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本編
813 黒い兎さんと赤い精霊さん
そんなこんなで無事にブルーとの契約も終了し、夜が来てしまった。
もう一度言う、来てしまったのだ。夜が。
「──プルァアアアアア!」
「──太初ォォォォォオ!」
隣の部屋からそんな声が聞こえてくる。
キングさんはさっさと戻せと俺に訴えかけてくるのだが、契約的に断った。
今日1日、キングさんを出しっぱなしにしておくこと。
最低でもそのくらいのチャンスは与えるべきという運びになった訳である。
「騒がしいわね」
「そ、そうっスね」
大方追いかけっこが行われているのだろうな……。
普通の宿だったらどんでもない有様だっただろう。
家一つ持って来ていてよかった。
魔導機器があれば、明かりも点くし、水も出る。
ただ惜しむらくは、初めて使ってみた初日がラブホ利用とは……。
なんだかなあ、と言ったところである。
「なんで畏まってるわけ」
「い、いやぁ……」
緊張しているんだけど、そっちは緊張していないのだろうか。
別に夫婦なんだからおかしいことは何もない。
ただ、恋人らしいこととかしてこなかったばっかりに、急激なのである。
付き合うとかそんなことを言う前に、いきなり結婚してしまった訳だし。
「コホン、とにかく小動物みたいになってないでこっちに来なさい」
「はい」
呼ばれたので、ネグリジェ姿のイグニールの隣にそっと身を寄せた。
胸元に頭を抱き寄せられ、わしゃわしゃと髪を撫でられる。
「落ち着かないの?」
「まあね」
寝る時すら身につけている装備を脱ぐっていうのは、なんとも落ち着かない。
今の俺のステータスは、最初期の勇者と同程度ってところである。
レベル120にもそろそろ届こうかとしている状況で、装備を脱げばその程度。
丸腰だと、情けないほどに弱々しいもんだった。
「今の俺はイグニールより圧倒的に弱いよ」
「なら、私が守ってあげられる数少ない場面ってこと?」
「そうだね」
肯定すると、彼女はクスッと笑っていた。
「この一瞬だけは私が守ってあげるから、安心しなさい」
「…………任せた」
どう言うわけかわからないけど。
彼女の声が聞こえるたびに。
耳を通って頭に響くたびに。
まるで実家にいる時のように安らぐ俺がいた。
「温かい」
彼女のふんわりとした胸に抱き寄せられ、鼓動が聞こえる。
トクン、トクンとイグニールを感じる。
「私がいる限り、どんな時もあなたは寒さとは無縁だから」
「無効装備あるけど」
「バカ、そうじゃないわよ」
ズビシッと頭部をチョップされる。
「ずっと一緒にいるって言ってんの」
「ああ……」
心の拠り所が装備ありきって部分も、反省すべき点かもな。
ロマンチックな会話なのに、何とも無様なことか。
そうやって気が利かない自分自身を責めていると、イグニールが「あのね」と口を開いた。
「避妊、しなくていいから」
「えっ」
唐突に言われた爆弾発言に、一瞬ドキリとした。
だ、だだだ、だってこれからおっぱじめる訳だ。
俺もとっくに覚悟を決めている。
記念すべき日とも言えない夜が、まさかそんな。
……生ですと?
「い、いいの? もっと段階を踏んだりとか、落ち着いてからとかその……!」
「落ち着く日々なんて、しばらくこないでしょ」
「……そ、そうだけど」
「それにね」
と、イグニールは言葉を続ける。
「子供ができたら、あんたはもう独りじゃないって証明にもなる」
ドギマギしていたが、そのセリフでスッと真顔に戻った。
「……なんでまた、そんなこと」
「ポチやジュノーたちから聞いてた。まだ、たまに寂しそうにしてるって」
「……ああ、そっか」
気丈に、普通に、振る舞っていたとしても、あいつらにはお見通し。
俺のそんな問題を考えた上での発言だったようだ。
「でも別に焦らなくてもいいよ」
「別に焦ってないわよ。その、実を言うと私だって心配なのよ」
「何が?」
「聞いた感じだと、あなたは異世界人で私はある意味半分精霊なんでしょ?」
「うん」
「ちゃんと子供ができるのか、そこが問題なのよね」
「ああ……」
前例的に俺は可能だけど、イグニール側に問題がある場合もあるのか。
そもそもイグニールはどうやって生まれたのか、そこにつきる。
「あなたがこの世界で生きた証ってのも私は欲しいけど、今のうちから対策しておくことは重要よね」
「うーん、そう考えると、なんだか義務感がすごい」
「もっとも楽しむのが最重要案件ではあるわね。もう何ヶ月もお預けだったのよ、こっちは」
「俺だってそうだと思います! お互いに気持ちは一緒です!」
「うち1ヶ月くらいは性欲無くなってたので不公平ね。ほら、とにかくギュッとしてるのはもう終わり!」
体勢がガラリと入れ替わり、イグニールが俺の上に。
彼女の体重とほのかな温かみを下腹部に感じた。
長く赤い髪の毛をかき上げて、薄暗い室内に彼女の赤い目が光る。
まるで獣みたいでした。
「あのさ、さっきから気になってたんだけど」
「なに」
「なんでメガネかけてる訳?」
「いつも一緒にいるから、こうして普段とは違うイメージにしてるってこと。興奮するでしょ?」
いや、俺は別に眼鏡萌えでも何でもないのだが……。
まあいいか。
「お、お手柔らかに」
「安心して、黒い兎さん」
普段と違う知的なイメージは、確かに新鮮だ。
こうして夜は更けていく。
=====
今週末、第4巻発売であります!
