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本編
825 ヘタレトウジ!
アルバート商会を出て、メッシが継いだ丼ものパインでテーブル席を囲む。
「……トウジ、マイヤーどうなっちゃうし?」
こんな時、バカなことを話して空気を変えてくれるジュノーが寂しそうに呟いた。
お子様セットで手に入れたおもちゃで遊ぶこともなく。
アルバート商会のあった方角をしきりに気にしながらとは……。
こいつも話を重く受け止めているようだった。
ちなみに、アルバート商会内にあった丼もの屋は、ここの従業員が出店している。
各地で出店するパインのおっさんのようにメッシも大忙しみたいで、この本店に来ても会うことはできなかった。
なんだか、サルトの居場所がなくなってしまったように感じる。
俺のアパートにも他の冒険者がとっくに入ってるし、中が良い人たちは全員ギリスに呼び寄せたしな。
……ちょっぴり寂しいね。
「ねえ、トウジってば」
「んなこと言われても」
急かすジュノーに言っておく。
「マイヤーの親が決めたことに俺が口出しできるわけないだろ」
そうだ。
俺の口から、言えるわけない。
本人も嫌がってることですし、本人の意見を尊重させては?
なんて、言えるわけがない。
何様だ、と言われて、どう答えるんだ。
今まで家族のように暮らしてきた間柄ではあるが、血が繋がっているかといえばそうではない。
本当の家族の意見を前にして、一歩前に出るなんてことは不可能だった。
もしも。
それが娘のことをまったく考えていないような理不尽なものだったり。
端から見てもあんまりだと思うようなことであれば……。
まだ別の答えがあったのかもしれない。
しかしながら、商会同士の縁談。
明らかに年上に財産目的嫁がせるとか、そんな話ではない。
「俺がその縁談を待ったと言ったところで、どうするよ?」
「でも家からマイヤーいなくなっちゃうのはあたしが寂しいし」
俺だってそうだけど。
こうなることは、結婚を決めてから覚悟していたことだ。
色々言いたくなる気持ちをぐっと堪えて。
笑顔で送り出してあげる方がいいんじゃないか?
後腐れがない方が、マイヤーだっていいだろう。
これから先、マイヤーの言っていたビジネスパートナー。
それだけはずっと、死ぬまで、続けて行くつもりなんだから。
「でもでも、ストロング南蛮とかどうするし! コレクトやゴレオとも仲良いし!」
「……」
「やだやだ、みんなで一緒に暮らしてたダンジョンなんだよ! そんなのやだし!」
「……なら……そこでお前が、一声あげればよかっただろ……」
「はあ? マイヤーはトウジに言って欲しかったんじゃないし?」
「だから俺が言ったら一番不味いんだってば!!」
「なんで怒鳴るし!」
「愚痴愚痴うるさいからだろ! 俺になんの権限があって向こうの家族の決め事に口出せるんだよ!」
「むかっ! このヘタレ! ヘタレトウジ! ハゲ! 良いからマイヤーを連れ戻すし!」
「ヘタレって……俺がどんな気持ちでこの状況を──」
「はいはいやめやめ」
ヒートアップしてきた言い争いをイグニールが静止する。
「他のお客さんもいる店内なんだから、言い争いは一旦やめなさい」
「アォン」
黙って聞いていたポチも、うんうんと頷きながら話を合わせている。
毎回思うけど、意外と身の振り方に長けてるよね、ポチって。
「むー……わかったし……」
「……そうだな……はあ……」
せめて、とんでもない高慢ちきな息子とかだったらまだ言い分があるんだけど。
聞いた話だと、そう思う俺の方がクズみたいな感じの超良い人っぽいじゃん。
応援するしかないじゃん。
マイヤーが何を思っていようが、多分このまま独身を貫くよりも幸せになれる。
胃が痛くなってきた。
全てが丸く収まる方法は、俺がとんでもないクズになること。
そんなことを考えてみるのだが……。
「とりあえず出ましょ? こういう時は冷静にみんなで話し合うのが重要よ」
イグニールの顔を見て、やめた。
ダメだ、できない。
彼女を悲しませるようなことは、絶対にやっちゃいけないし。
そう誓ったのである。
「ほら、出るわよ」
「あ、うん」
「今日はサルトに泊まるの?」
「……一応そのつもり」
迂闊に動かずに、もう少し様子をみることも重要だと思っていた。
何かしら商売の話を持ちかけながら、情報を探ろう。
このまますごすごギリスに帰宅するようだと、みんな納得行かなそうだし……。
「なら、今夜話したいことがあるから時間作っといて」
「話……?」
なんなんだろうか……。
怒られるのかな?
胃が痛い。
=====
このヘタレトウジ!ハゲ!未来ハゲ!
クソトウジの後は……。
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