。
俺が座ってる時よりも、このおっさんに群がる野菜モンスの数は圧倒的だ。
やはり、食材に愛されているのだろうか……。
なんとなくそれっぽいスキルも持っているようだし、そうなんだろうな。
教えてはくれないが、そこから察することはできる。
ちなみにポチ、ピーちゃん、ゴレオもわらわらと群がって来られるタイプだ。
ポチはおっさんと同じような雰囲気を感じるらしい。
ゴレオはここの管理人で一番馴染みがあるし、野菜モンスの遊び相手。
ピーちゃんに関してはハイオークってわかってるのかも知れないね。
野菜モンスたちは、ピーちゃんが疲れてお昼寝している時。
ずーっと側にいてくれていた。
うん、攫われた辛さをここで忘れて欲しいと常々思う。
「じゃ、そろそろ行きますか」
「そうだな、みんな待ってるぜ」
みんなでこの場を後にしてリビングに戻った。
リビングに顔を出すと、おっさんの言う通りみんな待ってくれていた。
「遅くなってすまん」
そう謝ると、イグニールが俺を見て首を横に振る。
「良いのよ、たった今配膳が終わったとこだから。さ、みんな揃ったことだし、夕食の時間にしましょ?」
「うん」
彼女の言葉に促されて、俺も席につくことにした。
食事の時は、基本的にポチが給仕に回ってくれるのだが、今回はみんなでの食事だ。
配膳も全部やってくれたから、あとは食べるだけとのことで、俺の膝にポチがやってきた。
そんなポチを撫でながら、目の前にある食事に舌鼓。
「これが……極彩マンボウの料理……」
「おう、各部位の刺身に、腹かみの肉を使ったステーキ、そしてかま塩だ」
「おおお~!」
表面とかヒレは虹色だったが、身質は綺麗な赤色。
なんとも美味しそうな色だった。
マンボウのかまなんて、身があるのか気になるが……。
おっさんが出してくれる料理なので心配いらないな!
「極彩マンボウもそうやけど~、うちはスターレイの煮付けが気になるわ~!」
俺の正面に座るマイヤーがもう一つの料理に目を輝かせている。
「パインさん、こっちはなんですか?」
「そっちはマイヤーの嬢ちゃんが言ったように、スターレイの煮付けだよ」
「ほうほう」
「かなり大きなサイズだから、干物にする以外にも色々とやって見たぜ」
煮付けもそうだが、えいヒレを使ったバターソテーもある。
バターの香りが際立つかと思いきや、パセリとレモン汁がかかってありなんともあっさりしてそうだった。
「少し味見して見たけどよ、軟骨の食感がすごく良いぜ? あと噛めば噛むほどうまみが出る」
「ほうほうほう!」
お魚フルコース、食べきれるか心配になりそうな量である。
まあ食べきれなくても、インベントリがあるから良いんだけどね!
残りは熱々のまま確保して、後で食べるのだ。
「うは~、煮付けええな~、東の酒にあうんよなあ~」
「トガルの食事は何故か東の島国の酒とよく合うんですよね、お嬢様」
すでに酒をグラスに注ぎながら、そんな酒談義を始めるマイヤーとリクール。
彼女の膝にはストロング南蛮がスタンバイ。
そしてリクールの膝には、今日まで一緒に家で過ごし仲良くなったのかピーちゃんがいた。
イグニールの元にはジュノーがいて、俺の膝にはポチがいる。
後ろにはゴレオが控えていて、その肩の上にコレクトがとまる。
「じゃ、みなさん手を合わせてください」
『はーい!』
「いただきます!」
『いただきまーす!』
そんな唱和とともに、ギリスに帰ってきて一発目の食事がスタートした。
「うはー! 酒が進むやんけー!」
「うーむ、やはりパイン殿の料理は格別ですね」
「イグニール! あたし刺身食べる!」
「はいはい。食べやすくしてあげるから待っててね」
みんなが料理に飛びつく姿。
それを見て思う。
……なんとも大所帯になったもんだな。
この世界に来てもう何ヶ月だ?
そろそろ1年経とうとしているんじゃないのか?
色々あって、色々濃すぎて、かなり長い間いたような感覚。
みんながいるし、ポチたちもいるし。
やっぱりこの世界で俺は自由に行きていく、それが楽しい。
今日の食事が終わったら、さっさとデプリに送り返して戻ってこよう。
やるべきことはまだまだたくさんあるからな、うん。
飛空船に、装備の素材集めに、一応サモンカードコンプリート。
でも基本的にサモンカードのコンプリートは諦めている。
なぜか、それは殺せない魔物だってこの世界にいるからだな。
ドロップ確率100%じゃないから、そんなことはできんのさ。
「アォン?」
そんなことを考えていると、ポチが「食べないの?」と俺の元へ刺身を持って来た。
「食べるよ。ちょっと考え事してただけ」
「ォン」
「わかったわかった。食べる食べる」
これを作ったのは自分だと言わんばかりに、えいヒレソテーを口元に押し付けるポチ。
刺身から行きたかったのだが、絶対余る量があるから良いか。
「考え事って何かしら?」
「え? ああいや、別にちょっとしたことだよ」
「そう? トウジ考え事する時って、結構何か深刻なことが起きてる時だから、気になっただけ」
「ありがとうイグニール」
そういえば、こうやって考え事してさっさとサルトからギリスまで来ちゃったからな。
心配する気持ちもわかる。
しかし、もう今の俺はそうやって逃げ回るようなことはしないと言える。
このギリスで色々とやりたいことがあるからね。
もう一度言うが……。
未だに終わらん飛空船とか、ダンジョン拡張とか、たくさんある。
それに俺自身が、もうみんながいなきゃダメになってる気がした。
今まで一人で生きて来て孤独を感じていたが、それももうないさ。
みんながいるんだから。
「アォン!」
「わかったわかった食べるってば!」
イグニールと話して結局口に運べなかったポチのソテーにかぶりつく。
──瞬間。
視界が暗転した。
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