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本編
733 戦争概要
「ダンジョンコア同士の、戦争……?」
「私の主であるラスト様は、1ヶ月ほど前に宣戦布告を受けた」
「誰にだ。八大迷宮に宣戦布告するなんて、同じ八大迷宮か?」
そう尋ねるウィンスト。
夢幻楼街の守護者であるジェラスは首を縦に振りながら語る。
「その通り。相手はお隣の国にある奈落墓標……と」
彼女は続ける。
「魔国を超えた西の砂漠地帯に存在する、魂枯砂漠」
「二つも? マジでか」
「大マジよ、大マジ。雑魚コアが近場に作ったとしても、飲み込んでハイ終了だったけど」
ジェラスは顔をしかめながら言う。
「あの二つを相手取るのは流石にラスト様でも難しい」
どうにも色欲のラストが束ねる夢幻楼街は、戦闘に特化していないそうだ。
魔国の領土を一部切り取って作ったような、歓楽街。
極彩諸島のリゾートアイランド、オデッセイの規模をより大きくしたもの。
発展の仕方としては、ダンジョン全体が迷宮都市とのことだ。
荒くれた冒険者を遊ばせつつ、リソースである魔力を回収する。
超巨大遊郭みたいな場所ってことだ。
「それってダンジョンとしてどうなの? なんか旨味あるの?」
いや、ダンジョンコアの行動理念からは逸脱しているようにも思えるが……。
八大迷宮ともなれば、なんともその辺の本能に打ち勝っていると言うか。
別の本能があるのだから仕方ないか。
「知らないわよ。でも、男女の関係性がラスト様の力になるから理想の形よ」
「ふむむ」
やはり、八大迷宮は一般的なダンジョンから逸脱しているな。
二つ名の通りに、その欲望のままにダンジョンが形成される。
未だ謎多き存在で、なんとも興味深い。
暴食のグルーリングは、自分への葛藤からあのダンジョンが作り出された。
断崖凍土はよくわからんが、憤怒の二つ名とは真逆の氷漬け。
ラブはコアが自分自身を封印していると言っていたから、その表れか。
だったら、残りはなんなんだろうな?
怠惰のスローフは面倒臭さが極まって島型にしてるとでも?
生態系とか管理するの面倒だから島ごとに分けてそうだな。
「しかし、超巨大遊郭か……もう妻帯者だからあんまり行きたくないな……」
「力の証明はできたし、こっちからもあんたに利益があるようにするわよ」
「ふむ、聞かせてくれ」
利益があるなら、話は別だ!
レア素材か? 新素材か?
それとも。
そこにしかない珍しい食い物、および美味い物があるとか。
良いっすね、俺としては見返りがある方が話に乗りやすい。
「子宝が確約された秘薬……その名も絶頂薬をラスト様が直々に作ってくださるのよ!」
「ぜっ」
絶句した。
なんだよそれ、なんかいやらしい薬の名前が出てきたんだが。
「なんだその絶頂薬とは、下品な名前の薬だな、どんな効果を持つ代物なんだ?」
「ウィンスト、掘り下げなくて良いよそこ」
「しかし、報酬だと提示されたものの説明を受ける義務が私たちにはあるのだ」
「いや、聞く必要もないだろ……」
「いいや、聞いておかねばならない」
仏頂面のまま、ウィンストは言葉を続ける。
「冒険者ギルドの依頼ごとも、基本的にしっかり内容と報酬を精査しなくてはいけないものだと、私は学習したのだ」
学習したのだ、じゃねえよ。
それとこれとは話が全く違ってくるんだけど。
まったく、くそまじめだな。
子供が出来やすくする媚薬系の最上位みたいな立ち位置だろ、聞いた感じ。
そんなもんいらんぞ!
第一、まだ必要ない。
これから先も、そんなもんに頼らなくても俺は頑張れる……はずっ!
過去の剣聖がこの世に子孫を残しているって事実もあるんだ。
だから、たとえ住んでいた世界が違っても、子供を作ることは可能。
未来は、明るいぞ!