もう一度言う、来てしまったのだ。夜が。
「──プルァアアアアア!」
「──太初ォォォォォオ!」
隣の部屋からそんな声が聞こえてくる。
キングさんはさっさと戻せと俺に訴えかけてくるのだが、契約的に断った。
今日1日、キングさんを出しっぱなしにしておくこと。
最低でもそのくらいのチャンスは与えるべきという運びになった訳である。
「騒がしいわね」
「そ、そうっスね」
大方追いかけっこが行われているのだろうな……。
普通の宿だったらどんでもない有様だっただろう。
家一つ持って来ていてよかった。
魔導機器があれば、明かりも点くし、水も出る。
ただ惜しむらくは、初めて使ってみた初日がラブホ利用とは……。
なんだかなあ、と言ったところである。
「なんで畏まってるわけ」
「い、いやぁ……」
緊張しているんだけど、そっちは緊張していないのだろうか。
別に夫婦なんだからおかしいことは何もない。
ただ、恋人らしいこととかしてこなかったばっかりに、急激なのである。
付き合うとかそんなことを言う前に、いきなり結婚してしまった訳だし。
「コホン、とにかく小動物みたいになってないでこっちに来なさい」
「はい」
呼ばれたので、ネグリジェ姿のイグニールの隣にそっと身を寄せた。
胸元に頭を抱き寄せられ、わしゃわしゃと髪を撫でられる。
「落ち着かないの?」
「まあね」
寝る時すら身につけている装備を脱ぐっていうのは、なんとも落ち着かない。
今の俺のステータスは、最初期の勇者と同程度ってところである。
レベル120にもそろそろ届こうかとしている状況で、装備を脱げばその程度。
丸腰だと、情けないほどに弱々しいもんだった。
「今の俺はイグニールより圧倒的に弱いよ」
「なら、私が守ってあげられる数少ない場面ってこと?」
「そうだね」
肯定すると、彼女はクスッと笑っていた。
「この一瞬だけは私が守ってあげるから、安心しなさい」
「…………任せた」
どう言うわけかわからないけど。
彼女の声が聞こえるたびに。
耳を通って頭に響くたびに。
まるで実家にいる時のように安らぐ俺がいた。
「温かい」
彼女のふんわりとした胸に抱き寄せられ、鼓動が聞こえる。
トクン、トクンとイグニールを感じる。
「私がいる限り、どんな時もあなたは寒さとは無縁だから」
「無効装備あるけど」
「バカ、そうじゃないわよ」
ズビシッと頭部をチョップされる。
「ずっと一緒にいるって言ってんの」
「ああ……」
心の拠り所が装備ありきって部分も、反省すべき点かもな。
ロマンチックな会話なのに、何とも無様なことか。
そうやって気が利かない自分自身を責めていると、イグニールが「あのね」と口を開いた。
「避妊、しなくていいから」
「えっ」
唐突に言われた爆弾発言に、一瞬ドキリとした。
だ、だだだ、だってこれからおっぱじめる訳だ。
俺もとっくに覚悟を決めている。
記念すべき日とも言えない夜が、まさかそんな。
……生ですと?
「い、いいの? もっと段階を踏んだりとか、落ち着いてからとかその……!」
「落ち着く日々なんて、しばらくこないでしょ」
「……そ、そうだけど」
「それにね」
と、イグニールは言葉を続ける。
「子供ができたら、あんたはもう独りじゃないって証明にもなる」
ドギマギしていたが、そのセリフでスッと真顔に戻った。
「……なんでまた、そんなこと」
「ポチやジュノーたちから聞いてた。まだ、たまに寂しそうにしてるって」
「……ああ、そっか」
気丈に、普通に、振る舞っていたとしても、あいつらにはお見通し。
俺のそんな問題を考えた上での発言だったようだ。
「でも別に焦らなくてもいいよ」
「別に焦ってないわよ。その、実を言うと私だって心配なのよ」
「何が?」
「聞いた感じだと、あなたは異世界人で私はある意味半分精霊なんでしょ?」
「うん」
「ちゃんと子供ができるのか、そこが問題なのよね」
「ああ……」
前例的に俺は可能だけど、イグニール側に問題がある場合もあるのか。
そもそもイグニールはどうやって生まれたのか、そこにつきる。
「あなたがこの世界で生きた証ってのも私は欲しいけど、今のうちから対策しておくことは重要よね」
「うーん、そう考えると、なんだか義務感がすごい」
「もっとも楽しむのが最重要案件ではあるわね。もう何ヶ月もお預けだったのよ、こっちは」
「俺だってそうだと思います! お互いに気持ちは一緒です!」
「うち1ヶ月くらいは性欲無くなってたので不公平ね。ほら、とにかくギュッとしてるのはもう終わり!」
体勢がガラリと入れ替わり、イグニールが俺の上に。
彼女の体重とほのかな温かみを下腹部に感じた。
長く赤い髪の毛をかき上げて、薄暗い室内に彼女の赤い目が光る。
まるで獣みたいでした。
「あのさ、さっきから気になってたんだけど」
「なに」
「なんでメガネかけてる訳?」
「いつも一緒にいるから、こうして普段とは違うイメージにしてるってこと。興奮するでしょ?」
いや、俺は別に眼鏡萌えでも何でもないのだが……。
まあいいか。
「お、お手柔らかに」
「安心して、黒い兎さん」
普段と違う知的なイメージは、確かに新鮮だ。
こうして夜は更けていく。
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