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本編

611 水島デコイと先手必勝

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「──誰じゃ! 何奴じゃ!」

 軍師カムイと呼ばれた女の子の視線が俺たちに向く。
 思ったよりも若い、というか幼女に近い。
 魔国は魔族が多く住む国であるから、成長が遅いとかあるのだろう。
 初めて会った衛生兵的な人も、蛇っぽかったし。

「貴様……勇者の金魚の糞のゴミカス人間、何故ここにおる?」

 蔑むセリフの情報量がえげつねえ……。
 俺も人間だ、傷ついたぞ。
 まあいい、端から見たら実際そうだしな。

「勇者を返してもらいに来た」

 片手剣を構えてそう言う。
 勇者たちに目を向けると、全員意識を失っている様だ。
 ところどころ顔にあざができているのを見るに。
 抵抗しようとして、少し痛めつけられたとか、そんなだろうな。

「勇者を返してもらいに来た、と?」

 軍師は何かを思案する様な顔をすると、言った。

「無害な振りして、貴様がアドラーから勇者のお守りを頼まれていた実力者ということか」

「えっ、いや」

「隠しても無駄じゃ」

 軍師は懐から扇を取り出して、クフフと笑いながら続ける。

「勇者の陰にて実力を隠し、昏睡した振りをし、仲間を引き連れて妾の前にこうして来ておることがその証明。貴様、いったいいつから、そしてどこからどこまで勘付いておった? もしやマーリスとも繋がっておるのか?」

「いや……」

 勘違いしてるところ悪いけど、何の繋がりも無いっス。
 誰ですか、マーリスって……。
 まあいいさ、勘違いしているなら、勘違いしたままにしておく。

 何でかって?
 説明が面倒だからだ!

「軍師カムイ、お前の行いは外交上の問題に発展するぞ」

「それは……西側諸国と魔国間の火種のことかや?」

「うん、多分それだ。それでしかない」

 とりあえず、勘違いに便乗し、適当に言っておく。

「その火種とやら、せっかく消えようとしているのに再び作り出そうってのか? そんなことして魔国と西側諸国の全面戦争が再びスタートしたら、困るのは魔国に住む人々だぞ。良いのか? お前の勝手な行いで、せっかく取り戻した平和を無に帰す様なことをして、本当に良いのか? よし、俺が見たことは全て不問とするから、ここは大人しく拘束した勇者を引き渡してもらって、安全にこの場所を出られる様に手配してもらおう」

 秘技、ワンブレス説得。
 相手の反論を待たずして、こっちの意見を押し通す。
 ガレーの必殺技だ!

「ふん、その約束が果たして履行されるとも思っとらんのじゃ」

「本当だぞ? マジで、うん、マジマジガチ」

「妾がこういう手に出ることをすでにマーリス、そしてアドラーは勘付いておった。貴様が不問にするしないを口約束したところで、どのみち立場は悪くなったも同然かのう」

 俺の黙って聞いていた軍師はそう言った。
 ダメだ、ワンブレス説得が効かない。
 しっかり話を聞く口が上手い奴には、なかなか通用しないが難点だ。
 ヒステリック気味だったから行けるかな、と思ったんだけどな……。

「故に、妾が見出す活路は、この場にいる全員を始末すること」

「まあ話を聞け。お前にも両親がいるだろ? 戦争になったら困るのは親とか知り合いだぞ」

 少し作戦を変えて、親が困るという体裁にして話を進める。

「俺が何とかしときましたって感じで報告しとくから、ここは矛を収めて勇者を返してくれ」

「……親とな」

 俺のセリフの後、軍師の雰囲気が一気に一変した。

「後に退けぬ。妾の目的はその両親の仇討ちじゃからのう」

 怒気というか、何やら強烈な空気を纏い始める。
 しまったー。
 逆鱗に触れてしまった。

「尚更勇者を生かしてはおけん。そして貴様らもじゃ」

「待て待て、一応使い道あったんじゃないの勇者? 殺しちゃダメだろ」

「不完全なこのゴミどもは使いものにならん。人間の希望は絶っておく」

 軍師の背中に魔法陣が出現。
 何かくる、おそらくバインドだ。

「──護符封事」

「チェンジ、水島!」

 青白い光がポッと魔法陣から出るタイミングで、俺は水島を呼び出した。
 ヌルンと俺の魔法陣から出て来た水島が、そのままヌルンと青い光へ。
 どうやら、自分の役目をわかっていた様だな。

「キュイ……キュッ──」

 バインドスキルを受けて、水島の動きが固まる。
 すまんな、水島。
 だがバインドを封じればこいつはただのクソガキだ。
 バインドされてもすぐに戻せば死なないだろう。

「バインド封じの策がリバフィンとは、笑わせるでない──妾は鬼族の巫女、よってバインド二つ持──」

「ハァッ!!」

「──ぴぎゃっ!?」

 ズドン!
 小さくなって俺たちの後ろから付いて来ていたロイ様が、水島の体をぶち抜いて軍師に体当たりした。

「は?」

 ロイ様の強烈な一撃を体に受けた軍師は、後ろに控えていた部下ごと壁を突き破ってぶっ飛んでいく。
 大きく穿たれた壁の穴を見ながら、ロイ様は一息ついた様にため息を吐くと言った。

「ふう、あの雌ガキが何かしてくるだろうと予期し、先手を打ってぶっ飛ばしておいた」

「えっ? いや……え? ロイ様??」

「何を焦っている、先手必勝だろうが盟主よ」

「いや、うん……そっすね……」

 予想していた展開と違うので、唖然としてしまう。
 なんか別のスキルを使って来て、俺が格好良く凌ぐ場面だろ!
 久しぶりにイグニールに会えたんだから、かっこいいところ見せたい。
 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、ロイ様は水島の方を向いていう。

「うむ、良きデコイだった水島。戻ったら我が愛妻の手料理を振る舞ってやろう」

「キュ」

 土手っ腹に風穴を開けられた水島が、吐血しながら俺たちにサムズアップ。
 そしてスッと消えてった。

 み、水島あああああああ!
 こ、こんなことさせるつもりじゃなかったのに!

 スライムの王種ってフレンドリーファイア好きだな!
 こんな展開、前にも見たぞ!(※104話)

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