「といっても、その薬はそこの人もどき用のものなんだけどね?」
「む? 私か?」
急に話を振られたウィンストがキョトンとする。
こいつに必要って、そもそもこいつが恋をするとか想像できない。
なんで色欲のラストは、そんなものをチョイスしたのだろう。
そして俺に対する報酬はそのついでみたいな感じになってるみたいだった。
「まあ、事情はラスト様にあってから聞いてちょうだい」
「この場で言えば良いだろう、聞くぞ」
「残念ながら、詳しい話なんて聞いてないの」
ただ、とジェラスは続ける。
「賢者と関係があるみたいね? 借りがあるとか、そうお願いされたとか」
「……師匠と」
少し、ウィンストの目の色が変わった気がした。
師匠繋がりだったら、手を貸さない訳にはいかない、みたいな流れを感じる。
「ちょっと待てウィンスト」
「む?」
「それ、お前の師匠に直接あって聞けばよくない? 俺もお前の師匠に用事があるからさ」
八大迷宮同士の戦いなんか、参加するだけ損だ。
絶対何かよくわからん思惑が裏で動いている。
奈落墓標と言えばビシャスがいるところで、裏で色々やってやがるんだ。
今まではたまたま目の前に現れたもんだから、適当に計画をぶち壊した。
故に、その真っ只中に俺から出向くのはすっごく嫌なのである。
俺がやることはまず先に勇者を無事に送り返す手段を見つけることだ。
あいつらは言わば俺の急所みたいな扱いである。
先にそっちを何とかしてから、後でゆっくりその辺を片付ければ良い。
「優先順位は先にそっち! それが一番効率が良い!」
そして師匠に会えて真意も聞けて一石二鳥。
八大迷宮同士の戦い?
こっちには協力をしてほしいとお願いすれば、極彩諸島、断崖凍土、深淵樹海。
三つの大迷宮が力になってくれる可能性だってある。
さらに欲を言えば、賢者のいる天海深海もワンチャン俺たちについてくれるさ。
「戦いはなんとか耐えてくれ、そしたら強力な味方を引き連れていけるはずだ」
「あのねえ、相性が悪いのよ、相性が」
俺の発言にジェラスが返す。
「奈落と魂枯のガーディアンって、犠牲が出れば出るだけ力に変わるのよ?」
「それでも防衛戦だったら基本負けないと思うけどな」
ダンジョンコア同士の戦いは陣取りだ。
迷宮伸ばしてくるとか、そんな状況になればリソースが枯渇する。
相手の数が倍だったとしても燃費的な意味で部が悪い訳じゃない。
「だから、あいつらと戦うのってそんな簡単な問題じゃないの」
「じゃあなに」
「強欲のグリードのガーディアンは倒しリソースを奪って力に変える」
そして、とジェラスは続ける。
「虚飾のバニティは倒したリソースを我がものとして再利用できる」
「なんだよそれ、強すぎ」
「そう。こっちはそんなにリソース持ってる訳じゃないから削られたら厳しいの。ガーディアン相手だとラスト様の能力だって根本的に意味をなさないからね」
「そのラストとやらの能力とは?」
「魅了の超絶版。生物が生物を思う気持ちを切ったり貼ったり挿げ替えたりできるわね」
「それもそれで恐ろしいな……」
精神作用系の万能な能力者って感じ。
憎しませたり、慈しませたり、なんでも自在なのはやば過ぎる。
が、確かに相性としては部が悪過ぎるのかもしれなかった。
「ってか、協力しなさいよ。なによ報酬が不満なの?」
「協力するかしないかは置いといて、不満ではある」
「良いじゃないの。その歳になれば色々厳しくなるそうよ? 私の魅了も効果ないみたいだし、枯れてんじゃない?」
「うっさいな……」
効かないのは霧散の秘薬を1日1回毎朝飲んでるからだ。
俺は断じて枯れてなんかいない、いません、いない……はず。
異世界にきて一回も確かめてないので、不安になってきた。
「はわわわ」
肝心な時にダメだったらどうしよう。
絶頂薬もらおっかな……やっぱ……。
頭を抱えていると、ウィンストが言った。
「まあ、話はわかった。少し考える時間が欲しい。そして」
「そして?」
「何よ?」
「その間、ジェラスとやらは壊したドア、ベッドの弁償をしろ」
=====
次回予告!
ついに、再びあいつが登場。
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