文字の大きさ
大
中
小
310 / 650
本編
611 水島デコイと先手必勝
「──誰じゃ! 何奴じゃ!」
軍師カムイと呼ばれた女の子の視線が俺たちに向く。
思ったよりも若い、というか幼女に近い。
魔国は魔族が多く住む国であるから、成長が遅いとかあるのだろう。
初めて会った衛生兵的な人も、蛇っぽかったし。
「貴様……勇者の金魚の糞のゴミカス人間、何故ここにおる?」
蔑むセリフの情報量がえげつねえ……。
俺も人間だ、傷ついたぞ。
まあいい、端から見たら実際そうだしな。
「勇者を返してもらいに来た」
片手剣を構えてそう言う。
勇者たちに目を向けると、全員意識を失っている様だ。
ところどころ顔にあざができているのを見るに。
抵抗しようとして、少し痛めつけられたとか、そんなだろうな。
「勇者を返してもらいに来た、と?」
軍師は何かを思案する様な顔をすると、言った。
「無害な振りして、貴様がアドラーから勇者のお守りを頼まれていた実力者ということか」
「えっ、いや」
「隠しても無駄じゃ」
軍師は懐から扇を取り出して、クフフと笑いながら続ける。
「勇者の陰にて実力を隠し、昏睡した振りをし、仲間を引き連れて妾の前にこうして来ておることがその証明。貴様、いったいいつから、そしてどこからどこまで勘付いておった? もしやマーリスとも繋がっておるのか?」
「いや……」
勘違いしてるところ悪いけど、何の繋がりも無いっス。
誰ですか、マーリスって……。
まあいいさ、勘違いしているなら、勘違いしたままにしておく。
何でかって?
説明が面倒だからだ!
「軍師カムイ、お前の行いは外交上の問題に発展するぞ」
「それは……西側諸国と魔国間の火種のことかや?」
「うん、多分それだ。それでしかない」
とりあえず、勘違いに便乗し、適当に言っておく。
「その火種とやら、せっかく消えようとしているのに再び作り出そうってのか? そんなことして魔国と西側諸国の全面戦争が再びスタートしたら、困るのは魔国に住む人々だぞ。良いのか? お前の勝手な行いで、せっかく取り戻した平和を無に帰す様なことをして、本当に良いのか? よし、俺が見たことは全て不問とするから、ここは大人しく拘束した勇者を引き渡してもらって、安全にこの場所を出られる様に手配してもらおう」
秘技、ワンブレス説得。
相手の反論を待たずして、こっちの意見を押し通す。
ガレーの必殺技だ!
「ふん、その約束が果たして履行されるとも思っとらんのじゃ」
「本当だぞ? マジで、うん、マジマジガチ」
「妾がこういう手に出ることをすでにマーリス、そしてアドラーは勘付いておった。貴様が不問にするしないを口約束したところで、どのみち立場は悪くなったも同然かのう」
俺の黙って聞いていた軍師はそう言った。
ダメだ、ワンブレス説得が効かない。
しっかり話を聞く口が上手い奴には、なかなか通用しないが難点だ。
ヒステリック気味だったから行けるかな、と思ったんだけどな……。
「故に、妾が見出す活路は、この場にいる全員を始末すること」
「まあ話を聞け。お前にも両親がいるだろ? 戦争になったら困るのは親とか知り合いだぞ」
少し作戦を変えて、親が困るという体裁にして話を進める。
「俺が何とかしときましたって感じで報告しとくから、ここは矛を収めて勇者を返してくれ」
「……親とな」
俺のセリフの後、軍師の雰囲気が一気に一変した。
「後に退けぬ。妾の目的はその両親の仇討ちじゃからのう」
怒気というか、何やら強烈な空気を纏い始める。
しまったー。
逆鱗に触れてしまった。
「尚更勇者を生かしてはおけん。そして貴様らもじゃ」
「待て待て、一応使い道あったんじゃないの勇者? 殺しちゃダメだろ」
「不完全なこのゴミどもは使いものにならん。人間の希望は絶っておく」
軍師の背中に魔法陣が出現。
何かくる、おそらくバインドだ。
「──護符封事」
「チェンジ、水島!」
青白い光がポッと魔法陣から出るタイミングで、俺は水島を呼び出した。
ヌルンと俺の魔法陣から出て来た水島が、そのままヌルンと青い光へ。
どうやら、自分の役目をわかっていた様だな。
「キュイ……キュッ──」
バインドスキルを受けて、水島の動きが固まる。
すまんな、水島。
だがバインドを封じればこいつはただのクソガキだ。
バインドされてもすぐに戻せば死なないだろう。
「バインド封じの策がリバフィンとは、笑わせるでない──妾は鬼族の巫女、よってバインド二つ持──」
「ハァッ!!」
「──ぴぎゃっ!?」
ズドン!
