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本編
626 過去の痕跡とおサボり司書職・2
「よし、とりあえず俺の屋台でこれから出す伝説料理だぜ!」
「おおっ! 本当にやるんですね!」
「当たり前だって、何のために退職したと思ってんだよ……」
そんな会話をするおっさんたちを尻目に、俺は奥へと案内してもらった。
止められるかなと思ったが、割とどうでも良いっぽい。
みんな日本語解読に全く興味ないようで、のほほんとお茶を飲んでいる。
うーん……サボりまくってるな、解読もせずに。
さて、図書館の一番奥に存在する過去の文献コーナー。
そこからさらに奥へを向かうと公開されてない本の場所へと続く。
過去の勇者が残した本があるのは、その場所だった。
雑多な過去の歴史文献の中に混ざって、勇者の残した本を見つける。
たくさんあったらどうしようかと思っていたが、割と少なかった。
本を書くのは面倒だから、そりゃそこまでたくさんあるもんじゃないか。
「よし……」
手にとっていざ読んでみようとしたところで、
「あの、ちょっと良いですか?」
後ろから声をかけられる。
振り返ると、受付に座っていた女性が立っていた。
「なんですか?」
「シルビアさんの屋台のことなんですけど……」
「はいはい」
「あんまりあの人の気持ちを盛り上げないで貰えますか?」
「え?」
受付の女性は言葉を続ける。
「あの人に料理ができるとは、とてもじゃないですが思えません」
「はあ……」
「みんな思ってますよ。適当に満足したらここに戻って来るって」
どうやら上手く行かないまま出戻りしていただくのが、この職場の総意らしい。
そして、どうせ絶対失敗すると、みんな思っているようだった。
酷い話だな、シルビアはみんなのためを思って料理を作ったというのに。
慕っていたような顔、そしてアメリカンドッグを貰った表情。
そのどれもが嘘で塗り固められているように思えた。
「ですから、昨日ちらっと公園の様子を見ていましたけど……」
彼女はメガネをくいっと動かして続けた。
「半端に背中を押されてやる気を出されて、もし失敗した時、反動でこっちに戻ってこなくなったらどうするんですか?」
「どうするんですか、とは?」
何だか俺のせいにしてるみたいけど、何を言ってるんだこいつ。
そもそもシルビアが退職したのは、この職場が嫌だったからだ。
見て、改めて思った。
自分らが楽したいだけで、仕事の大部分をシルビアに任せていたのである。
確かな情報ではない。
まだパッと見ただけだから、間違っているかもしれない。
しかし、暇が多かったら人間関係は色々と厄介な部分が出てくる。
そこが知らない内に嫌になって爆発した結果だったのかもな……。
「あのまま売れない屋台を続けさせておいてください」
「売れても売れなくても、続けるか続けないかはシルビアさんが決めることです」
「だから、余計な茶々入れでギリギリまで粘る可能性が出て来るじゃないですか」
「それも俺は関係ないですよ」
俺は振り返り、受付の女性の顔を見据えながら続ける。
「貴方がた、本人がやる気を出している状況で、何故応援してあげないんですか?」
「私たちはあの人がここに戻って来ることをみんな望んでるので」
「引き止めたんですか? それでも無理だったらもう仕方ないじゃないですか?」
「仕方ないで済む問題じゃないんです!」
声を荒げる受付の女性。
「文献の解読ノルマに関して、もう期日がギリギリの状態なんですよ!」
「仕事が進まないから、戻って来て欲しいと?」
「その通りです」
「そんなのもう本人が退職したんだから、自分らでやるしかないでしょうに」
「読めるのがあの人しかいないので、私たちにはとてもじゃないが無理なんです」
「ってことは、引き継ぎしてなかったシルビアさんが悪いってことですかね?」
「は、はい。そこを疎かにしてしまっていたからこそ、戻って来ていただかないと」
多少彼女の意見に乗ってあげると、上手い具合に食いついて来た。
だったら引き継ぎしてあげれば良いから、その辺はシルビアに言っておく。
「俺の方から、引き継ぎがされてなくて仕事が進まないってシルビアさんに言っておきますよ?」
そう告げると、やや彼女は難色を示した。
「い、いや……それは……」
引き継ぎがされてないと、シルビアに行って欲しくないようである。
ハッ、まともに勤めてる人間なら引き継ぎくらいはしっかりもんだ。
だが、なあなあで済ませて、まともに引き継いでなかったのかもな。
読めない文字の意味を常に考え続ける、確かに難しい仕事だ。
今までシルビアとやって来たなら多少はわかるはずだけど。
基本的にシルビア頼みだったっぽいし、関わってないらしい。
どういう状況だよって思うけど。
シルビアもシルビアでよくもまあこの現状に気付かなかったもんだ。
意味も何もわからない日本語。
それを独学で多少読み解けるレベルまで、一人で相当頑張ったのか。
「ちなみに何やってもシルビアさんはやめませんよ、料理」
「……」
「一人に頼って来たツケが今来たんですよ。みんなで力を合わせて頑張ってください」
それだけ言って、俺は本に視線を戻す。
まったく、思ったよりもやばそうなところだったぞ、ここ。
何もないと良いが……なんか、ありそうだな、これ。
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