文字の大きさ
大
中
小
312 / 650
本編
613 とにかく良し。
豪炎の円陣と呼ばれるスキルは、中級の位置にある火属性魔法。
相手に火傷の異常状態と自身の火属性ダメージを上昇させる。
防御とバフの能力を兼ね備えたスキルなのだが、断じて攻撃スキルではない。
もう一度言う、断じて攻撃スキルではない……はずだった。
ゴゥゥゥゥゥウウウウ──!
しかし、イグニールの用いたスキルはINT7万弱から放たれたもの。
中級のスキルと言えども、そこまでINTがあったらやばい状況だった。
豪炎が、一瞬にして鬼を包み込む。
耐久力があろうがなかろうが関係なしに。
即時回復しようがしまいが関係なしに。
焼き尽くして、爆散だよおい……。
衝撃波が軍師をぶっ飛ばし、鬼神石とやらを破壊した。
「うわぁ……」
恐ろしい、と素直にそう思った。
「ふう、スッキリした」
爆炎の中、イグニールは髪をかき上げて一息吐く。
ストレス溜まってたのかな……?
心配かけちゃったし、そうなんだろうな。
「イ、イグニールさん……お疲れ様です……」
「なんで敬語なのよ」
「いや、な、なんとなく」
恐ろしいから、とは絶対に口にできない。
「と、とりあえず勇者たちもぶっ飛んでるから、回収に行かないと……」
「あっ、しまった巻き込んじゃったわね」
しれっとそんなことを宣うイグニール。
……確信犯では?
ま、まあ、深くは考えてないでおこう。
たまたま巻き込んじゃっただけ。
事故だ、事故。
「盟主よ。あれ程の豪炎、爆炎、食らってはひとたまりもない」
「……どうだろうな、ロイ様。とにかく見てみないとわからない」
好きではないし、現状嫌いな部類だが、別に殺したいわけじゃない。
高校生だぞ、高校生。
それが力を手にして調子に乗ってるだけだから、大目に見ないと。
しっかり元の世界に送り返すのが、一番平和的解決だろうさ。
俺はみんなを引き連れて、ぶっ飛ばされた勇者たちを探しに行った。
軍師の邸宅は、イグニールの炎と爆発にて、すでに更地。
瓦礫の中に、勇者たちは四人揃ってしっかりと生存していた。
「……奇跡か?」
ぶっ飛んだ屋根とか、割れた鬼神石、
それがぽっかりと空洞になって彼らを守っていた。
「そう言えば、私たちを取り囲んでいた鬼が良い感じに盾になってましたぞ」
「マジで?」
骨は端から彼らの様子を見ていたらしい。
イグニールの豪炎と爆発。
たまたま俺たちを囲っている鬼の中に耐性高い奴がいて。
運良く炎を勇者の間にいて、盾となって炎を回避したとのこと。
「でもさ骨、その後の爆発はもろにくらっていたはずなんじゃ?」
鬼は焼け死んで、それで盾になる奴なんて誰もいない。
俺たち全員はイグニールの円陣の内部にいて誰も助けには入れない。
なんで生きてるんだ、という今世紀最大の謎が出現していた。
「そうですけど、現に魂は残っておりますぞ~?」
「……まあ、深く考えないようにしておこう」
勇者って、元々そう言うもんなんじゃないか。
とんでもラッキーボーイ、それが勇者。
ノーカルマなのも頷ける、そんな奴らなのだ。
「連れて帰るか」
「うむ、私が全員を背負うことにしよう」
ロイ様がボンッと体を元の大きさに戻して勇者たちを担ぐ。
担ぐと行っても、体にめり込ませるような形が正しい。
衝撃の影響で、拘束していた鎖も千切れているし楽だった。
「連れて帰るってことは、クロイツに戻るのかしら?」
イグニールの言葉に頷いておく。
「うん、飛空船に乗せれば早いだろ」
「でも推進機が破損してて、修理もまだかかると思うけど」
「ワシタカくんが引っ張ってくれるから、浮かべば大丈夫」
とにかく、この状況に応じて野次馬がたくさん集ってくる。
その前にさっさとずらがるの一番だ。
この件に関して、アドラーに報告。
そして魔国との話し合いを持ってして、時間を稼ぐ。
魔国は危険過ぎて、迂闊に立ち寄ることはできない。
そんな言い訳で、しばし平穏を取り戻す算段である。
ポチの飯だって家でゆっくり食べたい。
みんなと団欒を過ごしたい。
そのための平和的解決策は、その外交問題だ。
国家間のやり取りなんて、どうやったとしても時間がかかる。
情報の伝達速度が遅いこの世界なら、3ヶ月くらいは自由だ。
「よし、みんな、聞くところによればクロイツはソーセージが有名らしい」
「急にどうしたのよ……」
話をいきなり変えた俺に、イグニールが少し困惑する。
「いや、いっぱい買って帰って、家でバーベキューでもしようよ……みんなで」
「そうね。みんなでしましょ、バーベキュー」
帰ったらホームパーティーの続きだ。
魚はまだまだ大量にあったから、また調理してもらえば良い。
なんだかお腹が空いてきた。
空腹だ、空腹!
