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本編
788 背に腹は変えられない
しおりを挟むリビングの神棚前に移動し、白目を剥く瓶詰めの正面へ。
(あの瓶詰めされた禍々しいものはいったいなんなんでしょう?)
(え? 怨嗟の鎖だけど?)
(いや、知っていて当然でしょ、みたいな感覚で言われても……)
そう言われても、どこから説明すればいいのやら。
この世の恨みの根源とも言える存在。
いや根源というより、みんなの恨みが集まってできた概念体と言える。
(うーん……?)
(とにかく、生物の恨みつらみを増幅させて嫌がらせする奴だよ)
端的に言えば、そんな感じだ。
もっとも、こいつを封じるからといって、人から恨みが消えることはない。
こいつはその恨みつらみ対価として力を渡す悪魔みたいな部類である。
(ローディ、あまり思い出したくないとは思うけど)
(はいはい)
(昔、ゴブリンに襲われて半狂乱になってただろ?)
(そうですね……)
(あの時のゴブリンネクロマンサーを作り出したのがこいつだ)
厳密に言えば、きっかけは勇者。
ウィンストの激しい恨みに呼応するように、こいつは手を差し伸べた。
それだけなのだが……基本的にはこいつが全て悪いということにする。
(なんと……)
もちろん、ウィンストがその時のゴブリンネクロマンサーだとは言わない。
もう呪縛が解けて清廉潔白だというのに、余計な誤解を生むのはさけよう。
そんな話をしていると、
「ぷぴ」
俺たちが目の前にいるとも知らずに、ピーちゃんが日課を行いにきた。
(ああっ、いたいけなハイオークの子供が小瓶に近づいていきますよ!)
心配そうにするローディー。
(大丈夫だよ。コンコンするだけだから)
(こ、こんこん……?)
(そう、コンコン)
コンコン。
コンコンコン。
(ぐわああああああああああああああああああああああああ!)
瓶の中でゴボゴボと蠢く黒いもやもや。
この様子じゃ、俺がいない間も律儀にやっててくれてるみたいだな。
(えっと……)
叫び声をあげる怨嗟の鎖を見ながら呆気にとられるローディ。
(これはいったいどういうことですか?)
(ピーちゃんにもたせてるナイフは、相手に幸福感を与える効果を持つんだよ)
(なんだかとんでもないナイフですね……でも、それがなぜ?)
(恨みつらみの概念体には、その幸せ攻撃が効果抜群なんだよ)
今まで散々苦労させられたから、毎日毎日恨み返しである。
ちなみにパンケーキで釣っていたジュノーはすぐに飽きてやめた。
今では家に常駐しているストロング南蛮か、ピーちゃんが担当である。
(どっちかっていうと、貴方の方が恨みつらみの権化に見えますね)
(ハハッ、別に構わんよ。やられたらやり返す、無限返しだ)
(そ、そうですか……)
いずれ復活する可能性も存在するから、それを少しでも遅くさせる意味もあった。
嫌がらせが大部分を占めているのだが、一応大義名分だってあるんだよ。
(で、話を戻しますけど。この哀れな存在をどうするんですか?)
依然として叫び声が聞こえる中。
禍々しい存在から哀れな存在に扱いをランクダウンさせたローディの質問に答える。
(こいつに呪縛の鎖で体に縛り付けてもらう)
(……は? 頭おかしいのでは?)
(背に腹は変えられないってやつなのさ)
「……お二人ともさっきから何を話してらっしゃるんですか?」
急に、俺たちを呼ぶような声が聞こえた。
バット振り返ると、骨がいる。
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