文字の大きさ
大
中
小
327 / 650
本編
628 過去の痕跡とおサボり司書職・4
「……ふう」
「アォン」
息を吐きながら文献を本棚に戻すと、ポチがどうだったと聞いてきた。
「まあ、中々の新事実って感じかな?」
過去の勇者たちの名前を知ることができたのは大きい。
それにしても……。
命にしがみついてさえいれば、生きながらえている、か……。
人智に反したことをいとも容易く言ってのけている。
なんとも伝説的な存在らしい言葉だろうか。
どうやったか知らないが、骨も生きてるしな、アレで。
「勇者たちを元の世界に戻すことは現状不可能だった」
「ォン……」
「でも、過去の勇者たちの痕跡を辿れば、いけるかも」
「アォン!」
色々と迷惑を被ったが、今の勇者たちはまだ子供だ。
元の世界にきっちり送り返す。
それが最善で、神様から何のお咎めもない手段だろうさ。
同郷のよしみって奴だね。
友情が芽生えた、とかそんな話ではない。
同情を持った、とかそんな話でもない。
ただ、彼らにも親御さんはいるだろうし、彼らはまだ間に合う。
そう思ったからだ。
絶対に戦うルールとか、運命とか。
そんなものが存在するならば、全力で回避させてもらおう。
ちなみに、仮に元の世界に戻す手段を確立できたとして。
異世界と現世を行ったり来たりする様とか、そんな思惑は無いぞ。
俺は慎ましやかにポチたちとこの世界で暮らすんだ。
なんなら、この世界って死に抗うことも可能っぽいんだけど。
俺はそれは嫌だな……。
できれば歳とって、ちゃんと終わりを迎えたい。
生きてても、俺って存在してるだけでなんかヤバそうだし。
「とりあえず、やることは決まった。すぐにでも動き出そう」
「……アォン」
この場を離れようとすると、ポチが俺の袖を掴む。
その目は、何となくまだ気になることがあるようだった。
「そっか、シルビアさんが気になる?」
「ォン」
「このまま行くと、確実に邪魔してきてみんな不幸になるって?」
「アォン」
頷くポチ。
そうだよな……ここの連中はきっと邪魔して来る。
先にそっちを何とかした方がいいかもな。
シルビアは、重要な過去の文献に繋がった貴重な人物だ。
そのお礼も込めて、全力でアメリカンドッグ屋をバックアップする。
「ポチ、面倒ごとはさっさと終わらせちゃおう」
そう言うと、ポチは元気よく返事をした。
「ォン!」
◇
「どうでした? アメリカンドッグの評判は」
図書館を後にした帰り道の最中、屋台を引くシルビアに尋ねる。
色々と小言とか言われるかなと思ったのだけど。
帰りに関しては特に何の問題も起こることはなかった。
だが、逆にそれが怖くも思えて来る。
「うーん、普通? いや、微妙かも知れん」
「微妙?」
「食べてもらったんだけど、色々とダメ出しを受けちまった」
「そうですか」
まあ、ネガティブイメージを持ってるから、言うだろうな。
このままじゃ売れないとか。
味は普通で、ただ新しい料理って感じしかしないとか。
シルビアが素人なのを良いことに散々言ってきた様だ。
「まっ、まだまだこれからだ。始めたばっかじゃ上手く行かねえのは基本だからな」
「その通りです」
「あいつらも俺のことを本気で考えて腐してたんだと思うから、もっと頑張るぜ!」
……目の前のこのおっさん、単純に人が良いだけっぽいな。
今まであの職場に居て、自分だけ仕事してる雰囲気とかに気づかなかったのはおかしいと思っていたのだけど、単純に人の悪い部分とか、そう言うのに気付かないタイプの人間である。
いるよ、いるいる。
考えてたりしても、基本的にそこに目を向けない、眩しい人だ。
人の良い所ばかりに目を向けるのが上手で、悪い所を見つけるのは下手くそ。
正直、そう言う人はすごいと思うよ。
俺は、人の悪い所ばっかりにしか目を向けない様な一般大衆と同じだからな。
人間国宝といっても過言ではないぞ、うん。
「シルビアさん、営業の傍で良いので、ソーセージ開発とか着手してみません?」
「ん? ソーセージ開発? 自分でアメリカンドッグ用のソーセージ作るのか?」
「ええ、その通りです」
素人目な考えだが、ソーセージってクロイツではありふれたもの。
それをアメリカンドッグにして売るのは、別に良い。
誰がどう食べても美味しいからな。
だがしかし、勇者のレシピに記されていた好物のアメリカンドッグ。
それは魚肉を使っていたんだ。
魚肉ソーセージである。
イケメン御曹司だって話を聞いて、魚肉ソーセージが好物って。
何とも言えない感情にとらわれかねないが、その先入観はとりあえず捨てる。
「屋台に元祖とつけても、売れればパクって来るやつがいます」
「ふーむ」
「そこで思い出したんですけど」
あくまで俺は伝承を思い出し方の様にこう言った。
「勇者が好きだったのは魚の肉を使ったソーセージだったんです」
「魚? 魚の肉でソーセージなんてできるのか?」
「元がミンチだから、いけるんじゃないですかね? ほらクロイツは内陸ですし、新しいですよ」
「確かに新しいな! なるほど、今までしっくり来てなかったのはそこだったのか!」
それは知らないけど、そう言うことにしておく。
「でもよ、クロイツまでどうやって新鮮な魚を持って来るってんだ?」
「それなら俺が持ってますんで、使ってください」
「アイテムボックス持ちだったのか兄ちゃん……! だったら行けるな!」
そんな訳でアメリカンドッグのソーセージ開発の片手間。
魚肉ソーセージの開発にも乗り出すことになった。
トガルのオデッセイ、ギリスの辺境領、ストリアの侯爵領、そしてクロイツ。
今後この4カ国間を結ぶ航空事業が発展する。
その積荷として、一つ俺から魚肉を運ぶように言ってみるのはどうだろう。
何かと積荷を乗せて飛ばした方が良いからな、こう言うのは。
もちろん、輸送料はしっかりと俺が払うぞ。
魚は極彩諸島近海にたくさんいるし、クロイツのミンサーを向こうに持って行く。
これで両者間の経済的なつながりが作れて、なおのこと事業としては良いのでは?
ふはは、図書館の職員、いや読書クラブの奴らめ。
おっさんが失敗すると読んでいるのだろうが間違いだ。
俺の飛空船事業と合体させて、無理矢理にでも拡大する。
そして解読作業に関しては、アドラーに意味ないから解散して職員減らせって言っとこ。
=====
大資本強い。
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています(旧:いらないと言ったのはあなたの方なのに)
水谷繭※7/30書籍発売予定です!6/29まで公開します。
完結まで一括投稿済。
なろうの方では削除する予定はありませんので、読み途中たけれど読みきれないという場合はそちらでお願いします☺️
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました
◆小説家になろうにも投稿しています
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
処刑されるはずだった没落令嬢ですが、姫様の初夜を身代わりしたら子を授かりました
新 星緒没落伯爵令嬢のエルゼは大恩がある姫様を救うために、初夜の身代わりを引き受ける。
そして姫様や国を守るために誰にも行く先を告げずに国を去った。
三年後。初夜の晩に息子ヴァルターを授かっていたエルゼは、ひっそりと暮らしていた。ところが元婚約者に拉致られて、あわやというところに初夜の相手であるハインツ王子が現れる。
「ようやく見つけた。エルゼ、愛している」
「初夜の相手が君だと最初からわかっていたが?」
――身代わり初夜から始まる、純愛溺愛執着愛のお話!