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本編
644 悪魔はどっち?
しおりを挟む俺たちは残された穴を利用して、そのまま最深部へとと侵入した。
その内部は、洞窟みたいな無骨なものとは打って変わって、貴族邸宅の様な豪華絢爛さを持っている。
「まったく……なんなんだあのクソガキどもは……」
大きなゆったりとしたソファーに座って優雅にワインを嗜むダンジョンコア。
葉巻も吸って、なんとも余裕の雰囲気だった。
「だか、ビシャス様にいただいたリソースを持ってすれば、到底たどり着くことなどできはしない」
くつくつと笑いながらダンジョンコアは独り言をつぶやいている。
引きこもりの性だな、この独り言は。
「ふはは、来てみろクソガキども。いくら強かろうと、私の作り出した最終守護は──」
「──わっ!!」
「のわあああああああああああああああああ!?」
随分と隙だらけなので、後ろからこっそり近づいて大きな声を出してみた。
葉巻を落としてひっくり返るダンジョンコアである。
「な、何故ここに!? どこから入って来た!? もう最終守護を倒したのか!?」
「いや、普通にお前が作り出した穴から直接だけど」
「し、しまった! 私としたことが、消すの忘れていた!」
頭を抱えてガビーンと両手両膝をつくダンジョンコアは、立ち上がると言った。
「ふん、直接ここへ来れたのは褒めてやろう。頭が回る様だな」
「お前がアホなだけだろ」
「ぐっ、だが来れたところで私の最終守護がお前たちの前に立ちはだかるだろう!」
ダンジョンコアが、ハッハッハと高笑いを浮かべた瞬間。
──ドゴォォォッ!
最奥の部屋のどビラを一つ隔てた先で爆音が轟いた。
ドアがぶち破られて、その中から幼女のイグニール。
通称幼女ニールが姿を現した。
「これが最深部を守るガーディアン? なんか拍子抜けよね?」
そう言いながら焦げたガーディアンの頭部を投げる。
ゴロゴロとガーディアンの頭部だけが俺たちの元へ転がって来た。
うーん、なんともえげつないことか。
「……は? え?」
ダンジョンコアの顔がもう、面白いことになっている。
ことごとく、自分の思惑を覆された瞬間だからさもありなん。
もっとも、そう仕向けたのは俺なのだがね。
人の嫌がることをさせたら天下一品もんだぞ。
もともとネトゲでもそうだが、粘着体質でもあったのだ。
「くっ、まさか最終守護までもあっさりと倒すとは……」
「特殊な鉱石とか使われてないし、お前のコアのかけらも使われてないからな」
オリハルコン、アダマンタイトなら多少の時間はかかるかもしれない。
深淵樹海の最終守護たちみたいに、コアを用いて作られた特殊な奴らなら、苦労していたかもしれない。
しかし、なんのひねりもなく普通にがっちり鉄で固めて作り出したガーディアンはなあ……弱いぞ。
「で、どうする?」
「何がだ」
構えるダンジョンコアに問いかける。
「とりあえず、ビシャスが悪魔の亡骸とやらで何をするのか教えてもらおうか」
「それを知ってどうする気だ?」
「潰せるのなら、潰しておくつもりだけど?」
「ふん、ガキに何ができる。もう直ぐ世界に災厄が訪れるのを慄いて待つが良い」
「やっぱり、なんかとんでもないことを起こそうとしてんだな?」
今日、ここに来れたのは良かった。
勇者もいない状況で、そんなことが起こってみろ。
責め立てられるのはクロイツかもしれない。
現状勇者が戦闘不能になっている状況は秘匿にされているからな。
クロイツがごたついたらせっかく大きく進展した飛空船事業が頓挫する。
ただでさえ、ずーっとずーっと待ってんだ。
みんな心待ちにしてる、いつになったら完成するんだって飛空船が、完成しないことになる。
これは断固たる思いで阻止せねばならないだろう!