小さくなって俺たちの後ろから付いて来ていたロイ様が、水島の体をぶち抜いて軍師に体当たりした。
「は?」
ロイ様の強烈な一撃を体に受けた軍師は、後ろに控えていた部下ごと壁を突き破ってぶっ飛んでいく。
大きく穿たれた壁の穴を見ながら、ロイ様は一息ついた様にため息を吐くと言った。
「ふう、あの雌ガキが何かしてくるだろうと予期し、先手を打ってぶっ飛ばしておいた」
「えっ? いや……え? ロイ様??」
「何を焦っている、先手必勝だろうが盟主よ」
「いや、うん……そっすね……」
予想していた展開と違うので、唖然としてしまう。
なんか別のスキルを使って来て、俺が格好良く凌ぐ場面だろ!
久しぶりにイグニールに会えたんだから、かっこいいところ見せたい。
そんな俺の胸中を知ってか知らずか、ロイ様は水島の方を向いていう。
「うむ、良きデコイだった水島。戻ったら我が愛妻の手料理を振る舞ってやろう」
「キュ」
土手っ腹に風穴を開けられた水島が、吐血しながら俺たちにサムズアップ。
そしてスッと消えてった。
み、水島あああああああ!
こ、こんなことさせるつもりじゃなかったのに!
スライムの王種ってフレンドリーファイア好きだな!
こんな展開、前にも見たぞ!(※104話)
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
間違えられた番様は、消えました。
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ
異世界に召喚されたその日、巻き込まれた青年に俺が得るはずだったスキルを奪われた。
お詫びとしてチートスキルを授かった俺は、第二の人生くらい好きに生きようと旅に出る。
行き着いた先は、寂れた町の場末の酒場だ。
なぜか客は男ばかりだが、日雇い冒険者や恐妻家の肉屋たちとの気楽な毎日は悪くない。
……ただ一人、どう見ても貴族のような美青年がこの地味な酒場へ通ってくる理由だけは、さっぱりわからない。
「お前らツケはやめろ」
そんな穏やかな日々を送っていたはずなのに、ある日、酒場へ厄介な依頼が舞い込んできた――。
他サイトでも掲載しています。
不定期更新です。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました
竜族の王子フェリクスの成人の儀で、侯爵令嬢クロエに現れたのは運命の番紋。けれど彼が放ったのは「お前が番だなんて最悪だ」という残酷な言葉だった。
異母妹ばかりを愛する王子、家族に疎まれる日々に耐えきれなくなったクロエは、半地下に住む魔女へ願う。「この愛を消してください」と。
恋も嫉妬も失い、辺境で静かに生き直そうとした彼女のもとに、三年後、王宮から使者が現れる。異母妹の魅了が暴かれ、王子は今さら真実の愛を誓うが、クロエの心にはもう何も響かない。愛されなかった令嬢と、愛を取り戻したい竜王子。番たちの行く末は――。
愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~
女子高生と一緒に異世界へ聖女召喚された、アラサー女子・一ノ瀬玲。
ところが、召喚された二人を待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。
聖女として期待される女子高生とは対照的に、玲は年齢を理由に無視され、王城で居場所すら与えられない。
それでも何とか生きようとしていた玲だったが――ある日、食事に毒を盛られる。
「……私、命狙われてる?」
愛犬の柴犬・雷電とチワワのアビーに助けられ、玲は王城から逃げ出すことを決意する。
逃亡先で冒険者となった玲のランクは、まさかのFランク。
そんな玲を助けてくれたのは、辺境へ向かう騎士団長・レオンハルトだった。
そして玲のスマホには、異世界へ来た時から謎の【異世界モード】が存在していた。
【異世界通販】
【異世界銀行】
【アイテム収納】
【マップ】
【翻訳】
【ステータス】
「……これ、もしかしてチートじゃない?」
王家から逃げながら、愛犬たちと辺境を目指す玲。
魔物と戦ったり、旅をしたり、異世界通販で買い物したり。
ちなみに、記念すべき異世界通販の初購入は――犬のウンチ袋。
王城では散々だったけれど、もう戻るつもりはない。
アラサー女子と愛犬たちの、ちょっと騒がしくて、時々ほのぼのな異世界辺境生活が始まります。
初投稿なので誤字脱字
支離滅裂有るかと思います
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!