みんなといると、落ち着くし、不安もすっかり消える。
ありがたい存在だよ、ほんとに。
「ォン」
「え、なに? だっこ? はいはい」
ポチが両手を上げて万歳し、抱っこをせがむので抱える。
そうだ、ポチにも朗報があった。
「そうだポチ、ソーセージ用のミンチを作る魔導機器をクロイツで買ってあるぞ」
「アォン! ォン!」
これで家でも自家製ソーセージをポチが作ってくれる。
……うむ、収穫はめちゃくちゃあった。
こうして考えれば、再召喚されたこと、悪くないぞ。
後ろを向くより、先を不安がるより。
希望を抱いて前を向くのがやっぱり大事なんだね。
この仲間たちは、俺の背中を押してくれて。
前を向かせてくれる大事な大事な家族なのである。
「ねえ、ソーセージってなんだし? 甘いやつ?」
「おいしい奴」
「ならばよし!」
「おう。だからさっさと帰らなきゃな」
俺のフードに収まるジュノーにそんな言葉を返して、この場を後にしようとした。
その瞬間。
「貴様ら、妾が逃すと思うたか、思うたか……貴様ら!」
瓦礫の中から、ボロボロになった軍師が立ち上がった。
まーだ生きてんのか。
本当にしぶとい奴だな、こいつ。
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
間違えられた番様は、消えました。
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ
異世界に召喚されたその日、巻き込まれた青年に俺が得るはずだったスキルを奪われた。
お詫びとしてチートスキルを授かった俺は、第二の人生くらい好きに生きようと旅に出る。
行き着いた先は、寂れた町の場末の酒場だ。
なぜか客は男ばかりだが、日雇い冒険者や恐妻家の肉屋たちとの気楽な毎日は悪くない。
……ただ一人、どう見ても貴族のような美青年がこの地味な酒場へ通ってくる理由だけは、さっぱりわからない。
「お前らツケはやめろ」
そんな穏やかな日々を送っていたはずなのに、ある日、酒場へ厄介な依頼が舞い込んできた――。
他サイトでも掲載しています。
不定期更新です。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました
竜族の王子フェリクスの成人の儀で、侯爵令嬢クロエに現れたのは運命の番紋。けれど彼が放ったのは「お前が番だなんて最悪だ」という残酷な言葉だった。
異母妹ばかりを愛する王子、家族に疎まれる日々に耐えきれなくなったクロエは、半地下に住む魔女へ願う。「この愛を消してください」と。
恋も嫉妬も失い、辺境で静かに生き直そうとした彼女のもとに、三年後、王宮から使者が現れる。異母妹の魅了が暴かれ、王子は今さら真実の愛を誓うが、クロエの心にはもう何も響かない。愛されなかった令嬢と、愛を取り戻したい竜王子。番たちの行く末は――。
愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~
女子高生と一緒に異世界へ聖女召喚された、アラサー女子・一ノ瀬玲。
ところが、召喚された二人を待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。
聖女として期待される女子高生とは対照的に、玲は年齢を理由に無視され、王城で居場所すら与えられない。
それでも何とか生きようとしていた玲だったが――ある日、食事に毒を盛られる。
「……私、命狙われてる?」
愛犬の柴犬・雷電とチワワのアビーに助けられ、玲は王城から逃げ出すことを決意する。
逃亡先で冒険者となった玲のランクは、まさかのFランク。
そんな玲を助けてくれたのは、辺境へ向かう騎士団長・レオンハルトだった。
そして玲のスマホには、異世界へ来た時から謎の【異世界モード】が存在していた。
【異世界通販】
【異世界銀行】
【アイテム収納】
【マップ】
【翻訳】
【ステータス】
「……これ、もしかしてチートじゃない?」
王家から逃げながら、愛犬たちと辺境を目指す玲。
魔物と戦ったり、旅をしたり、異世界通販で買い物したり。
ちなみに、記念すべき異世界通販の初購入は――犬のウンチ袋。
王城では散々だったけれど、もう戻るつもりはない。
アラサー女子と愛犬たちの、ちょっと騒がしくて、時々ほのぼのな異世界辺境生活が始まります。
初投稿なので誤字脱字
支離滅裂有るかと思います
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!