「混沌たる世界。ビシャス様、そしてその後ろに居られるバニティ様の理想とするもの!」
羽織っているマントをはためかせながら、ダンジョンコアは高らかに言った。
「邪魔立てするものには、容赦はしない! 私が直々に相手をしてやろう!」
「トウジー、コアあったよー?」
「──ふぁっ!?」
固まるダンジョンコア。
自らが相手しようと宣言したところで、急所とされる本体を持って来られたのだ。
うーん、上げて落とすというよりも、勝手に上昇して墜落してったな、こいつ。
そういう星の元なのかもしれない。
「でかしたジュノー! さすがはダンジョンコアだな」
「えへへ、でしょでしょ?」
光り輝く丸い玉を抱えて俺の方へ寄ってくるジュノー。
「なんか似た様な雰囲気だったからわかったし!」
「今日はパンケーキタワーだな」
「わーい!」
さて、ダンジョンコアの急所とも言えるコア部分を手に入れました。
ここからどうしようか?
どうしようか、どうしようか?
ニヤァ……。
「そ、それに触るな! か、返せ!」
血相を変えて俺の元へと飛び込んでくるダンジョンコア。
ハイジャンプでピョーンと飛び跳ねグリフィーの上に逃げる。
「返して欲しかったら悪魔の亡骸をよこせ! そしたら返してやる!」
「くっ! いいから返せ! 返してくれ! 頼む頼む頼む頼むから!」
「おい、人に物を頼む時の態度って知ってるか?」
「ぐうっ」
「仮にも人の世界で暮らしていたダンジョンコアなら、わかるだろ?」
「くっ……貴様……クソガキなんかじゃない……とんでもない悪魔だ」
「おう。で、悪魔の亡骸はどこ?」
「……くっ……これだ」
ダンジョンコアが手をかざすと、一つの扉が出現し、開かれた。
その扉の奥には、メラメラと淡く輝く松明に照らされて巨大な骨が鎮座している。
「……これが悪魔の亡骸?」
「そうだ」
見た目的には、恐竜の化石に近い何かを感じる。
っていうか、俺の目には恐竜の化石にしか見えなかった。
そんな姿から想像できる異世界的存在。
それは……ドラゴンである。
「ドラゴンの骨?」
「っぽいですぞ~、残存する魂の形質は明らかに竜のものですぞ~」
骨もそういうのだし、そうなのだろうな。
竜とかこの世で一番強力かつ危険な存在だ。
右手につけた邪竜三兄弟のいる指輪もドクンドクンと脈を打つ。
何かしら知っていることがあるのだろうか、今度聞こう。
「……も、持っていけ」
ダンジョンコアは平伏しながらそう言っていた。
さすがに命を捨ててまで守るつもりはない様である。
「ありがとさん」
俺は、そのまま巨大な竜の骨をインベントリ内に回収すると、そのままコアを破壊した。
「──!?」
驚くダンジョンコア。
「な、何を」
「ビシャス関連の奴を生かすわけないだろ、あとで面倒なことになるのはわかりきってる」
「う、嘘をついたのか! 騙したのか! この悪魔め! お前はろくな死に方しないぞ!」
「いいよそれで」
ろくな死に方をしないなんて、日本にいた時からわかっていたことだ。
大事なのは今、俺たちが、幸せに平和に暮らすことである。
障害となり得るものは、心を鬼にして消すのが一番平和なのだ。
「く、そ──」
コアを破壊されて消滅するダンジョンコア。
ドロップアイテムが散らばったをの見るに、しっかりと死んだ様だ。
とりあえずドロップだけ回収して、あとで確認だな。
コアを破壊した瞬間、グラグラと再び地震がダンジョン内に巻き起こっていた。
ダンジョンの崩壊である。
コアが壊されると、そのダンジョンは最下層から徐々に形を失っていくのだ。
「みんな、ひとまずダンジョンが崩壊する前にさっさと抜けだすぞ!」
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