文字の大きさ
大
中
小
525 / 650
本編
825 ヘタレトウジ!
アルバート商会を出て、メッシが継いだ丼ものパインでテーブル席を囲む。
「……トウジ、マイヤーどうなっちゃうし?」
こんな時、バカなことを話して空気を変えてくれるジュノーが寂しそうに呟いた。
お子様セットで手に入れたおもちゃで遊ぶこともなく。
アルバート商会のあった方角をしきりに気にしながらとは……。
こいつも話を重く受け止めているようだった。
ちなみに、アルバート商会内にあった丼もの屋は、ここの従業員が出店している。
各地で出店するパインのおっさんのようにメッシも大忙しみたいで、この本店に来ても会うことはできなかった。
なんだか、サルトの居場所がなくなってしまったように感じる。
俺のアパートにも他の冒険者がとっくに入ってるし、中が良い人たちは全員ギリスに呼び寄せたしな。
……ちょっぴり寂しいね。
「ねえ、トウジってば」
「んなこと言われても」
急かすジュノーに言っておく。
「マイヤーの親が決めたことに俺が口出しできるわけないだろ」
そうだ。
俺の口から、言えるわけない。
本人も嫌がってることですし、本人の意見を尊重させては?
なんて、言えるわけがない。
何様だ、と言われて、どう答えるんだ。
今まで家族のように暮らしてきた間柄ではあるが、血が繋がっているかといえばそうではない。
本当の家族の意見を前にして、一歩前に出るなんてことは不可能だった。
もしも。
それが娘のことをまったく考えていないような理不尽なものだったり。
端から見てもあんまりだと思うようなことであれば……。
まだ別の答えがあったのかもしれない。
しかしながら、商会同士の縁談。
明らかに年上に財産目的嫁がせるとか、そんな話ではない。
「俺がその縁談を待ったと言ったところで、どうするよ?」
「でも家からマイヤーいなくなっちゃうのはあたしが寂しいし」
俺だってそうだけど。
こうなることは、結婚を決めてから覚悟していたことだ。
色々言いたくなる気持ちをぐっと堪えて。
笑顔で送り出してあげる方がいいんじゃないか?
後腐れがない方が、マイヤーだっていいだろう。
これから先、マイヤーの言っていたビジネスパートナー。
それだけはずっと、死ぬまで、続けて行くつもりなんだから。
「でもでも、ストロング南蛮とかどうするし! コレクトやゴレオとも仲良いし!」
「……」
「やだやだ、みんなで一緒に暮らしてたダンジョンなんだよ! そんなのやだし!」
「……なら……そこでお前が、一声あげればよかっただろ……」
「はあ? マイヤーはトウジに言って欲しかったんじゃないし?」
「だから俺が言ったら一番不味いんだってば!!」
「なんで怒鳴るし!」
「愚痴愚痴うるさいからだろ! 俺になんの権限があって向こうの家族の決め事に口出せるんだよ!」
「むかっ! このヘタレ! ヘタレトウジ! ハゲ! 良いからマイヤーを連れ戻すし!」
「ヘタレって……俺がどんな気持ちでこの状況を──」
「はいはいやめやめ」
ヒートアップしてきた言い争いをイグニールが静止する。
「他のお客さんもいる店内なんだから、言い争いは一旦やめなさい」
「アォン」
黙って聞いていたポチも、うんうんと頷きながら話を合わせている。
毎回思うけど、意外と身の振り方に長けてるよね、ポチって。
「むー……わかったし……」
「……そうだな……はあ……」
せめて、とんでもない高慢ちきな息子とかだったらまだ言い分があるんだけど。
聞いた話だと、そう思う俺の方がクズみたいな感じの超良い人っぽいじゃん。
応援するしかないじゃん。
マイヤーが何を思っていようが、多分このまま独身を貫くよりも幸せになれる。
胃が痛くなってきた。
全てが丸く収まる方法は、俺がとんでもないクズになること。
そんなことを考えてみるのだが……。
「とりあえず出ましょ? こういう時は冷静にみんなで話し合うのが重要よ」
イグニールの顔を見て、やめた。
ダメだ、できない。
彼女を悲しませるようなことは、絶対にやっちゃいけないし。
そう誓ったのである。
「ほら、出るわよ」
「あ、うん」
「今日はサルトに泊まるの?」
「……一応そのつもり」
迂闊に動かずに、もう少し様子をみることも重要だと思っていた。
何かしら商売の話を持ちかけながら、情報を探ろう。
このまますごすごギリスに帰宅するようだと、みんな納得行かなそうだし……。
「なら、今夜話したいことがあるから時間作っといて」
「話……?」
なんなんだろうか……。
怒られるのかな?
胃が痛い。
=====
このヘタレトウジ!ハゲ!未来ハゲ!
クソトウジの後は……。
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
妹が私の婚約者を奪いました。でも父まで妹を選んだので家を出ます。祖母から世界最大商会を継いだ私に、今さら帰ってこいと言われても遅すぎます
由香【全一話完結】
婚約者を妹に奪われ、父にも見捨てられた伯爵令嬢エレノアは、家を追い出される。
けれど、それは人生最悪の日であり、最高の日でもあった。
亡き祖母が遺したのは、世界最大商会の会頭の座と莫大な財産。
商会を立て直し、世界中から称賛される一方で、没落した家族と元婚約者は「戻ってきてほしい」と泣きついてくるが……。
「あなたたちが捨てたのは、私ではなく未来です。」
もう二度と、その手は取りません。
異世界来たけどネットは繋がるし通販もできるから悠々自適な引きこもり生活ができるはず
星 羽芽異世界転移した舘石 灯(あかり)が持っていたスキルは「インターネット」。現代日本のインターネットにアクセスできる。書き込みなどのアップロード行為はできないが、閲覧やデータのダウンロード、通販サイトでの物品の購入はできる。という神機能。
定期的に街に降り、商業ギルドに日本のシャンプー・リンスを卸して生計を立て、人里離れた森に隠れ住みながら、通販で日本の食品や生活用品を購入し悠々自適に自堕落な生活を送る──筈だったのに、うっかり森で倒れていた青年を拾う羽目になる。私知ってる。こういうのって大体王族とかなんでしょ。
ぐ〜たらオタクと世話焼き真面目騎士の明日はどっちだ
(他サイトにも掲載しています)