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本編
628 過去の痕跡とおサボり司書職・4
「……ふう」
「アォン」
息を吐きながら文献を本棚に戻すと、ポチがどうだったと聞いてきた。
「まあ、中々の新事実って感じかな?」
過去の勇者たちの名前を知ることができたのは大きい。
それにしても……。
命にしがみついてさえいれば、生きながらえている、か……。
人智に反したことをいとも容易く言ってのけている。
なんとも伝説的な存在らしい言葉だろうか。
どうやったか知らないが、骨も生きてるしな、アレで。
「勇者たちを元の世界に戻すことは現状不可能だった」
「ォン……」
「でも、過去の勇者たちの痕跡を辿れば、いけるかも」
「アォン!」
色々と迷惑を被ったが、今の勇者たちはまだ子供だ。
元の世界にきっちり送り返す。
それが最善で、神様から何のお咎めもない手段だろうさ。
同郷のよしみって奴だね。
友情が芽生えた、とかそんな話ではない。
同情を持った、とかそんな話でもない。
ただ、彼らにも親御さんはいるだろうし、彼らはまだ間に合う。
そう思ったからだ。
絶対に戦うルールとか、運命とか。
そんなものが存在するならば、全力で回避させてもらおう。
ちなみに、仮に元の世界に戻す手段を確立できたとして。
異世界と現世を行ったり来たりする様とか、そんな思惑は無いぞ。
俺は慎ましやかにポチたちとこの世界で暮らすんだ。
なんなら、この世界って死に抗うことも可能っぽいんだけど。
俺はそれは嫌だな……。
できれば歳とって、ちゃんと終わりを迎えたい。
生きてても、俺って存在してるだけでなんかヤバそうだし。
「とりあえず、やることは決まった。すぐにでも動き出そう」
「……アォン」
この場を離れようとすると、ポチが俺の袖を掴む。
その目は、何となくまだ気になることがあるようだった。
「そっか、シルビアさんが気になる?」
「ォン」
「このまま行くと、確実に邪魔してきてみんな不幸になるって?」
「アォン」
頷くポチ。
そうだよな……ここの連中はきっと邪魔して来る。
先にそっちを何とかした方がいいかもな。
シルビアは、重要な過去の文献に繋がった貴重な人物だ。
そのお礼も込めて、全力でアメリカンドッグ屋をバックアップする。
「ポチ、面倒ごとはさっさと終わらせちゃおう」
そう言うと、ポチは元気よく返事をした。
「ォン!」
◇
「どうでした? アメリカンドッグの評判は」
図書館を後にした帰り道の最中、屋台を引くシルビアに尋ねる。
色々と小言とか言われるかなと思ったのだけど。
帰りに関しては特に何の問題も起こることはなかった。
だが、逆にそれが怖くも思えて来る。
「うーん、普通? いや、微妙かも知れん」
「微妙?」
「食べてもらったんだけど、色々とダメ出しを受けちまった」
「そうですか」
まあ、ネガティブイメージを持ってるから、言うだろうな。
このままじゃ売れないとか。
味は普通で、ただ新しい料理って感じしかしないとか。
シルビアが素人なのを良いことに散々言ってきた様だ。
「まっ、まだまだこれからだ。始めたばっかじゃ上手く行かねえのは基本だからな」
「その通りです」
「あいつらも俺のことを本気で考えて腐してたんだと思うから、もっと頑張るぜ!」
……目の前のこのおっさん、単純に人が良いだけっぽいな。
今まであの職場に居て、自分だけ仕事してる雰囲気とかに気づかなかったのはおかしいと思っていたのだけど、単純に人の悪い部分とか、そう言うのに気付かないタイプの人間である。
いるよ、いるいる。
考えてたりしても、基本的にそこに目を向けない、眩しい人だ。
人の良い所ばかりに目を向けるのが上手で、悪い所を見つけるのは下手くそ。
正直、そう言う人はすごいと思うよ。
俺は、人の悪い所ばっかりにしか目を向けない様な一般大衆と同じだからな。
人間国宝といっても過言ではないぞ、うん。
「シルビアさん、営業の傍で良いので、ソーセージ開発とか着手してみません?」
「ん? ソーセージ開発? 自分でアメリカンドッグ用のソーセージ作るのか?」
「ええ、その通りです」
素人目な考えだが、ソーセージってクロイツではありふれたもの。
それをアメリカンドッグにして売るのは、別に良い。
誰がどう食べても美味しいからな。
だがしかし、勇者のレシピに記されていた好物のアメリカンドッグ。
それは魚肉を使っていたんだ。
魚肉ソーセージである。
イケメン御曹司だって話を聞いて、魚肉ソーセージが好物って。
何とも言えない感情にとらわれかねないが、その先入観はとりあえず捨てる。
「屋台に元祖とつけても、売れればパクって来るやつがいます」
「ふーむ」
「そこで思い出したんですけど」
あくまで俺は伝承を思い出し方の様にこう言った。
「勇者が好きだったのは魚の肉を使ったソーセージだったんです」
「魚? 魚の肉でソーセージなんてできるのか?」
「元がミンチだから、いけるんじゃないですかね? ほらクロイツは内陸ですし、新しいですよ」
「確かに新しいな! なるほど、今までしっくり来てなかったのはそこだったのか!」
それは知らないけど、そう言うことにしておく。
「でもよ、クロイツまでどうやって新鮮な魚を持って来るってんだ?」
「それなら俺が持ってますんで、使ってください」
「アイテムボックス持ちだったのか兄ちゃん……! だったら行けるな!」
そんな訳でアメリカンドッグのソーセージ開発の片手間。
魚肉ソーセージの開発にも乗り出すことになった。
トガルのオデッセイ、ギリスの辺境領、ストリアの侯爵領、そしてクロイツ。
今後この4カ国間を結ぶ航空事業が発展する。
その積荷として、一つ俺から魚肉を運ぶように言ってみるのはどうだろう。
何かと積荷を乗せて飛ばした方が良いからな、こう言うのは。
もちろん、輸送料はしっかりと俺が払うぞ。
魚は極彩諸島近海にたくさんいるし、クロイツのミンサーを向こうに持って行く。
これで両者間の経済的なつながりが作れて、なおのこと事業としては良いのでは?
ふはは、図書館の職員、いや読書クラブの奴らめ。
おっさんが失敗すると読んでいるのだろうが間違いだ。
俺の飛空船事業と合体させて、無理矢理にでも拡大する。
そして解読作業に関しては、アドラーに意味ないから解散して職員減らせって言っとこ。
=====
大資本強い。
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